作品で振り返る電撃文庫の30年

電撃文庫。

ライトノベル読者の皆さんはおそらく、知らない人はいないのではないか。ライトノベルを読まない人でも、アニメやコミック、あるいはゲームで、電撃文庫から刊行された作品に触れたことがある人は多いはずだ。

30年の歴史のなかで刊行されたのはなんと4000タイトル超、トータル発行部数は2億冊とのことらしい。これらの作品一つ一つが、誰かの思い出として刻まれているのだろう。

この機会に、ぜひ思い出してみてほしい。電撃文庫の作品の中で、最初に出会ったのはどの1冊だろうか。

筆者の場合は『キノの旅 the Beautiful World』(2000年)だった。どこか遠くへ旅に出るたびに、自分にもモトラドの相棒がいたらと、今でも夢にみる。モトラドとは言うまでもなく「キノの旅」の作中に登場する二輪車(空を飛ばないもの)のことだ。

電撃文庫の作品やキャラクターたちは、ぼくたちの日常にずっといた。きっと皆さんにも、思い出の景色があるのではないだろうか。この記事が、「そうだ、この作品も好きだった」と思い出す一助になればとても嬉しい。

さあ、電撃文庫が歩んできた30年に思いをはせてみよう。

2001年から2010年まで

1993年、サッカーJリーグ発足の年。この年の6月10日に電撃文庫は産声をあげた。

ローンチタイトルは『漂流伝説クリスタニア』『聖マリア修道院の怪談 極道くん漫遊記外伝』『ダーク・ウィザード 蘇りし闇の魔道士』『瑠璃丸伝 当世しのび草紙』の4点だった。

間もなく『爆れつハンター ソーサラー狩り』(1993年)、『新フォーチュン・クエスト』(1994年)が刊行開始。コミックやアニメでも展開されているため、目にした人も多かったのではないだろうか。筆者はアニメ「爆れつハンター」のオープニング曲である「WHAT'S UP GUYS?」が強烈に刻み込まれた。大人しそうな子が実は……という、ギャップに心打たれたこともはっきりと覚えている。

電撃大賞も初期から実施されており、本賞の受賞をきっかけに、数々のクリエイターが世に羽ばたいていった。

のちに『境界線上のホライゾン』(2008年)を執筆する川上稔先生は第3回に授賞、『ストライク・ザ・ブラッド』(2011年)の三雲岳斗先生は第5回に授賞され、デビューを果たしている。

上遠野浩平先生の『ブギーポップは笑わない』(1998年)が一世を風靡し、また『クリス・クロス』(1994年)で第1回電撃ゲーム小説大賞の金賞を受賞した高畑京一郎先生が描く時間パズル『タイム・リープ あしたはきのう』(1995年)は1997年に映画化されるほどだった。

電撃文庫から生み出される熱量が、わずか数年でどんどん周囲を巻き込んでいっているのが伝わってくる。

筆者の思い出の一作、『キノの旅 the Beautiful World』も2000年に刊行が開始された。星新一先生が好きで、ショートショートに飢えていた当時の私は、キノとエルメスが行く旅路の1話1話に魅了されていた。


2001年から2010年まで

6月24日は「UFOの日」だ。

毎年この日になると、『イリヤの空、UFOの夏』(2001年)がSNS上で話題になる。

池袋へ行けば『デュラララ!!』(2004年)のように首なしライダーなどの危険なヤツらに出会うかもしれないとドキドキし、家へ帰れば『神様のメモ帳』(2007年)のようにニート探偵とともに謎に挑むのも悪くないと思ったのもこの頃のこと。

2000年代はメディアミックスが大きく隆盛していった時期で、電撃文庫の作品もアニメ化されたり、グッズ化されるものが増えていった。皆さんも、それぞれに思い出深い作品が多いのではないだろうか。

この時期に登場した作品は多岐にわたる。

日本を舞台にした作品なら、”手乗りタイガー”こと逢坂大河と、目つきは悪いが家庭的な高須竜児の二人が主役の青春ドラマ『とらドラ!』(2006年)、全読者が「こんな妹がいたら……!」 と願ったであろう『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2008年)、可愛くて清楚な天才画家ましろの世話係に主人公がなる同居もののラブコメ『さくら荘のペットな彼女』(2010年)などがある。

また、第15回電撃小説大賞の銀賞を獲得した、小学校女子バスケ部を舞台にしたスポーツもの『ロウきゅーぶ!』(2009年)も、人気を博した。

異能の力を描く作品なら、最新刊が発表された現代異能系ボーイ・ミーツ・ガールの金字塔『灼眼のシャナ』(2002年)や、学園都市を舞台に超能力や魔術が飛び交い、ガンガンに心躍る設定と胸が熱くなる展開が魅力な『とある魔術の禁書目録』(2004年)に触れないわけにはいかない。自分にも超能力や、魔術が使えたら……と思った人は少なくないのではないか。みんな、自作の魔法名を持っていたはずと、筆者は信じている。

軽妙なやりとりが好きな人は禁酒法時代のニューヨークなどを舞台に描かれた陽気な群像劇『バッカーノ!』(2003年)、行商人としての苦労や熱い勝負、賢狼ホロとの旅を描く『狼と香辛料』(2006年)などがお好きかもしれない。

近未来を描く作品なら、VRMMOのゲーム世界に閉じ込められ、ゲーム中の死が実際の死に直結するデスゲームを戦う『ソードアート・オンライン』(2009年)や、バーチャルワールドが一般化した世界で、さらにその中でも異質な《加速世界》での戦いに身を投じることになる『アクセル・ワールド』(2009年)もこの時期に刊行が始まった。


2011年から近年の注目作品まで

2011年になると、『魔法科高校の劣等生』『ストライク・ザ・ブラッド』『はたらく魔王さま!』の刊行が開始され、瞬く間に大ヒットタイトルとなった。2013年には『エロマンガ先生』『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』、2014年には「青春ブタ野郎」シリーズの刊行が開始。アニメも大いに盛り上がり、いまも熱い支持を得ている。

無人兵器《レギオン》と、人間ではないと烙印を押された少年少女たちが戦う『86-エイティシックス-』は2017年に刊行が始まった。本作を未読の方は、1巻だけでもぜひ読んでもらいたい。緊迫した戦場の熱と、その中で生きる彼らのあり方がビリビリと伝わってくる、素晴らしい1冊となっている。

さらに『錆喰いビスコ』(2018年)は『このライトノベルがすごい!2019』(宝島社)において、史上初となる、文庫部門の総合ランキングと新作ランキングでどちらも1位をとるというダブル受賞を達成。翌年には『七つの魔剣が支配する』(2018年)が同じく総合・新作部門でダブル1位を獲得し、2年連続で電撃文庫がその存在感を示した。

王道でカッコいいもの、胸が熱くなる作品はもちろん、コミカルで「おいおーい!」と楽しくツッコミながら読める作品もある。皆さんはどれが好みだろうか。硬派なものから、コミカルなもの、そして切ない物語まで。「面白ければ、なんでもあり」の電撃文庫が届ける物語の多彩さとクオリティの高さに、毎月10日の発売日が楽しみな方も多いことだろう。

そして近年。

電撃文庫は最も熱い時期に突入していると言っても過言ではない。オススメの作品を1つだけに絞るとすれば……、これは実に悩みがいのある難題だ。

もはやレジェンドと言っていい作品たちの新シリーズや続刊が展開されている上、注目の新作が目白押しとなっている。

全ては姫騎士様のために――退廃した街で繰り広げられる異世界ノワール・ファンタジー『姫騎士様のヒモ』(2022年)、天才捜査官とヒト型ロボットが挑むバディクライムドラマ『ユア・フォルマ』(2021年)、日本の四季をもたらす代行者や彼らを支える従者たちの織りなす切なく愛しい物語『春夏秋冬代行者』(2021年)、竜に育てられた少女と竜を狩る人間たちのドラマを描くファンタジー『竜殺しのブリュンヒルド』(2022年)など、異世界、近未来、神話的な世界観を持つ日本まで、様々な舞台の人気作が揃っている。

また、「青春・恋愛」系の作品も充実している。恋多き乙女の苦悩に向き合う不思議な力を持つ少年の話『 天使は炭酸しか飲まない』(2022年)、【分身体】の少女の切ない恋物語『レプリカだって、恋をする。』(2023年)、密かなカンケイに興味があるなら『わたし、二番目の彼女でいいから。』(2021年)もいい。可愛い双子の間で揺れ動く三角関係を描いた『恋は双子で割り切れない』(2021年)を読まれた方には、ボーイッシュだけど乙女な姉と、サブカル分野にとても詳しい妹という二人のどちらに心惹かれるか、聞いてみたいところだ。

そのほか、オモテは仲良し、ウラでは修羅場の青春声優エンタテインメント『声優ラジオのウラオモテ』(2020年)、転生したら豚だった⁉ 実は胸アツ作品である『豚のレバーは加熱しろ』(2020年)、永遠の友情を誓った親友ふたりのはずが、両片思いに⁉『 男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!)』(2021年)など、アニメ化が予定されている作品も、楽しみで仕方ない。

そして電撃文庫30周年を記念し、新刊が発売となった『ウィザーズ・ブレイン』(2001年)がSNSをにぎわせたのも記憶に新しい。

皆さんにとって、いま一番注目している電撃文庫作品はどの作品だろうか。

ここに挙げることのできなかった数々の作品の中にも、それはあるかもしれない。ぜひSNSを通じて、皆さんの好きな電撃文庫作品について教えてほしい。本稿は、そのきっかけとして使ってもらえたら幸いだ。

最後に、日本のエンターテインメントに大きすぎる足跡を残したクリエイターの皆さんと、電撃文庫の皆さんに心からお祝いを。また、私たちの日常に素敵な1ページを刻んでいただいていることに、感謝を申し上げたい。

30周年、本当におめでとうございます。

キミラノ編集長 脇田権利

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