Epilogue 世界から忘れられた少年の物語
悪魔の英雄・冥帝ヴァネッサの撃破──
ウルザ
人類史上最大の「反撃」は、
西の連邦で幻獣族と交戦中のシュルツ
南の連邦で聖霊族と交戦中のユールン
東の連邦で蛮神族と交戦中のイオ
これら
一方のウルザ
王都奪回を果たした
そんな寝静まったキャンプを抜けだして──
「ありがとう」
王都ウルザーク。
三十年ぶりに人類が取り戻した都は、変わり果てた姿になっていた。
当時の戦火で燃え落ちた建物。
魔獣の
「こんな荒れはてた景色だけど、こうして地上を歩くことができるのは二人のおかげね。悪魔の英雄を倒したあなたたちのおかげ」
霊光の騎士ジャンヌ──
昨夜の戦いに疲労しきった部下たちが死んだように眠るなか、指揮官であるジャンヌは、護衛の
「でも、肝心のあなたたちの顔が晴れてないわね?」
「いやほっとしてるよ。
その指摘に微苦笑で応じ、カイは隣のリンネと顔を見合わせた。
リンネが異種族であること以外のすべて──
停電を利用した反撃。
そして冥帝ヴァネッサが、カイと同じく五種族大戦の記憶を持っていたことも。
「ただ、もう少し知りたいことができたから」
冥帝ヴァネッサはこうも言っていた。
〝この世界
〝余とシド以外の英雄……残る三体のいずれかだ!〟
その言葉は。
カイとリンネにとって少なからぬ衝撃だった。
……俺は、自分たちが「異変が起きた側」だと思ってた。
……俺とリンネの二人が、別の世界に飛ばされた例外なんだって。
だが冥帝の言葉を信じるならば、逆。
世界そのものが「異変が起きた側」で、自分とリンネが異変から逃れた側だったのだ。
ならば、世界の改竄を正す手段は?
異変を引き起こした元凶を見つけだす。現時点では冥帝ヴァネッサの言った手段以外に思いあたるものがない。
「カイ、リンネ」
ジャンヌが足を速めた。
護衛の
「この地を取り戻したおかげで人間の活動は大きく広がるわ。まずはウルザ
「ああ」
「……だけど」
その足が、止まった。
「それって私じゃなくてもできると思うの」
「どういう意味で?」
「王都の復興は幹部たちに任せるわ。私みたいな若造が指揮するより、三十年前の王都を知ってる本人たちの方が力も入るでしょ? だから私じゃなくていい」
「……じゃあ」
「ジャンニャは何するの?」
カイの隣で。
今まで
「悪魔を追い払ったから
「いいえ」
幼なじみだった少女が息を弾ませる。
「船出よ。私はこのウルザを
そして彼女はふり向いた。
霊光の騎士として
「人間が
「他の
あとの言葉を
「今朝のうちに、既に複数の
「一緒に来てほしいの」
ジャンヌが足を止める。その先には、朝陽を受けて輝く政府宮殿がそびえ立っていた。
「ウルザ
「……同じことって」
「五種族の大戦を終わらせましょう」
四種族への反撃宣言。
わずか四人の場で、霊光の騎士ジャンヌは胸に手をあてて
「私が指揮を取るわ。あなたたちが最高の力を発揮できるように兵を動かす。そのための最高の指揮官に私はなる。だから一緒に戦って。あなたたちがいれば、きっとこの世界を変えられる」
「────」
「あ……も、もちろんできるかぎりの待遇を用意するわ! たとえば──」
「違う違う。イヤってわけじゃない」
「ちょっと本気で驚いたんだ。すごいなジャンヌは」
「え?」
「こんな立派な奴になってて。俺の知ってる
「~~~~~~~~っっ!? な、何を言うの!?」
顔を真っ赤にしてジャンヌが
「私のどこが子供なの!?」
「いや本当に。俺の訓練時間中に、支給品の通信機で
「ウソ! そんな世界があるわけないわ。私はいつだって品行方正で────」
「その話はいつか気が向いたらな」
慌てる少女から視線をはずす。
その隣では、リンネが珍しくもいたずらっぽい笑みを人前で見せていた。
──よかったね?
リンネの表情が物語るとおり。ウルザ
……俺もリンネも、こっちの世界のこと知らないことだらけだし。
……ウルザ
本当は、カイからジャンヌに協力を要請するつもりだったのだ。
残る三英雄との戦いに力を貸してくれ、と。
「リンネもいいよな」
「うん。わたしはカイと一緒なら何でもいいよ」
そっと身を寄せてくる彼女。
「でも、早く元通りにしたいの。この世界は何だか怖いから」
「……ああ。それはわかってる」
裾をぎゅっと
残る英雄は三体──
蛮神族の英雄「
幻獣族の英雄「
聖霊族の英雄「
この三体のうちの誰が、どんな手段で。何を目的として世界を書き換えたのか。
「シド、あんたは知ってたんだろ……?」
この世界にいない人間の英雄。
〝
〝お前の知らない過去がある。正史に隠された禁断の『
預言者シドは、なぜ
預言者シドは、なぜ世界
……シド。
……あんたは、百年前に何を知ったんだ。
この世界には何かがいる。
明確な悪意を持って世界を
「やるだけやってみるさ。この世界にいないアンタの代わりに俺が大戦を終わらせる……なんて言うと大げさかもしれないけど」
苦笑にも似た息をついて、カイはそびえたつ大建造物を
ウルザ政府宮殿。
戦いの
「元凶を見つけだすさ。誰が相手だろうと野放しにするつもりはない。そして──」
次の英雄へ。この世界を支配する強大な種族たちへ。
「本当の世界を取り戻す。だから見ててくれ、
これは。
世界から忘れられた少年が、世界の真実に挑む物語。
その冒険が始まった。