Episode2 私のお店は……(6)
そして数十分後、私が食堂からお持ち帰り用ランチを手に戻ってくると、ロレアさんは
「あー、ごめんね。入ってもらえば良かったね」
「あ、いえ、大丈夫ですよ。今日は良い天気ですし」
「そう? ま、少し早いけど、お昼にしようか。天気も良いし、ここでいい?」
そう言って、私がランチを軽く持ち上げると、ロレアさんは笑って頷いてくれた。
私は部屋から
カップが必要な来客なんてないかも? と思いつつも、食器を二人分買っておいた私、グッジョブ。お茶もヤカンもないから、本当にただの水でしかないけど。
「ごめんね、単なるお水で。まだ
「あ、いえいえ、私の所も普通はお水ですし。この辺りのお水は
「錬金術には水が必要だからね。この辺りはやっぱり共同井戸なんだ?」
「はい、
すぐ
井戸が
「この辺じゃ、あまりお茶は飲まないの?」
「いえ、そのあたりは好みとお金
「エルズさんとこで出してくれたのがそれかな? ロレアさんはあんまり好きじゃない?」
「いえ、私はどちらでも。ただ、母があまり好きじゃないみたいで」
「なるほどね」
ちなみに、私は
王都でお茶は買う物だったし、お値段の方も
ただ、
なので、安物のお茶はあまり飲む気がしない。
どうしても美味しいお茶と
でも、全く別のお茶なら飲んでみるのも良いかな?
それはそれで楽しめそうだし、何よりタダというのが良い。
「それにしても、この布、綺麗ですね~。この辺りではこんなに
「そうだね、
「良いんですか!? あ、でも、私、布を
私の言葉に喜色を
でも問題は無い。布団作りの大半は真っ
「大丈夫、大丈夫。布を真っ直ぐ縫えればオッケーだよ!」
私はこの村の流儀に
お布団作りを簡単に言えば、布で
でも、この〝綿を詰める〟作業が、結構難しいのだ。
綿を綺麗にお布団の形に整え、それを袋の中にぎゅぎゅっと押し込んで、ズレないように縫い止めていく。これにコツがいる。
「へぇ、お布団ってこうやって作るんですね……」
「ロレアさん、見るのは初めて?」
「はい。恥ずかしながら、ウチはこんなに綿の入ったお布団、使ってませんし……」
「あー、そっか」
綿って案外高いから、余裕がないと綿がたっぷり入ったお
私も
まぁ、『恥ずかしい』とか『恥ずかしくない』とか以前に、学校生活の五年間、私の部屋を
敷き布団と
こちらは縫うだけなので、二人でおしゃべりしながらひたすら縫う。
『布を縫うくらいしかできない』と言っていたロレアさんの
でも、そのおかげもあって、夕方には
「ありがとーー! これで今日は気持ちよく寝られるよ!」
私はバンザイして、ロレアさんに
正直、一日で終わるとは思ってなかったから、今日も毛布にくるまって寝るのを
本当、ロレアさん、様々。
「いいえ、お手伝いに来たんですからこのくらい当然です」
私に抱きつかれて少し
「よし、これはお礼ね!」
残っていた布から、一組の布団が作れるぐらいの長さに切り取り、ロレアさんに
わざわざ布団にしなくても、シーツやカバーとして使うだけで、
「本当に良いんですか? こんなに綺麗な布、かなり高いと思うんですけど」
「気にしないで。ウチの店で売っている物ならタダではあげられないけど、まだ売ってないしね。あ、その布、環境調節布だから、私みたいに
「ええっ!? それって、
「大丈夫、大丈夫。自分が使いたくて作っただけだし。お友達になった記念だよ」
良いのかな? という表情を浮かべるロレアさんに、私はパタパタと手を
「そう、ですか? ありがとうございます」
よし、
嬉しそうなのは、布のおかげだと思うけど。
「あ、でも、それなら服を作っても快適なんじゃ?」
「んー、そこまで強い効果はないから、服に使うには
環境
でなければ、わざわざ綿を詰めた掛け布団を作ったりはしない。
もっと効果を高めた環境調節布も作れるけど、必要なコストは増えるし、魔力も多く消費するので、少なくともお布団として使うのはとてもお
寝ているのに魔力を消費して
「なるほど、そうなんですね。わかりました」
「しかし、結構綿を使っちゃったね。ロレアさん、まだ在庫ある?」
「はい、昨日買われたのと同じぐらいなら大丈夫ですよ」
「なら、近いうちにまた買いに行くね。クッションや座布団も作りたいし」
「は~~、さすがですね。私のお
なんて感心したようにロレアさんが言うけど……いやいや、ちょっと待って?
「ロレアさん、私、成人してるからね? 働いてるからね?」
いや、正確にはまだお店はオープンしてないけど、お手伝いレベルのロレアさんのお小遣いよりは、経済力あると思うよ?
「あ、そ、そうでした。なんか、同い年くらいに感じてしまって」
「えっと、ロレアさんは今何歳?」
「今一三、もうすぐ一四になります!」
うぐっ。二つ下、だと……?
「そ、そうなんだ? へぇ~、発育、良いんだね?」
「そうですか? 友達の中では少し
うん、そうだよね。
この村と
私が他の人より、少しだけ成長が遅いこと。
「サラサさんは?」
「私? 私は一五だね」
「へー、そうなんですか」
おや? 今チラリと視線がどこかに向かなかったかな? ロレアさん。
もう少し
チラリと浮かんだ黒い感情を