第一章 お店を手に入れた!

Episode2 私のお店は……(7)

    ◇ ◇ ◇


 次の日、減っていた布と綿が、なぜか元の量よりもおおはばに増えていた。

 いや、まぁ、別に不思議な現象が起きたわけでもなんでも無く、朝方、ロレアさんのお父さんがやってきて、新しい布と綿を大量に置いていっただけなんだけど。

 昨日、ロレアさんが持ち帰った布を見て、商人である彼はその価値がわかったらしい。

『子供の手伝い半日程度でこんな高価な物は貰えない』と、半ばごういんに布と綿を置いていったのだ。

 確かに普通にはんばいしたら、この布と綿よりも高いわけだけど、わざわざお手伝いに来てくれたお礼だから別に良かったんだけどね。

 ちなみに、ロレアさんにあげた布は、親子三人のシーツになったらしい。

 とてもごこが良かったとお礼を言われてしまった。

 ま、せっかく貰ったんだし、この布はそのうち別の色に染めるとして。

 まずは、お店のオープン。じゃないと、お金が底をく。

「家の中はひとまず良いとして、今日は外の確認かな」

 まずは屋根。

 ここがいたんでいたら、家としてはめいてきなんだけど……大丈夫みたい。

 表面にいてある金属板をれんきんじゆつで強化していたみたいで、予想以上にしっかりとしている。これなら、当分は大丈夫かな?

 ただ、お店の看板がかなり傷んでいるので、これはゲベルクさんに直してもらおう。

 がいへきも致命的な部分はないけど、軽い補修は必要そうだし、これもたのもう。

「問題は、この草ボウボウの庭、それにさくかな?」

 ボロボロの柵は、無くても困らないので、てつきよしてしまう方法も……あ、ダメだ。

 薬草畑を整備するなら、動物けの柵は必要。

 草は魔法で一気に処理してしまう方法もあるけど、幸か不幸か、薬草が交ざってるんだよね、この庭。それを無視して、全部り取る?

 いや、無理でしょ。びんぼうしようの私には。

「……よし、やるべき事を整理しよう」


・お店を開店する

・お店で売る商品を作る

・柵をなんとかする

・庭と薬草畑をなんとかする

みずみ上げやすいようにする

・おどうさせる

・魔導コンロを作って料理ができるようにする


「短期から中期的には、こんなところかな?」

 あとは、優先順位を決めないとね。

 と言っても、そう難しくは無い。

 まず〝お店を開店する〟を基準に考えると、〝商品を作る〟のはその前。

 売る物が無いとどうしようも無いから。

 柵と庭も前かな? 外見が悪いと、お客さんが来ないだろうし。

 ついでに、庭の薬草使って商品を作ればいよね。

 残りは急ぐ必要が無いので、時間があるときに回せば良い。

「となれば、最初は柵か。商品作りは日が落ちてからでもできるし」

 家の前の柵を軽くってみる。

 ポコ、ベキ。

 ……うん、あっさりたおれた。これは完全に作り直しだね。

 くいを打って横木を渡しただけの簡単な柵だから、大工さんに頼むほどじゃないかなぁ?

 資金節約のためにも、ここは自分でやるべき?

 錬金術師は錬成具アーテイフアクトを作製する関係で、多少の木工はできるんだよね。

 とはいえ、大工道具は持ってないんだけど。

 学校では実習室を使っていたし、しようの所ではお店の道具を借りていたから。


 というわけで、やってきました雑貨屋です。

「こんにちは~」

「あ、サラサさん、昨日はすみませんでした! 帰って値段を聞いて、私……」

「あー、こっちこそごめんね? お礼のつもりだったんだけど、気軽にあげるにはちょっと高かったみたいで。逆に私の方も布と綿をもらっちゃったし」

 私の顔を見て、あわてたように言うロレアさんに、私は手をぱたぱたとってこたえた。

「いえ! 貰ってください! お父さん、あれでもり合わないって言ってました。それくらい貰ってくれないと、逆に私たちがあの布を使いづらいので」

 あー、うん、そういう部分はあるかもね。

 特に今後、あの布をお店で売り出すとなると、半日のお手伝いで貰った、というのはそうほうにとってあまり良くないか。

「それなら、ありがたく貰っておくね」

「ぜひぜひ。──ところで、今日は?」

「大工道具とか置いてるかな? 一通り欲しいんだけど」

「あ、はい。つうの家庭で使う物ぐらいなら。良い物は直接ジズドさんに頼んだ方が良いですけど。サラサさん、何かするんですか?」

「ちょっと柵を修理しようかと思ってね」

「えっ? ご自分で、ですか? ゲベルクおじいさんに頼まないんですか?」

 ロレアさんはおどろいたように言うけど、そこまで意外?

 柵を作る程度、簡単だよね?

「ん~、あのくらいなら自分でもできるかなって」

「いえ、そうではなく。その時間の分、錬金術をする方がかせげませんか?」

「……おぉ。ロレアさん、かしこい」

 よくよく考えれば、ロレアさんの言うとおり、柵のしゆうぜんは人任せにして、早くお店を開いて錬金アイテムを販売した方が、たぶん稼げる。

 いん時代から、とにかくお金を使わず、できる事は自分でやる、という精神だったので、まず自分で直すということを考えたけど、私はもう一人前の錬金術師なのだ。

 そう、だれもがうらやむ、高給取りの錬金術師様。

 それが私!

 私、がんった! 人生、勝ち組!

 ……いやいや、落ち着け。

 さすがにそこまで言うのはアレだけど、専門外は人をやとうというのも今後は必要になることだよね。その方が、錬金術関係に専念できるし?

「うん。そうだね。ゲベルクさんに頼んでみる事にする。でも、それはそれとして、大工道具自体は必要だから、それは買うね」

「はーい、まいどあり、です」


「ふむ、この柵か。あとは、かべと看板もだったか? 柵は今と同じ感じで良いのか?」

「えーっと、お店の前はそれで良いんですが、側面と裏側はせっかくなので、二メートルぐらいのいたべいにしてもらえますか?」

 ゲベルクさんと共に家にもどった私は、さつそく色々と注文を出していた。

「そりゃ構わんが、なんでじゃ? 板塀はその分、高くなるぞ?」

「いえ、その、私も一応、女の子なので、せんたくものとか、あんまり見えない方が、ね?」

「はっ! この田舎いなかでそんなもん気にするヤツなんぞおらんわ。第一、となりの家ともはなれとるじゃろうが。──まぁ、客の注文なら作るがな!」

 うん、まぁ、確かに裏庭に洗濯物を干しても、あんまり見えないとは思う。

 一番近いエルズさん宅ともそれなりに離れているし、周りには木がしげっている上に、裏はすぐそばまで森がせまっていて、見通し自体悪い。

 それでもやっぱり、気分的に、ね。

 あとは、薬草畑の保護。動物が入らないように。

 逆に、お店の前はお客さんが入りやすいように、簡単な柵のまま。

 そのあたりの希望もまえた結果、裏側と側面のなかほどまではひざの高さぐらいのいしがきを作り、その上に板塀、それ以外の場所は開放感を重視した柵という構成に決まった。

 看板や壁面に関してはよくわからないので、すべてお任せ。

 その他の細かい部分もお任せ。

 ゲベルクさんなら良い感じにしてくれるにちがいない!

 そう伝えたら、ゲベルクさんは「ふんっ」と鼻を鳴らして、「明日あしたから工事を始めるからな」と言い置いて帰って行った。

「あれは……きっと照れたんだよね、うん。気を悪くはしてない……よね?」

 少し気になるけど……今は時間が無い。

 一日でベッドを作り上げるほど仕事が早いゲベルクさんだから、一気に工事が進みかねない。そうなると、柵の周りにある小銭薬草になる!

「回収しないと!」

 家からカゴを持ってきて、柵沿いに生えている薬草をひたすらいていく。

「おっと、これは貴重なやつだ!」

 んでしまうのはもつたいないので、根っこごとり上げてけておく。

 あとから植え直そう。

「草は放置で良いよね」

 石垣を作るのなら、ある程度掘り返されるはず。わざわざ抜いておく必要も無い。

 そのまま家の周りをぐるりと一周。

 昼食と水分補給の時間以外は、夕方までひたすら草抜き。

 ひじょーにつかれたけど、そのもあって、れ放題だった庭は見られるレベルまで回復した上に、大量の薬草も回収できた。

「いやー、正直私、頑張りすぎじゃない?」

 まだこれから、商品作りがあるんだけど。

 今回収した薬草はともかく、初日の薬草はそろそろ使わないと、効果が落ちてしまう。

 一応、簡単な保存処理はしてるから、明日までならなんとかなりそうだけど、明日は明日で今日採取した物があるわけだし。

「ただ、貴重な薬草が多かったのはうれしい誤算だったね!」

 普通に買うと結構高い薬草が、何種類も生えていたんだよ。

 もちろん、前の持ち主が植えていたからだろうけど、れずに残っていたことがすごい。

 普通の薬草とは価値が違うから、当然全部回収して、きちんと耕した畑に植え直したよ。

 これでタダで作れる錬成薬ポーシヨンの種類が、ぐーんと増える。

 良いよね、タダって言葉!

「でも今は、少しきゆうけいしよ。さすがに疲れた……」

 私は家に入って軽く身体からだくと、温かい食事を求めて食堂へと足を向けた。

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