キミラノの読書感想文レビューでも活躍されているラノベライターの太田祥暉さんが初心者向けのライトノベルのガイドブック『ライトノベル50年・読んでおきたい100冊』を上梓しました。
ラノベ初心者の方にオススメしたい名作100冊をご紹介されているのですが、数多あるライトノベルから100冊に絞るのは大変だったそうで……。
今回はそんな惜しくも漏れてしまった作品たちから4タイトルをご紹介します!

こんにちは。ライターの太田祥暉と申します。
普段は「キミラノ」をはじめとした媒体でライトノベルについて書いたり、『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』や『経験済みなキミと、経験ゼロなオレが、お付き合いする話。』などのアニメ公式サイトでテキストを書いたり取材をしたりしている人間です。
そんな私がこの3月に、『ライトノベル50年・読んでおきたい100冊』という本を玄光社より刊行しました。
本作のテーマはズバリ、ライトノベルって耳にしたことはあるけどよく分からないよという人へ向けて、歴史を踏まえつつ定番をお勧めするというもの。
なので「好きだし、ラノベ史にも残るだろうけど、濃いよな……」という作品は省いています。また、同じ作家さんばかり載ってしまうのも……という気持ちから、一人一作品にしたため、「これも名作だけど……ごめん!」という作品もあったりします。
何かそこについて語る機会も欲しいな……と思っていた矢先、「キミラノ」さんからお誘いがあり、あれよあれよといううちに惜しくも漏れてしまった作品について書かせていただくことになりました。
というわけなので、載っていないからといって面白くないとか、面白くないと思っているわけではございません。本の方は初読者や「あったねぇ……」と懐かしめる本として、そして「キミラノ」を読んでくださっている方にはきっと刺さる濃い「惜しくも本では漏れたタイトル」はこの記事を楽しんでいただければ嬉しいです!
『僕の学校の暗殺部』深見真(ファミ通文庫)

いきなり性癖から失礼します。深見真さんといえば、今だとアニメ脚本家のイメージを持たれている方も多いかもしれません。『キン肉マン 完璧超人始祖編』とか『PSYCHO-PASS サイコパス』とか。でも、僕からするとやはり深見さんは硝煙と血の匂いが香る青春小説が巧みな方という印象が強いのです。
深見作品の虜となったのは、拷問部を舞台とした女子高生4コマ『ちょっとかわいいアイアンメイデン』からなのですが、途中の意外性溢れる展開含めて度肝を抜かれたという点で『僕の学校の暗殺部』がオススメです。ラブあり、殺人あり、拷問あり。謎のいるか人間に取り憑かれた者を秘密裏に暗殺していく高校の部活動という、本作でしかあり得ない設定と、死が隣り合わせの日常だからこそ予定調和ではない展開が交差するときの爽快感が素晴らしいシリーズになっています。学園バトルアクションの滾る方向性ではなく、淡白なムードもまたいいのだ! シリーズも全3巻とコンパクトなので、ぜひ読んでいただきたい!
『空色パンデミック』本田誠(ファミ通文庫)

またファミ通文庫か、となりますが、僕の青春はファミ通文庫だったのです。『バカとテストと召喚獣』に『"文学少女”シリーズ』、『狂乱家族日記』……etc。その中でも『空色パンデミック』は鮮烈な作品でした。少年と少女が出会う。空想病に侵された少女の暴走に巻き込まれる。そして世界を揺るがす戦いに巻き込まれていく――! そんなセカイ系の作品群に引き込まれたのは本作がきっかけでした。そこから『イリヤの空、UFOの夏』やノベライズ版『ほしのこえ』に手を出していくのです。
何よりも庭さんのイラストがスタイリッシュで。このスタイリッシュな絵柄で、厨二病的な空想に侵された女の子と、リアルな世界観で戦っていく。自分もこの世界に足を踏み入れたい、女の子と出会いたいと思うこと請け合いの作品です。電子版が配信されていないのが悔やまれすぎるよ……。
なお、本作を選外としたのは「セカイ系の話は『イリヤの空、UFOの夏』で挙げたいから」でした。同様の理由で『紫色のクオリア』や『日和ちゃんのお願いは絶対』も選外となっています。いや、どれもオススメです。世界の命運よりもきみとぼくの関係性を重視した作品群が好きな方はぜひ。
『GOSICK -ゴシック-』桜庭一樹(富士見ミステリー文庫/角川ビーンズ文庫)

ホームズ役の少女と、ワトソン役の少年。彼らに降りかかる困難な謎の数々と、国籍、戦禍も超えて紡がれる関係性……! そんなかけがえのない要素が詰まった青春ミステリが『GOSICK -ゴシック-』です。
異国の地で何も分からないままにヴィクトリカと出会った久城くんの反応にときめき必至な序盤から、徐々に第二次世界大戦が近づいて来て、二人の関係が引き剥がされる後半部。そして異国の地で新展開が描かれる第二部とどこを取っても唯一無二の描写が素晴らしい作品になっています。
そんな本作は富士見ミステリー文庫(残念ながら休刊!)の代表作としても筆頭にあげたかったのですが、桜庭一樹作品と考えたときには『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』がいの一番に上がるのか……ということもあって、残念ながら選外に。でも、僕は『GOSICK -ゴシック-』は推したい……!
『独創短編シリーズ 野﨑まど劇場』野﨑まど(電撃文庫)

ライトノベルにおける滅びつつあるものに、短編というジャンルがあります。どうしても長編、それも二桁巻数出るシリーズも少なくないジャンルですから、短編というものの発表場所がありません。イラストを付けるにしてもキャラクターデザインを短編分作らなくてはいけませんからね。コスト的にも難しい。アンソロジーとしても、少なくないお金から出すのであれば、面白いことが分かりきっているシリーズ続巻を買う、という人も少なくないと思います。
ただ、短編というのは実験ができる場で。その筆頭は「ドラゴンマガジン」の龍皇杯だったと思うのですが、それとは異なるベクトルで実験をしていたタイトルに『独創短編シリーズ 野﨑まど劇場』があります。そもそも野﨑まど作品は「そこをそうします!?」というアイデアに満ち溢れているのですが、それを雑誌というメディア、活字として毎話読者の度肝を抜いてくるのが素晴らしくって素晴らしくって……。
その中でも個人的に大好きなのが「苛烈、ラーメン戦争」と「MST48」。ともすればしょうもないと一笑されるようなアイデアを、ここまでハラハラドキドキ読めるなんて……! まだ読んだことがない人はぜひ、今すぐこのページを閉じて書籍か「電撃ノベコミ+」で読んでください!
ということで、以上4冊でした。まだまだ紹介し足りないものではありますが、それはまたの機会に(『安達としまむら』に『アイドライジング!』とか、色々語りたいのですが……)。
ここでは4冊ですが、書籍では100冊取り上げています! ここでは割と砕けた書き方ですが、書籍ではきっちりかっちり書いたつもりですので、ぜひご笑覧いただけましたら幸いです。「なんでこれが入ってないの!?」「これは入るよね!」など共感したり、太田分かってねぇなと思ったり……。いろんな楽しみ方で読んでいただけましたら!
文・太田祥暉