第1章 その4

「しまえないのが、私の悪いところ、ね」


 今、私の目の前には廃教会がある。

 確かに古びてはいるが、思ったよりもボロボロじゃない。

 でも、見たところ屋根もこわれているし、しき自体は大きいみたいだけどこんな所に人が住んでいるわけ?

 びついて壊れている表門のアーチをくぐり、敷地内に入る。

 まだ真昼。……お化けの気配はなし。

『エルミアせんぱいが廃教会の中に入って行くところまでは確認が取れています』

 ジゼルの言葉を思い出しつつ、教会のとびらをそっと押す──開いてる。

 のぞいてみると中は意外なほど、広かった。

 割れたステンドグラスから十分な光が入ってきて明るい。

 少なくとも見えるはんにはひとかげはなし。気配やりよくも感じない。

 木製のベンチがいくつか置かれている。

 一番前のそれには毛布? ……はっ!

「まさか、あのメイド。さぼってここでひるを?」

だんは奥で昼寝してるよ。それはこの前、エルミアを見張っていた冒険者君の持ち物じゃないかな?」

「ああ、なるほど。ここで見張りを──……」


 ん? 私は今、だれと話しているの?


 ゆっくりと後ろを振り返る。

 すると、おだやかに笑う、小さな眼鏡めがねをかけた細身の青年が立っていた。

「やぁ、こんにちは」

「…………」

 青年は軽く左手を上げてきた。

 見たところ二十代前半。大陸ではきわめてめずらしいじゆんすいな黒髪。背はやや高めで、黒のほうと中には白いシャツを着ていて、手には食材が入った大きなかみぶくろかかえている。せんとうする意思はなさそうだ。

 それにしても何時いつの間に……。

 警戒する私に対して、ほがらかに問いかけてくる。

「買い物で外へ出てみたら、こんな可愛らしいお客人とそうぐうするとは。さて、僕に何かようかな?」

 いきなりの遭遇にどうようする。とりあえず、なおに回答。

「ギルドからのおつかいで……」

「お遣い?」

「え、ええ。宛名はちがうけど……これ、貴方あなたあてなの?」

 布袋から小箱とふうとうを取り出し、見せる。

 青年は私に近づき、困った表情をかべた。

「こういう品を持ってくるのは、あの子の仕事にしているんだけど……。まさかこの仕事さえも人に任せるなんてね。今度、おきゆうをすえないといけないかな?」

「? オキュウ???」

「ああ、こっちの話。助かったよ、ありがとう」

 青年がにこやかに答える。

 ……なんか変なやつだ。調子がくるう。とっとと帰った方がいいわね。

 封筒と小箱を見せる。

「はい、これ。後でめるのはいやだし、紙にサインをくれない?」

「ちょっと待ってね」

 男はがいとうのポケットやふところをまさぐり……困った顔。申し訳なさそうな声で告げてきた。

「ごめん、手元にペンがないんだ。中でするよ。お茶も飲んでいくといい」

「い、いや私は……」

「いいから、いいから。ここで会ったのも何かのえんたまには君みたいな可愛らしいちゆうけんぼうけん者さんと話すのもおもしろそうだ」

 青年はそう言って表の扉を押すと、廃教会の中にさっさと入って行ってしまった。

 なんなのよ、あいつ。……正直、入りたくない。

 けど、サインをもらっていないし、少し興味がいているのも事実。

 先に奥の部屋へ入っていった青年を目で追う。意を決して、私も扉の中へ。

「こっちだよ、早くおいで」

 奥から声。どうやら、居住空間は別らしい。

 だけど……そんなに奥行きあったかしら? 疑問を感じつつも追いつき、たずねる。

「ねぇ、どうしてこんな所に住んでいるの?」

「単にめぐりあわせかな。あと、案外部屋が広くてね、物置に便利なんだよ」

「物置?」

「見てもらった方が早いかな。さ、どうぞ」

 そう言って、やけに重厚な黒い扉を開けた。

 扉にはせい極まるもんしようり込まれている。これってほうじん

 でも、魔力は、何も感じないし、見たこともない。

「? どうかしたかい?」

「……何でもないわ」

 強がりつつ扉を潜りけると、そこには──

「!?」

 私は立ちすくみ、青年が楽しそうに笑う。

「ふふふ。その反応、ういういしくてうれしいね」

「な、何なの、よ、こ、これ……」

 そこは、まるで博物館のような場所だった。

 言葉が出てこず、周囲を見渡す。

 てんじようはアーチ状になっていて、すごく高く、所々にいろあざやかなステンドグラス。

 そして、天井に届くほど高いきよだいな木製のたな、棚、棚。それが数十列も続いている。

 手前の棚に収められているのは、無数のけんやりおの等の武具。私が持っている剣とは格が違う。全部、けんそうたぐいなんじゃないの、これ……。

 身体からだが自然と細い通路に引き寄せられていき、

「慣れないで入り込むと迷子になるよ? 気になるなら今度、案内しよう。今日はこっちだけを通っておくれ」

 という青年の言葉を受けて、止まった。

 り返ると通路なのだろう、一列だけかなり広めにはばが取られている。

 おっかなびっくり青年の後をついていくと、その通路だけでも次々ととんでもない物が目に飛び込んできて、心臓がその都度、動揺してしまう。

 明らかに上級と分かるせきや宝石の原石が無造作に置かれている。こんなの実家にいた時でさえ見たおくがない。

 その横の棚には強い魔力を帯びている無数の本がずらり。あの青い表紙の本。もしかして禁書じゃ?

 そうこうしていると、生物由来の素材がまとめられている棚の列が目に入って来た。

 きばつめ、毛皮、骨──どれもこれも、私が何時もっているようなじゆうじゃない。素材なのに凄い魔力を──……え? ひとかかえ程の大きさのしんうろこの前で立ち止まる。

 ……まさか、そ、そんな……おそる恐る近づく。

 先を進む青年へ問いかける。

「ね、ねぇ……これ、りゆうの鱗……じゃないわよね?」

「ん? ああ、それかぁ。えんりゆうらしいよ。『仕留めそこなった!』って手紙が来てたね」

「…………」

 何を言ってるのか理解出来ずぼうぜんとする。

 龍、龍と言ったのか、この男は。

 冒険者を志したならば、誰もがたおしてみたいと夢想する、あの龍と。

 青年の顔をまじまじとぎようする。先程と変わらず、そこにおどろきはない。

 彼は少しだけ困った表情を浮かべると、歩を進めながら、言い訳じみた口調で語り出す。

「昔、後押しをした子達がいまだに色々と送ってくるんだ。手紙だけで良い、と言っても、みんな聞き入れてくれなくてね……。また、棚を増やさないと」

 そのしゆんかん、私はジゼルの話を思い出した。


『その男は【育成者】を自称している』

『その男に育成を頼んだ冒険者は今や皆、大陸級である』

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