第4話 エージェントガールがトイガンショップに行ったら
とある日の放課後。俺と
というのも、俺がどうしても皐月を連れていきたいところがあったのだ。
「皐月、着いたぞ」
到着した場所は銃のお店――トイガンショップだった。
店の外にはガラス張りで二十以上のおもちゃの銃が展示されていた。
「うわぁ! すごいね!」
皐月は瞳を輝かせながら銃を眺めている。
これは喜んでくれてるって思っていいよな。
実は数日前に皐月と会話をしている時に彼女の口から武器の中で銃が一番好きだと聞いていた。だから俺は今日このトイガンショップに彼女を連れてきたのだ。
「皐月、店の中に入ろうぜ」
「うん! わかった!」
そうして俺はご機嫌な皐月と一緒にトイガンショップの中に入っていった。
店内に入ると、驚くべき光景が広がっていた。
あらゆるところに様々な銃が陳列されており、その数はおそらく二百は優に超えている。
映画やドラマで見たことあるような銃もあり、なかなかに男心をくすぐられた。
「銃って拳銃くらいしか知らなかったけど、こんなに沢山の種類があるのか」
皐月をトイガンショップに連れてきたものの、俺に銃の知識は一切ないんだよな。
「種類も豊富だし、銃はそれぞれに適した使い方があるんだよ」
「そうなのか?」
そう問うと、皐月はこくりと頷いた。
「サブマシンガンとショットガンは近距離特化だし、アサルトライフルは基本的に中距離で撃ち合うために使うし、スナイパーライフルは遠くから敵を仕留めるんだ」
「えっと……そ、そうか」
いつもよりテンションが高い皐月に圧倒される。
それはまるでいつかバトルのラノベについて語っていた時のようだ。
なんて考えていたら、皐月がぷくっと頬を膨らませていた。
「ちょっと相棒くん、聞いてるかな?」
「聞いてるよ。サブなんちゃらとアサなんちゃらの話だろ?」
「それはもうとっくに終わってるよ。あとサブマシンガンとアサルトライフルだから!」
めっちゃ怒られた。
そんな難しい言葉。銃の知識が皆無の俺には覚えられません。
「で、今は何の話をしてるんだ?」
そう訊ねると、皐月に「本当に聞いてなかったんだね……」みたいな顔をされた。
「いまはボクの中で流行中の銃の話をしてるんだよ」
「流行中って……で、皐月は一体どんな銃にハマってるんだ?」
って訊いたところで、たぶんあんまりよくわかんないけど。
「それはね『マイクロUZI』って武器なんだ」
「ふーん、そうなのか」
やっぱりな。さっぱりわからない。
そもそもいまなんて言ったんだろう。なんとかうーじー?
「さっき話したサブマシンガンの一種でね、瞬間的な火力が凄いんだよ!」
皐月は瞳を輝かせながら、そのなんちゃらうーじーについて説明する。
詳しいことはよくわからないが、何となく強い銃ってことは伝わった。
「皐月って本当に銃が好きなんだな。そんだけ銃に詳しいなんて」
「こんなの詳しいうちに入らないよ。本当のガンマニアの人はボクなんかより倍以上の知識があるよ」
「まじかよ……」
皐月から聞いた話でも一般人からしたら訳の分からないことを言っているのに、それ以上のマニアの話とかになったら一つの単語も理解できなさそうだな。
なんか銃の世界って恐ろしいな。
「あっ、相棒くん! これ見て!」
皐月がひょいひょいと手招きしてくる。
今度はどんな銃の知識を披露されるんだろうか。
まあ披露されたところで一パーセントもわかんないんだけどな。
そんなことを思いつつ、彼女の方へ近寄ると、
「この銃なら知ってるんじゃないかな?」
皐月は一丁の銃を見せてきた。全身が赤色に塗られた派手な銃だ。
ここのお店の商品はほとんどが実際に存在する銃をそのままおもちゃとして再現したものらしいが、この赤い銃はどう見てもその類に入りそうじゃなかった。
もしこんな銃で戦場を駆け巡る人がいたらさぞかし話題になっていたことだろう。
「なんだこの銃」
「えっ、もしかして知らないの?」
皐月がドン引きの表情をしている。
急になんでそんな反応をされるんだ? 今まで銃のことを全く知らなくても何も言わなかったじゃん。
「これはね、とある有名なラノベに出てくる銃なんだよ」
「っ! まじか!」
「そうだよ。タイトルは『焔の双銃士』で、その主人公が真っ赤に染まった銃を使うんだ」
「つまりそれがいま皐月が手に持っている銃ってことか?」
「その通り」
そう言って皐月はウィンクする。
ただのおもちゃの銃のお店だと思っていたのに、まさかラノベに出てくる武器があるなんてな。
「ねえ相棒くん、それよりもここって銃の試し打ちができるらしいよ」
「試し打ち? 皐月はやりたいのか?」
「うん。すごく興味ある」
「じゃあやってきていいぞ。俺はここで待って――いてっ!」
急に皐月から脳天をチョップされた。
「いきなりなにすんだよ」
「だって相棒くんがあまりにも頭の悪いことを言うから」
「頭の悪いって、そんなこと一言も言った覚えがないんだけど」
「言ってるよ。なんで二人で来てるのにボクが一人で試し打ちしないといけないのさ」
「それはお前がやりたいって言うから」
「そうだけど、そこは一緒にやろうかって言うところでしょ」
皐月はムッとした顔つきでこっちを睨んでくる。
「でも俺、射的とかそういうの苦手だし」
「別に苦手でもいいじゃん。そんなのボクは気にしないよ」
「俺が気にすんだよ。的とかに全く当たらなかったらカッコ悪いだろ?」
そこで皐月は大きくため息をついた。
「まったく。ボクはどれだけキミが恥ずかしいことをやらかしてもカッコ悪いなんて絶対思わないよ」
「いやそうなのかもしれないけど――ってうわっ!」
言葉の途中、急に皐月に腕を掴まれた。
「いいから、早く一緒に行こ」
皐月は強引に俺を引っ張っていく。
これは何を言っても無駄っぽいな。
でもまあいいか。皐月が一緒に試し打ちしたいって言ってるわけだし。
そう諦めると、俺は皐月に引っ張られるまま射撃場へと向かった。
☆☆☆☆☆
射撃場に着くと、そこには銃を撃てるブースがいくつかあって、その先には小さな的や大きな的が幾つも設置されていた。
たぶんさっきまで二人がいた銃が売られている場所から好きな銃を持ってきて、ここで試し打ちをするって感じなんだろう。
……にしてもやたら本格的な射撃場だな。
ここだけ見ると、全くトイガンショップには見えない。
「そういえば俺、銃とか持ってきてないな」
手ぶらでここに来てしまったんだが。こりゃ一旦戻らないとダメか?
「あっ、相棒くんの銃はボクが持ってきたよ」
皐月の手には二本の銃があった。
一つはおそらくピストル。もう一つは先ほど見せてくれたラノベに登場する赤い銃だ。
「俺が赤い銃を撃てばいいんだな?」
「違うよ。キミはこっち」
皐月が差し出してきたのはピストルの方だった。
「えっ、なんで?」
「だって射撃が得意じゃないんでしょ? それなのにこんな銃使ったら当たるものも当たらないよ?」
「銃によって当てづらいとかあるのか?」
「それはそうだよ。銃によって反動とかリコイルとか違うんだから」
反動? リコイル? またよくわからない単語が出てきたな。
でもとにかくこの赤い銃は扱いが難しいらしい。
「わかったよ。じゃあそのピストルで撃ってみる」
俺は皐月からピストルの方を受け取る。ずしりと重い。
おもちゃの割に重量感があるな。
「この銃、なんか俺が知ってるピストルとちょっと違うな」
「それは『デザートイーグル』っていう銃なんだ。ピストルの中ではかなり強い銃なんだよ。かっこいいでしょ?」
「まあカッコいいってのはわかる」
シンプルな形だけど、逆にそれがいい。なんか王道感があって。
「気に入ってくれて良かった。じゃあボクから先に試し打ちしてみるね」
皐月は安全用のゴーグルを着けてから射撃台に行く。
次いでラノベに登場する赤い銃を構えて、引き金を引いた。
刹那、物凄い銃声が鳴り、銃口から一瞬だけ火花が散った気がした。
……気のせいだよな?
「まあこんなもんかな」
皐月の視線の先――五十メートルほど先には綺麗に撃ち抜かれた的が置いてあった。
「すげぇ……」
あんな遠くの的に当てるなんて。さすがバイトでリアルバトルをしているだけある。
つーか、こいつが夏祭りで射的とかやったらその店の景品全部持っていきそうだよな。
……皐月と夏祭りに行く時は射的はやらせない方がいいかもしれない。
「どう? ボクカッコよかった?」
「おう、超カッコよかったわ。惚れた」
「えへへ、それは嬉しいな」
ニコッと笑う皐月。
そんな彼女は照れくさそうに頬を染めている。
前々から思ってたけど、こういう時は可愛いんだよなぁ。
カッコよくて且つカワイイとか。とんでもない女の子だな。
「次は相棒くんの番だよ」
「お、おう」
そう言われて俺も皐月と同じように射撃台に立つ。
的は先ほど皐月が当てた五十メートル先にあるものとそれより半分以上短い二十メートル先にあるものがある。
俺は二十メートルの方を狙おう。
そう決めてからピストルを構える。
構え方はよくわからないので、何となくそれっぽい感じで構えている。
そして的に目掛けて銃口を合わせてから、勢いよくピストルの引き金を引いた。
だが想像以上の反動で、俺は尻もちをついてしまう。
「び、びっくりした……」
と、トイガンってこんなに威力があるのか。……いやこれって本当におもちゃなのか?
「相棒くん、外れちゃったね」
視線を前に戻すと、的には一切弾痕がなかった。
どうやら先ほど撃った弾は外れたみたいだ。
「だから言ったろ。俺は射的とか得意じゃないんだよ」
というか、基本的に俺に得意なものとかない。運動神経も皆無だしな。
「相棒くんは銃の扱いが得意じゃないのはわかったよ。でもそのままだとボクの相棒くんは務まらないよ?」
「お前が勝手にそう呼び始めたんだろ。つーか相棒は銃を使えなくちゃいけないのかよ」
こいつ、まさか俺に自分のバイトを手伝わせようとか思ってないよな。
そんなことされたら俺は即死しちゃうんだが。
「相棒くん、銃を構えてみて」
「えっ、まあいいけど」
俺はさっきと同じように銃を構える。
直後、後ろから皐月がくっついてきた。
「っ! な、なにしてんだよ!」
「なにって銃の撃ち方を教えようと思ってるんだけど」
「……あぁ、そういうこと」
でもだからって急に密着してくるなよ。普通にドキドキしちゃうだろ。
「いいかい? 銃を撃つときは肩幅より少し足を広げて、銃自体は両手でしっかり持つんだ」
「お、おう」
皐月が真剣に射撃の指導をしてくれているのに申し訳ないけど、彼女の控えめなマシュマロが背中に当たって全く集中できない。
「あとはゆっくりと引き金を引くんだ。ってちゃんと聞いてる?」
「っ! お、おう! ちゃんと聞いてるぞ!」
「じゃあ今説明した感じで撃ってみてね。今回はボクもサポートしてあげるから」
そう言って皐月は俺の手と重ねるようにピストルを持つ。
皐月の手って白くて綺麗だな。
「相棒くん、いくよ」
彼女の言葉を合図に俺はゆっくりと引き金を引いた。
その瞬間、再び強い反動に襲われるが倒れないように後ろで皐月が支えてくれた。
すると、一発の弾丸は真っすぐに飛んでいき二十メートル先の的に命中した。
「おぉ! 当たったぞ!」
「やったね相棒くん。これで一人前の相棒くんだよ」
俺が嬉しがっていると、皐月も同じくらい喜んでくれる。
まあそれは良いんだけど……。
「皐月、そろそろ離れてもらえると助かるんだけど」
遠慮がちに言うと、皐月は俺とピッタリと密着していたことに気付く。
射撃の指導している時はそんなに気にしてなかったんだろうな。
彼女は急いで離れると、顔を真っ赤にして、
「相棒くんのエッチ」
「いやいや先にくっついてきたのは皐月の方だから!」
そう訴えるが、皐月は不満げに口を尖らせる。
「もういいよ。今日は相棒くんとここに来れて楽しかったし」
「そ、そっか。それなら俺も連れてきて良かったよ」
不意打ちでそんなこと言わないで欲しい。反応に困る。
「だからその……また一緒に来てもいいかな?」
皐月は上目遣いで控えめに訊いてくる。
そんな彼女は普段の姿とは少し雰囲気が違って、何倍も可愛くて。
「良いに決まってるだろ。俺はお前の相棒だからな」
「やった! 約束だよ!」
心の底から嬉しそうに笑う皐月。
こんな表情を見せてくれるなら、彼女の相棒くんもそんなに悪くないかもしれない。
……ところで、このトイガンショップに売っている銃って本当におもちゃだったんだろうか。
~つづく~
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