第2話 エージェントガールとゲーセンに行ってみた
放課後に彼女を誘って、二人でゲーセンに来ていた。
理由としては、皐月にどんなことをしてみたいか?と訊ねたところ、友達とゲームセンターに行きたいと答えたからである。
そして俺はどうしても見せたいゲーム機があると言って、ゲームセンターの奥の方へと彼女を連れて歩く。
「っ! これって……」
目的の場所に着いてそのゲーム機を見た瞬間、皐月は蒼い瞳を大きく見開いた。
「びっくりしたか?」
「それはびっくりするよ。だってこのゲーム機の画面に映っているのって『落ちこぼれの神剣使い』のキャラクターだよね?」
皐月が訊ねてくると、俺は得意げに頷いた。
このゲーム機は『落ちこぼれの神剣使い』という超有名なバトルラノベのキャラクターが登場するゲームである。
といっても俺はそのラノベの内容については詳しくは知らないんだけど。
ネットでちらっとあらすじを読んだところによると、十五歳を迎えた人間は数多くいる神から選ばれ神の力を手にする世界で、物語の主人公――アイトだけがほとんどの神から選ばれず、唯一彼を選んでくれたのが最弱の神で有名な『剣の女神』だった。
そんな『剣の女神』へ恩を返すためにアイトは彼女から貰った力の『神剣』を使ってあらゆる敵を倒しその名を世界に轟かせていく、みたいなストーリーだった気がする。
「皐月からゲーセンに行きたいって聞いてから、これの存在を思い出してな。きっと喜んでくれると思ったんだ」
「とっても嬉しいよ。まさかこんなものがあるなんて」
嬉しそうにゲーム機を眺めている皐月。
早くゲームをやりたくて堪らないって顔をしている。
これだけでこのゲームを紹介した甲斐があるってもんだな。
「早速やってみるか?」
「……いいの?」
「当たり前だろ。そのためにお前にこのゲームのことを教えたんだから」
そう返すと、皐月は「ありがとう!」と綺麗な笑みを見せる。
そんな彼女にまたいつかみたいにドキッとしてしまった。
この子の笑顔ってなかなかに破壊力あるよな。
「才本くん。これ二人で出来るっぽいよ」
不意に皐月から声を掛けられた。
たしかにゲーム画面には『1P』と『2P』の選択肢が表示されている。
「いや俺はいいよ。このゲームやったことないし。何ならこのラノベのこともよく知らんし」
「えぇ⁉ そうなの⁉」
予想以上に驚かれた。
バトル好きの彼女にとってはあり得ないことだったっぽい。
しょうがないじゃん。まだラブコメ以外のラノベはほとんど読んでないんだから。
「それならなおさら一緒にやってみようよ」
「なんでだよ」
「
「うーん、言いたいことはわかるけど、その手のアクションゲームはめちゃくちゃ下手くそなんだよなぁ」
「そんなこと気にしなくても大丈夫だよ。やられそうになったらボクが守ってあげるから」
カッコいいセリフを平然と口にする皐月。
なんだこのイケメン。惚れてもいいですか。
「そこまで言うならやってみようかな」
「そうこなくっちゃ」
皐月はゲーム機に設置されている二本の剣のうち一本を俺に手渡してくる。
このゲームは付属の剣を使って、次々と出てくる敵を倒していくというものだ。
敵はもちろん『落ちこぼれの神剣使い』に出てくるキャラクターである。
原作では良いキャラクターと悪いキャラクターがいるわけだけど、このゲームに関してはそんなの関係なく敵キャラで出てくるらしい。
「じゃあ始めるよ」
互いにゲーム機にお金を投入したあと、皐月がゲーム開始のボタンを押した。
最初に現れたのは槍を持ったイケメン。
なんだこいつ。皐月並みに整った顔立ちをしているんだが。
「この子は『ウィル』だね。原作だとそこそこ強い方って感じかな」
「まじかよ。顔面偏差値的には最強って感じだけどな」
もし生まれ変われるなら次はこんなイケメンになってみたい……。
なんて呑気に考えていたら、ウィルがこちらに向かって槍を放ってきた。
それに対して、俺はただでさえ運動神経が悪いのに余計なことも考えていたせいで、槍の攻撃をモロに食らってしまった。
俺の体力はもう半分しか残ってない。
「って一発がデカすぎんだろ。まだ序盤なのに敵が強すぎじゃないか?」
「そんなことないよ。才本くんがきちんとガードしないから」
そう言う皐月は剣を横向きに構えていた。
なるほど。剣を横にすると敵の攻撃から身を守れるのか。
まあ知ったところで俺の反応速度じゃ間に合うかどうか。
「しょうがないなぁ。じゃあ才本くんはずっとガードしてていいよ。敵はボクが倒すから」
ほとんど諦めている俺を見て、皐月がまたもやカッコいい言葉を放った。
なんだろうこれ。トキメキが止まらないんだが。
以降、俺はずっと剣を横に構えてガードしたままで、ウィルの相手は皐月が一人でしてくれた。
彼女はあっという間にウィルの体力を奪っていき、残りあと一撃というところまで追いつめたのだ。
さすが本物というか……皐月ってやっぱすげぇな。
「…………」
そう感心していたら、皐月が急に動きを止めた。
どうしたんだろう。あと一発で倒せるっていうのに。
「才本くん、最後の一撃は頼んだよ」
すると、いきなりそんなことを言われた。
さっき言ってたことと違くない? 一人で最後まで倒してくれるんじゃないの?
「攻撃がくるよ!」
そう言われ俺は剣を横に構える……というか最初から横にしか構えてなかったんだけど。
「そのまま画面に集中しててね」
ウィルの攻撃をガードしたあと、皐月から伝えられる。
言われなくても画面ずっと見てないと即死しちゃうんだよな。
直後、またウィルの攻撃が来てそれを俺はガードする。
刹那――カンッ!と甲高い金属音が鳴った。
なんだこれ。こんな演出あったっけ?
疑念に思いつつも、その後何回か攻撃をガードしていく。
その度にやっぱりカンッ!と妙な音が聞こえた。
「なあ皐月――」
「才本くん、今はゲームに集中しなくちゃ」
顔を向けようとしたら、食い気味に言われた。
これってそんなに真剣にやらなくちゃいけないものですかね。
でもゲームに集中しないとやられてしまうのも事実なので、彼女の言葉に従って何とかウィルを倒そうとするが――。
「ダメだ。さっきからガードしかできねぇ」
これはやっぱり俺一人じゃ無理なのでは。我ながら情けないとは思うけど。
そんな風に完全に諦めていたら――。
「才本くん、今だよ」
不意に皐月の声が聞こえた瞬間、咄嗟に振り下ろした剣が、敵の隙を上手く突いた。
ようやく攻撃が通ってウィルを倒すことが出来たのだ。
「やったね! 才本くん!」
「やったね! じゃないだろ? なんで最後だけ俺に任せるんだよ」
「でも結果的には倒せたからいいでしょ? それよりほら次のステージが始まるよ」
皐月の言葉通り、画面には既に次の敵が現れていた。
なんかはぐらかされた気がしないでもないけど……まあいいや。
それから俺たちは二人目の敵――ハンマーを持った美少女と対峙する。
皐月曰く、彼女は『ステラ』という名前らしい。
原作では相当強いキャラで、実際にゲームで戦ってみてもとてつもないスピードでハンマーを振り回してくる。
この子見た目は可愛いのにさっきのイケメンより倍は強いんだが。
「よし。あと一発喰らったらゲームオーバーかな」
と思っていたけど、皐月にとってはそうでもなかったみたいで、また瞬く間にあと一撃。というところまでステラの体力を削った。
今度こそはトドメまで刺してくれるだろう。
そう期待していたんだけど、再び皐月が動きを止めてしまった。
おいおいまさか……。
「才本くん、次も最後だけお願いね」
「なんでだよ!」
思わず俺は叫んだ。
なんで皐月はラストだけ俺に任せたがるのか。
そう思いつつ、ひとまず俺はステラの攻撃をガードし続ける。
すると、その間にまた何度か変な音が聞こえてきた。
今度はパンッ!と何かが破裂したような音だ。
この音って最近聞いたことがあるような……。
「なあ皐月。これたまに変な演出入ってないか?」
「そ、そうかな? ボクはそうは思わないけど。というかちゃんと画面に集中してる? 余所見とかしてないよね?」
「あぁ、ちゃんと画面見てるって」
皐月的にはゲーム中に余所見もしちゃいけないらしい。
ゲームへの本気度がとんでもないな。
その後、俺は何とかステラを倒そうと試みるが、
「これどうやったら倒せるんだ?」
この美少女、イケメン以上に倒せるイメージが湧かないぞ。
……いや待てよ。先ほどのイケメンに攻撃が通ったのは上手く相手の隙を突けたからだ。
とすると、今回も同じように隙を突けば攻撃できるんじゃ……。
そう思い、俺はさっきのことを思い出しつつステラの隙を見計らって――。
「そこだ!」
思い切り剣を振り下ろした――が、その一撃は上手くいかず相手に弾かれてしまった。
さらには攻撃した直後の無防備な俺にステラのハンマーが襲い掛かる。
あっ、これ死んだ。
そう感じた瞬間、なんとステラにトドメの斬撃が入った。
ステラは画面からゆっくりと消えていく。
「危なかったね」
そう声を掛けてきたのは皐月だった。
「最後は俺に任せるんじゃなかったのか?」
「そうしようと思ったけど、才本くんがピンチだったから。これは助けるしかないでしょ」
「そりゃどうも」
と平然と返しているけど、内心では皐月にドキドキしていた。
肝心な時に助けてくれるとか、こいつイケメンかよ。
まあほとんど彼女の自作自演みたいなところはあるけど。
「次は最後の敵だね」
皐月の言葉と同時に三人目の敵が現れる。
それは『落ちこぼれの神剣使い』の主人公――アイトだった。
タイトル画面で真ん中に堂々と映っていたから俺でもわかる。
「最後はボクが一人で倒すから。才本くんはゆっくり見物でもしててよ」
「そう言ってまた最後の一撃だけ俺にやらせようとするんじゃないのか?」
「そんなことしないって。信じてよ」
って言われても、全く信用ならないんだが。
そう思っていたけど、最後の戦いが始まると皐月は過去二回と同様にとてつもない勢いでアイトの体力を減らしていった。
そうして最後の一撃で終わるところまで来たのだが、今度は特に動きを止める素振りは見せない。
良かった。今回こそ俺の出番はなさそうだ。
なんて安心していたら――。
「危ない!」
不意にゲーム中の皐月に体を抱き寄せられた。
直後、甲高い金属音と破裂音が交互に鳴り響く。
なんだ? 一体なにが起こってるんだ?
そんな風に混乱している内に、皐月が俺の体を離す。
するとゲーム画面には『GAME OVER』と表示されていた。
「……負けちゃった」
「そりゃ途中でプレイを止めたらな。ってか急にどうしたんだよ?」
「ちょっと色々あってね……それよりまた一緒にここに来てもいいかな?」
「えっ、そりゃもちろんいいけど……」
「ほんと? じゃあまた絶対一緒に来ようね!」
「お、おう……」
なんだろう。なんか誤魔化されてる気がするんだよなぁ。
……でもまあ楽しかったからいいか。
こうして俺と皐月の初ゲームセンターは終わったのだった。
☆☆☆☆☆
「これどうしようかな」
彼女の視線の先――プリクラ機の中には以前戦った男の仲間と思われるスーツ姿のゴリマッチョな外国人が三人ほどいた。
しかし彼らはぐっすりと眠っている。
実は悠真とゲームをしている最中、レオンはゴリマッチョたちから攻撃を受けていた。
ゆえにレオンは途中で悠真にゲームを任せたりしていたのである。
ちなみに悠真が変な演出があると言っていたが、それはレオンとゴリマッチョたちが戦っている最中に発せられた音であった。
「でも良かった。才本くんに怪我とかなくて」
ゴリマッチョ三人組は最後に標的をレオンから悠真に変えてきたのだ。
きっと悠真がレオンにとって傷つけられたくない存在だと考えたのだろう。
「今日は楽しかったな」
悠真とゲーセンで遊んだことを振り返りつつ、ぽつりと呟く。
そしてまた早く一緒に来たいなとレオンは思う。
その時はさすがにゴリマッチョ抜きで遊びたいものだ。
~つづく~
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