【3巻試し読み】3年分の「ありがとう」だよ、先輩

プロローグ『無題/彼と彼女のなんでもない瞬間』


 ──

 いや、七月六日が年に一度は必ずやって来る以上、三回目という表現は正確ではないのかもしれない。厳密には、二〇一九年の七月六日が三度目になった、と言うべきだろう。

 人生通算で二十回目の七月六日というわけだ。

 計算は難しくない。なにせ今日──七月六日は、僕の誕生日なのだから。

「…………」

 夢を、僕は目に見ている。

 言葉通りに。眠り続ける少女が見る、夢のような夢を覗いている。

 全てが優しく理想通りな、そこはまさしく夢の世界ネバーランド。この世界では争いが起きず、誰が悲しむこともない。永遠にここにいられたなら、果たしてどれほど素敵だろう。

 けれど。

 それでも。

 僕の役割は決まっている。夢を否定し、願いを否定し、この世界を否定しきる侵略者。

 ──それが《星の涙》によってもたらされた奇跡である以上、何があろうと、僕はこの世界を肯定するわけにはいかない。真正面から対立し、破壊する以外の選択肢はない。

 それだけは、絶対に裏切ることのできない決意であり、責務だから。

「……最悪の気分だ」

 と、僕は呟く。聞く者がいないのをいいことに、心の熱量を少しだけ零した。

 もちろん、感情のおきはすぐに消される。僕の心は動きを失い、氷点下へと保たれる。

 ──そうあるべきだと、自らへ強制するかのように。

 たとえこの夢の世界が、どれほどしあわせであろうとも、喉から手が出るほど焦がれた形だったのだとしても、僕がそれを肯定することなどあってはならない。

 だから、おり。悪いけれど。


 ──僕は、お前を助けてあげられない。

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