3. 朝凪海と天海夕(12)

 ゲームはいったん休憩にし、出来立てのうちにパンケーキを食べてもらうことに。

 普段はもっと適当だが、天海さんや朝凪に食べてもらうということで出来のほうは今までで一番だと思う。出来立てのふわふわ。卵白をいつもより頑張って泡立てたがあったというものだ。

 三等分に取り分け、まずは二人に食べてもらう。

「ふわっ……なにこれふわふわ……ちょっと甘さ控えめだけど、その分バナナ食べてるって感じするし。海、これヤバいよね?」

「……うん、これはおいしい」

「これ、カロリーは普通の材料で作ったヤツの3分の1ぐらいだから、その分バターとかシロップとかたっぷり使っても罪悪感は少ないし……追加できるけど、二人はどうする?」

「いる~!」

「……私も」

 どうやら気に入ってくれたようだ。

 天海さんは幸せそうな笑顔で。朝凪はむむー、とうなりながら。

 人に食べてもらうと、こんなふうに違った反応が返ってくるのは、作った人間としては悪くないものだ。

「真樹君、あの……もうなくなっちゃったんだけど……えへへ~」

 おずおずと言った天海さんのパンケーキは、すでにれいさっぱりなくなっている。

「いつもより材料多めに用意したからまだ作れるけど、おかわりいる?」

「いいの? じゃあ、お願い!」

「朝凪さんは?」

「……もらう」

 そして朝凪の皿も、もちろん真っ白だった。

「わかった。二人ともね」

「あ、真樹君。せっかくだし、隣で見せてもらっていい? 私も今度家で作ってみたいから」

「夕、素直におばさんに作ってもらえるようお願いすれば? 私たちがやったら黒い円盤になっちゃうよ」

「む~、ちゃんと教えてもらえればできるもん。ね、真樹君もそう思うよね?」

「まあ、ある程度時間とか測ったり、ひっくり返す時のサインとか見逃さなければ」

「……じゃ、私も見学する」

 ということで、今度は天海さんと朝凪に挟まれる形で作ることに。

「焦げ付き防止のクッキングシートを敷いたフライパンに生地を流したら、まずは蓋をして五分ぐらいそのまま加熱……で、その後は、生地の膨らみ具合を見て判断する感じかな。生地に生っぽさがなくなってふわふわしたら合図だから、あとは半分に折り返す感じ」

「おお~、本当だ。簡単だね」

「作り方はネットでレシピ探せば色々載ってるから、わからない時はそこを参考にしてもいいかな。あと、基本的にお菓子は分量通り時間通りにやれば、多少黒焦げにはなっても、その……」

「……なに? ダークマターとか木炭って言いたいならそう言ってくれてもいいんだよ?」

「いや、そういうわけでは……いっ!」

 天海さんの位置から見えないのをいいことに、朝凪が俺の横腹をぎゅっとつねってくる。痛くすると天海さんにバレるので手加減はしているようだが、別に馬鹿にするつもりで言ったわけではないので許してほしい。

 おかわり分もしっかりと三人で平らげた後は、再びゲームのほうへ。

「へへ、見てなさい海。真樹君の教えを受けて、今度こそ一泡吹かせてやるんだから」

「はっ、そんな見た目重視のアバターと武器で何ができる。その可愛かわいいお顔を、自慢の重武装でぶっ飛ばしてやるわ」

 キャラメイクや装備は自由に選べるモードだが、天海さんは完全に可愛い見た目のキャラや装備で、一方の朝凪はガンガン攻撃し、守備は二の次タイプ。

 プレイの経験値に、キャラによるステータスの優劣の差もあるから、それを埋めるためにはプレイングスキルを上げるしかない。

「そうだな……まず基本は敵が見えてもあわてないで、闇雲に弾を乱射しないでしっかり狙いをつけること。高所とか遮蔽物とか、いつも自分が有利に戦えるような場所で戦うこと……他にもいっぱいあるけど、まずはそこからだね」

「うん」

 朝凪との対戦を続けつつ、天海さんの隣でちょっとずつアドバイスしていく。

 すると、その成果はすぐに出た。

「基本に忠実に……じっくり狙って……それっ」

「あっ」

「お、やたっ、初めて海から1キルとれた!」

 俺のアドバイスから十分ほどでコツを掴んだのか、天海さんはそれまでいいようにやられていた朝凪から初めての勝利をもぎ取った。

 朝凪も家で練習したり週末は俺と遊んだりでプレイ自体は上手うまくなっているのだが。

 先ほど見せた天海さんの鮮やかなプレイングは、ほんの一瞬だったが、俺が普段やっている以上のものだった気がする。

 この手のゲームは全くと言っていいほどやらないそうだが、単純に器用にこなすセンスがあるのかもしれない。

「ふっ……い、今のはちょっと油断してただけだし? ほ、本気じゃないし」

「へへ~ん、そう、なら次は本気の海をやっつけちゃうもんね!」

 その後はアドバイスすることもなくなり、あとは二人の対戦を見守ることに。

「こんのちょこまかとおっ……」

「ほれほれ、こっちだよ海ちゃん。捕まえてごらん~!」

「こ、こいつマジっ……!」

 親友同士の戦いは思いのほか白熱したが、そこから一時間ほど対戦したところで、時間切れとなった。

 二人はまだまだやり足りない様子だったが、延長しすぎて遅くなるわけにもいかない。特に俺は数日前にやらかしたばかりなので、そこは絶対注意だ。

「むう、結局あの後三回しか勝てなかったな……何気に悔しい」

「そこそこやってる私に勝てること自体、わりとびっくりなんだけど」

 朝凪が言う通り、こういうプレイングスキルが要求されるゲームは、特に慣れない初心者は勝ちにくいようになっている。

 俺のアドバイスがあったとはいえ、コントローラーなど今まで数えるほどしか握ったことのない天海さんが朝凪から勝利を奪ったのは、わりとすごいことだ。

「それじゃね、真樹君。また今度一緒に遊ぼうね」

「ああ、うん。また今度ね」

 できればこれっきりにして欲しいが、この感じだと次もありそうな気もする。

「海、どうしたの? 早く行こうよ」

「あ~……ごめん、私ちょっと忘れ物。すぐ追い付くから、夕は先行ってて?」

「え? 忘れ物なら私も探す……」

「大丈夫大丈夫。置き場所は覚えてるから。そら、もう靴履いてるんだし行った行った」

「そう? ならいいけど……じゃあ先行ってるね」

 半ば追い出すような形で、朝凪が天海さんを玄関から外へ押し出した。

「……お疲れ、朝凪」

「前原もね」

 こうして、この日初めて俺と朝凪の二人きりに。

「……ほんと、参っちゃうよ。あの子、なんでもできちゃうんだから」

「ゲームのこと? 確かに器用だとは思ったけど、あのぐらいだったら、別にやろうと思えばどうってこと──」

「どうってことないんだよ。今日はあれで済んだけど、これから二回、三回ってやる度、夕はどんどん上手くなっちゃうんだ。なんでもかんでも、自分が好きと思ったものはあっという間にどんどん吸収してさ、いつの間にか……」

「……朝凪?」

「……あ~、ごめん、なんか愚痴みたくなっちゃったね。まあ、あんな感じでセンスの塊みたいな子だからさ、たまにはこういう感情になる時もあるわけよ」

「ああ……それは、なんかわかる気がする」

 世の中には天海さんのように要領のいい人がいる。勉強でも運動でも、人が何十時間もかけてようやく得た知識や技能を、あっという間に身に付けたりできるような人が。

 なんでも器用にこなして、それでいて皆にも好かれて──天海さんは、それを体現したような女の子だから、朝凪にとって大好きな親友でも、いつも隣にいれば、ふとした瞬間、ほんの少し嫉妬してしまうこともあるか。

「ってことで、たまには夕の親友やってる私の苦労みたいなものもわかってくれるとうれしいかな。……じゃあね、前原。今日も楽しかったよ」

「うん。どういたしまして」

「じゃね」

「うん。じゃあ」

 それまでは明るかった朝凪だったが……去り際の一瞬、その横顔がなんだかやけに寂しそうに感じたのは、俺の気のせいだろうか。

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