3. 朝凪海と天海夕 (6)
おかず交換をきっかけにして、俺たちは料理談義に花を咲かすことに。
天海さんと昼食をともにするにあたって、いったい何を話せばいいのだろうと迷っていたが、料理という無難な話題に落ち着いて助かった。
「へえ~、真樹君ってお菓子作りもできるんだ。卵焼きの時点で
「いや、できるっていっても、そう大したものじゃないし」
費用対効果を考えると買ったほうがいいのだが、休みの日は家から出たくないし、そういう店に男一人で行くのには抵抗もあって、甘いもの欲が高まった場合、作ることが十分選択肢に入ってくる。もちろん、時間も腐るほどある。
「じゃあ、最近作ったお菓子の中で美味しかったのは?」
「えっと……卵とバナナだけで作るスフレパンケーキ、とか……」
「た、卵とバナナだけで作るスフレパンケーキ……!?」
オウム返しのように言って、天海さんが
「ね、ねえ海、今、一瞬だけ気を失っちゃったんだけど、真樹君なんて言った?」
「夕、気をしっかりもつんだ。傷はまだ浅いぞ」
信じられないという様子で二人が俺を見る。個人的には何も
「そんなに驚くほど難しくないよ。ネット動画とかレシピサイトとか見て、簡単な手順で作れるようなものだし」
「ぶ~、真樹君ったら、そんな簡単に言っちゃって~……分量通りレシピ通りに作っても失敗しちゃう人だっているんですよ。ねえ、海?」
「夕には『砂糖をダークマターに変える』っていう錬金術師の才能があるからね」
「あ、海ったらひどい! そんなこと言って、海だって似たようなもんじゃん。去年のバレンタインの時に作ったチョコ風木炭のこと、忘れたとは言わせないんだからね」
「せめて木炭の後ろに『クッキー』を入れるんだよタコ助」
どうやら二人とも料理方面のスキルについては明るくないようだ。ということは、朝凪は食べる専ということか。
「あ、バレンタインって言っても、友チョコがわりに自分たちで作っただけで、誰かにあげたとかそんなんじゃないから」
「そういえば二人は女子校だったね」
二人がいた女子校は広い地域で見ても一番のお嬢様学校で、裕福な家庭の子や成績優秀な生徒が通う場所である。さらに小中高と一貫教育らしいので、普通なら高等部にそのまま進む生徒がほとんどなはずだが。
……いや、変な想像はよそう。俺だって、似たようなものだ。
「いいな~いいな~、私、甘いもの大好きだから、話聞いてたら真樹君のやつ食べたくなっちゃったよ~……はうう、パンケーキぃ……」
「そんなに食べたいのなら、別に作ってもいいけど……」
「え? 本当? 作ってくれるの? やった~!」
花が咲いたようにぱっと笑って、
五百円もあればトッピング含めて量も味も十分満足できるほどの安いもので、市販のものに
「じゃあ、また真樹君のお
早速予定を埋めようしてくる天海さんだったが、そこは、ちょっと都合が悪い。
「金曜日……」
今のところ約束はしていないが、金曜日は基本的に朝凪と遊ぶ日だ。
まあ、あくまで俺がそう設定しているだけで、両方の予定(主に朝凪)が合わなければ、予定は無しにしても問題はない。
……ないのだが。
「……あ~、ごめん。その日っていうか、金曜日は俺のほうが都合悪い、かな」
「え? そうなの?」
「うん。他の曜日ならいいんだけど、その日はちょっと空けておきたいっていうか……」
こう言ってしまうと朝凪と俺の両方とも都合が悪いということになるので、下手したら天海さんに勘付かれてしまう可能性もある。
秘密に気づかれないよう、今週に限っては天海さんとの予定を入れ、朝凪との予定は無しにする。そのほうがベターな選択のはずだ。
朝凪だって、同じシチュエーションなら誘いを断ったりはしないだろう。
「あ、もちろん別に用事があるってわけじゃないんだ。だけど、うるさい親も仕事で帰ってこないし、基本的には一人でだらだらゆっくりしたくて……」
しかし、やはりその日に限って言えば、朝凪のほうを優先したい。
朝凪がいつもの付き合いで疲れた時、いつでもその相手ができる状態でいたい。
天海さんとはまた違った『友達』として、そうありたいと俺が思っているから。
「だから、別の日にしてくれると嬉しいかなって……ダメかな?」
「そんな、私は全然平気だよ。っていうか、今回のは私からおねだりしてるわけだから、都合は私のほうで合わせないと。ねえ海、来週のどこか、真樹君との予定入れちゃってもいい? 一緒に行こうよ」
「は? いや、え~っと……」
嫌がるような素振りはおそらく演技だろう。というか、朝凪も当然いてくれないと困る。
「……まあ、しょうがないけど、保護者は必要か。いいよ」
「へへ、ありがと海。じゃあ、決まりだね」
早速来週の半ば頃に遊ぶ約束を取り付けることに。こういう勢いで、天海さんはどんどん色んな人と繋がりを作っているのだろう。
「あ、もうこんな時間か……海、5限なんだっけ?」
「えっと、あ、体育だね。着替えがあるから、早めに行かないと」
「ウソ? 真樹君ゴメン、私たち先に帰んなきゃ」
「あ、うん。二人とも行ってらっしゃい」
「うん、行ってきま~す!」
「じゃあね」
二人を見送って、残された俺は一人ベンチに腰かける。
直後、ポケットに入れたスマホが震えた。朝凪からのメッセージだ。
『(朝凪) バカ。別に夕と遊んでもよかったのに』
『(前原) バカですいませんね。でも、誰と遊ぶかは俺の自由だし』
『(朝凪) そうだけど。でも、そんなに私と遊びたいんだ?』
『(前原) いや、別に』
『(朝凪) ウソ。素直になっちゃえよ。私がいなきゃダメなんしょ? 欲しいんだろ?』
『(前原) は? いらねえし、バカ』
『(朝凪) バカって言ったほうがバカなんだけど。このバカ』
『(前原) うるさいバカ。さっさと着替えろ』
これ以上は不毛な言い合いになる気がして、俺はスマホをポケットに突っ込んだ。
朝凪のヤツ、人のことバカバカ言って。次遊ぶ時覚悟していろよ。