【特集】破滅の運命を打ち砕く! スニーカー文庫が贈る「悪役貴族作品」4選
ここ数年、ラノベ界隈では「悪役令嬢」ものとカテゴライズされる作品たちが人気を博してきた。
『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(一迅社文庫アイリス)『悪役令嬢は溺愛ルートに入りました!?』(SQEXノベル)といった作品を読んだことがあったり、作品名を耳にしたことがあったりする人も多いのではないだろうか。
そしてここに来て今度は「悪役貴族」ものとでも呼べば良いのだろうか、新たな潮流の訪れを予感させる作品たちが登場する。
スニーカー文庫から刊行中の『悪役貴族の最強中立国家』や、『クズレス・オブリージュ』、『極めて傲慢たる悪役貴族の所業』、『怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった』がそれだ。
この4作品に共通しているのが、ゲームや小説の「悪役貴族」に転生してしまっていることに気づいた主人公が、シナリオ通りに進めば処刑されることが決まっている運命からの脱出を目指すという点だ。「悪役令嬢作品」の主人公が女子から男子に変わっただけじゃない? なんて思われそうなところもあるけれど、それだけじゃない面白さがこれらの「悪役貴族」ものにはある。
今回はこれらの作品たちの魅力を紹介させてもらいたい。
経験した人生を戻ってやり直すというループ設定自体は、SFの定番として古くからあるものだ。ラノベでも『Re:ゼロから始める異世界生活』(MF文庫J)のように、何度もやり直しながら突破口を見つけるスリリングさで読ませる作品がある。
一方、一大ブームにもなり、今もなお新たな作品を輩出し続ける「悪役令嬢」ジャンルにおいては、基本はリセット不可となったところからのスタートで、条件は少し厳しくなる。だからこそ必死になってシナリオの裏をかこうとする少女たちの姿が、同じ女性の読者に、自覚して自立しようとする頼もしさを感じさせたのかもしれない。男性の読者にも、愛らしさとカッコ良さを併せ持ったキャラクターとして、作中の攻略対象たちと同じ効果を及ぼし人気となった。
女性が主人公の「悪役令嬢」ものにはそうした面白さがあるとして、男性が主人公に置き換わった「悪役貴族」ものの面白さも同じなのかというと、そういうところとそうでないところがある。転生によって自分がゲームやファンタジー小説の悪役になってしまっていると気づいて、その後に起こることをあらかじめ分かっていて回避しようと動く。そういった展開が持つ面白さは基本的には変わらない。
経済小説の面白さが合わさった『悪役貴族の最強中立国家』
ただ、令嬢と貴族とでは個人としての命の重さを別にして、当主なり領主として家の者たちや領民といった大勢の命を背負わされているという点で、転生に目覚めた後の振る舞いに違いがでてくる。たとえば『悪役貴族の最強中立国家』(著:あきらあかつき)では、主人公は『ラクアの英雄伝説』というゲームの世界で、5年後には魔王か勇者によって殺されることになる伯爵領主のローグに転生していたことに突然気づく。
22歳になっていたローグは、名領主だった祖父を継いだものの無策で国力を衰退させた父親以上に無能だった。いずれ起こる魔王の侵略時に君主のアルデア王を裏切り魔王側に寝返るが、現れた勇者によって討伐される運命にあった。だったら寝返らなければ良いかというと、それまでの失政で魔王軍を止める力がなく、蹂躙されることは確実だった。
どうすればいい? ということで始めた大改革。食料庫を開放して領民たちを飢えから救い、減税を行って経済を活性化し、魔王と直談判して貿易を促進して作った蓄えで軍備を増強する。決まっている運命を変えるという楽しさに、経済小説の面白さが合わさった内容で、世の中の動きに興味のある人たちを引きつけそうだ。
思いも寄らない展開で巻き込まれていく…『クズレス・オブリージュ』
『クズレス・オブリージュ 18禁ゲー世界のクズ悪役に転生してしまった俺は、原作知識の力でどうしてもモブ人生をつかみ取りたい』(著:アバタロー)はどうか? こちらのシリーズも、ゲーム『ラスト・アルカナム』の中の悪役で、プレイヤーから「クズトス」と呼ばれるくらいにクズなキャラとして知られる公爵家嫡男・ウルトスに転生していたことに主人公が気づくところから幕を開ける。
メイドに食事中に「あ~ん」をさせるは、ヒロインの少女を泣かせるわといったクズ行為を繰り返した挙げ句、黒幕に操られて死亡という悲惨な末路を辿る運命を逃れるために、クズ行為を止め魔法の力や剣の腕前も伸ばして最悪の評価から抜け出す。破滅につながるある事件も未然に防いで、これで平凡なモブ人生をまっとうできると思ったものの、評価され過ぎて知らないところで祭り上げられてしまう状況に笑えるし、同時にヒーローとしてのカッコ良さを感じてしまう。
5月1日発売の第2巻では、ゲームで主人公のジークと仲良くすることで脇役人生をまっとうできるといろいろ画策するものの、思いも寄らない展開でますます物語の中心に引き込まれていくことに。ゲームにはなかった展開もあって、ウルトスの運命が大いに気になる。
力で正義を成していく爽快感『極めて傲慢たる悪役貴族の所業』
『極めて傲慢たる悪役貴族の所業』(著:黒雪ゆきは)は、設定もよく思い出せないファンタジー世界で、どうやら悪役らしい貴族の少年ルークに生まれ変わっていた主人公が、家柄や才能に溺れず努力することを始めたことで起こる変化を描いたシリーズ。持ち前の傲慢さは残しながらも、才能を惜しまず使って認められていくルークの姿に、これこそ「ノブレス・オブリージュ」だといった憧れを引き出される。力で正義を成していくストーリーは、やはり読んでいてスカッとするものなのだ。
ハーレム展開が羨まし過ぎる! 『怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった』
『怠惰な悪辱貴族に転生した俺、シナリオをぶっ壊したら規格外の魔力で最凶になった』(著:菊池快晴)という「悪役貴族」ものも出ている。鞭を握ってメイドを陵辱しているところで、唐突に学園ゲームに登場するヴァイス・ファンセントという名の悪役に転生していることに気づいた主人公が、魔王の盾に変えられ、全身に大穴を開けられて息絶えるという悲惨な運命から逃れようと足掻く。
剣や魔法の訓練をはじめ才能を開花させたところ、本来のゲームの主人公よりも強くなってしまったヴァイスは、その力で主人公すらねじ伏せてしまえばとも考える。悪魔的なヒーローに同級生に先輩にメイドに教師といった女子が魅せられ、寄ってくる展開には羨まし過ぎて破滅しろとも思えるけれど、同時に魅力的でもあるから悩ましい。
悪役令嬢が善行に目覚めて周囲を惹きつけ生き延びる展開とは少し違った、ワルの魅力で破滅の運命を打ち砕こうとする展開が可能な点が、男性を主役にした「悪役貴族」ものにはあるのかもしれない。
文:タニグチリウイチ
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