1章:甘くて可愛い彼女ができました その4
※ ※ ※
夕焼けを背景に、可愛い女の子のおっぱいを揉むのは、乙なことなのかもしれない。
しかし、
『おっぱい揉んでいいので、私と付き合ってください』
あまりにもパワーワードすぎる。暴走していた夏彦でさえ
ノーリスクハイリターン、目が
というわけで、付き合う付き合わないにせよ、揉む揉まないにせよ、まずは言葉の真意を知ることから夏彦は始めることに。
少女とともに元来た道を戻り、駅チカにあるカフェへと場所を移す。
角側にある2人用の席に腰掛け、注文したドリンクをテーブルへと置けば、ようやく話し合える環境が整う。
健在とはいえ、「可愛くなったなぁ」というのが夏彦の感想だった。
小柄で童顔なだけに、クリッとした瞳は一層と魅力的に見えてしまうし、リップが薄く塗られた小ぶりな唇は、ちょっとした大人っぽさも醸し出している。
髪型は今も昔も変わらない。肩に少し掛かるくらいの長さの髪を左右に縛り、丁寧に編み込んだ三つ編みスタイル。
同じ髪型にも
総評、すごく可愛いです。
「綺麗になったね」と夏彦が言えたらいいのだが、そんなスマートなことが言えるわけもなく。そもそも、そんな気の利いた言葉がすんなり出るのなら、とっくに童貞を卒業している。
それどころか、『めちゃくちゃ可愛い子』と再認識してしまったため、心臓の鼓動が高鳴ってしまう。「こんな可愛い子が彼女に? しかも、おっぱいも揉ませてくれる……?」と煩悩が脳細胞を壊し始めてしまう。
対して少女はどうだろうか。
少女は少女で、一世一代の告白をしているだけに、だいぶ緊張しているらしい。
「……」「……」
互いにドギマギ、ソワソワ。視線が一点に定まらない。
とはいえ、視線を互いに向けたり向けなかったりを繰り返せば、ピッタリと見つめ合う瞬間だってある。
「「!」」
視線が、ぴったんこカンカン。
視線と視線が交差するとき、物語は始まる──!
2人は意を決する。
「あのさ!」「あ、あの!」
「「!?」」
「ご、ごめん先言って!」「どーぞっ、どーぞっ!」
タイミングが良いのか悪いのか。
初々しさは、「お見合いか」とツッコみたくなるほど。
「お先にどーぞっ!」と、アタフタと手のひらを差し出してくる少女は、見ていて飽きない。何なら一生見続けていたい気持ちにもなってしまう。
そんな感情を
「えっと……、久しぶりだね」
「!」
『久しぶり』という言葉に、少女の瞳が見開かれる。さらには、あれだけ恥ずかしそうに動かしていた視線を、恐る恐るではあるが夏彦だけにゆっくり注いでくれる。
「私のこと、覚えてくれてるんですか……?」
「うん。
まるで記憶喪失だった人間が、自分のことを思い出してくれたかのような反応。少女は力強くコクコクと首を縦に振り続ける。
すごく
少女の名は、
通っていた小学校が同じで、夏彦の妹と未仔は、度々同じクラスだったこともあり仲良し同士。昔はよく家に遊びにきていたし、頻繁ではないが夏彦も一緒になって遊んだ記憶がある。
夏彦が中学に上がった頃には、さすがに遊ぶ機会が減ってしまったし、未仔は違う中学に入ってしまったため、会う機会さえ無くなっていた。
家族団らん時、妹の口から、「今日はミィちゃんと遊んだよー」と聞く程度。
夏彦と未仔は、それくらいの関係といえば、それくらいの関係。
当たり前だ。未仔は夏彦の友達ではなく、妹の友達なのだから。
少なくとも夏彦はそう思っていた。
だからこそ、夏彦にとって告白されたことが衝撃的だった。
「俺たち同じ高校だったんだね。ったく……。新那はちゃんと教えといてくれよ……」
「ううんっ! にーなちゃんは悪くないの。私が内緒にしといてって、お願いしたから」
「? どうして?」
夏彦が首を
未仔が恐る恐る口を開く。顔は少し火照り、自然と上目遣いになっている。
「えっとね……、今みたいな感じになったら嬉しいなって思ったから」
「??? 今、みたいな?」
「うん……。私のこと覚えてくれてたら、すごく嬉しいなって」
「っ!」
「下の名前で、昔と変わらず呼んでくれることが嬉しかった……です」
「……おおう」
夏彦は思う。
「何だこの子。死ぬほど
余程、下の名前で呼んでもらえたことが嬉しかったのか。
「えへへ……♪」
未仔は、はにかみつつも嬉しそうに
愛くるしい表情を目の当たりにしてしまえば、夏彦も自然と
初めて遊んだときもそうだった。借りてきた猫のようにしていた彼女だが、時間の経過とともに我が妹のように懐いてくれた。『お兄さん』から『ナツ君』と呼び方が変わった瞬間を、夏彦は今でもハッキリ覚えている。
当時を懐かしめば懐かしむほど、心に余裕が生まれてくる。
さすれば、自分の喉がカラカラなことにようやく気付く。無理もない。あれだけ全力疾走したり、おっぱいおっぱい連呼していたのだから。
夏彦は水分補給すべく、自分の注文したアイスコーヒーをストローも差さずにワイルド飲み。
そして、一言。
「うおぉぉぉ……。苦ぁ~~~……」
気が緩んだ夏彦の口から出る、ムードもへったくれもないコメント。
それもそのはず。夏彦はブラックコーヒーなど飲んだことがない。なんなら、微糖の缶コーヒーだって苦手で飲めないレベルだ。
コーヒー=大人の飲み物=カッコイイ
というクソダサい思想のもと、自分に告白してくれた女子の前で、1ミリでもカッコ良く思われたいという欲が生み出した大失態。
男子高校生あるある。気になる女子の前でいいカッコしがち。
そして失敗しがち。
「もしかして、コーヒー苦手?」
未仔に尋ねられてしまえば、もはや隠す必要もない。
「う、うん……。ちょっといいカッコしようとして頼んだんだけど、俺にはまだ早かったみたい。ははは……」
乾いた笑いしか出せないのに、不思議と涙は出そうになる。生涯哀れみの刑に処せられてしまう。
100年の恋はこの程度では冷めないのかもしれない。けれど、5年くらいの恋ならば冷めてもおかしくない。
未仔はどうだろうか?
コイツ、ダサすぎワロタ。
ということはなく、
「ちょっと待っててね」
「?」
立ち上がった未仔は、小走りでカウンターへと移動する。備え付けで用意されているミルクやハチミツ、マドラーなどをせっせと回収して戻って来る。
どうやら、夏彦のためにコーヒーを甘くしてあげたいようだ。
持ってくるだけでは
「ご、ごめんね! わざわざ!」
「ううん。私がナツ君のために、してあげたいだけだから。ね?」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん♪」
未仔の笑みに当てられた夏彦は、「なんて
幸せ気分で夏彦が待つこと少し。最後に未仔は、自分の注文したチョコレートラテに載ったクリームをコーヒーへとトッピングして完成。
「ナツ君、これでどう?」
「うん。ありがたく飲ませていただきます」
未仔からコーヒーを受け取った夏彦は、今一度飲んでみる。
「おお……!」
あまりの味の変化具合に夏彦はビックリするレベル。
「全然飲める! というか
「ほんと?」
「ほんとほんと! ハチミツとクリームがしっかり甘さ出してるし、苦みは残ってるんだけど、むしろ丁度いいくらい!」
「喜んでもらえて良かった♪」と、我がことのように笑顔になってくれる未仔。
そんな未仔の笑顔を見てしまえば、夏彦は「
故に、未だに夢見心地だ。こんな可愛くて献身的な子が、自分を好きだと言ってくれたことが。
自分に優しくしてくれる少女と、甘くて美味しい飲み物。これほどに
そんな幸福論を密かに唱える夏彦に、未仔が問いかける。
「ねぇナツ君」
「うん?」
「ナツ君は、その……。お、おっぱいが