幕間 《お姉ちゃん》との思い出 Ⅰ
『ねえ要くん、君っていつも一人でこの公園に居るけどさ、お友達とかは居ないの?』
夕暮れの公園。ひとけのない寂れたその場所で、ぼくは名前も歳も知らないおねえちゃんとたびたび出会っていた。
『うん……ぼくね、こっちの人じゃないから、友達は居ないんだ』
『あれ、こっちの人じゃないの?』
『そうだよ。体が弱いから、じいちゃんとばあちゃんのところに預けられてるの』
『要くんにはこっちの空気がいいってこと? まあ田舎だからねえ。ちょっと歩けば田んぼと森があるんだもん、空気がいいってのはその通りだよね。もっとも、この町が誇れるモノなんて空気しかないとも言えるんだけどさ』
自虐するように言いながら、おねえちゃんはぼくを見る。
『じゃあ要くんって、お父さんやお母さんと離れて暮らしてるってこと?』
『うん』
『寂しくないの?』
『じいちゃんとばあちゃんが居るからそうでもないけど、でも……ひとりで遊んでるときとかはさびしいかもしれない……』
『そっかぁ。でも今は私が居るから寂しくないよね?』
『う、うん……』
素直に頷いたは良かったものの、面と向かって認めるのは恥ずかしくもあった。
『あ、頬を赤くして照れてるぅ~。や~ん、もうっ、要くん可愛過ぎっ!』
おねえちゃんは半分だけ地面に埋まったタイヤの遊具に座りながら、ぼくをガバッと抱き寄せた。
『わわっ……!』
『よちよち、大丈夫だからね? 寂しさなんて私が吹き飛ばしてあげちゃうからねっ』
『む、ふぐっ……!』
おねえちゃんの胸元にむぎゅっと抱擁され続け、ぼくは息苦しいったらありゃしない。
『お、おねえちゃん……わふ……っ、そんなに強くしないでよ……っ!』
『でもこうやってされるの良くない? にひ、おっぱいふかふかで気持ちいいよね?』
『こ、こういうのははしたないことだって、むふっ……、何かで見たよ……!』
『いいのいいの。これは要くんにだけの特別サービスだからねっ。こんなこと、同じクラスの男子とかには絶対にやってあげないんだぞ~?』
そう言って、おねえちゃんはぼくをハグし続ける。
ぼくはイヤだイヤだともがきつつも、なんだかんだ抜け出さないまま、おねえちゃんに体を預けてしまう。
おねえちゃんはとてもいい匂いで。
おねえちゃんはとてもいい感触で。
おねえちゃんはとてもあったかくて……。
『……次会ったときも、またこうしてくれる?』
『おやおや~、要くんったら私の虜になっちゃったのかな~?』
『そ、そうじゃないけどっ……!』
『にひひっ、いいよ大丈夫っ。次もまたむぎゅってしてあげるからね?』
頭を撫でながらのその言葉は、ぼくの心を満たすのに充分な威力を誇っていた。