第1話 お姫様が居候することになった
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「だって、この世界に来てキミが一番優しくしてくれたから」
グイグイ来るし常識は通じない。そ、そんな顔で俺をみるな~! 登校途中に出会った『異世界』から来たお姫様を秋葉原に案内したら...懐かれて同居することになりました。
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月日が流れて、十二月を迎えた。
登校中、自宅近くの最寄り駅に到着すると、改札の方でキョロキョロしている外国人の少女を見つけた。
中学生くらいの身長で、見た目より少し幼い顔立ち。色白の肌。
可愛い系の美少女……なんだけど、あの服装はなんだ?
お姫様みたいな格好をしているけど、コスプレか? ……って、夏にもこんなことがあったような気がする。
「っ!」
――美少女と目が合った。
彼女は救いの手でも見つけたかのようにぱぁーっと明るい表情を浮かべる。
すたた、と近寄ってきた。
「ねえねえ、村人みたいなお兄さん」
「誰が村人だ」
いきなり失礼なことを言うから、ツッコんでしまった。
つーか、この子。日本語ペラペラだな。
「秋葉原って、どうやって行くかわかる?」
「秋葉原? それなら乗り換え一本で行けるぞ」
「お兄さん行き方わかるの! じゃあ教えて!」
「えっ、別にいいけど……」
それから俺は美少女に秋葉原までの行き方を教えた。
「……わかんない」
「まじかよ。結構わかりやすく教えたつもりだったんだけど」
なんならメモまで書いて渡した。
「そもそもなんちゃら線ってなに?」
「……そうか。路線を知らんのか」
あまりにも日本語が流暢だから忘れてたけど、この子外国人だもんな。
路線を言ったところでわかるわけなかったな。
さて、どうすっかなぁ……。
「あっ! 良いこと思い付いたよ!」
「ん? なんだ良いことって?」
「お兄さんがわたしを秋葉原まで連れて行ってくれればいいんだよ!」
「嫌だ」
即答で断ると、美少女はえぇ⁉ と瞳をぱちくりさせる。
「なんで! なんで! なんで~~~~‼」
「あぁもうっ、うるさいうるさい。『なんで』が多い‼」
「だって、このままだとわたしが秋葉原に行けなくなっちゃうよ!」
「んなこと言われてもなぁ……」
今から彼女を秋葉原にまで送って、そこから学校に行くとなると、着いたころには午後の授業が始まってしまっている。
「駅員さんに任せても、どうせ俺と同じようなことを言うだけで意味ないだろうし……」
「そうだよ! 意味ないよ!」
「でも俺が秋葉原まで連れて行ったら、学校に大遅刻だしな」
「大丈夫だよ! 一緒に行こうよ!」
「適当に話すな」
ったく、このガキんちょめ。
「お兄さん、いい加減諦めてわたしを秋葉原まで連れて行ってよ!」
「それが他人に何かを頼む態度か。こうなったら意地でも連れて行かねぇ」
「ふーん、そんなこと言うんだ。じゃあわたしにも最終手段があるんだから!」
「最終手段? ってなんだよ?」
「今からわたしはお兄さんを指さしながら『この人に襲われてます! 助けてください!』って大声で言いふらすの!」
「止めろよ! マジで止めてくださいお願いします‼」
それ通報案件のやつだから‼ 俺、捕まっちゃうから‼
そう言ってるのに、美少女は深呼吸をする。
こいつやる気だな、と思った俺はすかさず彼女の口と体を押さえた。
「~~~~っ!」
「あんまり暴れんなよ!」
必死に体と口を押さえる俺と抵抗しようとする美少女。
いま気づいたけど、これ既にアウトなのでは。
周りを見渡すと、人々からの不審げな視線を一気に集めていた。
……これは非常にまずい。
「わかった! わかったから! 秋葉原まで連れて行ってやるから!」
このままではリアルに通報されかねないので、俺はゆっくりと彼女から離れる。
「ほんと? ほんとに秋葉原まで連れてってくれるの?」
「お、おう。もちろんだ」
「やったぁ~これで念願の秋葉原に行けるよ~」
美少女はぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「そうと決まったら早く行こうよ! ねえ早く!」
「わかったって! そんな焦るなよ!」
グイグイと制服の袖を引っ張ってくる美少女。
こいつ、どんだけ秋葉原に行きたいんだよ……。
「ねえねえ、お兄さんの名前は?」
「ん?
「ユウマね! わたしはノエル・ミルフォードだよ! よろしくね!」
「おう。よろしくな」
つっても、秋葉原まで送ったら、こいつとはお別れなんだけどな。
そんなわけで俺は美少女――もといノエルと一緒に秋葉原に行くことになった。
☆☆☆☆☆
「ほら、着いたぞ」
最寄駅から二時間ほどかけて、目的地の秋葉原まで到着した。
「おぉ~! これが秋葉原なんだね!」
「まだ駅だけどな」
そう言っても、そんなこと関係ないとばかりにノエルは瞳を輝かせている。
「そういやお前、親はどうしたんだよ?」
「えっ、そ、それは……そう! お父さんとお母さんは先に秋葉原に着いているの!」
「子供のお前を残してか……?」
「わたしはしっかりしてるから!」
「嘘つけ。思いっきり迷子になってたくせに」
「ま、迷子になってなんかないもん! ちょっと秋葉原までの行き方がわからなかっただけで……」
「それが迷子って言うんだよ」
そう言うと、ノエルは涙目になりながら頬を膨らませる。
しまった。ちょっとからかい過ぎたか。
「すまん。その……悪かったよ」
「許さないもん」
「そんなこと言うなよ。悪かったって」
両手を合わせて頭を下げると、ノエルはチラリとこっちを見てくる。
「じゃあこれもらって!」
「えっ、お、おう……」
彼女から受け取ったのはクマのぬいぐるみが付いたキーホルダー。
ただし、クマがめちゃくちゃブサイクだった。
「可愛いでしょ!」
「えっ、これが? ……え?」
言われて二度見した。
どう見ても可愛くないだろ。
「でも、どうしてこんなもの……」
「ここまで連れてきてくれたお礼だよ!」
ノエルは純粋な笑顔を咲かせた。
最初はワガママでなんだこいつ、とか思ったけど……すげぇいい子じゃん。
「これ、ありがとな!」
「うん! じゃあまたね!」
手を振ったあと、ノエルは改札に繋がる階段を下りていった。
これであの子と会うこともないか。……まあちょっと寂しいかもな。
「さて、そろそろ行くか」
それから俺は学校に向かった。
着いて早々、担任から『社長出勤にしても遅ぇよ』と説教を食らったのは言うまでもないことだ。
☆☆☆☆☆
「今日はなかなかに良い収穫だったな」
一日が終わって帰宅すると、俺は自室に入るなりそう呟いた。
手に持っていた紙袋からラノベを数冊取り出すと、机の上に置く。
新刊に加えて、自分好みの新シリーズのラノベも買ってしまったぜ。
「よし、早速読むか」
制服のまま椅子に座ると、チャリンと何かが落ちたような音が聞こえる。
視線を向けると、そこには今朝ノエルからもらったブサイクなクマのぬいぐるみが付いたキーホルダー。
「……あいつ、ちゃんと親に会えたのかな」
両親とは秋葉原で合流するっぽいような口調だったけど……。
まあ連絡先とか交換してないから確認しようがないけどな。
そんなことを思いつつ、キーホルダーを拾う。
その時だった。
キーホルダーに付いているクマのぬいぐるみが白く輝き出した。
その光はみるみる激しくなっていき、部屋の中を飲み込んだ。
あまりにも眩しすぎて、目が開けられなくなる。
しかし、視界が完全に奪われたのは数秒間だけで、その後は徐々に光が弱まっていった。
ゆっくりと目を開けていく。
すると、
「こんばんは! ユウマ!」
目の前で、ノエルがにっこりと笑っていた。
……は?
「ユウマ、ぽかんとしててすごくアホっぽいよ」
「いや、なんでお前がここにいるんだよ? ってか、どうやってうちに入った?」
「ふっふーん。それは転移魔法を使ったんだよ!」
「???」
自慢げに口にしたノエルの言葉に、俺は混乱した。
なに言ってんだこいつ……。
「あっ、その顔は信じてないね! ほんとだからね! そのキーホルダーを通じてわたしはここに転移したの!」
「たしかにキーホルダーは光ったけど、だからってすぐに信じろと言われても……」
「もぉ~どうして信じてくれないの! こうなったらこうしてやるんだから!」
ぷんすか怒ったノエルは人差し指をピンと伸ばして、指先に光を灯す。
それをひょいっと投げると、光は俺が買ったばかりのラノベたちの方へ移動して、その中の一冊に吸い込まれた。
直後、光が中に入ったラノベが消えた。
「って、なにしてんの⁉」
「本を消してみたよ! すごいでしょ!」
「すごくねぇ! つーか、これ元に戻るのか?」
「戻せるよ! わたしが魔法を使えるって信じてくれたら戻してあげる!」
「信じるから! 早く元に戻してくれ!」
ノエルが「はーい!」と返事をしてさっきみたいに指を振ると、ラノベがぽん! と出てきた。
危うくラノベが読めなくなるところだった……。
「で、魔法使いさんがうちに何の用だ?」
「ねえユウマ、意外とあっさり信じた気がするけど、本当に信じたの……?」
ノエルが疑わしげな眼差しを送ってくる。
お前が信じろって言ったくせに。
「まじで信じたって。よく考えたら、魔法を使えるやつがいたっておかしくないことに気付いたんだよ」
人に化けた邪竜に会ったこともあるしな。
そういやあいつは異世界から来たって言ってたけど……。
「もしかしてお前って、こことは別の世界から来てるのか?」
「そうだよ! わたしは召喚術を使って自力でここに来たの! すごいでしょ!」
「なんかよくわからんが、すごそうだな」
「でしょ~」
とりあえず褒めると(また魔法を使われると面倒だから)、ノエルの機嫌が良くなった。
「あとね! わたしはあっちの世界だとお姫様なんだよ! すごいでしょ! 褒めて!」
「おうおう、すげーな」
「でしょ! でしょ!」
また褒めると、さらにノエルの機嫌が良くなった。
けど、お姫さまっていうのは嘘だろうなぁ。
お姫様っぽい格好はしてるけど、振る舞いとかまるでおてんばな町娘だ。
「話を戻すが、お前はうちに何の用があるんだ?」
「しばらくの間、この家に泊めて欲しいの!」
「却下だ」
即行で断ると、ノエルはぶんぶんと首を横に振る。
「嫌なの! 泊まるの!」
「ダメだって言ってるだろ。つーかお前、親はどうしたんだよ? 心配してんじゃねぇのか?」
訊ねると、ノエルの肩がビクッと弾んだ。
「そ、その……お父さまとお母さまはこの世界には来てないの」
「えっ、お前ここに一人で来たの……?」
「そうなの。だからこのままお外に放り出されるとすごく困るの」
行く当てがないってことか……。
「でも、どうしてうちなんだよ」
そう訊くと、ノエルは少し視線を横にずらして、恥ずかしそうに指をつんつんしながら、
「だって、この世界に来てキミが一番優しくしてくれたから」
その言葉が耳に届いた瞬間、鼓動が逸った。
そっか。だから俺に頼って……。
「わかったよ。俺は別に泊まっても何も言わない」
「泊まってもいいの!」
「でも、俺の両親がどう思うかは別だぞ。ひょっとしたら二人は泊まらせないって言うかも知れないし」
話の途中、ガチャリと扉が開いた。
「ちょっとうるさいわよ~。いつまでエッチなビデオ見てるの~?」
「そうだぞ
部屋の扉が開くと、現れたのは四十代くらいの二人の男女。
俺の父親と母親である。
「エロいビデオは見てねぇけど、ちょうど良かった。実はこの子をしばらく泊めたいんだけど……」
「は? この子って……」
ノエルを見つけた途端、母さんは目をぱちくりさせて、ついでに親父は息を荒くして興奮している。
それから母さんはノエルとの距離を一気に詰めると、ぺたぺたと彼女の体を触りだし、親父はどこから持ってきたのか一眼レフカメラでカシャカシャと写真を撮り始めた。
「きゃはは! くすぐったいよ~!」
母さんに触られて子供みたいに笑うノエル。
すると、次に母さんは彼女の髪の匂いをくんくんと嗅ぎだした。
それを親父は羨ましそうに見ている。
なにしてんだよ、この変態夫婦……。
「なにこの子、すごく可愛い! 次の作品に載せちゃおうかしら!」
「気が合うなママ。オレもこの子をモデルにしたヒロインが思い浮かんだところだ!」
「ヒロインとかどうでもいいから。で、この子泊めてもいいの?」
「いいに決まってるでしょ! こんなヒロイン力の高い子、何日でもいなさい!」
「オレもママに同意見だ!」
二人はそう言うと、インスピレ―ションが湧いたらしく、どっかに行ってしまった。
たぶん仕事場だろうけど。
「だってよ、良かったな」
「う、うん……で、でもこんなあっさりで良いの?」
「良いんだよ。うちの両親は変人だから」
「? そ、そうなんだ……」
ノエルは戸惑っているけど、俺は十七年も一緒にいるからな。もう慣れたわ。
こうしてノエルはしばらく才本家に住むことになった。
~つづく~
ライトノベルのレコメンドサイト
「キミラノ」パートナーストーリー連載
毎週水曜日更新予定です! お楽しみに☆
※次回更新:2021年1月6日(水)