第5話 青春少女と勉強会してみた
「おぉ~! ここが
今日は休日なんだが、実は一週間後に試験が迫っており、俺んちで彼女と一緒に勉強をすることになったのだ。
……いや、別に俺の方から誘ったわけじゃないぞ。
昨日、休み時間にいつもみたいにラノベの話をしていたら、柴藤が急に試験の話題を振ってきて、すっかり忘れていた俺は大慌て。
それからなんやかんやあって、彼女に勉強を見てもらうことになったのだ。
彼女は美少女な上に、成績も常に上位だからな。
本当は放課後に学校で~という感じにするつもりだったんだけど、なぜか柴藤が「才本くんの家は?」と提案してきて、最初は断っていたけど、どうしても俺んちで勉強したい、俺んちじゃないと勉強は見ないよ、とまで言われたので、仕方がなく俺んちに招待した。
……なんでうちじゃないといけないんだろう。それだったら俺だって柴藤の家に行って彼女の部屋を見たかったんだけど。
「そういえば男の子ってエッチな本を隠してるってほんと?」
「嘘だよ! 真っ赤な嘘!」
というのが嘘なんだけど。
きちんとクローゼットの奥のさらに奥に隠しております。
ちなみに隠す場所は、定期的に変更するのが吉。
「ってか、どうして女の子ってそういうの気にするかな」
「……もしかして私以外に才本くんの部屋に入った女の子っているの?」
刹那、猛烈な寒気がした。
な、何だろう。この謎のプレッシャー。
正直に答えたら、死にそうな予感がするんだけど。
「全くないけど! 柴藤が初めてだぞ!」
「そ、そうだよね! 才本くん、カッコいいわけじゃないし! 女の子なんて来るわけないよね!」
何かひどい言われようだけど……すまん柴藤。本当は何回かあります。
で、でもね、ここ最近になって初めて女の子が自分の部屋に来るようになったんだよ。
だから実質、柴藤が初めてっていうのも八割くらい嘘ではない……そんなわけないか。
「それよりさ、早く勉強始めようぜ。俺、このままだと赤点になるかもしれないんだよ」
「え、才本くんってそんなに勉強できないの?」
「いつもは普通に勉強してるから平均点くらいは取れるけど、今回はまだ全く勉強してないから余裕で赤点もあり得る。俺はよくも悪くも努力がそのまま結果に出るタイプなんだ」
「そ、そうなんだ……」
「つまり、柴藤に教えてもらって赤点を取った時は、それはもう柴藤のせいと言っても過言では――」
「……私、帰っても良いかな?」
「ごめんなさい。勘弁してください。土下座でも靴舐めでも全裸で逆立ちでも何でもやるんで勉強を教えてください」
「そ、そこまでしなくていいよ! ちゃんと勉強教えてあげるから!」
「さすが柴藤様……!」
「まったくもう。調子良いんだから」
そんなやり取りをしたのち、俺と柴藤は準備をして勉強を開始する。
とりあえず最初は俺が苦手な数学から取り掛かることになった。
「なあ柴藤、この問題ってどう解くんだ?」
「うーんとね、これはここの部分とここの部分を別々に計算して、あとからまとめるの」
「たしかに! なるほどなぁ、さんきゅ!」
「いえいえ、どういたしまして」
勉強中、こんな感じでわからないところは柴藤に訊いているんだけど、彼女の教え方はとてもわかりやすかった。
おかげで詰まってる問題でもスラスラ解けるようになっていく。
さすが常に成績上位なだけあるな。これなら赤点の心配はなさそうだ。
……と思ったけれど、一つだけ懸念点がある。
「柴藤、今度はこの問題なんだけど……」
「なになに?」
こうやって柴藤から教えてもらっている際、前に座っている彼女が隣までやって来るので、女性用のシャンプーの匂いやら胸元から見えそうで見えない下着やらのせいで、異常にドキドキしてしまう。
勉強に集中しなくちゃいけないのに……。
「才本くん? どうしたの?」
「! い、いや! どうもしてないけど!」
「ほんと? その割にはなんか様子が――あっ」
欲望に負けて、つい柴藤の胸元を見た瞬間、彼女に気付かれてしまった。
……あっ、終わった。
「才本くん……」
「ちょっと待て。そんなゴミクズを見るような目を俺に向けないでくれ。その……これは仕方ないんだよ! 可愛い女の子がすぐ傍に来たら、ドキドキするし、ちょっと胸元とか見ちゃうんだよ! そう! だからこれは仕方ない!」
ここは敢えて開き直ってみる作戦をとってみたが……上手くいくわけないか。
こりゃ、めっちゃ怒られるかもな。
「か、可愛いとか! そ、そんな言葉で騙されないんだからね!」
やっぱり怒られた。まあ当然だけど。
嫌だなぁ、柴藤に嫌われたくないなぁ。せっかくここまで仲良くなれたのに。
「で、でも、しょうがないから今回だけは特別に許してあげる」
「えっ、いいの?」
「今回だけだよ! 次に私の胸の方を見たら、クローゼットの奥にあるエッチな本を全部燃やします」
「まさかの気づかれてた⁉」
こ、これはもう粗相をするわけにはいかないぜ。
なにせあのコレクションは俺が数年かけて集めた物だからな。
その後、俺と柴藤は勉強を再開した。
エッチな本を人質に取られてからは、俺は余計なことは考えず勉強に全力集中した。
そのおかげで前半よりもサクサクと勉強が進む。
これなら上手くいったら試験で自己ベスト更新なんてこともあるかもしれない。
その時だった。
――チラっ。
問題集を解いていると、妙な視線を感じる。
気になって顔を上げてみると、柴藤は同じように問題集を解いていた。
……気のせいか。
そう思い、俺は再び問題集に取り掛かる。
――チラっ。
少し経つと、またどこからか視線を感じた。
もう一度顔を上げる――が、柴藤は勉強に集中していた。
……おかしいなぁ。
不思議に思いつつ、俺は問題集を解いていく。
――チラっ。
今だ! そう感じて勢いよく顔を上げると、ばっちり柴藤と目が合った。
「うわぁ!」「きゃっ!」
お互いにびっくりする二人。
「や、やっぱり柴藤だったのか」
「え? い、一体何のことかなぁ……?」
そう言いつつ、柴藤の瞳は右へ左へ泳ぎまくっている。
こいつ、絶対にわかってるだろ。
「ずっと俺のこと見てたのって、お前だろ?」
「……違うよ?」
「嘘つけ! 証拠にいま完全に目が合ったじゃないか!」
「そ、それはたまたま才本くんのことを見ちゃってたというか……」
「やっぱり見てたんじゃないか」
「うぅ……そ、そうだよ! 勉強してる才本くんのこと可愛いなとか思って見てたの! な、何か問題でもありますか!」
ぷんぷんと怒る柴藤。
えぇ……何で俺キレられてるの……?
「と、とにかく勉強に集中しよ! 細かいことは気にしない!」
「それお前が言う?」
「あっ! 才本くん、わからないところとかまだあるかな?」
「そ、そりゃまだあるけど……」
「そっかそっか! じゃあ教えてあげるね! その問題ってどこ~?」
問題を見せると、柴藤は今までよりもっと丁寧に教えてくれた。
なんか強引に誤魔化された気がするけど……まあいっか。
それから二人して勉強を続ける。
……でも、そろそろ疲れてきたよなぁ。ちょっと休憩でもしたいところだけど。
柴藤の方はあれからずっと問題集を解いていて、まだ集中できてるみたいだ。
……もう少し頑張るか。
そう決めて、俺は勉強を進める。
が、少し経つと、柴藤がいる方向から今度は妙な声が聞こえてきた。
まるですすり泣くような声。
次は何だよ……と思って、彼女の方を見てみると、
「ぐすん……ぐすん……」
柴藤が本当に泣いていた。
「ど、どうした? 大丈夫か?」
心配になってすぐに声を掛けると、彼女の手元には一冊のラノベ。
これ俺が彼女から貸してもらってた青春系のラノベだ。
「って、なんでこんなの読んでるんだよ! 勉強はどうした‼」
「才本くん、この子すごく可哀そうなんだよ……」
「いまはラノベの話はしてねぇ‼」
と言っても、柴藤は泣きながら、色々な感情を堪えるように足をパタパタとさせる。
相変わらず物語を読むと、感情移入しすぎるやつだな。
「なあ柴藤、勉強は……」
「才本くんもこれ読んだらいいよ。はい」
柴藤から自身が読んでたラノベを手渡される。
いま読むの? ちょうど休憩しようとしたかったところだけど……。
「まあ少しだけならいいか」
そういう結論に至って、俺は彼女から受け取ったラノベを読むことにした。
それは青春もので悲恋の話だった。
「たしかに……これは主人公が可哀そうだな」
「そうでしょ? せっかくヒロインのために頑張ったのに、最終的には恋が実らないの。そんな彼のことを思うと……ぐすん」
彼女は別のラノベを読んでいるはずなのに、また泣き出しそうになっていた。
だから感情移入しすぎだって。
「おいおい泣くなよ。そういう時はこれを読めって」
本棚からラノベを一冊取り出すと、柴藤に渡した。
「……これってラブコメ?」
「コメディ色の強いラブコメって感じだな。悲しい気持ちになった時でも、これを読んだら一発で笑える」
「そ、そうなんだ! ありがと!」
柴藤はお礼を言うと、そのラノベを読み始めた。
一方、俺の方もさっきのラノベとは別のタイトルを手に取って、読書を再開。
ところで、ラノベと言えば、先日柴藤と約束した彼女のお兄さんが『柴藤に一番いい本』を探すという件だが、あれから彼女に詳しく話を聞いて、お兄さんがどんな本を見つけたのか調べている。
……まだ何も手掛かりは得てないけど、でも頑張って見つけるつもりだ。
俺も同じラノベ好きなんだから、きっと見つかるはず。
「ふふっ、才本くん。このラノベ面白いね」
「だろ? さっきも言ったけど落ち込んだ時とかそれ読んだら大体元気出るんだよ」
「才本くんでも落ち込む時とかあるの?」
「そりゃあるだろ。バトル系で好きなキャラが死んじゃった時とか」
「あぁ~それは私も経験あるなぁ。その時は大泣きしたよ」
「柴藤だったらそうだろうな。かくいう俺も自分の部屋で追悼の儀をやったけど」
「そ、それはすごいね~」
と言いつつ、柴藤が若干引いているように見えるのは気のせいだろうか。
つーか、こんな感じで話してたら、いつものラノベ談義みたいになってきたな。
勉強は……もう少しあとでいっか。
「そういやこれも柴藤から貸してもらってたラノベだけど、めっちゃ面白いな!」
「でしょ! 私もそれかなり好きなんだ!」
「これの次の巻とか持ってたりする? 良かったら今度貸して欲しいんだけど」
「全然良いよ! 何冊でも貸してあげちゃう!」
「マジか! さすが柴藤だな!」
「えへへ、もっと褒めて良いんだよ!」
「柴藤は最高の女だぜ!」
「っ! そ、それは褒め過ぎだよぉ……」
という感じで柴藤と共にラノベ談義を楽しみまくった。
結果、残りの時間、俺たちは全く勉強をしなかったのだった。
☆☆☆☆☆
「……赤点じゃん」
数日後の試験返却日。俺は一教科だけ赤点を取ってしまった。
やっぱりあの時ちゃんと勉強するんだった! やっちまった!
「才本くん、どうしたの?」
自分の席でうなだれていると、柴藤が声を掛けてくれた。
「赤点取っちゃったんだよ。一教科だけな」
「えぇ⁉ 私と一緒にあんなに勉強したのに?」
「いやいや途中からラノベ読んだり話したりしてただけだし、そんなに勉強してなかったぞ」
「そ、そっか……赤点ってことは補習なの?」
「補習っていうか追試だな。また勉強しなくちゃいけねぇわ」
……はぁ、面倒くさいなぁ。
試験が終わったら、思う存分ラノベを読めると思ってたのに。
「じゃ、じゃあさ、また私が勉強見てあげるよ!」
「えっ、マジ?」
「うん! 半分私のせいで追試になっちゃったみたいなところあるし、その……また才本くんの家で勉強しよ!」
「わかった! ありがとな、柴藤! すげぇ助かるわ!」
「う、ううん! 私はただ才本くんと一緒にいたいだけで……」
「すまん。声が小さくていま何言ってるか聞こえなかった」
「べ、別に何も言ってないよ! そ、それよりも勉強会は明日とかどうかな? 追試ってたぶんすぐだと思うし」
「そうだな! 明日にするか! またよろしく頼む!」
「う、うん! よろしくね!」
こうして俺はまた柴藤と一緒に勉強した……のだが、当日はまた彼女とラノベ談義で盛り上がってしまった。
結局、俺は追試でも赤点を取り、補習を受けることになったのだった。
~つづく~
ライトノベルのレコメンドサイト
「キミラノ」パートナーストーリー連載
毎週水曜日更新予定です! お楽しみに☆