第3話 青春少女とロシアンルーレットやってみた
とある日の昼休み。俺は
いつもなら友達と一緒に過ごしているのだが、残念ながら今日はその友達は欠席しているため、教室で一人寂しくお昼ご飯を食べるつもりだった。
そんな俺に柴藤が一緒にお昼ご飯を食べようと声を掛けてくれたのだ。
「うぅ、ちょっと寒いね~」
柴藤は震える体を抱きしめるようにする。
「今日はちょっと寒いからな~。ってか、なんで屋上なんだ? 普通に校舎の中のどっかで食べればいいと思うんだけど」
「えぇ~。だって屋上の方がなんか青春っぽいでしょ?」
「なんだその理由……」
青春っぽくするために体を張るのか。……この子、アホなのか?
「ほらよ」
「えっ……」
柴藤の体に俺が来ていたブレザーを被せると、彼女は綺麗な瞳をぱちくりとさせる。
「そんなにじろじろ見るなよ、変態」
「っ⁉ へ、変態じゃないよ‼」
「冗談だよ。そんな本気にするなって」
「べ、別に本気にしてないけど……その、良いの?」
「良いんだよ。こうした方が青春っぽいだろ?」
そう言うと、柴藤はくすりと笑った。
「……あ、ありがと」
彼女はこちらに視線を合わせないように顔を俯けている。
その横顔はちょっぴり赤くなっていた。
「さ、さて、弁当でも食べるか」
「う、うん! そ、そうだね!」
微妙に気まずい空気になりそうだったので、そう切り出すと彼女の方も頷く。
二人して屋上のベンチに移動する。
「柴藤って弁当なんだな」
隣に座っている彼女の膝の上には、小さめの弁当箱が載っていた。
「そうだよ。ちなみに全て私の手作りです!」
「マジかよ! 手作り弁当を作れる女子高生なんてラノベでしか実在しないと思ってたのに」
「そ、そんなことないと思うよ……」
苦笑する柴藤。
彼女はパカッと弁当箱を開いた。
中身は全部卵焼き……とかではなく、色んなおかずが綺麗に敷き詰められていた。
きちんとしたお弁当だった。……美味しそう。
「
「いやいや、弁当見てただけで変態はおかしいだろ⁉」
「ふふっ、さっきの仕返しだよ~」
柴藤は冗談めいた口調でそう返す。
ったく、相変わらずコミュ力の高いやつめ……。
「あのさ、才本くんのご飯ってそれだけ?」
購買で買った焼きそばパンを手に取ると、柴藤に訊かれた。
「え、そうだけど……なんか問題でも?」
「えぇ~⁉ 問題だらけだよ‼ そんなの食べても栄養足りてないし、体にも悪いよ‼」
「そ、そんなのとはなんだよ‼ 購買の焼きそばパンはめっちゃうまいんだぞ‼」
「そ、そうかもしれないけど……も、もしかして毎日それ食べてるわけじゃないよね?」
「もちろんそうだけど‼」
「だ、ダメだよ‼ たまには健康に良い食事をとらないと‼」
柴藤は信じられないみたいな顔をしている。
そ、そんなに焼きそばパンはダメなのか……美味しいのに。
でもまあ、健康を気にした方が良いという彼女の言い分も一理ある。
ここ最近、休日に引きこもってラノベを読んでばかりだったから、少し太ってきちゃったし。
「健康に良い食事って言われてもなぁ。俺、料理なんてできないぞ」
「そ、そうなの? でもラブコメだと主人公が料理得意っていう設定って結構多いよ?」
「じゃあ俺はラブコメの主人公じゃないってことだな」
「うんうん、才本くんってモテないもんね」
「誰もそこまで言ってないけどな‼」
失礼なやつだ。俺だって告白の一回や二回くらい……おかしいな、幼稚園まで記憶を遡っても一度も告白されたことがないだと……⁉
「そ、その……才本くんさ。私がお弁当作ってきてあげよっか?」
自分の非モテ度合いに絶望していると、柴藤からそんな提案をされた。
驚いて振り向くと、隣の彼女は顔を
「お、俺は嬉しいけど……良いのか?」
「う、うん! 全然良いよ! だって才本くんが死んじゃったら嫌だもん!」
「焼きそばパンで人は死なないぞ……」
こいつは焼きそばパンを何だと思ってるんだ……めっちゃ美味しいのに。
そういうわけで俺は柴藤にお弁当を作ってもらえることになった。
☆☆☆☆☆
翌日の昼休み。柴藤は約束通りお弁当を作ってきてくれた。
「うわぁ、すげぇ~」
俺用のお弁当箱にはハンバーグやらだし巻き卵やらマッシュポテトやら、様々なおかずが詰まっている。
これ、本当に全部作ったのかよ。
昨日も見てるとはいえ、柴藤ってマジで料理上手いんだな。
「そ、その、良かったら食べてくれると嬉しいかな……」
「お、おう。そうだな」
見ているだけじゃ、せっかく作ってくれた柴藤に悪いもんな。
というわけで、まずは一口サイズのハンバーグをパクリ。
「! めっちゃ美味いぞ!」
「そ、それほんと? ほんとに美味しい?」
「本当に決まってるだろ! ガチで嫁にしたいくらい美味い!」
「っ! よ、嫁って……さ、才本くんのバカ」
柴藤から小突かれたが、俺は気にせずにパクパクとお弁当を食べ進めていく。
いやぁ、まさかこんなに美味しいとは。
少なくとも俺の母親の腕は超えてるな。
……まあそもそも母さんってラノベ作家の仕事で忙しいだの疲れただの言って、ロクに料理作らないんだけど。
「……? なんだこれ」
お弁当の中に怪しげなおかずを見つけた。
といっても、不味そうとかじゃない。
小さくて丸くて……たぶんミートボールだと思うけど、その……妙に赤いのだ。
「な、なあ柴藤。これってなんだ?」
「それ? それはね、激辛ミートボールだよ!」
「……やっぱりか」
なんとなくそうじゃないかと予感してた。
だって見た目が真っ赤だし……。
「そ、その……柴藤は辛い物が好きなのか?」
「うん! 大好きだよ!」
これまでに見たことないくらいの勢いで頷いた。
どうやら彼女はめちゃくちゃ辛い食べ物が好きらしい。
……どうしよう。俺、辛い物とかあんまり得意じゃないんだよなぁ。
「……あっ、もしかして辛い系はダメだった?」
「……すまないけど、そうなんだ。昔から辛い物が苦手で……」
柴藤が察してくれたので、俺はそのまま正直に話す。
よし、これで激辛ミートボールは回避できるな。
そう安堵していたら、柴藤から妙なことを言われた。
「でも安心して! 実はねこのミートボール、ロシアンルーレットになってるの!」
「ろしあんるーれっと……?」
ってあれだよな。バラエティ番組とかでよくやるゲームの……。
「そうだよ! お弁当箱の中を見るとわかると思うけど、才本くんが選んだミートボールとは別のものが二つあるよね?」
「……たしかにミートボールが他に二つあるな」
「その三つの中にね、一つだけ普通のミートボールがあるんだよ!」
「なんだと⁉」
普通のやつあるのかよ! じゃあ無理しなくてもそれを食べればいいじゃん!
そう柴藤に訴えたところ、左右に首を振られた。
「言ったでしょ。これはロシアンルーレットなんだよ? だから三つの中から正解のミートボールを当てなくちゃダメだよ!」
「えっ、全く当てたくないんだけど。普通のミートボールを安全に食べたいんだけど」
「それじゃあロシアンルーレットにならないよ!」
「それをしたくないって言ってるんだよ!」
まったくもう。なんで俺がそんな危ないゲームしなくちゃいけないんだ。
つーか、最初の安心して! ってなんだよ。全く安心できねぇよ。
「……せっかく才本くんが楽しんでくれると思って作ってきたのに」
しゅんとしてしまう柴藤。
こいつ、まさか俺のためにわざわざロシアンルーレットを……い、いやいや、だとしても俺は絶対にやらな……ちくしょう。
「わ、わかったよ。ロシアンルーレットやれば良いんだろ?」
「えっ、やってくれるの?」
「……柴藤が俺のために作ってくれたなら、やるしかないだろ」
「才本くん……」
嬉しそうな瞳でこちらを見つめてくる柴藤。
そ、そんな目で見ないで欲しい。
いざという時に逃げられなくなる。
いや……逃げるつもりはないけどさ。
「じゃ、じゃあ食べるからな」
そう言うと、俺は三つあるミートボールの内の一つを取る。
神様、仏様、どうか激辛ミートボールじゃありませんように。
願いつつ、俺はパクリと食べた。
「……辛くない」
思わず言葉が漏れた。
そう。ミートボールが辛くないのだ。
や、やったぞ! 俺は当たりを引いたぞ!
と全力で喜んでいたのだが、次の瞬間、強烈な痛みが舌を襲った。
「って辛っ! 辛い辛い! めっちゃ辛い!」
「才本くん! ちゃんと当たりを食べられたんだね!」
「全然当たりじゃねぇわ! 見たらわかんだろ!」
「えぇ~、激辛は私にとっては当たりだもん」
「俺にとっては大外れだ! つーか、さっき辛いのが苦手って言ったばっかりだけどな!」
「よし! じゃあ残り二個から再チャレンジしてみよ!」
「するわけねぇだろ! ってか、それよりも何か飲み物を……」
ガチで訴えると、柴藤は笑いながら水筒を差し出してくれた。
即行でそれを取ると、俺は勢いよくゴクゴク飲み始める。
「……ふぅ、助かった」
舌の痛みが落ち着くと、俺は一息つく。
ちなみに水筒の中身はお茶だった。
飲み物の中でお茶が一番好きだけど、激辛のせいで普段より余計に美味しく感じたわ。
「どう? 美味しかった?」
「お茶がめっちゃ美味かった。ミートボールはダメだな」
「激辛ミートボールも美味しいのに……」
寂しそうな表情を浮かべる柴藤。
今度は騙されんぞ。もう一回チャンレンジとかもしないからな。
「あっ、そういえばいま間接キスしちゃったね」
「ぶーっ!」
もう一度お茶を飲んでいると、全力で吹き出した。
た、たしかに……俺、柴藤と間接キスしちゃってんじゃん!
「す、すまん……」
「謝らなくて大丈夫だよ。女の子同士だと普通だし、気にしてないよ」
「そ、そうか……」
それはそれで何か複雑な気分なんだけど。
「それに才本くんだったら、その……全然良いし……」
「ん? いまなんか言ったか?」
「ううん。何も言ってないよ」
そう答える柴藤は少し頬が染まっていた。
ちょっと風が強くなってきたしな。そろそろ校舎の中に入った方が良いかもしれない。
「弁当、ありがとな! めっちゃ美味かったよ! ……激辛ミートボール以外は」
「ふふっ、ありがと!」
にこっと笑う柴藤。
不意に見せられて、心臓がバクバクと鳴り出した。
「じゃ、じゃあそろそろ校舎の中に入るか。風が吹いてきたしな」
「あっ、ちょっと待って!」
ベンチから立ち上がると、柴藤から呼び止められた。
「? なんだ?」
「そ、その……も、もし良かったらなんだけど、これからも才本くんのお弁当作ってきても良いかな?」
「え……それはめちゃくちゃ嬉しいけど……良いのか?」
「うん! も、もちろん毎日とかは無理だけど……才本くんの健康が心配だし」
「お前、本当に俺のお嫁さんかよ」
「えぇ⁉ ち、違うよ‼」
「そ、そっか……」
冗談のつもりだったんだけど、まさかそんな全力で否定されるとは。……ショックだ。
「今度は激辛ミートボールを五個入れてくるね?」
「できるなら一個もいらないんだけどな。いや一個も入れないでください。お願いします」
「やーだよ!」
まじか。どうやら次回のお弁当にも激辛ミートボールはやってくるみたいです。
……しんどいなぁ。
「つーかさ、柴藤ってなんでそんなに俺に優しくしてくれるんだ?」
「うん? どういうこと?」
「いやだってさ、休み時間に一緒にラノベの話をするのは、柴藤の周りにそういう友達がいないからって理由で納得できるんだけど、その……お弁当まで作ってくれたりするのは、どうしてかなぁと」
素直に出た疑問だった。
柴藤はどうしてこんなに俺に優しくしてくれるんだろうかと。
もしかしたら俺にだけじゃなくて、他の人にもこれくらい優しくしてるのかもしれないけど。……いや、その可能性は普通にあり得るな。
もしやいまかなりの自惚れ発言しちゃった? だとしたらすげぇ恥ずかしいんだけど。
「うーん、なんでだろうね?」
それだけ言って、えへへと笑う柴藤。
その笑顔はいつも通り可愛いけど、どこか悲しそうな寂しそうな、そんな風に見えた。
「そろそろ校舎の中に入ろう。ちょっと風が強くなってきちゃったしね」
「お、おう、そうだな」
俺と柴藤はお弁当を片付けると、校舎の中に戻った。
さっきの表情は一体何だったんだろう……。
教室に帰るまでの間、ずっと考えていたが、結局何もわからないままだった。
~つづく~
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