第5話 ラブコメが大好きな後輩とフィギュアを買いに行ってみた
休日。俺と
場所は最寄り駅から徒歩五分ほどでそんなに遠くはない。
ここに来た目的は自分が好きな作品のフィギュアやポスターを買うためだ。
以前、猫屋敷の家に遊びに行ってから何度か彼女の家にお邪魔しているのだが、その際に猫屋敷から「先輩もフィギュアとか買いましょうよ!」と勧められたのだ。
ちょうど俺も彼女の部屋に置いてあるものを見てグッズとかに興味が出ていたし、実際に買うならその手に詳しい人がいた方が良いと思って、今日こうして二人でお店に来ているってわけである。
「先輩センパイ! これ見てください!」
店内に入るなり、いきなり猫屋敷が瞳を輝かせている。
彼女の視線の先には、露出度高めのエッチなフィギュアがガラスケーズ越しに飾られていた。
「どうですか! すごくないですか!」
「あぁ、すごいなぁ」
何の作品のキャラかわからないけど、完成度が異常に高い。
ついでに値段も見てみると、四万円とこっちも高かった。
事前に猫屋敷から聞いていたとはいえ、まじでこんなに高いフィギュアがあるなんて。
でも猫屋敷情報だと高くても売れるやつは即行で売れてしまうらしい。
「このフィギュアはですね『サキュバスの恩返し』というラノベのメインヒロインの苺谷千佳ちゃんってキャラなんです」
テンション高めに喋る猫屋敷。
なるほど。背中に小さな羽が付いているのはサキュバスだからか。
「この作品はラブコメなので先輩にもおすすめですよ!」
「わ、わかった。今度買ってみるわ」
猫屋敷がグイグイと迫ってくると、俺は勢いでそう答えてしまった。
やっちまった。猫屋敷の押しが強すぎて、つい買うって言っちゃった。
でもそろそろ異種族系のラブコメも読みたいと思ってたところだし、丁度良いか。
ラノベを読み始めた当初こそ、妹モノのラノベばかりを読んでいたのだが、今となってラブコメのみ色んなジャンルの作品を読めるようになった。
一冊でも自分の中で面白いってものが見つかると、以前までそれほど面白く感じられなかった本も何故か面白いと思えるようになってきたのだ。
これは猫屋敷
だとしたら、この先ラブコメのラノベと同じようにバトルとかミステリーとかのラノベも読み続けていたらいつか面白いと感じられるようになるかもしれない。
前にその手の本を一冊だけ買って読んだけど、俺にはまだ早かったんだよなぁ。
「
あれこれと考えていたら、猫屋敷が遠くの方ではしゃぎまくっていた。
楽しそうにしていて何よりなんだけど、大声でえっちぃとか言うのは止めような。
その後フィギュアを色々と見て回っていると、今日のお目当てのものが見つかった。
「先輩、見つけました!」
彼女が発見したのは『妹ギャルの彼氏役を演じることになったんだが』のメインヒロインである愛香のフィギュア。
こちらもかなり完成度が高く、メイド姿の彼女はまるでラノベの挿絵やアニメから現実世界に飛び出してきたんじゃないかと錯覚してしまうほど。
「可愛いですね。特に見えそうで見えない絶対領域のラインとか」
猫屋敷は興奮気味にそう話す。
ちなみにこれってスカート部分とか取り外せるのだろうか。
男の子だもん。気になっちゃう。
「スカートは取り外し可能って書いてありますよ」
「っ! お前、なんでそれをっ!」
まさか猫屋敷には心を読む力があるのか。
「先輩のことは何でもお見通しですよ。だってわたしはいつでも先輩のことばかり考えちゃってますから」
猫屋敷は照れくさそうに笑う。
これはいつもの冗談だよな? それとも本気で彼女は俺のことを――。
「あっ、ちなみにわたしのスカートも先輩のみ取り外し可能ですよ」
そう言って猫屋敷は私服のスカートをひらひらとさせる。
口元はニヤニヤしていて、これはもう完全にからかっていた。
やっぱり猫屋敷はこういう女の子だよな。
あぶねぇ、さっきのやつ危うく本気にするところだったわ。
「さて、フィギュアの値段でも確認するかな」
「あっ、無視しないでください」
猫屋敷はちょんちょんと服の袖を引っ張ってくる。
どんだけ構って欲しいんだよ。
「で、値段は……一万円か」
「相場よりお得ですね」
猫屋敷はそう言うけど、高校生からしたら一万円は大金なんだよなぁ。
「どうするんですか? 買うんですか?」
「そりゃもちろん買うよ。そのために来たんだから」
財布には今年のお年玉と貯金全て詰め込んできたし。
せっかくなんだからパーっと使ってやる。
「大丈夫ですか? 無理して買わなくてもいいんですよ」
猫屋敷は不安そうな瞳を向けてくる。
フィギュアのことは自分が勧めた手前、俺のことを心配してくれているみたいだ。
「安心しろ。俺が買いたくて買うんだ」
「ホントですか?」
「おう。だから俺が男らしくバシッと買うところ見といてくれ」
安心させるように猫屋敷の頭をポンポンと軽く叩く。
すると、猫屋敷は少しびっくりした様子でこっちを見てくる。
やべっ、なんか調子乗って変なことしちまったな。気持ち悪がられただろうか。
「はい! 先輩の男らしいところ見てますね!」
猫屋敷は少し頬を染めて嬉しそうに顔を綻ばせた。
これはセーフだよな? 良かった。
それから俺はフィギュアを買い物かごに入れると、
「よし、次はポスターを探しにいくか」
「えっ、まだ買うつもりなんですか?」
心配そうに
「軍資金はまだたっぷりある。だから心配するな」
「で、でも……」
「それにせっかく猫屋敷に付いてきてもらってるんだ。どうせ買うならお前と一緒にいる時に買いたいんだよ」
俺がそう言うと、猫屋敷は綺麗な瞳を大きく開いたのち顔を下に向けてしまった。
急にどうしたんだろう?
なんて思っていたら、不意に猫屋敷が抱きついてきた。
「もう先輩! そんなこと言われたら先輩のこと大好きになっちゃいます!」
「お、おい。こんなところでやめろよ」
「嫌でーす。わたしが満足するまで離れません」
猫屋敷は上機嫌で俺の腕をがっちりとホールドする。
突然黙ったり、抱きついてきたり。女の子の気持ちはよくわからん。
「このままだとお前に抱きつかれたままポスターの場所まで行かなくちゃいけないんだが」
「えへへ、いいですよ」
猫屋敷が良くても俺が良くないんだよなぁ。
だけど彼女は全然離れてくれなさそうだし、諦めてこのままポスター売り場までいくしかないか。
「先輩、さあ行きましょう」
猫屋敷はぎゅっと抱きしめる力を強めてくる。
ダメだこりゃ。さっさとポスターのところへ行くとしよう。
それから俺と猫屋敷は腕を組んだまま、ポスターが売られているコーナーへと移動する。
途中、色んな人たちから殺気を感じたけど、それは気のせいだと思いたい。
「ポスターも同じ作品のものを買うんですか?」
抱きついたまま上目遣いで訊ねてくる。
こう見てると、猫屋敷が俺の彼女だって勘違いしてしまいそうだ。
「そうだな。やっぱり俺が最初に好きになったラノベだし」
「ちなみにそのラノベはわたしがおすすめしたんですよ」
「はいはい。ありがとな」
「えへへ」
猫屋敷はニコニコと笑う。全く調子のいいやつ。
でもラブコメだけとはいえ、彼女のおかげで苦手だったラノベを好きになれたのは本当のことだけど。
「ポスターはこれで決まりだな」
俺は迷わず愛香のポスターを買い物かごへ入れた。
値段は五千円とフィギュアよりはマシだった。
「もしかして先輩は金髪ギャルがお好みですか?」
猫屋敷は興味深そうに訊いてくる。
たぶん愛香が金髪ギャルだからだろう。俺が買ったフィギュアとポスターはどっちも愛香のやつだし。
「気にしたことないけど、もしかしたらそうかもな」
「ふふーん。そうなんですねぇ」
なぜか猫屋敷は口元を緩めている。
こいつさては……。
「先に言っておくけど、決してお前のことじゃないからな。勘違いしないように」
「えっ、でもわたし金髪ですよ? イマドキのギャルですよ?」
「金髪はそうかもしれないけど、ギャルではないだろ」
特に化粧とかもしてないし、ピアスとかアクセサリーも付けていない。
そんなギャルはこの世にはいない。
「むぅ、じゃあ先輩はわたしより愛香ちゃんの方が好きなんですか?」
「好きって……」
そもそも比べられるもんじゃない気がするんだが。だって次元が違うし。
「もう先輩はわたしにメロメロになってるかと思ってましたが、どうやらまだ足りないみたいです」
「聞こえてるぞ。誰がメロメロだ」
そうツッコむが、猫屋敷は俺から離れて一人で何かを考えている。
もういいや。それよりもこの隙にフィギュアとポスターを買っちゃおう。
そう決めると、俺は一人でポスターとフィギュアが入った買い物かごをレジに運んで二つとも購入した。
合計で一万五千円か。お年玉プラス貯金が少しで払えたな。
さすがに今後しばらくはフィギュアもポスターも買うのは控えなくちゃいけないけど。
「先輩、最後に行きたい場所があるんですけどいいですか?」
「行きたい場所? 別にいいぞ」
「ありがとうございます」
猫屋敷はぺこりとお辞儀をすると、また俺の腕に抱きついてくる。
「お前なぁ……」
「先輩、こっちです」
注意する間もなく、そのまま強引に猫屋敷に連れて行かれる。
一体どこへ行くつもりなんだ。
疑問に思いながら歩いていると、着いた場所はコスプレ売り場だった。
「喜んでください。なんと今日は最後に先輩にご
パチパチと手を叩く猫屋敷。全然話についていけないんだが。
「もう
俺の様子を察してか、猫屋敷は可愛らしくウィンクをしながら説明する。
ますます意味がわからん。そもそも一体なんのご褒美なんだ?
「ではわたしは着替えてくるので、先輩はそこで待っていてくださいね!」
ノリノリでコスプレ衣装を選ぶと、猫屋敷は試着室へと入る。
結局よくわからなかったけど、猫屋敷がコスプレをしたいっていうんだからやらせてあげよう。今日はずっと俺に付き合わせちゃったからな。
それから今日買ったフィギュアやポスターを眺めながら待っていると、試着室のカーテンが開いた。
「先輩、どうですか?」
猫屋敷が着ている衣装はメイド服。
しかもただのメイド服じゃなくて『妹ギャルの彼氏役を演じることになったんだが』の愛香のフィギュアが着ていたものと全く同じものだった。
「お前、その格好……」
「愛香ちゃんより可愛いですか? 可愛いですよね!」
期待の眼差しを向けてくる猫屋敷。
可愛いって言って欲しいオーラが凄いな。
でもたしかに可愛いんだよなぁ。そりゃ彼女のルックスはかなりハイレベルだしコスプレとかしたら可愛くなるに決まってる。
だがしかし愛香と比べるとなると話は別だ。そもそも二人は別次元の存在だし、仮に比較したとしても愛香は俺が初めてラノベを好きになることができたきっかけなんだ。
そう簡単に猫屋敷の方が可愛いなんて言えない。
けど猫屋敷が可愛くないわけじゃないし……。
「そうだな。この世に存在する女の子の中で一番可愛いかな」
俺は堂々とそう答えた。
よし、これで愛香と比べることなく猫屋敷を可愛いと言えたぜ。
「あ、ありがとうございます……」
なんて思っていたら、猫屋敷はまたさっきみたいに顔を下に向けてしまった。
しかも今度はさっきみたいに抱きついてくる素振りとかもない。
「おい、大丈夫か?」
体調でも悪くなったのかと心配して近づくと、
「だ、大丈夫です!」
猫屋敷は急いで試着室のカーテンを閉めてしまう。
直後、試着室から
おかしいな。俺、ちゃんと可愛いって言ったよね。
数分後、私服に着替え終えた猫屋敷が試着室から出てくると、
「わたし、ちょっとレジに行ってきますね」
「えっ、もしかしてそれ買うのか?」
猫屋敷が手に持っているメイド服を見ながら訊ねた。
「そうですよ。ち、ちなみに先輩に褒められたから買うとかじゃありませんから! わ、わたしがこの服が可愛いなと思ったから買うんですからね!」
そう告げると、猫屋敷はすぐにレジの方へ行ってしまった。
えー、最後のやつってどういう意味?
たしかラノベによるとあれはツンデレだったような……。
うーん、やっぱり女の子の気持ちはよくわからん。
~つづく~
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