第2話 ラノベが大好きな後輩が勧めたのは〇〇系ラノベだった⁉
「
休日、俺は
そして彼女の前にはずらりとライトノベルが並んでいる。
「どうですか? 先輩のために一晩かけて選んだわたしのラノベコレクションの数々は!」
「おう、こりゃすげーな」
この量、二十冊くらいはあるんじゃないか。
「悪いな。ここまで持ってくるの大変だったろ」
「たしかに大変でしたけど、これで先輩が少しでもラノベを好きになってくれるならへっちゃらです」
猫屋敷はにこりと笑う。
わざわざ休日を利用して俺と猫屋敷が図書館に来ている理由は、俺が好きになりそうなラノベを探すためである。
先日、猫屋敷がラノベが苦手な俺にラノベを好きになってもらいたいと宣言して以降、彼女からこんな話をされた。
ライトノベルには様々なジャンルがあり、たとえ一つの本が面白くないと感じても探せばきっとその人にぴったり合う本があると。
それに俺も納得し、今日は二人で図書館に集まって猫屋敷が持っているラノベを紹介してもらうことになったのだ。
でも彼女が持ってきたラノベを眺めていると、少し気になることがあった。
「猫屋敷、一つ
「いいですよ! おっぱいの大きさですか?」
「ちげぇわ。なんで急にバストサイズ訊くんだよ」
俺はそんな変態じゃねぇ、と訴えると、猫屋敷はクスクスと笑った。
こいつ、からかいやがったな。
「それで先輩が訊きたいことってなんですか?」
「お前が持ってきたラノベなんだけど、どうしてラブコメばっかりなんだ?」
テーブルの上にラインナップされている大量のラノベは全てがラブコメだった。
「それはですね、わたしがラブコメが大好きだからです」
ふふん、と自慢げに笑う猫屋敷。
「いや理由になってないんだけど」
困惑していると、猫屋敷は「いいですか?」と指を振ってから話し始めた。
「ラブコメはラノベの中で一番面白いジャンルなんです。なのでラノベ初心者の方はまずラブコメを読むほうがいいんです」
「そうなのか? でも俺に合うラノベを見つけるためにはなるべく色んなジャンルのラノベを読んだ方がいいんだろ?」
訊ねると、猫屋敷は急に固まったあと、そのまま黙ってしまった。
なんでここで黙るんだ? 特に変なことは言ってないはずだけど。
そう不思議に思っていると、
「わたし、実はラブコメ以外ほとんど読んだことがないんです」
猫屋敷はぽつりと呟いた。
「えっ、まじで?」
「……はい。ですからわたしはラブコメ以外のラノベは紹介できません。そもそも、その……ラブコメ以外のラノベを持ってないですから」
猫屋敷は少し視線を逸らして恥ずかしそうにしながら話す。
どうやら彼女がラブコメ以外のラノベをあまり読んでいないことは本当っぽい。
「でもラブコメにもたくさん種類はあるんですよ。ハーレム系に青春系、えちえち系、異種族系というのもあります」
猫屋敷はテーブルに並べてあるラノベを順番に指さしながら述べていく。
えちえち系ってのは、言葉通りちょっとエロいやつのことだろう。
「ほら! たくさんありますよね!」
「たしかにそうだけど……結局は全部ラブコメなんだろ?」
「安心してください。わたしが絶対に先輩が面白いって思うラブコメを見つけますから」
胸に手を当てて、猫屋敷はそう意気込む。
今日は俺に合うラノベを見つけるって話だったのに、
まあ猫屋敷がラブコメしか読んだことがないんだったら仕方ないんだけど。
「それにわたしの分析によると、才本先輩がラブコメを好きになる可能性は十分あると思います」
猫屋敷は
きっと分析って言葉が頭良さげだと思ってるんだろうなぁ。
「猫屋敷の分析だとどうして俺がラブコメにハマると思ったんだ?」
「それはですね、この前先輩から『ともあね』の感想を聞いた時に可愛いと感じたシーンがわたしと全て一致したからです」
嬉しそうに語る猫屋敷はそのまま話を続ける。
「ラブコメが大好きなわたしと感想が同じってことは、それはつまり才本先輩もラブコメを大好きになるってことですよ」
「そうかぁ?」
「そうなんです! だってわたしの分析が当たる確率は200パーセントですから」
「急にめちゃくちゃ嘘くさくなったな」
この子に色々任せて大丈夫だろうか。少し心配になってきたぞ。
「では、早速先輩が好きそうなラブコメのラノベを探しましょう」
こっちが不安になってるとは露知らず、猫屋敷はテーブルの上に置かれているラノベをじっくりと眺める。
「一度に二十冊も読めないと思うので、この中からさらにわたしが選んじゃいますね」
それから「これと、これとこれ……これもいいかもしれません」といった感じで、猫屋敷は楽しそうにラノベを選び始める。
「それ何を基準に選んでるんだ?」
「持ってきた本の中でもわたしが特に好きなラノベで選んでます」
「思いっきりお前の好みじゃん」
「いいんです。わたしの分析ではおそらくわたしと先輩が好きなものは同じですから」
その分析、本当に合ってるのか。適当な気がしてしょうがない。
「先輩、どうぞ」
猫屋敷はラノベを選び終えたみたいで、俺の前に五冊ほどラノベを置いた。
「わたしが選びに選び抜いた作品です」
彼女に選ばれたのは純愛系が一冊、えちえち系が二冊、ハーレム系が二冊。
全部で五冊か……これ今日中に読まなくちゃいけないの?
まだ午前とはいえ、さすがに無理だと思うんだが。
「とりあえずこれを読むとするか」
手に取ったのは純愛系のラノベ。本当はえちえち系を迷わず取りたかったけど、猫屋敷もいるので一番手に選ぶのは止めた。だって恥ずかしいし。
それから手に持ったラノベを開いて読み進める。
俺、あんまり読むスピード速くないんだよなぁ。やっぱりどう考えても五冊読み切るのは不可能な気がする。
「先輩、その本面白いですか?」
なんて考えていたら、いつの間にか猫屋敷が隣の席に来ていた。
「いきなり何だよ。びっくりするだろ」
「えへへ、その本を先輩は面白いって思ってるかなぁって気になっちゃって」
「まだ読み始めたばかりなんだ。わかるわけないだろ」
ラノベを開いて一分も経ってない。内容もロクにわかってないわ。
「つーか、席戻れよ」
「嫌です。このままわたしは先輩の隣でラノベを読むことに決めましたから」
猫屋敷は一切動かず、そのままテーブルに残っているラノベを手に取る。
おかしいなぁ、いつの間にそんなこと決まったんだろう。
「じゃあ読み終わったら戻れよ」
「いいですよ。ちなみにわたし今日はこれ全部読みますから」
彼女が示すのは、俺が読む予定のもの以外の十五冊のラノベ。
これ一日中使っても読み切れないだろ。
「先輩、早く読みましょ」
猫屋敷は楽しそうにしながら言ってくる。
……いや俺は真面目に読もうとしてたんだけど。
それから俺と猫屋敷は休憩を入れながら一日中かけてラノベを読み続けた。
結局、俺は五冊の中で三冊までしか読み切れず、猫屋敷も十五冊は読み終えられなかった。それでも六冊も読んだのは素直にすごいと思ったけど。
「先輩、好きになりそうなラノベは見つかりましたか?」
帰り際、猫屋敷に訊ねられた。
「この間みたいにキャラが可愛いと思ったやつはあったけど、これだ!ってのはなかったなぁ」
今日読んだのはえちえち系と純愛系、ハーレム系。
渡されたラノベの全てのジャンルは読み終えたが、心の底から「面白い!」「好きだ!」って言えるラノベは見つからなかった。
「そうですか。残念です……」
「なんで猫屋敷が落ち込んでんだよ。お前は頑張ってくれてるだろ」
「そうかもしれませんが、先輩がラノベを好きにならないと意味がありません」
深くため息をつく猫屋敷。だからそんなに落ち込まなくてもいいのに。
「そういえば、先輩って理想の女の子とかいないんですか?」
「は? なんで急にそんなこと聞くんだよ」
「これは大事なことなんです。ラブコメはヒロインが命ですから。才本先輩の理想の女の子みたいなヒロインが出てくるラノベを見つけられれば、もしかしたら先輩はラノベを好きになるかもしれません」
たしかに猫屋敷が言ってることは一理あるな。
でも理想の女の子かぁ。今まで考えたことないな。
「それで先輩の理想の女の子はどんな子ですか? 後輩ですか? ちっちゃい子ですか?おっぱい大きい子ですか? 猫屋敷
「強引に自分の名前を出させようとするの止めような」
つーか、最後隠す気ゼロだろ。
「そうだなぁ。可愛くて優しくてよく笑う子かな」
「なんですかそれ。普通過ぎますよ。全くキャラが立っていません」
理想の女の子を言うと、猫屋敷からガンガン文句が飛んできた。
さすがに酷くない? 俺は正直に答えただけなのに。
「他には何かないんですか?」
「他って言われても……」
理想の女の子が何人もいたらおかしいと思うんだが。
「あっ、そういえば小学生の時にクリスマスプレゼントで妹が欲しいってサンタにお願いしたことがあるな」
「そうなんですか? それは可愛いお願いごとですね」
「あの時はよくわかんないけど、やたらと妹が欲しかったからなぁ」
たぶん友達の妹を見て可愛いと思ったとかそんな理由だった気がするけど。
「妹ですか……」
猫屋敷はそう呟いて、何かを考えているような表情を浮かべる。
「もしかしたら先輩が好きなラノベがわかったかもしれません」
そして俺に向かってそう言った。
「それ本当か?」
「はい、ですから明日またここに集まりましょう」
そのラノベを持ってきますから、と真剣に話す猫屋敷。
幸いなことに明日も休日だから、今日みたいに集まることは可能だ。
「わかった、そうしよう」
そういうわけで俺と猫屋敷は明日も図書室に集まることになった。
にしても、猫屋敷が思いついた俺が好きそうなラノベってどんな本なんだろうな。
☆☆☆☆☆
翌日、二人で図書室の開館時間に合わせて館内に入ると、早速猫屋敷が持ってきたラノベを見せてもらった。
「って、これ妹モノじゃないか」
彼女が持ってきたラノベはまさかの妹系ラブコメだった。
「昨日の話を聞く限り、おそらく先輩は妹ヒロインが好きなんだと思います」
小学生の時に妹が欲しいと思ってたって言ったけど、さすがに安直すぎやしないか。
「とにかく読んでみてください。もしかしたらこれで先輩はラノベを好きになれるかもしれないですから」
「お、おう。そうだな」
猫屋敷の言葉に押されて、俺は適当に席に座ると妹モノのラノベを読み始める。
内容はとある理由で主人公とその妹のヒロインが偽物のカップルを演じることになるというもの。
正直、最初はあまり期待していなくて、どうせ今回もダメなんだろうと思っていたんだが……。
「なんだこれ、すごい面白いぞ」
思わずそんな言葉が漏れてしまった。
まずこの作品の主人公とヒロインのやり取りがめちゃくちゃ好きだ。
それにこの妹ヒロイン可愛すぎだろ。普段兄の主人公にツンツンしつつも、時々デレる瞬間が
これは今まで読んできたラノベに対する気持ちとは明らかに違うものだ。
「ホントですか? ホントに面白いですか?」
「あぁ! これは間違いなく面白い!」
完全に言い切ることが出来る。だってこの本は本当に面白いんだから。
「やりました! ついに先輩にラノベを好きになってもらいました!」
猫屋敷は満面の笑みを浮かべながら、胸元でガッツポーズをする。
そんなに喜ばれたら、なんだかこっちが照れくさくなる。
そう思っていたら、急に猫屋敷の顔色が変わった。
「……もしかしてわたしと才本先輩の関係ってこれで終わりになるんですか?」
「え? なんでだよ?」
「だ、だって先輩はもうラノベを好きになっちゃいましたし、もうわたしと関わる理由はなくなっちゃうんじゃ……」
猫屋敷は瞳に不安の色を浮かべる。
なんだ、そんなこと気にしてたのか。普段は騒がしいくせに結構可愛いところもあるんだな。
「あのな、俺はまだ一冊のラノベを好きになっただけなんだぞ。まだまだお前に教わることは一杯あると思うんだが」
「そ、そうですよね! じゃあこれからもわたしがラノベについて一杯教えてあげますから!」
「おう、よろしく頼むな」
そう返すと、猫屋敷は嬉しそうに笑顔を返してくれた。
こうして俺は一応ラノベを好きになることが出来たわけだが、猫屋敷との日々はまだまだ続きそうだ。
~つづく~
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