第二章◆戦闘 1
この世界に転生してから、もうすぐ六年になる。
僕は日々、
あれから初級魔術はマスターし、今では中級魔術書を読み進めている。魔術書を読み解き、術式を
父さんと母さんから魔術や
……実はこっそり森で弱い魔物を狩って経験を積んでいるんだけど、これは秘密だ。
ある晩、父さんに呼び出されてリビングに行くと父さんと母さんが
こっそり森に行っていることがバレていやしないかと内心ヒヤヒヤしつつも平静を
「シリウスももうすぐ六歳になる、早いもんだ……。知っているかもしれないが、この村には教会があってな、村の子どもはそこで色々なことを学ぶんだ。いつも本を読んでいるシリウスは
「お
教会か……地方の小学校みたいなものかな? この世界の知識をつけるに
「うん、行ってみたい! いつから?」
「おぉ、そうかそうか! 神父様には明日伝えるから、来週からでも通えるだろう。明日、神父様に
「分かった!」
父さんと母さんは満足そうに
とりあえず、森に行っていることはバレてはいないようで一安心だ。
翌朝、軽く朝食をとり、父さんと家を出る。家の前には、軽くウェーブがかかったミルクティー色の
少女はおっとりした
今日は父さんがララちゃんも一緒に神父様への挨拶に連れていくそうだ。
ララちゃんとは両親と一緒に何回か顔を見たことがある程度で、まともに会話をしたことはなかった。どんな子なのだろうか。
「こ、こんにちは! レグルスさん、シリウスくん、今日はよろしくお願いしましゅっ!」
……
「はい、こんにちは。今日はよろしくね。こっちがララちゃんと一緒に教会に通うことになるシリウスだ」
「ララちゃん、こちらこそよろしくお願いします」
僕が軽く
教会へ向かい歩き出すと、ララちゃんは僕の少しだけ後ろをちょこちょこと歩いていた。なぜか
チラッと後ろをみると、ララちゃんの円らな瞳と目が合った。
「シ、シリウスくんはお
「えーっと、本を読んだり、家事の手伝いしたり……かなぁ。ララちゃんは何してるの?」
まさか
これも
「ほぇー……私も絵本好きなの! 『ネココのおうち』が一番好き! シリウスくん読んだことある??」
「へぇー、その本は初めて聞いたよ。今度読んでみるね!」
「う、うん! 今日帰ったら貸してあげるね! えへへ」
「ありがとう、楽しみにしてるね」
そんな取り留めのない会話をしていると、すぐに教会に
「神父様、こんにちは。この間話しました、うちの息子とロジャーの
「はじめまして、レグルスの息子のシリウスと申します」
「は、はじめまして! ララですっ!」
「はじめまして、二人共これからよろしくお願いしますね」
「「よろしくお願いします!」」
「ふふ……シリウスくんもララちゃんも
「はい、来週からでお願いします」
そうして僕らは教会に持っていく黒板とチョーク等を
子どもは
■
初めて教会に行く日、また家の前でララちゃんと待ち合わせして行くことにしていた。ララちゃん一人では心細かったそうだ。
子ども二人では危ないだろうとも思うのだが、村の中にはほとんど魔物は出ないし
また両親が僕を信用してくれているということもあり、初日から二人だけで教会へ行くことになった。
「シリウスくんとおでかけー、ふんふん♪」
鼻歌を歌いながら楽しげに歩くララちゃん。微笑ましい。
「あ! シリウスくん! 『ネココのおうち』読んだ?」
「あぁ、貸してくれてありがとう、読んだよ! ネココ
「ネココ可愛いよね!! わたしはモココも好きなのー!」
ネココは
この世界では、魔物は外敵でありつつも重要な食料源ともなっているのだ。
ララちゃんと絵本について話をしているうちに教会に到着し、神父様に連れられて教室に入った。
連れて行かれた教室には六~十歳程度の子供たちが二十人
僕たちが新入生のための島に着席し他の子たちを待っていると、ポツポツと子どもが集まって席が
「さて
「ルークです! 将来の夢は
笑顔が
「グレースです。私も冒険者になりたいと思ってます、よろしく!」
赤いショートヘアで気が強そうな女の子。ボーイッシュであるが目はパッチリしており、将来キレイ系の美人になりそうな子である。
ていうか、冒険者ってそんな人気な職業なのか。危険だし中低ランクだと賃金も低いし、人気がない職業だと思っていた。
「ローガンだ。将来はうちの牧場を
「クロエ。
……この村の美少女率の高さ、おかしくないか?
クロエさんは
「シリウスです。将来のことはまだ考えてませんが、早く両親の
なぜか将来の話をする流れになっているお
「あっ、ララです……。えーと、将来は
習得には
上級生たちも簡単な自己紹介を行い、その後グループごとにシスターたちが話を始めた。シスターは前世でいう担任のようなものみたいだ。
僕たちのグループに来たシスターは十代後半くらいの青髪の女性であった。
「それでは皆さんよろしくお願いします。ではまず皆さんでお話しして、グループの委員長を決めてください。委員長になった人は今年一年、グループを代表しての報告や、グループの皆さんへの
委員長というよりも連絡係みたいなものかな。責任感や連帯感を
「えーと、どうしようか、まず誰かやりたい人とかいる? あとごめんグレースさん、クロエさんを起こしてくれない?」
イケメンのルークが場をまとめ始める。もうこのイケメンが委員長でいいんじゃないか?
「ん……私は私以外なら誰でもいい……」
眠そうなクロエさんは明らかにやる気がない。
「俺は口下手だから、すまないが
「わ、わたしはっ! シリウスくんがいいと思います!」
ファッ!? ララちゃん何言ってんの!?
こういうのは中身大人の僕がやるのは
「あー……僕はルーク君が向いてると思います。人の意見を引き出したり、まとめたりするのが得意そうですし」
「えっ俺? うーん……シリウスの方が向いてねーか?」
イケメンはニヤニヤしながらそんなことを言い出した。こいつ、
「……将来、冒険者になってパーティを組む時のために、人をまとめる経験をしておくと役に立つんじゃないかと思うんですが、どうですか?」
「確かに!! そう言われるとやりたくなってきた……!」
「じゃあ、委員長はルーク君ということで、皆さんいいですよね?」
「あぁ、いいぞ」
「いいんじゃない?」
「どーでもいい」
三者三様であるが、
「ね?」
「はぅ……わたしもいいと思います……」
不満そうなララちゃんに念を押すと、
「決まったようですね。それでは今日はちょっとだけ聖書を読んで終わりにしましょうか」
聖書は、主に
世界を創造した女神アルテミシアが光の
この世界の魔力の源は女神アルテミシアにあると言われており、この世界では非常にメジャーな神話である。初級魔術教本の
その後一時間ほどシスターが聖書を解説し、初日であるということもあって僕たちは昼前には帰宅したのであった。
■
こちらの世界に来てから朝起きる時間が非常に早くなった。部屋にはカーテンなどないため、朝日が差しこみ勝手に目が覚めるのだ。
前世に比べると信じられない程に健康的な生活だと言えるだろう。
朝起きるとサッと
生活魔術『
最近は氷魔術を習得したお
庭に出て軽くストレッチをした後、
この薪は自宅で使うだけではなく、父さんが商人へ
武器に気力を
気力を纏わせた斧は強度や
最初は気力の消費が激しくて数本割るとヘトヘトになっていたが、今は
薪割りが終わった後は軽く
そして朝食をとり軽く水で
この村の居住区域はある程度固まっており、また教会が少し
教会では読み書きや計算を学んだり外で遊んだりと、
この世界の言語の読み書きは魔術書を読み
そのお陰でシスターのご指名により、グレースとローガンの脳筋二人組に勉強を教える羽目になっているのは誤算であったが……。
正直、大学の数学などよりこの二人に算数を教えるほうがよほど
どうにかして
昼すぎくらいに教会から帰宅し、母さんに一声かけてから家を出る。
母さんが狩りに行かない日を、僕は裏山での鍛錬日にしていた。
裏山では山道を走り込みながら中級魔術の復習を行う。これは
魔物はいつでもこちらを殺しに来るため、必要なタイミングで必要な魔術を冷静に行使できるようになっておきたい。
立ち止まらないと魔術を放てません、では話にならない。
まぁ常にマルチタスクで仕事をしていた前世を考えると簡単なものだ。
森の中を走っていると、『魔力感知』で
ゴブリンとは緑がかった
人を積極的に
一方、
ちなみに魔核とは、魔物の魔力の根源、人間でいうところの心臓に近い臓器だ。
魔核には魔物が死んだ後に魔力が固定化され、武器や魔道具の材料、燃料等として活用されている。魔物の強さに応じて売却額が変わり、冒険者や狩人にとっては貴重な収入源である。
僕は森に来ていることを
ゴブリンを発見し走っていくと向こうもこちらに気付いたようで、一匹がその場に待機し、残り二匹が左右にこっそりと分かれていく。
ゴブリンが魔術の射程に入ったところで、すかさず
囮としての役割を果たそうと僕に走ってきていたゴブリンは二匹が吹き飛ぶ様を見ながらも止まることはできずに、そのまま
やけになったゴブリンに『
そしてグギャグギャ
死んだゴブリンの胸をナイフで切り開き、魔核を回収する。最初は気持ち悪すぎて何度も
死体はそのままにしておくと
やっぱり魔術は便利すぎる。
ちなみに魔核は古代樹の下に
その後もサーチアンドデストロイを
実は先日父さんの書庫を漁っていたら、魔物を
話半分に『
それから僕は積極的に魔物を
まぁゴブリンは増えると害しかないので、どちらにせよ狩るべきなのだが。
森を
それにしても最近、ゴブリンの数が増えている気がする。僕も母さんも結構な数のゴブリンを狩っているはずなのだが、一向に数が減る気配がない。
ゴブリンについて考えつつ
「シリウスくん、おかえりなさい! なにしてたの?」
「ちょっとそこら辺を走ってたんだ。走るのが好きでさ」
「……もしかして、裏山に行ってたの……?」
ララちゃんは
「……他の人には秘密だよ?」
「ふたりの秘密……? えへへへ……」
なにやらトリップしてらっしゃるみたいだが、秘密は守ってくれそうだ。ララちゃんはむやみに秘密を他人に話すような子ではないから、きっと
「シリウス、おかえり。夕食の準備を手伝ってくれないか?」
「分かった! 手洗ってくるね!」
我が家では、父さんが料理を作っている。
というか、家事
限界に近い空腹を感じつつ、父さんの手伝いをする。僕も前世では
僕と父さんの二人で作ると、あっという間に
両親と食事をしていると、父さんが僕に話を
「シリウス、最近よく外に遊びに行っているが教会の友達とは大分仲良くなれたか?」
「あ、あー……ぼちぼち……かな? 勉強を教えたりするくらいには仲良くなったかな?」
ごめんなさい放課後はぼっちで鍛錬しています……。
「そうか、楽しそうでなによりだ。はははっ」
「今日はどこに行っていたの?」
母さんの目が、心なしか鋭い。もしかして
「えーと、そこら辺をふらふらしてただけだよー」
「そう。大丈夫だとは思うけど、裏山には近づいちゃダメよ。最近ゴブリンが増えてるから、もしかしてどこかに巣ができ始めてるのかもしれないの。ゴブリンは子どもを襲うから、気をつけてね」
「分かった、気をつけるよ」
確かに最近ゴブリンが多いとは思っていたけど、巣ができつつあるのか。やはり異常だったんだな。
まぁこの村の狩人衆が本気を出せばゴブリンの巣なんてすぐに
母さんも
それから