第二章◆戦闘 2

「はい、今日はここまでです。みなさん気をつけて帰ってくださいね」

 最近、教会の終わる時間が少しだけ早くなっている。

 というのも、裏山のゴブリンがいまだに増え続けているからだ。

 母さんをはじめ狩人衆がそうさくを進めてはいるものの、中々巣が見つからないのだ。

 ある程度巣が大きくなってくるとゴブリンマジシャンという魔術を行使できる種が生まれて結界で巣をいんぺいするらしいのだが……想定される巣の発生時期から一年もっていないのにもかかわらずゴブリンマジシャンが生まれているということは、通常ではありえない。

 一方、この村の狩人衆はゆうしゆうな者が多く、普通のゴブリンの巣であれば一ヶ月もあれば必ず発見されてきている。それを三ヶ月も魔術きでかくれ続けていることもまた、ありえないことなのである。

 つまり急激に巣が成長していたとしても、魔術抜きでこの村の狩人衆から見つからない巣であったとしても、異常事態であることに変わりはないのだ。

 村長と狩人衆のおさである母さんとの間では、そろそろ村の戦える人員を全員狩り出してでも山狩りをすべきだという話も出てきているらしい。

 ゴブリンが人里に降りてくることはめつになく、また活発に活動するのが夜であることからそこまで危険はないのだが、万一のために僕らはせんぱいと一緒に集団下校をしていた。

 先輩は感知系のマジックアイテムを教会からたいされており、何かあった時に下級生をゆうどうして逃げることになっている。

「最近、教会の時間が短くてつまんないなー。外で遊ぶのもダメって言われるし、退たいくつでしかたないぜ」

 ルークが木の棒をブンブン振り回しながら、そんなこぼす。

「最近、牧場のモココやミルルがおびえている。危険察知能力が高い魔物が怯えているんだ、暫くはおとなしくしていた方がいい」

「ローガン君の言う通りよ。今は何が起こってもおかしくないのよ? ゴブリンに襲われたら、すぐ食べられちゃうわよ」

「そうだぜ、あいつら本当にどんよくだからな。物語ではよく雑魚ざこあつかいされてるが、実際はやっかいなんだぜ」

 ローガンと先輩の男の子と女の子がルークをたしなめると、ルークはつまんねぇとつぶやきつつ不満そうに石をり飛ばした。

「シリウスくん、こわいね……」

「あぁ、本当に危ないからララちゃんも気をつけないとね」

「……シリウスならゆうげ切れそうな気もするけど」

 ララちゃんと話していると、なぜかグレースさんがジト目でこちらを見てきた。

 学校のおにごっこでことごとく逃げ切っているからだろうか。モンスターと鬼ごっこを一緒にしないでほしい。

 ……逃げ切れるどころか、毎週倒していたけどさ。


 そんな話をしながら林の横道を歩いていると、急に『りよく感知』に大量の魔力が引っかかった。皆に注意をうながそうと振り返ると、先輩の手にあるマジックアイテムも急激に強い光を放っていた。

 なぜこんなに近づくまで感知できなかったんだ!?

「きゃぁっ!?」

 ララちゃんの悲鳴が聞こえそちらを見ると、飛来する矢ときようで目をつぶったララちゃんが視界に入った。

 瞬時に手に持っていた黒板に気をまとわせて、ララちゃんに飛来する矢をたたき落とす。

「ララちゃん、大丈夫だよ」

「シリウスくん……? ありがとう……」

 安心させるように、なみだのララちゃんにがおを向ける。ララちゃんはギュッと僕の服をつかんで、小さく微笑ほほえんだ。

 そんなララちゃんの頭を軽くで、周囲のじようきようさぐる。

「ひゃうっ」

 くすぐったそうに目を細めるララちゃんから視線を外して周囲をザッとながめると、普通のゴブリンが十五ひき、弓を持ったゴブリンが四匹、よろいを纏ったゴブリンが一匹の計二十匹に囲まれていた。

 いきなりこれだけの数がいたのか? しかも弓兵もいるとは……。皆を守りながら逃げることは無理そうだ。

「ラァァッ!!」

 周囲を観察していると、不意にルークが手に持った木の棒でかんにも近くにいたゴブリンになぐりかかった。

 ゴブリンの頭部にちよくげきした木の棒はルークの手をはなれ宙をい、ルークは手を押さえてその場にうずくまっていた。

「痛ッ……ってぇ……」

 ゴブリンのぼうぎよ力が高すぎて、こうげきをしたルークのうでしびれてしまっているようだ。

 ゴブリンは何のつうようも感じていないようで、手近で動きを止めたルークにねらいを定めてしまった。そしてその光景を眺めている皆は、恐怖で一様に動けずにいた。

 ……仕方ないな。

 二の矢をつがえるゴブリンたちに『えいしよう』でするどかみなりやり雷槍ライトニングスピア』を放つ。

 四筋のせんこうがゴブリンたちをつらぬき、焼きがす。

「「「えっ!?」」」

 周囲からきようがくの声が聞こえるが、とりあえず気にせずばやく敵戦力をぶんせきする。

 あの鎧を着たゴブリンはゴブリンリーダーだろう。身体能力はゴブリンよりあつとう的に高い魔物で、群れのとうそつ者のはずだ。

 僕の魔術を見てからはん魔術でいちもうじんにされないようにゴブリンたちが組織的に散開しているのも、遠目で全体を見ているゴブリンリーダーの指揮によるものと思われる。

 可能ならばゴブリンリーダーからたおしたいが、たてになるようにゴブリンたちが周囲を守っている上にきよもあるので厳しそうだ。

みんな、集まってください! 散らばっていると守りにくいです!」

 ルークに手を貸し後方へ下がろうとしていたローガンに接近するゴブリンの身体に『氷矢アイスアロー』を撃ち込みながら皆に号令をかける。

「シリウスお前……。すまねぇ、助かった」

 ルークは情けなさとくやしさとが入り混じった表情で僕と目を合わすと、一言感謝の言葉を述べて後ろに下がった。

「氷雪よ、我が手につどいてけ『氷矢アイスアロー』」

 後ろにゴブリンが来るなと気配を感知し振り向こうとしたしゆんかん、隣に居たクロエさんが僕の背面側へけて『氷矢アイスアロー』を放った。『氷矢アイスアロー』は少し小さかったが、狙いあやまたずゴブリンに命中しわずかに動きを止めた。

 僕らのねんれいでここまで正確に魔術が放てる子がいたのかとおどろきクロエさんを見ると、クロエさんは悔しそうに顔をゆがめていた。

「くっ、私ではまだ一発では倒せない……」

わたくしにお任せなさい! ほのおよ、我が手に集いて力をかたどりなさい! 『炎球フアイアボール』ですわ!」

 村長のむすめである先輩のジャンヌさんは燃えさかほのおによってゴブリンにとどめをし、得意げな顔で金色にかがやちようはつなびかせた。

「ふっ! この程度、造作もないことですわ!」

 ドヤ顔のジャンヌさんをよそに、ゴブリンたちは仲間たちがやられようとひるむことなく多方向からおそいかかってくる。

 僕はすぐさま射線上にいるゴブリンに『雷槍ライトニングスピア』を放つ。

雷槍ライトニングスピア』は一瞬でゴブリンを五匹同時に貫き、絶命させた。


 僕の背後にはララちゃん、クロエさん、ジャンヌさんが、そして二人を守るようにグレースさんとローガンとルーク、そして先輩たちが前に出て構えている。

 まずは『魔力感知』でゴブリンの数が一番多く危険な状態である同学年組の方へ回り込み、ゴブリンの横腹を思いっきり蹴りき群れの方へっ飛ばした。

 こんしんの気力をめた蹴りは派手なさい音をひびかせ、後ろのゴブリンも巻き込んで三十メートルほど吹っ飛ばした。

 そしてかんはつ入れずに、先輩たちの方に近づいているゴブリンたちを『風球ウインドボール』ではじき飛ばし、並列展開させた『氷矢アイスアロー』で胸をち抜いた。

 付近のゴブリンをいつそうしたところでゴブリンリーダーをいちべつすると、ごうを放ち残った取り巻き三匹を自らのもとへ呼び寄せているところであった。

 敵との間合いが開いたところで息をみなの安全をかくにんしようと後ろをチラッとり返ると、口をあんぐりと開けた皆の視線をいつせいに浴びていることに気づいた。

「シリウスあんた、やっぱりとんでもなかったわね……」

「シリウスくん、かっこいい……」

「中級魔術を詠唱破棄で並列展開……? ありえない……」

「もしかして俺より筋肉が……?」

 興奮したように一斉に口を開く同級生たち。そしてその横でコソコソと話している先輩たちも、聞こえてますよ。

「あんな子どもがあの魔術の腕って……ありえなくないか?」

「ありえないわよ!!」

「まるで様ですわ……!!」

 囲い込んでいたゴブリンたちをせんめつし逃げ道が確保でき皆は余裕が生まれてきたようで、好き放題言っていた。こういうのが苦手だから、隠していたかったんだけどな……。

 皆の話にしようしつつ、ゴブリンリーダーをどうすべきかしゆんじゆんする。

 ためしに一発ゴブリンリーダーに、小さな雷の矢を生成する初級魔術『雷矢サンダーアロー』を撃ち込んでみると、取り巻きの一匹が自ら魔術へ飛び込み感電死した。

 こいつら……死をおそれていないのか?

 自らを守り息絶えたゴブリンを見て、ゴブリンリーダーは満足そうにグギャギャと笑っていた。

 おまけに自らの身体からだにのしかかるけんたい感からりよくかつが近いことが感じられ、背中にいやあせが流れる。

 相手がただのゴブリンであれば魔力を節約して近接せんとうをするところなのだが、ゴブリンリーダーは体力が高く武器も所有しているため遠距離魔術でケリをつけたいところだが……僕の遠距離魔術の中では中級魔術『雷槍ライトニングスピア』がりよくかんつう力共に最もすぐれているが、撃ててもあと二発だ。

 それもゴブリンを盾にされてしまうと威力がげんすいしてしまい、ゴブリンリーダーを倒しきれないだろう。となると、残り少ない魔力で確実に倒すためには、やはり接近してすきを作るしかない。

 逃げ道は確保できているので逃げるというのも一つの手なのだが、僕ら子どものきやくりよくでは全員が無事に逃げ切ることは不可能だ。

 皆を先にのがして助けを呼んでもらい、僕だけ戦うという手もあるが……村の中にどれだけゴブリンがしんにゆうしてきているか分からない状況で皆から目を離したくない。

 ……腹をくくるしかないな。

 倒したゴブリンからショートソードを拾い、強くにぎりしめる。毎日のまきりの要領でけんさきまで気力を纏わせ、一振りする。よし、行ける。

「僕の魔力も残り少ないので、前へ出ます。クロエさん、ジャンヌさん、まだ魔力が残っていたらサポートをお願いします」

「まだ行ける。任せて」

「分かりましたわ!」

 二人は恐怖で小さくふるえているのにもかかわらず、力強くうなずいてくれた。

「前へ出るなら、俺にも手伝わせてくれ!」

 それを見ていたせんぱいの一人が、落ちたショートソードを拾いながら前に出てきた。

「……それなら皆の護衛をお任せしてもいいですか? またどこからかしゆうがある可能性もあると思うんです」

「……分かった。すまん、やつらはたのむ」

 先輩の戦闘力ではゴブリンとの近接戦はあまりに危険だ。いちげきでもらったら命の危険がある。先輩は年下の僕を危険な目にわせる悔しさに奥歯をみながら、僕の気持ちをんで後ろでけいかいをはじめてくれた。

 僕は先輩の視線を受けて頷き、一歩前にみ出した。

「ハァッ!!」

 身体に気力をみなぎらせ、一足飛びにゴブリンににくはくする。僕の全速力にきよかれたゴブリンを一匹、ひとせる。

 ゴブリンの持つショートソードはつぶれていて切れ味はほとんどないに等しいようなしろものであったが、気力を纏わせることでゴブリン程度ならなんとか倒せるようだ。

 その流れで横から突っ込んできたリーダーと斬り結ぶが、そのわいに似合わぬりよりよくを受けきれずに弾き飛ばされた。受け身を取りすぐさま体勢を整えつつ、両手の痺れから身体能力では完全にかなわぬことを改めてさとる。

 ゴブリンリーダーは苦々しい表情をしている僕を見下し、ゆうしやくしやくに嫌らしい笑みをかべていた。

 なんだあの笑みは……ッ!?

 ゴブリンリーダーに意識を集中していたせいで、他のゴブリンが僕の視界から消えていることに気づいていなかった。

 さまゴブリンリーダーからは視線を離さずに『りよく感知』でじようきようさぐると、えいしようをするクロエさんとジャンヌさんに二匹のゴブリンがとつしんをしているところであった。

 僕が知ったことに気づいたのか、ゴブリンリーダーは楽しそうにさけびながら斬り掛かってきた。冷静にゴブリンリーダーの動きを見切り後方へ大きくバク宙し、上下が逆転した視界の中『雷矢サンダーアロー』を二発ゴブリンに放った。

「きゃっ!?」

「シリウス……!? ありがとう……!」

 後ろから聞こえてくるジャンヌさんとクロエさんの声と共に、ゴブリンの魔力が消失。

 魔力が失われ身体を襲う倦怠感を抑え込みつつ着地すると、そこへゴブリンリーダーの剣撃がようしやなく放たれた。

「ウオォォッ!!」

 気力を漲らせ、軽くほおかすりつつもギリギリで身をひねってかみひとで剣をかわす。

 かすり傷だ、問題ない。

 あとは、この少ない魔力でゴブリンリーダーをなんとかするだけだ。

「グギャギャッ! グギギギギギィィィ!」

 僕がゴブリンの奇襲を台無しにしたことにげきこうしたゴブリンリーダーは激しく歯ぎしりをしながらきようかんした。

 気力が込められた叫び声に、ララちゃんの引きるような悲鳴が聞こえる。戦いの経験がない子どもには、これだけでも十分なこうげきだ。

 ゴブリンリーダーは気力が枯渇することをいつさいいとわないような勢いで気力を身体に漲らせ、すさまじい速度で斬り掛かってきた。

 僕も気力を練り上げ、ショートソードにまとわせる。

「うおおぉぉぉ!!」

 けんせんが交差し、激しく火花がい散る。

 ゴブリンリーダーのきよう的な膂力によるしようげきをいなしきれず、剣を交えるたびに身体が悲鳴を上げている。

 こちらも気力を振りしぼり、ゴブリンリーダーの攻撃に食らいついていく。

 ゴブリンリーダーは剣を一振りするごとに、ぎやく的なみを浮かべよだれを口から吹き出していた。

「グギャヘッ! グギャギャフッ!」

 自らの身体が限界に近づきつつあることを感じていると、後ろからクロエさんとジャンヌさんの魔力の高まりを感知。背後へ意識を向けると、小さな声で詠唱が聞こえてきた。

 ここぞとばかりに思い切り気力を込め、ゴブリンリーダーに斬り掛かる。

「ハアァァァァァァッ!!」

「グッ!! グギャェ!」

 僕のはくを込めた一撃にゴブリンリーダーが圧されてフラつきながら後ずさった。

「──け『氷矢アイスアロー』!」

「──力を象りなさい『炎球フアイアボール』ですわ!」

 僕の剣撃を受け止めているゴブリンリーダーに、二色の光が見事命中。

「ギャッ!?」

 二人の初級魔術は強力な気力を纏っているゴブリンリーダーにはわずかな掠り傷をあたえた程度であった。

 しかしそれは、今までにはなかった確かな隙を生んだ。


「『墜雷サンダーボルト』!!」


 その僅かな隙に天から一筋のらいこう、中級魔術『墜雷サンダーボルト』がゴブリンリーダーへ突きさる。

 ほとばしる雷光と共におそう強力な電圧により身体を焼かれたゴブリンリーダーはけいれんし、地にひざをついた。

 すかさず最後の魔力を振り絞り、僕の魔術の中で最も射程が短く殺傷力がある中級魔術『雷刃ライトニングエツジ』をショートソードに重ねてこんしんりを放つ。

 でんを纏いかがやく剣はかろうじてかかげられたゴブリンリーダーのロングソードもろとも両断し、過去最高の強敵をとうした。


 あんと共にドッと倦怠感に襲われ、気力も魔力も枯渇寸前まで使い切ったまんしんそうの身体をたおれ込むように横たえた。

「シリウスくんっ!!」

 僕が横たわると、間髪入れずになみだのララちゃんがけ寄ってきた。

 クロエさんとジャンヌさんも魔力枯渇寸前で座り込んでおり、他の皆は安堵の笑顔を浮かべていた。

 なんとか付近のゴブリンは殲滅したけれど、いつまた先ほどみたいに急にくかも知れない。今の状態では戦いなんて無理だし早く安全な場所になんしなければ。

 そう思って身を起こそうと思った矢先……。

「キャッ!!」

 悲鳴をあげたララちゃんの視線の先を見ると、ゴブリンリーダーがいずりながら落ちている折れた剣先に手をばしている姿があった。

 倒しきれていなかったのか!?

 剣先をつかんだゴブリンリーダーがうでりかぶってとうてき体勢を取る。まずい!

「ハァッ!!」

 クロエさんへ向かい振りかぶるゴブリンリーダーの射線をさえぎるように、残った気力をすべて身体強化に回しどう上へ身体を投げ出す。それと同時に投擲された剣先は予想以上の速度でクロエさんをけて一直線に放たれた。

 冷静に見切るゆうもなく、僕はいちばちかにけて手刀を放つ。手刀が剣の腹をたたかんしよくを感じると共に、剣先を明後日の方向へはじき飛ばすことに成功した。

 しかし息をつく間もなく、ゴブリンリーダーが次の投擲のためにこぶし大の石へ手を伸ばしていた。

 早くとどめを刺さなければ。

 しかし、その思いとは裏腹に気力と魔力の枯渇により視界がボヤけて身体を起こすことができない。

 強く歯を食いしばり身体からだの底から力をひねり出そうとするも、じよじよに意識が遠のいていく。地面を強く掴んでいたあくりよくも、もう完全になくなっていた。

 動け!! 動けよ!! あと少しだけ……!!

 かすむ視界の中、強い光が視界を包み込み僕は意識を手放した。


    ■


みんな!! だいじよう!?」

 気がついたら、シリウスくんのお母さんのミラさんがわたしたちのそばにいました。シリウスくんのお父さんのレグルスさんもこちらへ駆け寄ってきています。

 さっきゴブリンリーダーを倒した光はレグルスさんの魔術だったみたいです。

「ミラさん、レグルスさん、わたしたちは大丈夫です! それより、シリウスくんが!!」

 シリウスくんはゴブリンリーダーの投げた剣から皆を守ってくれて、そのまま倒れてしまいました。

 シリウスくんが死んじゃったらどうしよう……。心配すぎて涙が止まりません。

「ララちゃん、シリウスを心配してくれてありがとう。は頬の切り傷くらいだから大丈夫そうね。それよりも気力と魔力がきて気絶しているみたいだけど……。ここまで気力と魔力を使い切るなんて一体何をしたらこんなことに……」

「ゴブリンの死体が大量にあるが、これは……ゴブリンリーダーもひんだったようだ。ララちゃん、ここで何があったんだい?」

 ミラさんとレグルスさんはげんな表情を浮かべてわたしに問いかけてきました。

 ミラさんとレグルスさんはシリウスくんがこんなに強いことを知らないみたいです。裏山に行ってたことも秘密にしているみたいだし、シリウスくんはかくしておきたいんだろうな……。でも、この状況でなんて言い訳すれば……。

「えーっと……そのぉ……」

 シリウスくんの秘密を守りつつ、この状況を上手うまく説明できずにわたしがしどろもどろになっていると、ジャンヌさんがすごい勢いでミラさんに駆け寄りました。

「お父様!! お母様!! わたくしのこの命は、シリウス様に救われたのですわ!! 自らの身をたてに、わたくしを守ってくださるあの勇姿に心打たれましたわ!! シリウス様にはわたくしのお婿むこさんになっていただき、将来はこの村のおさとなっていただきたいのですわ!!」

「「「ファッ!?」」」

 突然のジャンヌさんの言葉に、思わず変な声を出してしまいました。

「ちょっ! ちょちょちょっとまってくださいジャンヌさん!! シリウスくんの気持ちを無視して何言ってるんですか!? それにわたしたちのとしでけ、けけけっこんなんて早すぎます!!」

 ジャンヌさんは一体何を言っているんでしょう!? シリウスくんがジャンヌさんとけつこんするなんてありえないです!! シリウスくんはわたしと……はぅ……。

「ジャンヌ……確かにシリウスくんは格好良かったけど、いきなりそれはないでしょ!」

「ジャンヌ、自重しろ」

 そうです、せんぱいたち! がんって止めてください!

「ちょ、ちょっとまってくれ……ジャンヌちゃんだったか? そういう話は本人と話し合ってくれ。俺らは口出ししないから。ってそれは置いておいてだな……話の流れからすると、シリウスがゴブリンを倒したということか……?」

「シリウスとジャンヌさん、あとクロエが倒しました……ほとんどシリウスですけどね。ゴブリンリーダーを瀕死まで追い込んだのもシリウスでした。お二人はシリウスの強さを知らなかったんですか?」

 あぁぁローガン君……ここまできたらもう隠せません……。

 わたしはあきらめて口をざすことにしました。

「ゴブリンリーダーもシリウスが倒したですって……?」

「ふむ、見る限りほとんどじゆつによって倒されているようだな。やはりあいつは、天才魔術師だったんだ! あの日俺が見たのはちがいじゃなかったんだ! これは将来は大魔術師になるぞ!」

 レグルスさんがすごくうれしそうにしています。シリウスくんが自分と同じ魔術師になるのが嬉しいのでしょうか?

「で、でもけんによって倒されているゴブリンも何びきかはいるわよ? ゴブリンリーダーにだって大きな切創があるし。それに剣術を教えてほしいって言っていたし、本人は剣士になりたいんじゃないかしら?」

 ミラさんはシリウスくんを剣士にしたいみたいです。シリウスくんは剣も魔術もどっちも凄かったので、どちらにもなれるんじゃないでしょうか。

「むぅ……確かに、ゴブリンリーダーにめいしようを与えたのは切創のようだ……。一体どうやって身につけたんだか。っと、とりあえずシリウスの話は置いておいて、まず皆を安全な場所に避難させよう」

「大体想像はできるけれど……そうね、急に村の中に湧いてきたこともあるし、まずは皆の安全を確保しましょう」

 レグルスさんとミラさんに連れられ、わたしたちは無事に村の集会所まで避難することができました。

 他の場所にも急にゴブリンが出てきたみたいでしたが、皆大きな怪我はしていないようで安心しました。

 シリウスくん、大丈夫かな……。色々な意味で、心配です……。

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