【冒頭公開】同棲から始まるオタク彼女の作りかた 2巻

1-1

「ただい……、……!?」

 スマホで音楽を聴きながら学校から帰宅した俺は、リビングの扉を開けて、目の前の光景に絶句した。

 猫耳にノースリーブの黒い和服コスプレ姿の美少女が、全身鏡の前で自身の姿を見ていた。

 これは……『ズアーレルーン』の『山白』のコスプレか。それにしたって、三次元になるとなんて破廉恥な衣装なのだろうか。

 長袖ではあるものの、脇が大きく空いていて横から胸が見えてしまっている。

 さらに下は丈が短く、太股がかなり際どいところまで見えてしまっている。も、もしかして何も穿いていないのか? と、妄想を膨らませずにはいられない。

「きゃああっ!? ちょっ、なんでいんの!?」

 俺の同居人、二科心は俺の姿を見て叫んだ。

慌ててイヤホンを取ると、部屋中に謎のラップの音楽が大音量で流れていることに気付く。

「な、なんでいんの、って、俺の家なんだから帰ってくるに決まってんだろ!」

二科は真っ赤になって自身の短い和服の裾を抑える。

脇から見える白い胸、着物の裾から見える白い太股が艶めかしく、ジロジロ見たら気持ち悪がられると思いつつも、どうしても視線がいってしまう。

「なんで音もなく入ってくんの!?」

「俺は普通に入ってきたっつの! なんだよこの音楽!? 音でかすぎだろ! こんなでかい音で音楽流してるからドアの音とか俺の足音聞こえなかったんだろ!?」

 リビングに流れるラップ的な音楽にとりあえず突っ込む。

「ビブマイの新曲発売したから聞いてたの!」

 ビブマイ……確か、二科がハマっている男性声優によるラッププロジェクト、だったか。今オタク女子にはこれが流行っているから、と教わった。

「っていうか……、な、なんだよその格好は!? ズアルンの山白の衣装……だよな?」

「これはっ、夏コミでコスしようかなって衣装買ったら……」

夏コミ? まだ六月だが、随分気が早いな。いや、というより……。

「そ、そんな痴女みたいなコスプレで夏コミ参加するつもりかよ!?」

「ちっちがぁう! 最後まで聞いてよ! 私が買ったのは『ユニケーン』の衣装なのに、なぜか間違えて『山白』の衣装が届いたの! 業者に確認したら完全に間違えたらしくて、でも海外の業者だから送料の方が高くつくのか、新しい衣装は送るから間違った衣装は処分してくれって言われて。で、イベントには絶対着ていけないけど、勿体ないから家で試着だけしようかな、って……全身鏡リビングにしかないから、ここで試着してたの! と、とりあえず着替えてくるから!」

 二科は恥ずかしそうに早口で説明を終えると、自分の部屋に駆け込んで行った。

 尻が見えそうなくらい短い丈の衣装から出る太股に思わず釘付けになりつつ、軽くため息をついた。


 俺と、クラスメイトのリア充女二科心は、深い事情があって、同棲している。同棲といっても、俺たちは恋人同士として付き合っているわけではない。

仕事の都合で家族が海外に引っ越し、一人暮らししていた俺は、オタクの彼女が欲しくて参加した『オタクの恋活パーティー』にて、偶然二科と会った。

 リア充ギャルであった二科がオタクだと知ったときは、それは驚いた。

俺たちは互いにオタクの恋人が欲しいと思っており、二科は『イケメンでオタク女子にも寛大で優しいオタクな彼氏』が、俺は『清楚系美少女でできれば美少女系コンテンツが好きな彼女』が理想で、互いに理想の恋人をつくるために協力し合うこととなった。

 そんな折、二科が親の仕事の都合で海外に引っ越すことになった。

 オタク文化と離れたくないという理由で、一人で日本に残りたいと両親に訴える二科を見て、俺は過去の自分の境遇と重なり、気持ちが痛いほどよく分かり、二科の両親に、二科を俺の家に住まわせることを提案した。

 てっきり反対されるかと思いきや、二科が咄嗟に俺のことを『彼氏だ』と、そして『彼氏と離れたくないから日本を離れたくない』と嘘をついたところ、驚いたことに、恋愛至上主義で恋愛脳だった二科の両親は、ならば仕方ないと同棲を認めた。

 そんな経緯で俺と二科の同棲は始まったのだが……二科の両親が海外から戻ってくるまでに、本当の恋人を作って、二科の両親に「二科に他に好きな人ができたから別れた」と説明して納得してもらえれば、婚約の解消を認めてもらえるだろう、という二科の提案から、俺たちは高校卒業までに恋人を作らなければならなくなった。

それから俺たちは、オタクの異性にモテる方法を互いに教え合ったり、オタクの異性と出会える方法を調べて足を運んだりと、理想の恋人を作るために積極的に頑張っているのだが、まだその努力は実っていない。


 二科が部屋に戻ってから、俺は自身のスマホに目を落とした。


『今日はありがとうございました? 一ヶ谷さんといると、本当に時間を忘れちゃうくらい楽しくて……。もし良かったら、今度はもっと長い時間一緒にいられたら嬉しいです』


 先日ツイッターに届いたDMを今一度読み返す。

 オタクオフ会で出会った俺の理想のオタク女子――五条ましろさんからのDMだ。

 先週の土曜、俺は五条さんとのデートの途中で帰ってしまうという最低な行為をしてしまったのにも関わらず、なぜか五条さんはこんなに優しいDMをくれた。

 不思議に思いつつも俺はその日のうちにお礼と謝罪の言葉、そして是非また遊びに行きましょうという旨を返信した。

 その後五条さんから楽しみにしてます、という内容の返信が来て、俺は返信に悩んでDMを止めてしまっていた。

 前回最低な印象を植え付けてしまったので、次で挽回したい。

 前回秋葉原でデートして、次は俺からデートの場所を提案したいのだが、次はどこへ行ったらいいのか……それに、何かお詫びをしたいが、一体何をしたらいいのか。

 こんなときこそ二科に相談したいのだが、二科は五条さんのことをよく言っていなかった手前、相談したら彼女はやめておけと反対されるのではないかという不安があり、なかなか相談できないでいた。

 いつまでも返信しない方がよっぽど印象が悪いので、一刻も早く相談したいのだが……。

今日こそ、タイミング見て相談してみるか。


「じゃ、いただきまーす」

 その日は二科が夕食当番で、二科の作った唐揚げとほうれん草のごま和えと味噌汁が食卓に並ぶ。それぞれ食べると、相変わらずめちゃくちゃ美味かった。

 食事中、スマホからラインの着信音がして、二科が自分のスマホをチラッと見て大きなため息をつく。

「ばんびさん、マジでしつこい……」

「え、ばんびからライン来てるのか?」

 ばんび――オフ会で出会った、二科が元々ファンだった有名イケメンコスプレイヤー……だったのだが、この間二科とデートして、とんでもない本性を現したヤバい男だ。

 初めて二人で会ったというのにこれから家に遊びに来いとしつこく、二科から連絡が来て心配になった俺は、五条さんとのデートを投げ出してまで止めに行った。

 ――のだが、実は俺と二科が想像していたようなヤリチン野郎というわけではなく、自分のコスプレ姿をひたすら見せつけてくるナルシスト野郎だったことを、俺たちは後からネットの掲示板で知って爆笑した。

「あれからもう五通くらい来てる。コスの合わせの誘いとか遊びに行こうとか……全部断ってんのにしつこくて」

「お前、もうばんびには完全に萎えたのか?」

「当たり前じゃん! とりあえず身体目的のチャラい人ではなかったけど、自分大好きのナルシスト男とか同じくらい無理だし! 早く次の新しい出会い探さなきゃと思って、今友達とかに色々聞いてて……」

 さすが、切り替えはえーな……。


「で、気付いたの! バイト先で彼氏できたって子、めっちゃ多いんだよね! だからうちらも、オタクと出会えるバイト探せば良くない!?」


「バ、バイト……」

「どっちにしろ、そのうちバイトしなきゃなーとは思ってたんだよね。仕送りだけじゃオタ活とか服買うのとかに使うお金全然足りなくて、貯金切り崩してたからさ。そんでバイトで彼氏も作れたら一石二鳥だなって! 今までは親にバイト禁止されてたけど、今はもう自由だし!」

「なるほど……」

 確かに、バイト先で彼女ができたって話は聞いたことがある。

 それに、俺も生活費とオタ活費、そしてそれに加え最近は服代や出会いのイベントに行く金、デート代などで本格的に金欠になってきた。そういう意味でもバイトがしたい。

今までバイトをしたことがないので不安はあるが……オタク系のバイトだったら、ちょとやってみたい。そこでオタクの女の子と出会えるかもしれないなら、尚更……。

「い、いいな、オタクと出会えるバイト! 何がいいんだろうな……」

「後で早速探そ! できれば楽しそうなのがいいな~って思うんだけど……」

「あっ……」

 そこで、思い出す。

 もしかしたら俺は、新しい出会いなど必要なくなるかもしれないということを。

「? 何?」

「ああ、いや……」

 もしかして、今が絶好のチャンスなんじゃないか? 二科に、五条さんのことを相談する……。

「あ……じ、実は……この間デートした五条さんと……あの後連絡取り合ってて」

「え!? そうなの!?」

「もう完全にフラグ折ったと思ってたんだけど、意外にも五条さんの方から連絡くれて。また遊びに行こうってことになったんだけど、どこに誘えばいいかすげえ悩んでてさ」

「マジ!? なんで早く言ってくんないの!? 良かったじゃん!」

 二科は意外にも、驚きつつも喜んでくれている様子だった。

「お前……反対しないのか?」

 五条さんのこと、地雷臭するとか言ってたのに……。

「この間のデート、私のせいでダメにしちゃったと思ってたから……それ聞いて正直めっちゃ安心した。そりゃあ、私から見たらあんまり印象良くない子でも、あんたにとっては理想の子なわけじゃん。だったら、応援するよ。前回邪魔しちゃった分も協力する」

「二科……」

 二科の言葉をありがたく思う。

「えっと、まずデートする場所だっけ? 五条さんって、男性向けコンテンツが好きなんだよね? 他に何が好きかとか、この間のデートで五条さんのこと何か分かった?」

「えっと、男性に人気のあるジャンルが好きってこと以外は……メイド喫茶でバイトしてるってことくらいかな」

「ほんとにそれだけ、なのかな……?」

「え?」

「前にも言ったけど、そんなにオタク男子の理想をそのまま具現化したみたいな子、いんのかなって不思議で」

「つまり、やっぱり何かあるんじゃないか、ってことか?」 

「うーん、はっきり言い切れないけど……」

 俺からしたら本当に男から見た理想的ないい子なんじゃないかと思うのだが、二科から見たらどうしても、それだけじゃないように思う、ということか。女の勘、ってやつなのだろうか。 

「とにかく、オタクなんだったら、何かすごく好きなものがあるはずなんだよね。オタク女子からしたら、それについてじっくり話を聞いてあげたり、同じものに興味を持ってくれたりしたら、こんなに嬉しいことはないし、めっちゃ好感度上がると思う!」

「な、なるほどな……確かに」

 オタクだったら、自分の好きなものの話をじっくり聞いてくれたり、尚且つ興味までもってくれたら、それだけで好きになりそうだって気持ちは分かる。

「で、デート場所に悩んでるんだっけ? 好きなものに関する場所が一番いいとは思うけど……」

「前回秋葉原はもう行っちゃったんだよな」

「そしたら今度は、池袋とかは? 水族館とか映画館とかプラネタリウムとか、アキバよりデートっぽい場所いっぱいあるし」

「池袋か……まあ何回か行ったことあるから、少しは安心かもな……。あとは、この間無理矢理帰っちゃったからお詫びしたいんだけど、何がいいと思う? なんか五条さんが好きそうなもの買ってくとかしたらいいのか? よく分からんけど、キャラグッズとか、アクセサリーとか……?」

「重っ! いや、お詫びでそんなものあげない方がいいから! しかも何が欲しいか分かんないんだから見当違いなものあげそうだし! 何かあげるならお菓子とか……もしくは、次回奢ってあげるとかそういう方がいいって!」

「あ、なるほどな!」

 そうか、変なことしてフラグ折るかもしれないところだった……。やはり二科に相談して良かった、と思う。

「にしても……なんで五条さんみたいなモテそうな子が、あんたをそんなに気に入ってんだろ? そこも不思議でしょうがないんだよね」

「なっ……! ま、まあ確かに……」

 二科の歯に衣着せぬ言い方に一瞬ムカっときたが、それは俺も不思議に思っていたことだった。

 ただでさえ俺とデートしてくれたことも不思議だったが、一度目のデートであんな最低な態度を取ってしまった俺を、なぜ誘ってくれたのだろう。

 やはり俺のことを気に入ってくれて……? と、期待せずにはいられない。

 とにかく、このまま頑張れば付き合える可能性は大いにある、と思っていいのだろうか。


 それから食事を終えて、俺が洗い物をし終えると。

「あった! 私にちょうどいいバイト!」

 ソファーでスマホを見ていた二科が、俺の方を見て言う。俺が隣に座ると、スマホを見せられた。

 そこには『コスプレ撮影会 パルフェ』というサイトが表示されている。

「コスプレ撮影会……?」

「そう! 私の好きな可愛い系の有名レイヤーさんも何人か登録してて! コスプレイヤーだったら誰でも応募可で、面接とお試し撮影があって合否が決まるらしいんだけど……。レンタル衣装が五十着以上あって、着てみたかったコスプレ衣装とかウィッグもあんの! 趣味のコスプレをバイトにできるんだったらめっちゃ楽しそうだし、時給は三千円以上らしくてめっちゃいいし。価格設定とか人気によって変わるらしいけど……」

「それって……怪しくないのか?」

「衣装とか価格設定は自由に決めていいらしいから、肌の露出したくない人はしなくて大丈夫なんだって! まあ、確かに不安なところはあるけど……。まずスタッフが経営者の人一人しかいないっぽいし」

「それ、大丈夫なのかよ?」

「あ、あのさ一ヶ谷……面接だけ付き合ってくんない!? なんか住所見るとマンションの一室みたいで、マンションの一室に男性と一対一で面接なんてめっちゃ怖いし……!」

「やっぱかなりヤバそうだろ、それ!」

「でも知ってるレイヤーさん何人か登録してるし、ネットで調べても特に悪い評判とか引っかかんないから、ちゃんとしたところっぽいんだけど……」

「うーん……まあ、いいけど……」

 まあ面接に行けば、ちゃんとしたところかどうかは大体分かるだろう。二科一人で行くよりは、俺がついて行った方がマシだとは思うし。

「でさ、他にも頼みがあって……応募するとき、加工してない他撮りの画像が、コスプレ画像と私服画像と二枚必要でさ。コスプレの写真は前に撮ってもらったのがあるから、私服の写真撮ってくんない?」

「ああ、そんくらい別にいいけど」

「私服もコスプレも実際に撮影会を想定した写真にして下さい、ってあるんだけど……私服はどーいうのが男性ウケいいんだろ?」

「まーコスプレイヤーが撮りたいってカメラマンだから、オタクの男性が多いんじゃねえのかな……。そしたらやっぱ、前に原宿で買った童貞を殺す服とか」

「やっぱそれか! じゃーそうしよ」

 衣装が決まると二科は着替えるために部屋に移動した。

 暫くして、私服に着替えた二科が戻ってくる。

「じゃ、早速撮影……」

「待って! メイク直すから!」

「え、更に濃くするのか?」

 既にきちんと化粧されているのだが。

「撮影だから、濃いめの方が写りいいし」

「多分だけど……撮影会の客ってのも、オタクの男なんだったら、あんまり濃いメイクは好きじゃないんじゃないか?」

「えっ……」

「濃い方が写真写りいいってんなら、濃く見えないように濃くした方がいいと思う。なんていうんだ、ナチュラルメイク、っていうのか? ケバいメイクが好きなオタクの男はほぼいないと思う」

 二科のためを思い、オタク男子目線で俺の意見を述べた。

「えっ……そんなに断言するほど!? わ、分かった……ナチュラルメイクに見えるように、ね……」

 二科は俺の言葉をブツブツ復唱しながらメイクを直した。

 メイク直しを終えた二科は、あまり濃いメイクに見えないナチュラルメイクになっていた。撮影のために白い壁際に移動する。

「じゃ、撮るぞ」

「あ、待って……はい、いいよ!」

 二科は前髪を直してから、スマホに向かって笑顔を作る。

「んー、もうちょい自然な笑顔を……、……っ!」

 そこで俺は、とんでもないことに気付いた。

「こんな感じー?」

「いや、お前……」

「え?」

「……てる……」

「え、何? なんて?」

「だから、その……とにかく鏡見ろ!」

自分の口からはとても伝えにくく、二科に鏡を見るよう指示する。

白いブラウスから、ほんのうっすらだが……下着が透けていた。

「え、何が……? ……っ!」

 全身鏡を見て、二科はやっと気付いたようで一気に顔を赤くする。

「~~っ! キャ、キャミ着んの忘れてた! 着てくる!」

二科は真っ赤になったまま俺と目を合わせずに部屋に向かった。そしてすぐに戻ってくる。

「お、お前な……応募用の画像だから良かったけど……本番の撮影会ではちゃんと……」

俺だから良かったものの、撮影会の客であるカメラマンだったら、指摘されずにラッキー、で終わるところだろう……。

「わ、分かってるってば! 急いでたから着んの忘れてたの!」

「い、一応言っておくけど……こういうのに来る客の中には、そういうショットを狙って来るようなのも少なくないだろうから、露出対策はちゃんとしておいた方が……」

 撮影会という仕事をしようとしているのにも関わらず、こいつにはそういう意識が足りてないのではないだろうか。コスプレ撮影者の中には、そういうラッキーショット狙いの人間だって少なくないだろうということを、もっとちゃんと理解した方がいいだろう。

「……っ! う、うん……分かってる……。下に何か必ずキャミとか着るし、スカートのときは下に必ずなんか穿くし!」

 何か言い返されるかと思ったが、意外にも二科は素直に返事をした。


その後私服を何枚か撮影する。撮影後、二科はスマホを見ながら、どの写真を応募用に使うか迷っていた。

「にしても、このバイトでいい出会いなんてあるのか?」

元々の目的がオタクとの出会いだったことを思い出し、尋ねる。

 コスプレ撮影会で出会える相手なんて、同じコスプレイヤーの女性と、コスプレカメラ小僧のオッサンしかいないと思うのだが。

「中にはイケメンで、尚且つ下心じゃなくてちゃんとしたコスプレの写真が撮りたいっていうカメラマンも来るんじゃないかなーって……」

「そんな奴、滅多にいないと思うけど……」

「やってみなきゃ分かんないじゃん! あんたは、何のバイトするか決まったわけ?」

「いや、まだ……」

 オタクと出会えるバイト、と言われてまず浮かんだのがオタクショップでのバイトだが、大変そうだし、果たして可愛いオタクの女の子と出会えるのか謎だし、イマイチピンと来ていなかった。

 何か他にもっといいバイトがないか、もっとネットで調べる必要がありそうだ。


 それから俺は、部屋に戻って五条さんに、次に遊びに行く場所は池袋はどうか、という内容を一時間近くかけて文面を打ってから、DMした。

 少しして、OKの返事が来てほっと胸を撫で下ろす。

 今度こそ、失敗するわけにいかない。最後まで好印象を持ってもらうことを心がけて、五条さんとうまくいくよう頑張るんだ。

 なぜか分からないが、五条さんはある程度俺のことを気に入ってくれているはずだ。このままいけば、初めて彼女ができる可能性だって、大いにある。

 あんな理想通りの子、滅多にいない。

 次が勝負どきだ。告白……はまだ早いかもしれないが、とにかく仲良くなれるよう、気に入ってもらえるよう……そしてあわよくば、なるべく近い将来、付き合えるように……とにかく、全力で頑張るんだ。

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