【全文公開】同棲から始まるオタク彼女の作りかた 1巻

5-2


 地下鉄で帰るという三波さんとは、駅の改札で別れた。

 地元の駅に着き、スーパーで夕飯の材料の買い物をした後、帰宅する。

 二科が料理をしている間、部屋でスマホでもいじってようかと思ったが、ふと思い出す。

 今日三波さんが話していたアプリ……マッチングアプリ、って言ってたっけか。

 同じ趣味の人を探せるなら、オタク趣味の女の子とも仲良くなれるかもしれない。

 スマホのアプリけんさく画面で『マッチングアプリ』と検索してみる。たくさんのアプリが引っかかった。

 三波さんが言っていたのは確か……『友達を作るアプリ』『高校生でも利用可能』『同じ趣味の人を探せる』。そのキーワードを手がかりに探してみる。

 恋人を作るアプリやこんかつアプリなんかが上の方に出てきたが、どれも違うのでスクロールする。

 マッチングアプリって、色んなものがあるんだな……。アプリページに飛んでしようさいを見てみると、利用は十八歳以上という制限がかかっているものばかりだ。

「……!」

 そんな中、しばらくスクロールしたところで、三波さんが言っていたキーワードにすべて当てはまるものを見つけた。

『フレンズ 趣味友、見つけちゃおう!』

 フレンズというそのアプリは、十八歳以上すいしようとなっていたが、十八歳未満利用禁止という内容の文面はない。

 説明文を読むと……何やら、アプリ内で自分の好きなものに関する『コミュニティ』というものがあるらしく、同じコミュニティに入っている人のプロフィールを見ることができるらしい。この『コミュニティ』機能で同じ趣味の友達が見つけられる、というのがこのアプリのウリのようだ。

 この機能で、オタク関係のコミュニティを探せば、オタク趣味の女の子と出会える……のかもしれない。

 とりあえず物はためしということで、アプリをダウンロードしてさつそく始めてみる。

 最初にチュートリアル的な説明が入った。

 自分から女性のプロフィールを見て、この人とやり取りをしたいと思ったら『いいね』を送ることができる。相手がそれに『いいね』を返してくれたら、マッチング成立。

 また、自分のプロフィールに『いいね』が来た場合、いいねを送ってきた人のプロフィールを見ることができ、プロフィールを見て気に入ったら、『いいね返し』ができる。

 たがいに『いいね』がマッチングしたら、めでたくアプリ上でメッセージのやり取りができるようになる、とのことだ。

 最初はアプリでメッセージのやり取りをするだけなら、ラインを交換するより安全そうだ。

「今日三波さんが言ってたアプリ、あった」

「えっ……マジで!?」

 料理をしている二科の背中に声をかけると、二科は何かをている最中だというのに、驚いてこちらをり向いた。

「見つけ出すの早っ!」

「まあな」

「危なくないのかな? ほんとにオタク趣味の人と出会えるのかな? 一ヶ谷、先にやってみてよ!」

「まあ、いいけど……」

 実験台かよ、と思ったが、まあ女子の方がこういうアプリを使うのに危険がともなうだろうからな。その点男は、まあサクラとかとかに気をつければ、そんなに危険なことはないだろうし。

 そう思って、アプリを進めてみる。まず、最低限の自分の情報を打ち込んでプロフィールを登録するように指示される。

「どう!? どんな感じ!? 出会えそう!?」

 そこで料理ができたらしく、二科が美味うまそうなカレーライスをテーブルに並べながら、俺のスマホをのぞき込んでくる。どんだけきようしんしんだよ。

「まだなんとも……食べ終わったらプロフィール登録してみる」

「うん!」

 とりあえずいつたん中断して、夕食をとる。

「じゃ、いただきます!」

 めちゃくちゃ美味そうなにおいをただよわせている、二科の作ったポークカレーを口にした。

「う……うめえ!」

 一口食べて、正直な感想が口かられる。腹が減っていたのもあるが美味すぎて、そのままカレーを勢いよく食べる。

「お、おおだな……。普通のはんのルー使っただけなのに……」

 二科はそう言うが、顔を見ると少しにやけていた。料理をめられるのは悪い気はしないのだろうか。

 手作りのカレーを食べたのはいつぶりだろうか。最近はコンビニやチェーン店のカレーの持ち帰りでしかカレーなんて食べてなかったからな。

 ぶたにくもジャガイモもにんじんも玉ねぎも、コンビニの出来合いのものとはちがって、きちんと素材の味がして美味おいしい。コンビニ飯より手作りの食事の方が身体からだにいいからなるべく料理しろと母親に言われたが、今ならなんとなく分かる。

 あっという間にたいらげて、さらにおかわりまでしてしまった。

 二科も食事を終え、早速アプリを始めることにした。

 二人でソファーに並んで座り、アプリを開く。

 となりに座る二科が、俺のスマホを覗き込んできた。

 なんというか、こいつって俺に対するけいかいしんまるでないよな……? 男として見られてないってことなんだろうが……。

 きよが近くて、部屋着から白いむなもとが見えている。もう少しで、下着まで見えてしまいそうだ……。まだにも入ってないというのに、こうすいか何かのいい匂いもしてくるし、どうしても意識せざるを得ない。

「ちょっと一ヶ谷、早くプロフィール登録してよ! 何この画面で固まってんの!?」

「え!? あ、ああ……」

 距離が近いのを意識しているのはやはり俺だけのようで、二科にかされる。

「えっとまず、プロフィール写真……? いや、写真なんかせられねえよ!」

 自分の写真を不特定多数が見るアプリに載せるのはていこうがあるし、何より……俺の写真なんて載せたら、だれもいいねなんてしてくれないと思う。

「私も、絶対知り合いにバレたりしたくないから写真は載せらんないわ。オタクだってことはもちろん、このアプリ使ってるってこともバレたくないし……」

 互いに写真は載せないことにした。名前は、自動的に本名のイニシャルになるらしい。

「えっと、誕生日と血液型、ねんれい、居住地の入力が終わったら、次は……しゆか。ソシャゲと、バーチャルYouTuberの動画を見ること、アニメ、まん、ネット、あとは……同人誌?」

「ちょっ、バカなの!? そんな鹿正直にガチオタ趣味ばっかり上げてどうすんのよっ!?」

「え? だって、オタク趣味の彼女がしいんだから、むしろオタク趣味を上げた方が分かりやすいだろ?」

「オタクはオタクでも、空気が読める、人目を気にする方が女の子からの好感度高いに決まってんじゃん! こんなガチオタ百二十パーセントのプロフにしたら、人からどう思われるかとか気にしないらいオタクしゆうはんないから! オタク趣味れつするのも良くないし、同人誌なんてもってのほか! マジでキモがられるし引かれるから!」

「そ、そういうもんか……」

「それに、趣味がオタク関係だけなのも地雷臭やばい! もっとさわやかな趣味、ないの? 何でもいいから、しぼり出して!」

「んなこと言われても、オタク以外の趣味なんてねえし……」

「ハァ~ッ。じゃ、趣味じゃなくても、たまにやってる程度とか、いっそ、やったことある程度でもいいから付け足して!」

 爽やかな趣味……あ、この間二科のコスプレ姿をさつえいしたとき、楽しかったな。『カメラ』を付け足しておこう(カメラじゃなくスマホでっただけだけど)。カメラ趣味の男って、なんとなくオシャレでモテそうだしな。それに、もしかしたらコスプレイヤーの女子が『撮影してもらいたい』と反応してくれるかもしれない。

 それからあとは……たまにあいと、電車代ケチって自転車でアキバまで行くことがあるから、『サイクリング』も付け足しておくか。

 趣味・アニメ、ゲーム、カメラ、サイクリング……おお、なんか陽キャオタク感出てるな!?

 気付けば、二科も自身のスマホで登録を始めていた。

「そういうお前は、趣味何にするんだよ?」

「えーっと、ちょうど今入力してるんだけどー、ゲーム、アニメ、BL、男性声優、コスプレ、買い物、料理……」

「おいおいおい! お前、俺には同人誌NGって言っておいてそれかよ!? 当然のようにBL上げてんじゃねえよ!?」

「確かに、ウケは悪いかもって思ったけど……でも! じよだってことは私のアイデンティティだから! 私が腐女子だってことを認めてくれる人じゃなきゃ付き合えないし……!」

 腐女子がアイデンティティってなんだよ……?

「だからってな、最初っからプロフィールに趣味:BLなんてあったら、それこそ、どんな男が見ても地雷だって思うから! BL趣味を無理矢理押し付けてきそうな女だって思うから! まず仲良くなってから、実はBL好きなんだってカミングアウトすればいいだろ!? あと、男性声優ってのもちょっとな……。彼氏作ろうとしてんのにすでに他の三次元の男に夢中なのかよ、って感じだし」

「そ、そういうもん……? うぅ……分かったわよ」

 二科は不満げながらも、俺に言われたとおり大人しくプロフィールの趣味らんを直した。

「次は、自己しようかいぶんね……」

 自己紹介か……。とりあえず、オタクな彼女が欲しいってことをアピールしないとな。

 互いにしんけんに自己紹介の文章を打ち込む。

「できた!」

 二科が先に声を上げた。

「見して」


在住のJK2です♡ ネクステ/ソード男子/ビブマイ/コンナン/A5/アイステ 趣味が同じ人、気軽にからんで下さい♡】


「ツイッターのプロフじゃねんだぞっ!? こんなん見てれんらく送ってくるやつがいると思うか!? 好きなコンテンツ一覧とか、分かんねえ人から見たら暗号みたいだからなっ!?」

えてよ! 分かる人だけ……つまりオタクだけ連絡してね、っていうかくれメッセージなの!」

「いやまず、俺レベルのオタクなら分かるけど、女子向けにくわしくないオタク男だったら分かんねえし、自己紹介これだけだとまたしても地雷臭半端ねえから! もっと親しみの持てる文章を付け足せ! それから……何でナチュラルに俺の家のよりり駅載せてんだよ!? お前にはネットリテラシーってもんはないのか!?」

「え、やっぱり危ないかな?」

「危ねーに決まってんだろ!」

「ってか、親しみの持てる文章……って、例えば何よ!?」

「男が見て、メッセージを送りたくなるような文だよ。例えば……こういうアプリは初めてだけど、趣味の合う友達が欲しくて思いきって登録してみました♡ とか、仲良くなったらいつしよにアニメ見たりゲームしたりしたいです♡ とか……」

「へー、なるほどね……。で、あんたの自己紹介も見せなさいよ」

 二科は無理矢理俺のスマホの画面を見た。


【オタクな高校生男子です。同じくオタク趣味の女性と仲良くなりたいです。できれば『アイステ』『FG0』『バーチャルYouTuber』などが好きな女性と仲良くなれたらうれしいですが、女性向けコンテンツにも理解があります。オタクコンテンツが分からない人でも一からていねいに教えます。仲良くなったら一緒にアニメなど見られたら嬉しいです。よろしくお願いします。】


「なんか……気持ち悪っ!」

「は……!?」

 二科のひどすぎる言葉にショックを隠しきれない。

「な、何が気持ち悪いんだよ!? 丁寧だし親しみのある文章だろ!?」

「なんか全体的に暗いし重いし……しかもあんたの方こそ自分の趣味押し付ける気満々じゃん! 『分からない人でも一から丁寧に教えます』って、こわいからっ! 自分の方から歩み寄る気ないじゃん!」

「え!? そ、そんなことは……」

「しかも、友達作るアプリなのに、女目当てなの前面に出し過ぎでキモい! とにかく、文章を全体的にもっと明るくやわらかくして、『女性向けオタクコンテンツはまだ詳しくないけど、興味があるので教えて下さい!』って感じの文に変えて!」

 二科のしんらつな言葉にダメージをらう。

「あと、オタク以外の趣味のことも自己紹介文に載せて、爽やかなオタクさっていうか、ヤバいガチオタじゃないっていうアピールして!」

「クッ……あー、分かったよ……直しゃいいんだろ」

「何よそれ!? せっかく有益なアドバイスしてあげてるっていうのに……。あんた最初の文だったらマジでやばかったからね!?」

「言っとくけどな、俺がアドバイスしてやったからいいものの、お前の最初のプロフの方がやばかったからな!? あれでいいね来たらせきだ、ってレベルに!」

「はあ!? 何それ!? 私は別に、あんたのアドバイスなんてなくてもうまくやれる自信あるし! あーもー分かった。もうこの後はこのアプリ、おたがいにアドバイスとかなしでやることにしよ。私のアドバイスにもムカついてるみたいだし!?」

「……! あ、ああ……そうだな、それいいな! 分かった、そうしようぜ!」

「ま、もしこれで彼氏できたら、そのときは報告してあげてもいいけど?」

「は、はは……それは楽しみにしてるぜ」

 言い争いに発展し、俺も二科もおこりながら自分の部屋へと移動し、とびらを閉めた。

 言ってることは正しいのかもしれねえけど、あんな言い方されたら誰だって怒るっつの!

 もう二科の力なんて借りずに、自分一人の力でやってやる!

 でも、さっき二科が言ってたアドバイスは……オタク女子目線からの意見ということで、一応取り入れておこう。

 二科のアドバイス通りにプロフィール全体を直す。


【オタク趣味の友達が欲しくて登録しました。休日はアニメやゲームを楽しんだり、友達とサイクリングをしたり、カメラやったりしてます。

『アイステ』『FG0』『バーチャルYouTuber』などが好きな人と仲良くなれたら嬉しいですが、女性向けオタクコンテンツも興味があるので、教えてもらえたら嬉しいです!】


 二科に注意されたことはすべて反映した。よし、これでかんぺきだろ!

 それから、トップ画面から他の女性会員のプロフィールを見てみる。

【都内の大学に通ってます! 趣味はライブとスノボです。コミュニティ見て趣味合ってる方いたら気軽にイイネお願いします。男女問わず飲み友しゆうしてます】

 リアじゆう女子大生か……。写真も、リア充な可愛かわいい子って感じだが、写メが加工されているようで、じやつかん写真感はいなめない。

 何にせよ、オタクじゃないなら俺の希望する相手ではない。次。

【趣味:V系、アニメ、コスプレetc……】

 おっ! オタクじゃねえか! しかもコスプレイヤー! 写真は……。

「ひえっ!?」

 思わず、変な声が出た。ドアップの自撮りで、光で飛ばしてあるが、それでも可愛くない。かみがたも服装もいかにもV系バンドって感じで、正直キツいもんがある。

【写真ない人には返事してません。イイネしてきたのにメッセしてこない人も意味分かりません。返事がおそい人も最初からメッセしてこないで】

 しかも、なんだよこの文章! 感じ悪っ! これが本物の地雷って奴か……。うわ、しかもねんれい三十歳!? ひいぃ、こんな人もいるのか……。

 俺も……女子側から、地雷とか、キツいとか、思われないようにしねえとな……。二科に注意されずさっきの文章のままだったら、そう思われていたかもしれない……。

 そういえば、このアプリはコミュニティから同じ趣味の人と知り合えるのがとくちようだったな。

 コミュニティで『オタク』や『アニメ』などのワードでけんさくすると、すぐ『アニメ大好き』とか『オタク友達欲しい』というコミュニティが見つかった。

 さらに、『アイステマネージャーやってます』とか『バーチャルYouTuber』なんてジャンルごとのコミュニティまで見つかった。しかも、結構な参加人数だ。

 すげえ……。このアプリって、結構オタクもいるんだな?

 コミュニティに入っている女性会員を見ていく。写真を上げている、可愛い子もたくさん出てきた。オタクで、好きなジャンルも合い、可愛い子が、世の中にはこんなにたくさんいるというのか……!?

 最初、マッチングアプリのがいようを聞いたとき、正直、それって出会い系じゃないのか……? なんて思ってしまったが、こういう出会いも悪くないじゃないか、なんて今は思う。

 つうに生活していたら出会えない、こんなにたくさんの人と出会える可能性が広がるのだから。


 一週間後。

 俺はあれから精力的にアプリでの活動を続け、思いきって何人かの女性にイイネを送った。

 しかし、写真をせている可愛い女性からは、いつさい『イイネ』の返しが来なかった。互いに『イイネ』ボタンを押さないと、メッセージのやり取りは始まらない。

 やはり、可愛い女性は競争率が高かったのだろう。俺は写真を載せてないので、それも返事が来なかった原因かもしれない。

 仕方なく、写真を載せていない、条件に合う女性にも何人かイイネを送った。

 俺の条件は、高校生で、オタクで、入っているコミュニティやプロフィールなどを見て一つでも好きなジャンルがかぶっていて、都内在住で、あとは自己しようかいの文章に好感が持てる女性、である。

 写真未けいさいの計八人にイイネを送って、三人からイイネが返ってきた。

 そのうち一人は、ちゆうから返信が来なくなってしまった。もう一人は、なんだか話がみ合わなくなって、自然しようめつしてしまった。

 つまり、現在やり取りを続けている女性は一人。

 アプリを始めたその日に、『おすすめの新会員』としてアプリのトップに表示された。俺と同じ日にアプリを始めた人らしい。

 都内在住の、同い年の高校二年生。『アイステ』が好きらしく、最近『バーチャルYouTuber』も好きになりつつある、コスプレイヤーらしい。

 その時点で、めちゃくちゃこころかれる。

 さらに、自己紹介には『しゆの合う友達が欲しくて思いきって登録してみました。仲良くなったら一緒にアニメ見たりしたいです』という、好感度が高いことが書いてあったのだ。

 この女の子こそ、俺の理想の相手に思えて仕方がない。

 写真は載せていないが、コスプレをしているならある程度可愛いのではないだろうか、という期待がふくらむ。

 メッセージのやり取りをしていても、話も合うし、とても明るくていい子なのだ。

 ああ、早くこの子に会ってみたい。しかし、あまりに性急だと引かれてしまうだろうか……?

『Kさんとはとても話が合うので、いつかお話ししてみたいですね』

 夜る前、引かれないように気をつけながら、おそる恐るメッセージを送ってみた。Kさんというのは、相手の女性のイニシャルだ。

『私も、いつかお話ししてみたいです』

 数分後にすぐ返信が来る。おおおマジかよ!? めちゃくちゃごたえアリじゃん!

『今度、あきばらでアイステのコラボカフェイベントがあるみたいなので、良かったらいつしよに行きませんか?』

 Kさんとは、主にアイステの話題で話が合っていたので、思いきって提案してみた。

 しかし、基本的にすぐに返事が来るのに、返事が来なくなる。

 まずい。さすがに性急すぎて引かれたか。てつかいするべきか? でもなんて撤回すればいいんだ!?

 せっかくここまでうまくやり取りして築き上げてきたのに……!

 俺が一人もだえ苦しんでいると、スマホから通知音が鳴る。

『それ、私もちょうど行きたいと思ってたんです。是非行きましょう』

「うおおおおお!」

 メッセージをもらって、部屋で思わずたけびをあげた。

 まさかこんなに順調に会ってくれることになるなんて……!

 すげえじゃねえか、『フレンズ』!

 このままいけば……二科よりも一足先に彼女ができるんじゃないのか!?


「……はよ」

「おはよ」

 翌朝、リビングで二科とあいさつわす。

 あれ以降、二科とはあまり会話していなかった。挨拶や事務的な会話のみである。

 まだ少しムカついていたし、二科の方もそうなのだろう。

「お前、その後アプリ続けてんのか?」

 あれ以降、二科がどうしているのか、一切聞いていなかった。

「まーね! かなり順調だし!」

 二科は俺の質問に得意げで答えた。

「……! へ、へえー……」

 内心、あせる。

「あ、あのさ……今週の土曜って、何か予定ある?」

 二科は、先ほどまでの得意げな様子からとつぜん変わって、言いにくそうに俺に聞いてきた。

「土曜? ああ、予定あるけど……なんで?」

 その日は、Kさんとアイステコラボカフェに行く約束の日だ。

「! そ、そっか……じゃ、いいや。なんでもない」

「なんかあったのか?」

「別に、なんでもないって! じゃ、先行くから!」

 二科はなぜかキレ気味に家を出て行った。

 なんなんだよあいつ、キレどころがわけ分かんねえぞ。



 数日後の土曜日。

 ついにKさんとデートする当日をむかえた。

 秋葉原の駅に、午後一時に待ち合わせになっている。


 十時ごろ起きると、すでに二科の姿はなかった。

 基本的に二科は、オタクでありつつリア充でもあるので、俺とちがって土日はどこかに出かけていることが多い。俺もさっさと準備しないと、と思いながらスマホをチェックすると。

「えっ……!?」

 フレンズにKさんから『ごめんなさい! 今日のお約束、やっぱりキャンセルさせてもらってもいいですか?』というメールが来ていた。

 ちょ、マジかよ、なんでまた……? といつしゆんおどろいたところで、さらにもう一通メッセージが来ていることに気付く。一通目は朝の八時頃、二通目はつい十分ほど前に来ていた。

『急にドタキャンしちゃってごめんなさい! やっぱりだいじようですので、今日うかがいますね』

 ど、どういうことだ……?

『返事おそくなってすみません! 大丈夫ですか……?』

 とりあえずあわててそれだけ返信すると、すぐに『はい、大丈夫です。よろしくお願いします』と返事が来た。

 当日に、一体どうしたのだろうか。気にかかりながらも、のんびりしているひまはないのでとりあえず準備に入る。

 あれから特に服など買っていないので、二科にディスられた、パーティーに着ていった服以外で、まだまともだと思える服を必死にあさった。結果、まだ新しめの赤と黒のチェックのシャツにジーパンを穿いていくことにした。

 デートのために服くらい新調したかったが、どこに何を買いに行けばいいのかもサッパリ分からなかったのであきらめた。本当は二科に相談したかったが、最近のあいつはなんか様子がおかしい。

 俺に何か言いかけて、やっぱりやめる、ということが何度かあった。

 とりあえず、今日は自分なりにがんってオシャレするしかない。前に買ったワックスで髪形をいじるも、今ひとつ決まらないまま、家を出る時間になってしまう。


 待ち合わせ場所に十分前にとうちやくするように家を出た。

 電車の中で、きんちようしすぎて胃が痛くなってくる。

 この俺が、初対面の女の子相手にうまく話すなんて、果たしてできるのか?

 せめて、二科に服装とかアドバイスもらえたり、デートでのい方について教えてもらえていれば、直前になってこんなに不安になることはなかったかもしれない……。


 秋葉原に到着する直前、アプリでメッセージを送る。

『もうすぐ着きます! でんがい口の改札出たところにいますね!』

 少しして、返信が来る。

りようかいしました。もう秋葉原にいるので、私も改札向かいます』

 もうアキバにいるのか……。

 秋葉原の駅に到着し、電気街口改札を出る。

 おそらく、もう着いているのだが……そういえば、どうやって探したらいいのだろう。

 おたがい顔を知らないんだから、何か特徴とか伝え合っておくべきだった。

 アプリからメッセージを送るべく、じやにならないよう柱の近くへ移動する。

「……え……!?」

 柱を背に立っている、見覚えのある姿を見て、おどろきのあまり固まった。

 二科だ。

 なぜかここに二科がいる。

 声をかけようとするも、二科の様子に思わず一瞬躊躇ためらった。

 二科はスマホを持ったまま、真っ青な顔で固まっている。その上、スマホを持つ手はふるえている。

 なんだこいつ? 一体何やってんだ? 体調でも悪いのか?

「おい、二科」

「……? ふぁっ!?」

 俺の顔を見て、おおなくらい変な声を出して驚いた。

「い、一ヶ谷!? なんであんたがここに……!?」

「それはこっちのセリフだよ! なんでお前がここに……」

「わ、私は! 今日、アプリで知り合った人と会う約束してて……でも直前になってこわくなってきたからキャンセルしたくなってきて……」

「え……!? いや俺も今日、アプリで知り合った人とアイステのコラボカフェ行く約束してたんだけど……」

「えっ……えぇぇぇ!? うそでしょ!? ってことはもしかしてっ……あんたがKさんなの!?」

 二科の言葉に、一瞬脳内が真っ白になる。

 つまり、ってことは……。

「ま、まさか……お前がKさんなのか……?」

 K、というのは、下の名前のアルファベットだったことを思い出す。

 二科の下の名前って……こころ、だ。

「そういえばあんたの名前って……かげとら、だっけ!?」

「…………」

 俺と二科は、驚きとショックのあまり、同時にたましいけたかのようにぼうぜんとしてしまう。

「そういえば確かに……今までの話、全部あんたに当てはまるわ……。アイステ好きとか、バーチャルYouTuber好きとか……。考えてみたら、『女性向けオタクコンテンツについて教えて下さい』みたいな文章って、私がアドバイスしたやつそのまんま使ってんじゃん! あんだけ大口たたいてたくせに!」

 思い返してみれば、Kさんの話もすべて二科に当てはまる。それに……。

「お前のプロフだって、俺のアドバイスかなり反映されただろ!? 俺のアドバイスなんていらないみたいな口ぶりだったくせに!」

 そりゃあどうりで、好印象をいだくはずだ……。

「そういえば……俺が最初にこのアプリを始めたとき、おすすめ新会員としてKさん……っていうかお前のプロフが表示されたんだったな……。それってもしかして、俺とお前が同じ日にアプリを始めたから……?」

「えっ……あ、確かにっ!」

 俺と二科は、同時に大きなため息をついた。

「あ~~もう、マジまんじ! この数日間どれだけ頑張ってやり取りしたと思ってんの!? マジ時間と労力のじゃんっ!」

「こ、こっちのセリフだっつーの! 俺だって、毎回めっちゃ文章考えながらメッセージ送って、今日も緊張で胃が痛くなったっつーのに……!」

「……っていうか、何その服!? なんでよりによってデートの日にテンプレオタクファッション!? そんなんだったら、たとえ本当にデートにこぎ着けてたとしても、秒で振られて終わりだからね!?」

「えっ!? テ、テンプレオタクファッション!? この服が!? お前がパーティーに着ていった服ディスってきたから、わざわざ別の服にしたのに……!」

「今日の服も十分、明らかに分かりやすいテンプレオタクファッションじゃん! あんたテンプレオタクな服しか持ってないわけ!?」

「な、な……!?」

 まだマシだと思っていた服さえも二科にディスられて、俺がせいだいに落ち込んでいると……。

「はぁ~……でもぶっちゃけ、かなり安心した……」

「え……?」

 二科は少しだけ笑って言う。

「知らない人と、しかも男の人と二人で会うなんて怖くてさ。あんたにいつしよについてきてもらおうかとも思ったくらい……当日になってドタキャンなんて、クズなことしようともしちゃったし」

「……!」

 そうか、だから今朝のメール……。それに、俺に何か言おうとしてたのは、それだったのか。

 確かに、男とほとんど接点を持ったことないこいつが、見知らぬ男と二人きりで会うなんて、不安だったろうな。男の俺だってあんだけ緊張したんだ。

「じゃあ会うの断れば良かっただろ。今回の相手は俺だったけど、確かに中にはやばいやつだっているかもしれないし……」

「出会いたくてやってるのに、断るのも意味分かんないじゃん」

「まあそうだけど……一応、俺がお前の両親からお前を預かってる形なんだし、あんまり危ないことはすんなよ」

「……! な、何よそれ……」

 俺の言葉に、二科は少し顔を赤くした。

 二科は駅とは逆の方向に歩き始める。

「え、お前、どこ行くんだよ?」

「きょ、今日は『アイステ』のコラボカフェ目的で来たんだから、行かないで帰るとかもつたいないでしょ! せっかくアキバ来たのに」

「あ……確かに」

「ま、あんたは帰ってもいいけど、行きたいってんなら一緒に来てもいいけど?」

「なっ……お、俺だって行きたかったっつーの!」

 せっかく休日に秋葉原まで来たのだ。二科の言うとおり、コラボカフェだけでも楽しんで帰らなければ勿体ない。


 コラボカフェの会場である店内に入ると、かべがみすべて『アイステ』のイラストでくされていた。

「ひゃ~っすごい! かわいいーっ! わー、メニューも全部キャラにちなんでる!」

 メニューを見ると、各メインキャラの名前がついたメニューになっており、各キャラのモチーフやアイテムが料理で表現されていた。

 俺と二科は、それぞれ担当アイドルのメニューをたのんだ。

 めちゃくちゃテンションが上がり、ガッカリした気分はすっかりどこかに消えせていた。


 それから、俺たちは店内やメニューをさつえいしまくったり、食事を楽しんだり、コラボカフェ限定のグッズもこうにゆうしたりと、アイステのコラボカフェを思う存分楽しんで、帰宅したのだった。

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