5-1
数日後、学校での昼休み。
学生
前にダメだししてから、弁当を作ってくれなくなったのだが、今日久し
弁当箱を開けると、そこには野菜の
肉のおかず多めで、めちゃくちゃ
「なんか最近、お弁当変わってきたね。ヘルシー志向からガッツリ系に」
「あ、ああ、まあな!」
弁当について感想を言ったとき、二科は
夕飯作ってくれるようになったことも
* * *
『ハーイ! バーチャルYouTuberの
その日の夜。
俺はいつも通り自室のパソコンでバーチャルYouTuberの動画を見ていた。
現在ちゃんと追っているVTuberは十人ちょっとで、
先日あいに教えてもらった、新人バーチャルYouTuberの西園寺エミリーが、今俺の中で一番アツい。
高身長にスタイル
しかし、彼女の
今見ている配信では、エミリーは人気のあるアイドルゲームを実況しているのだが、百合好きが
「ケイちゃんのツンデレムーブキマシタわーっ! 尊みが深い……ハアハア、これ、絶対内心
ハーフの美少女なのに百合が好きなんて、まったくもってけしからん。オタク男のツボに来る。
「キャーーーーッ! あ~~っ死ぬ! 今のセリフ聞かれましたっ!? ケイ様ほんと
彼女は特に、『
画面下のコメント
「こんな女の子、現実に存在したらなあ……」
絶対に起こりえないと分かっていつつ、
エミリーの声優は、一体どんな女の子なのだろうか。バイリンガルで、声も美しく、百合が好き……。
基本的にバーチャルYouTuberの声優は非公開であることが多く、エミリーもそうなのだが、どうしても気になってしまって仕方がない。
翌日。
「あんた、あれからちゃんと出会いの場調べたり探したりしてる?」
二科が作ってくれた朝食を食べながら、二科に聞かれる。
「一応調べてるけど……相変わらず、高校生参加可能のやつが全然見つからねえな。お前、コスプレのツイッターでの出会いはもう完全に
「……っ、あんなもんで出会うなんて、マジで都市伝説だから……! あ、今日あんたが放課後
「え……? なんでわざわざ食堂? 家でよくね?」
食堂なんかでそんな話したら、聞かれる危険性もあるのではないだろうか。
「学校の近くのネイルサロンでネイルの予約しちゃって、二時間くらい学校で時間
「お前の予定に付き合わされるだけかよ!?」
「家で話すか学校で話すかの違いなんだから、別にいいでしょ、そんくらい」
「まあいいけど……」
その日の放課後。
俺は二科と共に、食堂でお
「相変わらず、全然ないわね……高校生参加可能の、オタクの出会いの場」
今食堂には周りに
「そうだな……相変わらず飲み会系ばっかりだ」
そこに、二人の女子生徒が俺たちの近くを通りかかった。
二人とも見覚えがないので
身長は少し高めで、
「が、外国人……?」
彼女たちが通り過ぎた後、俺は思わず聞こえないくらいの声で呟いた。
「あんた知らないの? 一年生の
「えっ、マジで!? 初めて見た」
「
「えっと、外国人……なのか?」
「イギリス人とのハーフ。
「確かに……」
あのビジュアルでモデルをやっているなら、
クールなイメージだし、美人過ぎて近寄りがたい
「……!」
そんな会話をしていたところ、なんと、再び三波さんという生徒と、友人らしき生徒が食堂に
手にビニール
俺たちから少し
「あー、マジでだるい」
もう一人の生徒が話す声が聞こえてくる。食堂には俺たちしかいないので、
「やば、食堂でもうオタク関係の会話できなくなっちゃった……」
二科が俺にしか聞こえないくらいの小声で言う。
「学年が違う生徒にもオタバレしたくないのか?」
俺も小声で返した。
「当たり前じゃん! 噂広まるかもしんないし……」
「エレナ、最近も事務所の仕事
二人の会話が聞こえてきて、つい気になってしまう。
「あ、うん……今週も何回か事務所行かなきゃいけなくて」
「そーなんだ。ねー、テレビとか出たりしないの? それか雑誌とかー」
「ご、ごめん……守秘義務が厳しいから、まだ何も言えないんだよね」
ん……? ちょ、ちょっと待てよ。この声、どこかで聞いた覚えが……。
「また守秘義務かー。芸能界ってマジでそういうの厳しいんだね。女優の仕事かモデルの仕事かくらい教えてくれたってよくなーい?」
「……い、一応、女優、かな……。でも、みんなの目につくようなメジャーな仕事じゃないから、聞いても分かんないと思うよ」
「そーなんだー。でも、そのうちエレナをテレビで見られる日もくんだよね?」
「そ、それはどうかな……あっ事務所から電話だ! ごめん、出てくるね!」
三波という女子生徒が、スマホを持って立ち上がる。
そのまま三波さんは、スマホを手に俺たちのテーブル
「……っ!?」
三波さんの声がどうしても気になって、目で追ってしまったそのとき。
彼女のスマホ画面が
『着信中:アップロード』
彼女のスマホには、そう表示されていた。
その文字を見て、俺の中で
思わず立ち上がって、三波さんの後を追った。
「ちょっ、
「お
追いかけた先の
そこまで話して、三波さんは俺の姿に気付いて固まった。
「……あ……いえ、何でもありません。大丈夫です。それじゃあ、失礼します」
電話を終えた三波さんは気まずそうに俺を見た。
「あっ、す、すみません、盗み聞きするつもりなかったんですけど……」
「あ、いえ……」
三波さんはぺこりと
俺にはどうしても聞きたいことがあって、初対面だというのについ彼女を追いかけてしまった。
だが今この
だけど、今を
「あ、あのっ……!」
俺の声に、彼女は不思議そうに俺を見た。
「えっと、その……もっ、もし間違ってたら申し訳ないんですけどっ……『西園寺エミリー』の声優じゃないですかっ!?」
勇気を
この三波さんという人の声は、俺の好きなバーチャルYouTuber、西園寺エミリーに
配信のときと今とでは声の出し方が違うようだが、元の声が同じであるということは分かる。
そして、疑惑が確信に変わったのは、スマホに表示されていた電話の発信元である『アップロード』の文字。それは、西園寺エミリーが所属している業界最大手のバーチャルYouTuber事務所の名前である。
「……っ!?」
俺の言葉に、三波さんは
やっぱりこの反応、間違いない!
「ちょっとこっち……来て下さい!」
化学準備室へと入り、三波さんは念を入れてか
なんだこれ、女の子とこんな密室に鍵かけて二人きりって、これなんてエロ同人……
「あのっ……お願いします! そのこと、絶対誰にも言わないで下さい! それから、ネット上とかにも絶対
俺が
やはり、本人だったのか。
いや、それよりも……。
「え、あ、そんな、頭下げないでも、俺誰にも言いふらしたりしないし……」
「守秘義務があって、声優がわたしだって、絶対誰にも言っちゃいけなくて、事務所と
「守秘義務って、そんなに厳しいんだ……?」
「……わたしが自らバラしたら、事務所
「そ、そっか……。うん、絶対誰にも言わないし、ネット上にも絶対書き込まないから!」
三波さんの必死な様子に、俺はそう言った。
「ありがとうございます……。それにしても……どうして分かったんですか?」
「俺、『西園寺エミリー』の動画何回も見てるから、声
「……! わ、わたしの動画を、何回も……!?」
「ああ。めちゃくちゃ
「…………」
「えっと、噂で聞いたんだけど、三波さんってイギリス人とのハーフなんだね? 声優、なんであんなに日本語も英語もペラペラなんだろうって思ってたけど、本人もハーフだったからなんだ!? まだ活動始めてからそんなに
目の前に『西園寺エミリー』がいると思ったら、つい早口で語りまくってしまった。
三波さんは
や、やばい。喋りすぎて引かれたか……?
初対面でこんなに語ってしまうなんて、気持ち悪がられた?
「あ、ありがとう……ございます」
三波さんはやっと俺の顔を見たと思ったら、真っ赤な顔で礼を言った。
もしかして……俺の言葉に、照れていたのか?
「その……顔、見覚えないので、多分
「あっ俺は、二年の一ヶ谷!」
「二年生……。わたしは、一年B組の三波
『西園寺エミリー』の声優と、こうして知り合えるだなんて……夢のようだ。
「あの動画……好きなことしていいって事務所に言われたから、好きなゲームして、好きなこと語っちゃって……面白いって言ってくれる
三波さんは
三波さんの言葉に、俺の方がめちゃくちゃ嬉しくなる。
俺なんかの感想で、感動してくれたなんて……。
「いや、そういう意見は気にしない方がいいって! あんだけ人気があったら否定的な意見があるのも当たり前だし! じゃああれって、アドリブだったんだね」
「ある程度進行表はありますけど、アドリブが多いですね」
「ってことは、その……ほ、本当に
聞いていいのか分からなかったが、
「……変、ですよね」
三波さんは真っ赤な顔のまま、俺から視線を逸らして
「女なのに、百合好きなんて……。とてもじゃないけど、友達には言えなくて……。友達、オタクじゃない子ばっかりで、百合好きとか、こういう活動とか、バレたら絶対引かれそうで……」
二科もだが、三波さんも、どっからどう見ても、モデルでもやってそうなリア
「変なんかじゃないって! 百合って女子にも人気あるジャンルだってよく聞くし!」
俺が三波さんに
「ちょっと一ヶ谷~!? こっから声するけど、ここにいんのー!? いきなりどっか行くとか何考えてんのよーっ!?」
二科の声と共に、化学準備室の
やべえ! 二科を食堂に置いてきたこと、すっかり忘れてた!
「あー悪い! 三波さん、ここ開けていい?」
「あ、はい……」
三波さんに許可を取ってから、俺は鍵を開け、扉を開けた。
「あっ一ヶ谷! あんたこんなところで一体何して……」
二科は俺の姿を見て
「……えっ……な、なんで三波さんが……? え、え!? なんで一ヶ谷と三波さんが、化学準備室に鍵かけてその中に……!? ふ、二人っきりで一体、中で何してっ……!?」
二科は非常に驚いた様子で俺と三波さんの顔を
「あ、いや、別に何も……単に話してただけで……」
「単に話してただけって……こんなところで!? 鍵までかけて!?」
「はい、本当に話してただけなんです」
二人で弁明するも、二科は信じられないという様子だ。場所が場所だからな……。
「あ……! も、もしかして、オタク的な話だからこんなところでコソコソ話してたの?」
「え……?」
「いや、百合がどうのこうのって聞こえたから……。三波さんが、百合が好きだとかって……ごめん。
「! えっと……聞こえたのって、そこだけですか……?」
三波さんが心配そうに二科に尋ねる。どうやら、バーチャルYouTuber関連のことが二科に聞かれたかを気にしているみたいだな。
「え? うん」
二科はどうやら、三波さんがバーチャルYouTuberの声優だという話は聞いていなかったようだな。
「あの……そう、なんです。わたし、学校でオタクだってこと
三波さんが告げる。さっきの話からして、バーチャルYouTuberの声優だってこと、バレた相手はなるべく少ない方がいいのだろうな。
「でも二人って、今まで面識なかったんだよね? 一ヶ谷、三波さんのこと初めて知ったみたいだったし……」
「そ、それはその、えっと……俺がトイレに行こうとしたら三波さんが電話してて、その会話を聞いて、俺が声をかけちゃったんだよ! その電話で、オタク的な話をしてたから……」
俺にも責任があるので、どうにか
「ふーん……? 電話でオタク的な話?」
「あ、そ、そうです! わたしが、事務所と電話していたのを聞かれて……。えっと、実は……わたし、声優の事務所に入ってまして……」
「え、声優っ!? うそ、すごーい! アニメとか出てるの!?」
三波さんの言葉に、二科が興奮して
バーチャルYouTuberの声優って新人声優が多いらしいが、やはり三波さんもそうだったのか。
「まだ新人なのでモブ役くらいで、ほとんどお仕事はできていない状態でして……」
「そーなんだ!? でもすごいよー!」
「あの、私がオタクだってことと、声優やってるってこと、学校では
「
二科は三波さんに力強く言い切った。
「……そう、だったんですか……ありがとうございます」
三波さんは二科の言葉に安心した様子だった。
二科の
「そっかー、二人がこんなとこにいたときはびっくりしたけど、そういう話してたってわけねー! じゃ、これから隠れオタク同士
「はい、こちらこそ! ……あっ! すみません、わたし食堂に友達待たせてまして……」
俺たち三人が食堂へ
「あ、ライン来てた……今日バイトあるから先に帰るって……」
「あのさ三波さん、そしたら、ちょっと食堂で話してかない? 女子のオタク友達って初めてだから嬉しくって……」
「あ、
それから俺たちは、まず簡単に自己
「それにしても、意外でした。二科先輩がオタクだなんて……」
「え、私のこと知ってたの?」
「はい、有名人ですから。オタクとは真逆の方だって思ってました」
「あはは……」
「その……お二人は、オタク友達、ってやつなんですか……?
「え!? えっと……少し前に、学校以外の場所で
二科が説明するが、
「協力?」
「えっと……まあ、三波さんにはいいよね!」
二科は俺の方を見て軽く
「私も一ヶ谷も、オタクの
と説明した。
まあ、三波さんに隠す必要もないし、三波さんも秘密を教えてくれたわけだからな。
「オタクの恋人……なるほど」
「三波さんは彼氏いるの?」
「……っ! い、いえ……わたしは、そういうの……興味ないので」
「えーっそうなの!? めっちゃモテるだろうに!」
「それに、事務所から
「あ、やっぱりそういうのあるんだー!? 声優って、恋愛スキャンダルは下手したら
とりあえず、西園寺エミリーファンの俺からしたら、声優に彼氏がいなくて、その上当面作る予定もなさそうで、心から安心した。
「二科
「私、絶対オタク男子と付き合いたくてさー。でも学校ではオタク隠してるから、なかなか出会える機会がなくて」
「そうなんですか……」
「三波さん、手っ取り早くオタクの彼氏作る方法知ってたりしない!?」
「おまっ、三波さんになんてこと聞いてんだよ!?」
「オタクの彼氏を作る方法……」
三波さんは二科の質問に
「オタクの、っていうのは難しいんですけど……そういえば友達が、最近マッチングアプリ? っていうので彼氏ができた、って言ってました」
「マッチングアプリ……!?」
聞き慣れない単語に、俺も二科も食いつく。
「その子がやってたのは、友達を作るアプリみたいです。私はやってないんですけど、結構
「へぇ~、そんなアプリがあるんだ」
二科が少し興味ありげに返事をする。
アプリでの出会いって
それだったら、オタク趣味の女子だって探せるかもしれない。
そこまで話したところで学校が閉まる合図のチャイムが鳴ったので、今日は帰ることになった。
「あ、そーだ! ライン
「あ、はい。是非お願いします!」
その場で、二科と三波さんはQRコードでラインを交換していた。
クソ、羨ましい! 俺も、三波さんと交換したい……!
「あ、あの……良かったら、一ヶ谷さんのラインも教えてもらえませんか?」
「……えっ!? う、うん、勿論!」
三波さんの提案に、内心めちゃくちゃ
QRコードを出して、ラインを交換する。なるべく平静を
三波さん、なんで俺にまでライン聞いてくれたんだ? 社交辞令的なアレだとしても、めちゃくちゃ