【全文公開】同棲から始まるオタク彼女の作りかた 1巻

4-2

 それから二科は、早速自室に閉じこもってコスプレの準備を始めたようだ。


 数十分後。

「……!」

「どう!? 『えない彼女ヒロインの育てかた』のとうめぐみ!」

 部屋から出てきた二科を見て、思わず息をのむ。

 アニメ化もした人気ライトノベル『冴えない彼女の育てかた』のメインヒロインである、『加藤恵』のコスプレをしていた。

 せいな白いワンピースに赤いカーディガンを羽織り、深い茶色のボブカットのウィッグを着け、その上にベレーぼうをかぶっている。

 好きなキャラクターだったため、二次元から出てきたかのような二科の姿に内心めちゃくちゃテンションが上がってしまう。

 昨日のユメノ☆サキコスプレのような、いかにも二次元という感じの格好も良かったが、加藤恵のような清楚なコスプレもすごく似合う、と思った。

「お前、男性人気がある作品はくわしくなかったんじゃ……?」

「『冴えカノ』はたまたま深夜にやってたアニメ見てからハマって、特に恵が好きでコスプレ衣装まで買っちゃったんだよね~! じゃ、早速写真撮ってくんない?」

「あ、ああ……」

「場所はー、うーん、どうしよっかなー。この辺だったら背景にかべしか写らないから、ここで撮って!」

 ソファーに座り、背景に壁しか写らない位置で、二科は俺にスマホをわたす。二科のスマホでは『SNOW』という見覚えのないカメラアプリが起動していた。ただでさえ美少女の二科が、このアプリだとさらに盛れている。

「ちゃんと可愛く撮ってよ!? ちゆうでちょいちょいかくにんするから!」

 それが人に物をたのむ態度かよ、と思いつつ。

「じゃ、撮るぞ」

 さつえいを始める。つうに考えたら、好きなジャンルのこんなに可愛いコスプレイヤーを一対一で撮影できるって、オタクにとってかなりごほうだよな……。

 少しきんちようして、手がふるえてしまいそうになるのを必死でこらえた。手が震えたら、カメラがブレてしまう。

 二科が一枚撮るごとに少しずつポーズを変える。

「んー、すでにポーズ尽きてきたなー……」

 二科が普通に座っていた状態から体勢を変えて、まえかがみになってテーブルの上にひじをついた。

 前屈みになったことで、ただでさえまあまあ開いていたむなもとさらに開いて、白い胸元が大きく見えてしまう。下着が見えてもおかしくないというくらいに……。

 うおお、これはやばい、やばいぞ……。注意すべきか? と思ったが、そんなことできる度胸は俺にない。どこ見てんだよキモい、とか言われそうだし……。

 二科って、服の上からじゃ分からなかったが、まあまあ胸あるんだな……。

「じゃ、今度はゆかに座るから」

「あ、ああ」

 二科は床にペタンと座ってポーズをとった。撮影を再開する。

 それにしても……スカート、かなり短いな。スカートとニーソの間の絶対領域がまぶしい。……スカートの下にスパッツとかは穿いているのだろうか?

 いや、何考えてんだ俺。そんなこと考えながら撮ってるってバレたら、間違いなくおこられる。無心で撮らなければ……。

「んー、ポーズいっぱい変えんのって結構大変だな……」

 しかし、二科が座り方を変えたり足の角度を変えるたびに、スカートの中が見えそうになってしまい、はや気が気じゃない。

 あんなに上の方までふとももが見えているのにスパッツらしきものが見えないということは、もしや、スパッツとか穿いてないのか……?

 二科が次のポーズ……体育座りをしようとしてひざを立てる。うおお、そんなことしたら完全にパンツが……!

「あっ……!」

 次のしゆんかん、すぐに二科は膝を下ろしてスカートを押さえた。

「ちょ、ちょっ……み、見てない……よね!?」

 二科は顔を真っ赤にしてあわてた様子で俺に聞く。

 ってことは、やっぱりこいつ、下はパンツなのか……!?

「……っ! み、み、見てないって!」

 俺は慌てて首を左右にって答えた。

「ちょっと今までに撮った写真見せて!」

 二科にスマホをふんだくられる。撮ってもらった相手に対する態度かよ……! と思ったが、言わないでおいた。

「……、うわっ……ちよう写り悪い! 最悪! もっと設定明るくするとか場所移動するとか色々あるじゃん!」

「え!? どこが写り悪いっていうんだよ! めっちゃれいに撮れてんじゃねえか!」

「これなら自撮りの方が全然上手うまく撮れてるし! ……っていうかちょ、これ……胸見えそうじゃん! こういうのちゃんと注意してよ!」

 さっきの写真に気付いて、二科は顔を真っ赤にさせて怒り始めた。

「え、いや、だ、だって……」

「ギ、ギリギリ見えてない、けど……なんで言ってくんないの!?」

 二科は見たことないくらい顔が赤い。怒っているのもあるだろうが、それ以上にずかしがっているようだ。

「お、お前が勝手にそういうポーズとったんだろ! 俺はそんなもん撮ろうとなんかしてねえし!」

「あーもー最悪! あんたなんかに頼んだ私がバカだった!」

「人に撮ってもらっておいてその言いぐさかよ!?」

「もう頼まないから安心してよね!」

 二科は捨て台詞ぜりふくと、そのまま自室へけ上がっていった。

 くそっ、やっぱりどこまでも自己中心的な女だ。


 しかし……家でコスプレした写真をツイッターに上げて、そんな簡単にイケメンレイヤーと出会えるもんなのだろうか。

 ああ、俺も良い顔の作りに生まれていれば、イケメンコスプレイヤーとして美少女コスプレイヤーからモテまくっていたかもしれない。いや、そもそも良い顔に生まれていれば、それ以前にモテモテになれて彼女できてんだろ、もうそうはやめよう……。


「できた! めっちゃ可愛かわいく加工できたわ!」

 数十分後。

 二科が自室からリビングにもどってきて、俺にスマホ画面を見せつけてきた。

 こいつ、さっき怒ってたのもう忘れてんのかよ。なんて単純なやつなんだ。

 二科のスマホ画面に目を向けると……。

「うわ……」

 確かに、二科とは分からないくらいの顔になっていた。

 元々見た目だけはかんぺきな美少女なのに、それをさらにいじりまくっている。

 目はさらに大きくされ、ひとみには不自然なハイライトが入れられている。まつも加工でバシバシになっており、かみも不自然なくらいつやつやになっていた。

 確かに美少女ではあるが、まるでCGのようだ。

「どう!? ちようぜつ可愛くない!?」

「不自然すぎるな。人間味がない……」

「でも、私だとは分かんないでしょ?」

「まあ、確かにそうだけど……」

「よーし、早速ツイッターアカウント作って、今日から写真せまくるわ! そんでもって、ゆくゆくは、あこがれのイケメンコスプレイヤー『ばんび』さんと合わせ……!」

 二科は目をかがやかせて決意表明した。

 そんな二科を、俺はただぼうかんする。

 ここまで出会いちゆうきわめていると、むしろすがすがしい。

 二科とちがって容姿にめぐまれていない俺は、地道に、コスプレという道以外でのオタクの出会いの場を探すしかない……。


    * * *


 一週間後。

「見て見ていちっ! ついにフォロワー千人とつ! すごくない!?」

 夕食後、二科にツイッターのトップ画面を見せられる。

「コスプレ動画とかも上げてたらイイネめっちゃもらえるようになってー!」

「へ、へえ……すげえな」

「今度合わせしましょう~って言ってくれるレイヤーさんもいて! ほら、人気バーチャルYouTuber『アイト ユウキ』ちゃんのコスプレイヤーさんなんだけど、めっちゃ可愛くない!? 私がサキちゃんのコスプレして、バーチャルYouTuber合わせすんの!」

『アイト ユウキ』とは、ボーイッシュ系の美少女バーチャルYouTuberであり、『ユメノ☆サキ』の次に人気がある。確か、あいもコスプレしてたな。

 バーチャルYouTuber合わせか。それはとても楽しそうだし、見てみたくもあるが……。

「なんか順調にコスプレイヤーの道をき進んでる感じ!? やりたいコスプレもたくさんあるし、まだ宅コスしかしたことないから、今度イベントに行ってみたいのよねー! 会ってみたいフォロワーさんもいるし! ねえ、カメラマンとしてついてきてくんない!? 一人でイベント行くのってハードル高くてさー」

「あのさ、二科……それで、本来の目的の方はどうなんだ?」

「え? 本来の目的……?」

 二科は心底不思議そうな顔で聞き返す。

 まさかこいつ……忘れてやがるのかっ!?

「お前そもそも、憧れの男性レイヤーとつながるためにコスプレアカウント作ったんだろ!?」

「……っ!」

 二科は俺の言葉に、暗い表情になる。

「……も、もちろん覚えてるわよっ! でも……憧れのイケメンコスプレイヤー『bambi』さんフォローしてみたんだけど、フォロバされないし……レイヤー仲間多いみたいで身内でめっちゃからんでるし、信者も多くて……ぶっちゃけ、めっちゃ絡みにくいのよっ! 知り合いでもなんでもない新参者のレイヤーが合わせになんてさそったら、めっちゃたたかれそうだし、本人に断られたり無視されたら立ち直れないほどへこみそうだし……」

「え……それじゃ、コスプレアカウント作った意味なくね……?」

「そ、そそ、そんなことないわよっ! コスプレの楽しさを知れたし! 女の子のレイヤー友達も作れたしっ!」

 二科は自分自身に言い聞かせるかのように強い口調で言い切る。

「当初の目的完全にどっかいったな……」

「……っ! う、う、うるさいうるさいうるさーいっ! い、いいのっ! これからもしゆとしてコスプレを楽しんでやるんだからーっっ!」

 二科は俺の突っ込みに、ヤケクソ気味になみださけんだ。

 やはり、コスプレでこいびとを作るなんて、ぼうだったんだ……。

 ここ最近の二科の努力を思うと、さすがに少しびんである。

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