ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編 1

〇実力とは

 21世紀にも親しみを覚えるようになって久しい、そんなある年。

 世界が様々な問題に直面している中、日本も同様に転換期を迎えていた。

 少子高齢化、環境問題、国力の低下。衰退していく日本社会。

 それらを根本から立て直すため、政府は人材育成に強く取り組み始めていた。

 そして、その政策の内の1つとして誕生した高校が存在する。

 全国から様々な生徒を集め、世界に通用する若者を育成するための学び舎。


『高度育成高等学校』


 この学校最大の特徴は、中学までの成績を問うわけではないという部分だ。

 学校独自の選定基準によって選ばれた生徒は、男女共に様々な特徴を持ち合わせている。

 勉強は出来るがコミュニケーションは苦手とする者。運動は得意だが勉強は不得意な者。

 あるいは何一つ取り柄がないような生徒も、一緒くたにして教育を受けさせる。

 通常の高等学校では、まず考えられないような仕組みだ。

 そうした多種多様な個性を持った生徒たちに集団で生活をさせ、クラス単位で競わせる。

 競争社会で戦えること、集団で生き残るために必要な下地を作ることが目的なのだろう。

 そして不適格者の烙印を押された生徒は、容赦なく退学という運命を辿る。

 勉強が出来るだけでも運動が出来るだけでも、この学校では生き残ることが出来ない。

 1学年は4クラスに分かれており、AクラスからDクラスまで。

 入学時にはどのクラスにも大体40名の生徒が割り振られている。合計160名。

 更に詳しく、この学校が他の高校とは大きく異なる部分を紹介する。

 まず基本的な話になるが、卒業するまでの3年間、生徒は外部と連絡が取れなくなる。同時に学校の敷地から出ることを禁じられ、寮での生活を強制されることになる。とは言え学校は広大な敷地面積を誇っており、生徒のために用意された施設も充実しているため生活に困ることはない。ケヤキモールと呼ばれる生徒及び学校関係者専用の大型商業施設では、カフェから家電量販店、理髪店にカラオケと、必要とするものはほとんど揃っている。もし売っていないものがあったとしても、インターネットを経由して購入することが可能だ。

 更に、日々の生活で購入をする際に必要となるお金は『プライベートポイント』と呼ばれる形で支給され、1ポイント1円と分かりやすく現金の代わりに使うことが出来る。

 ただし、このプライベートポイントは無限に湧き出てくるわけじゃない。

 毎月『クラスポイント』に応じた数値×100がプライベートポイントとして支給される。

 つまり生活のために必要なプライベートポイントを貯めるには、まずクラスポイントを確保することが重要になってくる。

 このクラスポイントを増やすには幾つか方法があるが、代表的なモノは『特別試験』と呼ばれる学校から与えられる課題をクリアすることだ。

 基本的に4クラスで競い合い、上位がクラスポイントを得て、下位がクラスポイントを失っていく。1000ポイント持っていれば、毎月そのクラスの生徒たちは現金にして10万円分のお小遣いを得ることになるし、逆に負け続ければクラスポイントは容赦なく0となり、毎月支給されるプライベートポイントも0になってしまう。

 クラスポイントとプライベートポイントの表裏一体の関係はクラスポイントを貯めさせることで、考え方の違う生徒たちを団結させる仕組みでもあるのだろう。充実したクラスポイントを持つということは、充実した学校生活を保証する意味も持つからだ。

 しかし、高度育成高等学校の魅力はそれだけじゃない。

 学校最大の『売り』はAクラスに在籍した状態で卒業を迎えることにある。勝ち抜いた生徒は望みのままに進学や就職を叶えることができる。極端な話、最難関の難易度を誇る大学だろうと、大手一流企業であろうとフリーパスでの合格が約束される。とは言え、それだけで楽観視出来るわけではない。合格した後自分の実力が伴っていなければ、やがてふるい落とされることは明白だからだ。

 それでも極めて魅力的な恩恵であることは疑いようがないだろう。

 これで高度育成高等学校の概要は伝わったんじゃないだろうか。


 オレ───綾小路清隆は、まさにこの注目の学校に通う生徒。

 そして、これから高校2年生を迎える。

 4月1日時点、オレが在籍する『Dクラス』のクラスポイントは275ポイント。毎月3万円近くのプライベートポイントが入る状態だ。ちなみに、現在1位の坂柳さかやなぎ率いるAクラスのクラスポイントは1119ポイントと圧倒的。それを追うのが、一之瀬いちのせ率いるBクラスの542ポイント。そしてその僅か後ろに、龍園りゆうえん率いるCクラスが540ポイント。

 他クラスと比べると大きな差ではあるが、それでも差は詰まった方と言えるだろう。

 これからの1年間で、どれだけ距離を縮められるかが勝負の分かれ目になる。

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