第一章『星の涙が降り注ぐ街』 その２
「まったく
「そうだな。本当に
待ち合わせ場所は、繁華街の中心にあるハブ駅。
より正確には、そのすぐ近くに出店しているアクセサリーの露店の前だ。
僕が着いたときにはすでに、待ち合わせの相手はそこで待っていた。さっそくのように遠野が
「いや。それをわざわざ私に言う
さっき僕が遠野に言ったことを、今度は僕が言われてしまった。
「なら、それも含めて遠野が悪いな」
「意味がわからないよ」
肩を
気づいたときには、彼女は僕を伊織先輩と呼んでいた。そんな印象がある。
変わり者ではあるが、今となってはそれなりに親しくしている。ときどき会うのだ。
「それはともかくとして、小織。何やってんだ、お前？」
今日ここへ来た理由は単純で、小織に呼び出されたから。
特に予定もない僕は、呼ばれるがままにこの怪しい露店までやって来たのだが、小織がまるで店主のように、広げられた商品の奥側に座っているのは予想外だった。
「いやいや、伊織先輩。露店を広げている人間を見て、何やってるもないだろう？」
薄く笑う小織。いつものことだが、あまり年下と話しているという気分にならない。
クールな性格の奴だ。小織という名前に、色素の薄い白銀めいた髪も相まって、僕よりよほど氷点下という呼称が似合いそうな奴だった。別に冷たい性格ではないのだが。
「そうじゃなくて。なんで小織が露店を広げてるのかって話なんだけど」
この露店の──この場所でよく
疑問する僕に、小織はあっさりと答えた。
「まあちょっとしたバイトというか。今日から、お手伝いさんを始めたんだよ」
「お手伝いさん？ あの、
「別に、ナナさんは悪い人じゃないと思うけどね。まあ、こういうのも経験だろう」
──というわけで！
と、小織は強引に話を切り上げる。露店でバイトとか採算はどうなってんだ？ なんて突っ込む暇すらない。
「ぜひ伊織先輩も、何か買って行ってくれ。私が役に立つところを見せないとだからね、手っ取り早く知り合いを呼んでみたんだ。毎度ありがとうございます、ってね？」
「そんな、ノルマを果たすために知り合いにチケットを売るインディーズバンドか小劇場役者のような手を……」
「突っ込みが回りくどいよ。ほら、女の子へのプレゼントだと思って」
「渡す相手とかいないんだけど」
「知ってる。今のは、ここでお金を落とすことが、私へのプレゼントって意味だよ」
なかなかに
──この街の都市伝説を下敷きにしたそれは、《星の涙》のネックレスだった。
「
空から落ちてきた透き通る石、《星の涙》に願いを託せば、なくしてしまったいちばん大切なものを、二番目に大切なものと引き換えに取り戻すことができる──。
あくまで《取り戻せる》というのがポイントだ。そいつは一度、大切な何かを失った者だけが、初めて祈ることなのだから。弱みにつけ込んでいると言い換えられる。
「一番人気の売れ筋だよ？ 最近じゃ中高生が
「そういうところを指して言ったつもりだけど。悪いことは言わんから、ナナさんとは早々に縁を切ったほうがいいぞ。ああいうアンチ社会人は、
着流し姿で街を歩く、怪しいフーテンのお兄さん──なんて。教育に悪すぎる。
年齢不詳で年中和装という、全身これ不審者と言わんばかりの男だが、なぜだかやけに女子中高生から人気なのがまた腹立たしい。
思わず苦言を呈する僕に、くすりと微笑して小織が言った。……カッコいい子だ。
「そのナナさんから、
「伝言？ ナナさんから……？」
「『あいつがきちんと売り上げに貢献したら伝えてやってくれ』とのことだ。それを先に言うのは不義理だから、買うまで黙っていたけれど。ま、おまけがついたと思ってよ」
「…………」
怪しい自由人の見透かしたような言葉に、僕は思わず閉口する。
この微妙な感情を知ってか知らずか、小織は微笑を
「──今日は、夜空が
