(14)ヘルメット
少し遠回りしてアパートに帰った小熊は、夕飯を食べながら思案した。
顔と目に当たる風がスピードを上げる障害になっているのなら、その風を防御すればいい。
余りご飯で作った卵とネギ、
部屋でいつも聞いているラジオを流しながら、片手でチャーハンを口に運び、ヘルメットを眺める。
カブを買った時にサービスでつけて
顔以外を覆うシンプルなオープンフェイスタイプのヘルメットで、Sサイズの帽体は小熊の頭にピッタリ。ついでに白一色の地味な外見もどうやら自分にお似合いなんだろうと思った。
以前高校の農業実習で被った作業用安全帽と比べても、とても被り心地がいい。風対策さえ出来ればこれから先もずっと使えるに違いない。
ヘルメットをあちこち眺めた小熊は、外で見かける他のバイク乗りみたいに、この顔面の開口部に透明な覆いをすればいいんじゃないかと思った。ヘルメットにはそれを固定するためらしきスナップボタンも付いている。
ヘルメットというのはどこで買うのか、その透明な覆いだけを買うことは出来るのか、小熊はチャーハンのフォークをくわえながら手に持ったヘルメットをひっくり返した。
まだ真新しい樹脂の匂いがする内装。パッド部分を指で引っ張った。ベルクロで固定されたパッドはベリっと
パッドの奥にタグがあったので見てみる。アライヘルメット特有の検品責任者のハンコが押印されたタグと、製造元が印刷されたラベル。
本社はさいたま市大宮。ここまで買いにいかなくてはいけないんだろうか?
山梨の北寄りにある
このヘルメットをどうにかしようと思ったけど、わかったのは何もわからないということだけ。
奨学金暮らしのアパート。情報を得られるものはラジオとウェブの使えない契約の携帯電話だけ。資料を探しに行こうにもここから一番近い書店は、車で三十分はかかる
これ以上考えても得られるものは無さそうだと思った小熊は風呂に入り、教科書をめくる程度の予習復習を済ませて布団に入った。
枕の横にヘルメットを置いて眠りについたが、夢の中でも答えは出なかった。
翌朝。
相変わらず顔のところが無防備なヘルメットを被り、カブで学校に向かう。やっぱり今までの速度では大丈夫だけど、それ以上のスピードを出すと風や空気中のゴミが目に当たる。
この季節よく飛んでいる虫でも目に飛び込んできたら、カブの操縦どころじゃなくなるだろう。
このヘルメットの防護、防風は、安全に
小熊はこの問題を先延ばしにせず、早急に解決しなくてはいけないと確信した。
転じて考えれば、風対策さえ成されれば、カブでこれ以上のスピードを出す上での障害は他に無い。
最大の障害になるかもしれない、赤い点滅灯を屋根に乗せた白黒の車のことについては、事態の複雑化を避けるべく今は考えないことにした。
カブを駐輪場に停め、ヘルメットを後部の鉄製ボックスに収納する。隣に停まっている改造された郵政カブを見て、礼子はどうしてるのかな?と思った。
朝の礼子は相変わらず無愛想で、今日は道路地図を熱心に読んでいた。
昼の授業を受ける。もうすぐ期末試験の時期。きっと今回も普通に試験勉強をしていれば普通の成績を取れるんだろう。
予想外の事など何も起きない学校の勉強は、カブのように小熊をひっきりなしに困らせることも無い。
小熊はカブのシートに座って食べるお弁当に思いを