二:落第剣士と剣術学院 8
故郷のゴザ村に帰り、母さんとも相談した結果──俺は千刃学院からの
どうやら推薦入学というのは、自動的に合格
それを初めて知ったときは、かなり不安に思ったけど……。「面接で落とされたなんて話は、これまで聞いたことがない」と校長先生が言っていたので少しは安心できた。
そして今日がその千刃学院の面接の日。
服装に指定はなかったので、俺はグラン
「それにしても、とんでもない数の人だな……」
俺は今日生まれて初めて、この国の都──オーレストの地を
「ふーっ、なんとか無事に着いたな……」
時刻はちょうど十六時四十五分。面接開始予定時間の十五分前、ちょうどよい時間だ。
それから俺は、正門を警備している人に受験票を見せて学院内へ入れてもらった。
面接会場は第三校舎の三階──その
(第三校舎は……っと、この建物だな)
目的の建物に入り、階段を上って三階に到着した瞬間──思わず息を
(こ、これは……っ!?)
そこには大勢の受験生の姿があった。彼らのボロボロになった体と血の
(す、
五学院の入学試験は、どこも
それから俺は目立たないように、小さくなって
「お、おいおい、マジか!? 今入ってきた男、あの
「すげぇな、信じらんねぇよ……。いったいどこの有名剣術学院の出身だ?」
「見たこともない制服だが、とんでもない実力者ってことは間違いないな……っ」
いったいどういうわけか、この場にいる全員の視線が俺に集中してしまった。
(な、
彼らはジッとこちらを見ながら、こそこそと小さな声で話し合う。
(よ、よくわからないけど……。とにかく気付かないフリをしておこう……っ)
俺はなんとも言えない
「受験番号723番アレン=ロードルは
院内放送が鳴り響き、ようやく視線の的から
(え、えーっと……。確かノックは三回……だったよな?)
事前に読み込んできた面接対策の教本を思い出しつつ、大きく深呼吸をした。気持ちを落ち着かせ、
そうしてコンコンコンとノックしてから、ゆっくりと
「──失礼します」
部屋の最奥には三人の面接官が座っており、彼らの対面には丸椅子が一つ置かれていた。
俺がそこへ腰かけると、面接がすぐに始まった。
「これより面接を開始いたします。まずは受験番号とお名前をお願いいたします」
「じゅ、受験番号723番、アレン=ロードルです」
そう答えると、すぐに別の面接官が質問をしてきた。
「では次に自分の長所を教えてください」
「長所はその……
自分の長所として、パッとすぐに思い
「ほぉ、忍耐力ですか……。それは具体的にどのぐらいのものですか?」
「そうですね……。十数億年もの間、ずっと
「じゅ、十数億年ですか……? それはとてつもないですね……」
「はい、本当にとてつもない経験でした」
あれは本当にもの凄い経験だった。今「もう一度やりたいか?」と問われれば、少し
「は、反対に……短所はどういうところでしょうか?」
「短所ですか。短所は……
そう、あのとき──何の考えもなしに一億年ボタンを押した、押せたからこそ今の俺があるんだ。これは長所でもあり、短所でもあるだろう。
「は、はぁ……あのとき、ですか……?」
「はい」
「……」
「……」
面接官は次の質問を考えているのか、少しの間だけ押し
「え、えーっと……そ、それでは続きまして、所属流派を教えてください。それと得意な
「流派はその……お
俺は立ち上がって剣を抜き放ち、背後の案山子に目を向ける。
それから大きく深呼吸をしてから、一気にその剣を振り切った。
「八の
その瞬間、八つの
「んな!?」
「斬撃が、八つに分かれた……!?」
「しかも、何という
試験官は三者三様の反応を見せた。
(よしよし、
そうして俺が剣を
「あ、ありがとうございました。これにて面接は
こうして無事に面接は終わった。
「──失礼します」
最後に一度礼をしてから応接室を出る。それから階段を下り、
「ふぅー、終わったぁ……っ」
さすがにかなり
(やることは
そうして俺は、ちょっとした
■
アレンが退室した後の面接室では、何とも言えない
「それにしても……おかしな生徒でしたなぁ。何を言っているのか全くわからなかった。推薦とはいえ……本当に合格させても
「確かに、何を言っているのか全くわかりませんでしたね……。しかし、彼はレイア理事長が
「うぅむ、アレで我流ですか……。まともな師がつけば、あの子はきっと化けますよ。……正直、何を言っているのか全くわかりませんでしたが」
面接官の意見は、『何を言っているのかわからない』という点で完璧に
■
数日後、千刃学院から一通の封筒が届いた。おそらく……いや間違いなく、合否についての
「ふーっ……」
何度か大きく深呼吸してから、ゆっくりと開封していった。中には一枚の大きな紙が入っており、そこには大きく二文字でこう書かれていた。
「……合格」
そう、合格だ。
「──ぃよっし!」
推薦入学だから受かって当然と言われればそれまでだけど、やっぱりとても
(まさか自分があの名門千刃学院に通えるなんて……まるで夢のような話だ!)
ほんの一か月前までは、『落第
それから俺はすぐに部屋を飛び出し、ポーラさんへ報告しにいった。
「ポーラさん、やりました! 俺、あの千刃学院に合格しました!」
「ほ、ほんとかい!?」
ちょうど昼食の
「はい、これを見てください!」
俺が手に持つ合格証書を
「おぉ、こいつは凄い……っ! おめでとう、アレン! 故郷のお母さんもきっと喜んでいるよ! もちろん、このあたしもね!」
ポーラさんはそう言って、まるで自分のことのように喜んでくれた。
「っと、こうしちゃいられない。今日の
「ありがとうございます!」
それから母さんにすぐ手紙を送り、その晩はポーラさんの作ってくれた料理で
その数週間後、グラン剣術学院の卒業式が終わり──ついに『その時』がやってきた。
荷物をまとめた俺は、玄関まで見送りに来てくれたポーラさんに深々と頭を下げる。
「──ポーラさん。三年間、本当にお世話になりました」
千刃学院は
つまりポーラさんとは──三年間ずっと生活してきたこの寮とは、今日ここでお別れだ。
「全く、一々
彼女は軽くそう言ったけど……。俺はちゃんと感謝の言葉を伝えておきたかった。
「ポーラさんには、感謝してもしきれません。ほとんど無一文だった俺をここに
これまで
「や、やだね、あたしったら!
ポーラさんはそう言って、目元をゴシゴシと
「腹が減ったらいつでも帰ってきな! メシならいくらでも食わせてやんよ!」
「はい、ありがとうございます!」
彼女の料理は絶品だ。あの
「それでは……そろそろ行ってきます」
「あぁ、千刃学院だか万刃学院だか知らないけど……。行くからにはてっぺん
「はい!」
こうして俺は『グラン剣術学院の落第剣士アレン=ロードル』を卒業し、五学院の一つ──『千刃学院の剣士アレン=ロードル』となったのだった。