二:落第剣士と剣術学院 4
剣武祭開始の五分前。俺は開会式に出席するために会場へ
剣武祭の会場は、とてもシンプルな造りだ。中央に置かれた大きな石
現在は剣武祭の責任者が舞台上で剣武祭のルールを説明していて、参加する大勢の剣士たちがその周りで静かに聞いている。
対戦形式は一対一の決闘方式。石舞台から落ちれば、その時点で敗北。
そうしてルール説明が終わったところで、いよいよ剣武祭が始まろうとしていた。
「それではこれより、第一試合の組み合わせを決定
「第一試合は──バブル=ドミンゴ選手対アレン=ロードル選手! 両選手は、
「……一番か」
理想を言えば、何戦か他の剣士の戦いぶりを見てからがよかったけど……。決まってしまったものは仕方がない。俺は
「おいおい、誰かと思えばさっきの負け犬じゃねぇか! こりゃ、
(もしかしてと思ったけど、まさか本当にさっきぶつかってきたあの大男だったとは……)
奴の安い挑発を聞き流していると、実況者が手元の紙を読み上げる。
「えー、こちらの事前情報によりますと、バブル選手の流派はあの
その瞬間、会場がドッと
「ぎゃはははは! バブル、お前くじ運がいいじゃねぇか! 早くも一勝いただきだな!」
「おい、
「ぷぷぷ……っ。
当然ながら、正面に立つバブルもその例に
「おいおいおい、
奴は
俺は確かに強くなった。しかし、それはあくまでグラン
(俺はまだまだ、だな……)
世界は広い。これを知れただけでも剣武祭に出た価値はあった。
とにかく今は、胸を借りるつもりで──全力でぶつかろう。
「──お願いします」
俺は軽く頭を下げ、試合開始の合図を待った。
『たとえ相手がどれだけ失礼な奴でも、人として最低限の
それから俺とバブルは開始位置についた。
「両者準備はよろしいですね? それでは第一試合──始め!」
実況が試合の開始を告げると同時に、俺たちはすぐさま剣を引き
俺はへその前に剣を置く──正眼の構え。一方のバブルは、大剣を大上段に構えた。
(十数億年を経て、俺の剣がどれほど成長したのか……。この剣武祭で
そのためには、受け身でいては
だから今回は、先手を打つことにした。俺は正眼の構えから、
「一の
十数億年の修業で身に付けた飛ぶ
(さぁ、どう出る……!)
(なるほど……。ギリギリまで引き寄せて、最小の動きで
人としては失礼な奴だけど……こと剣術においては、やはり俺よりも格上のようだ。
すると次の
「──ぱがら!?」
バブルの鼻っ柱に飛影が直撃し、奴はそのまま軽く場外まで
「……え?」
予想外の事態に俺が混乱していると、実況者が試合の結果を高らかに宣言した。
「しょ、勝者! アレン=ロードル! な、ななな、なんということでしょうか!? 大方の予想を裏切って、この小さな剣士はたったの一撃で試合を決めてしまいましたぁ!?」
それと同時に観客や剣士たちは、大きくざわめきを見せた。
「な、なにが起きたんだ……?」
「なんか一瞬、めちゃくちゃ速い『ナニカ』が飛んでいかなかったか!?」
「そ、そんなの全く見えなかったぞ!?」
あまりのあっけなさに、俺は
「う、
もしかしたら俺は、自分が思っているよりもずっと強くなっているのかもしれない。
■
アレンとバブルの試合が終わった直後、剣武祭運営委員は
しかし、それも無理のないことだ。
「こ、こんな地方の剣武祭に足を運んでいただけるとは……! た、大変
剣武祭の責任者である初老の男は、激しく
それに対して、レイアは少し申し訳なさそうに
「わざわざこんなVIP席を用意していただかなくとも、私は
実際これは、本心からの言葉だった。彼女は剣武祭を視察すべく、一人の『観客』としてここへ来た。それが
「い、いえいえ! そういうわけにはいきません! むしろこんな場所しか用意できず、大変申し訳ございません……っ!」
恐縮しきった様子の男は、そう言って平謝りをした。彼がこのような態度を取るのには、当然ながら理由がある。
五学院の理事長は、広大な社会的
剣武祭の責任者である彼が、このように恐縮してしまうのも無理のない話だった。
「そんなにかしこまらないでください。今回は剣武祭を──というよりは、剣武祭の出場選手を見に来ただけですから」
レイアは運営委員の
「最近は千刃学院のさらなる発展のため、あちこちに足を
かつては
前理事長は成績低迷の責任を取って辞任し、今年開かれた理事長選挙によってレイアが新理事長に就任した。そして彼女は学院復興のために各地の有望な剣士を視察し、その実力が確かならば学費
生徒の質を一気に改善することは難しい。そのため、一部の
「なるほどなるほど! するとお目当てはやはり、前回優勝者の『賞金
少し緊張のほぐれた剣武祭の責任者は、レイアにそう問い掛けた。
「えぇ、もちろんです。『賞金稼ぎのローズ=バレンシア』──一度この目で見ておきたいと思いまして」
もしも
「左様でございましたか。私は前回大会のときに賞金
「それは楽しみですね。ですが、私は賞金狩
「……と、言いますと?」
「もしかすると思わぬ『
レイアはそう言って、