二:落第剣士と剣術学院 5

 初戦の相手バブル=ドミンゴを一撃でたおした後、俺は破竹の勢いで勝ち続けた。

 その結果は五戦五勝──まさかこんなことになるとは、夢にも思っていなかった。

 そうして気付けば、次はいよいよ優勝をけた決勝戦だ。

 ようやく試合の準備が整ったのか、実況がアナウンスを開始する。

「お待たせしました! それではこれより、決勝戦を開始いたします! 組み合わせはもちろん──ローズ=バレンシア選手対アレン=ロードル選手! 両選手、たいへお上がりください!」

 賞金稼ぎのローズ=バレンシア。

 この名前には聞き覚えがあった。確か俺と同い年の天才女剣士だ。

 賞金の懸かった大会に出ては、優勝をかっさらい。けんしよう金の懸かった犯罪者を見つけては、ばくしてせいに突き出す。とにかくうでが立つと評判の剣士だ。

 俺は、目の前に立つローズさんへ目を向ける。

 赤いひとみに目鼻立ちの整った顔立ち。背中まで伸びる、ピンクがかった美しいぎんぱつ。上の服は、黒を基調としたに赤いアクセントが入ったもので、下は黒のローライズホットパンツ。おなかから胸の下部まで広くしゆつしており、少し目のやり場に困るしようだ。

 彼女の戦いは、ずっと舞台のわきから見させてもらった。

 剣士としては少しきやしやなその体で、くつきような大男たちを次々にり捨てるその剣術は──まさに圧巻の一言だった。単純な技量だけならば、世界でも指折りの剣士だろう。

(決勝戦だというのに、おそろしいほどの自然体だな……)

 おそらく俺と違って、踏んできた場数が違うのだろう。

 そうして俺とローズさんが視線をぶつけ合っていると、じつきよう者が簡単な説明を始めた。

「みなさんすでにご存知の通り、ローズ=バレンシア選手はあの有名な一子相伝の秘剣──桜華一刀流の正統けいしよう者! それに対してアレン選手は……なんと我流の剣士です!」

 所属流派をしようかいした彼女は、わざといつぱく置いてから話を続ける。

「──しかし、断言できます! アレン選手の我流を鹿にする者は、もはやこの場に一人としていないと!」

 実況の言う通り、バブルとの一戦以降、俺をあざける者はいなくなった。今はむしろその逆。俺のかんちがいでなければ、敬意のようなものが払われている気がする。

 実際、あくしゆを求める剣士が大勢詰め掛け、なんと入りを志願してきた者もいた。握手には応じたけれど、さすがに弟子入りはお断りさせてもらった。

 俺はまだまだ半人前のひよっこ。人に剣術を教える立場ではない。

 その後、いよいよ試合開始目前となったところで、俺はいつも通りおをした。

「よろしくお願いします」

「あぁ。こちらこそ、よろしくたのむ」

 すずの鳴るようなんだ声で気持ちのいい返事があった。

 そうしてたがいにあいさつを済ませたところで、

「両者、準備はよろしいですか? それでは決勝戦──始めッ!」

 実況が試合の開始を宣言した。

 俺とローズさんは素早くけんを引き抜き、互いに正眼の構えを取った。

 全く同じ構えのまま、にらみ合いの時間がおとずれる。

(これまでの試合から判断すると……彼女のせんとうスタイルはカウンタータイプだ)

 相手のこうげきを防ぎつつ、わずかなすきいだし、そこへ必殺のいちげきを加える守りの剣。

 策もなくしやに斬り掛かるのは悪手だ。

(まずは飛影をって、相手の出方を見るとするか……)

 そうして次にとる手を決めたその瞬間、

「なっ!?」

 目と鼻の先にローズさんの姿があった。

(呼吸を、合わされた……!?)

 俺が息をき出し、まばたきをするほんのわずかな空白。まさに一瞬──意識のかんげきを突いた、恐ろしいほど静かな接近だ。

「桜華一刀流──おうせんッ!」

 彼女は重心を落とし、しっかり体重を乗せた鋭い突きを放つ。

 だが、不意の接近でくずされるほど俺の心は弱くない。

「──ハッ!」

 どうたいねらった彼女の突きに対して、俺は全く同じ入射角の突きでむかえ撃つ。

 その結果──剣先同士がせんたんの一ミリでぴったりとぶつかり、きつこう状態が生まれた。

「馬鹿な!?」

 突きに対して突きでぼうぎよされるとは、夢にも思っていなかったのだろう。ローズさんは大きく目を見開き、そこにわずかな隙が生まれた。

 俺はすぐさま一歩み込み、彼女のふところもぐり込む。

「──シッ!」

「っ!?」

 かんぺきなタイミングで放った突きは──彼女のわきばらをかすめた。

(思っていた以上に速いな……)

 一拍以上もおくれたあの状態から、ローズさんは身をひねって直撃をかいした。たいさばきは言うまでもないが、反応速度も凄まじいものがある。

「く、まだまだぁ……っ!」

 痛みに体をしかめた彼女は、すぐさま反撃の一手を打って出た。

「桜華一刀流──ざくらッ!」

 それから俺たちは、何度も何度も激しく斬り合った。

 その間、会場は水を打ったかのように静まり返る。かんせいせいいつさいない。時折それぞれが思い思いの感想をこぼしながら、食い入るようにジッと俺たちの戦いを見ていた。

「おいおい、あの賞金狩りのローズがまるで子どもあつかいだぞ……!?」

はんねぇな……。やっぱりもう一回、弟子にしてもらえねぇか頼もうかな……」

「馬鹿。アレンさんはお前なんかに構っているほどひまじゃねぇんだよ」

 それから一合二合と剣を重ねるたびに、ローズさんの体には生傷が増えていく。

「はぁはぁ……。貴様、その剣……いったいだれにならった!?」

「いや、だからその……我流、なんですけど……」

 我流というのは、やはりほこれることではない。あまりそう何度も口にさせないでほしい。

うそをつくな! 貴様の剣には、試行とけんさんの積み重ねが──歴年の重みがっている!」

 彼女は鋭い眼光を放ちながら、はっきりとそう言った。

(す、鋭いな……っ)

 ローズさんの言う通り、俺の剣には『十数億年』というとてつもない時間が載っている。

 しかし、それをそのまま伝えるわけにもいかない。

「そ、それは……多分気のせいですよ」

 俺は目をそらしながら、そんな返答をした。正直、一億年ボタンのことはあまり話したくない。あんなこうとうけいな話をしたところで、きっと誰も信じてくれないだろう。

「なるほど、あくまで白を切り通すつもりか……っ」

 俺の答えがお気にさなかったのか、彼女は少しムッとした表情をかべた。

「一子相伝の秘剣、桜華一刀流の正統継承者として──この勝負、勝たせてもらうぞ!」

 ローズさんが切っ先をこちらに向けたそのしゆんかん──彼女のまとう空気が、はっきりと変わった。まるでき身の刀身を思わせるほどに鋭く、それでいて息をむように美しい。

 まるで彼女自身がひとりの名刀になったかのようだった。

「──行くぞ、アレン=ロードル!」

「あぁ、来い……っ!」

 そう短く言葉をわした次の瞬間、彼女は凄まじい速度でけ出した。

「桜華一刀流おう──きようおうざんッ!」

 鏡合わせのように左右から四撃ずつ、目にも留まらぬ八連撃がきばく。

(っ!?)

 さくら吹雪ふぶきを思わせるそのりゆうれいな美技に、俺は一瞬目をうばわれてしまった。

 その間にももうぜんおそかる八つの斬撃。しかし、それはあくまで『連撃』の域を出なかった。一撃一撃の間に、ほんのわずかな空白が存在する。

 それをしっかりかくにんした俺は、彼女の奥義に向けて技をり出した。

「八の──がらす

 これは一振りで八つの斬撃を生み出す。一撃一撃の間にはほんのわずかなすきもなく、しようしんしようめい『八つのざんげきをもって一撃』とすのだ。

 その結果──完全に一拍以上おくれて放った八咫烏は、いともやすく鏡桜斬を食い破った。

「馬鹿、な……っ!?」

 必殺の奥義を破られたローズさんは、がら空きの胴体をさらす。

「──終わりです」

 当然その隙をのがすわけもなく、俺はすぐさま斬りを浴びせかけた。

「か、は……っ」

 彼女はそのままひざを突き、ゆっくりと前のめりに倒れ込んだ。

 シンと会場が静まり返る中、実況が大きな声で結果を宣言する。

「しょ、勝者! アレン=ロォオオオドルッ!」

 その瞬間、会場はドッとき上がり、割れんばかりのはくしゆが巻き起こった。

 こうして剣武祭で見事優勝をかざった俺は、賞金として十万ゴルドもの大金を手に入れたのだった。

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