接続章 『夜のこと/旅の途中』1

接続章『夜のこと/旅の途中』


 1


「──今さらだけど。ラミは、これで本当によかったの?」

 エイネが切り出したその言葉に、ラミはきょとんと首をかしげた。

 視線を、温かな炎色の揺れるから、それに照らされる少女の顔へ。携帯用の鍋に具材をぶちこみ、簡単なスープを作っているところだった。

「よかったのかって、何がだ?」

「いろいろ。というか全部のことかな。だってラミは騎士を目指してたんでしょ?」

「……そりゃ本当に今さらの質問じゃないか?」

「あはは、そうだよね。ホントなら、旅立つ前にいとくべきだった」

 少女は普段通り、薄い笑みを浮かべたような表情。彼女はいつだって何かを──自分の人生というものを楽しんでいる。そして、それを素直に伝えてくれる。

 多くを楽しんで受け入れるエイネだから、表情から感情を読み取ることは難しい。この少女はだいたい、いつだって楽しんでいるのだから。

「でも、これはラミだって悪いんだよ?」

 ぷっくりとほおを膨らませて、エイネは言う。

 こんな風に感情をあらわにするのも、それはそれでラミの前だけだ。

「え、なんでよ。今、オレが怒られる流れだったの?」

「そりゃ私はだから。私が自由になるためには、残りの天命を達成する以外に実質、選択肢がない。だから旅に出た。けどラミには、ちゃんと夢があったわけじゃん?」

「だからこうしてかなえただろ、その夢を。そりゃエイネよりは時間もかかったけどさ」

「いや、そういう話じゃなくて。ラミの言う騎士って普通に教会詰めだったでしょ。神子付きになって旅をする騎士なんて例外中の例外じゃん」

「それは……まあ、そうだけど。なんだよ、今さら不満だとか言うつもりか?」

「私はもちろんラミといっしょに旅したかったし、してくれるとも思ってたけど。それはそれで、それならちゃーんと理由を言ってくれないと納得できないじゃない」

「何そのわがまま……めんどくさ」

「面倒とは何さー! その通りだけどっ!」

 むくれながら器用に認めるエイネ。付き合ってくれるのはうれしいが、ラミにもきちんと納得してもらった上でついて来てほしい、と言っているわけだ。

 確かにこれは面倒臭い。

「まあ初めから納得してるよ、オレは。エイネに置いてかれるほうが嫌だった」

 神子だとは知らなかった幼き日から、命数術師としてのエイネの天才性を、ずっと目の当たりにしてきたラミだ。

 それは嫉妬することではなく、むしろおさなみの才能をラミは誇りにさえ思っていた。エイネとずっと付き合ってこられた理由だろう。ほとんどのことを、エイネはラミよりも上手くこなした。

 それを誇らしく思う一方、自分だって負けてはいられないと鍛錬してきたのだ。決して才能ある身とは言えないラミが、守護十三騎ラウンドキヤンドルにまで辿たどけたのはそれが理由。エイネがすごいのだから、隣に立つ自分も強くあろう。そう素直に思えるのがラミの美徳だろう。

「思ったんだけど。そもそもどうして騎士を目指そうと思ったの? 私の印象だと、っちゃい頃からずっと言ってたって感じだからさ。きっかけとかあったっけ?」

 エイネのそんな問いに、ラミは軽く首を振って答えた。

「さっきも言ったけど、大した理由はないんだよ。子どもなら、男子なら、普通に考えるようなことで、それをずっと持ったままだったってだけ」

 寝物語として聞かされた英雄たんに、幼く淡い憧れを持つのは自然なことだ。

 たまさかラミは、その遠い憧憬を現実に結びつけただけ。

 確かに、エイネが神子だったからこそ強くなれたとは考える。けれど決して、エイネが神子だったから騎士になろうと思ったのではない。

「大した理由はないんだよ。ただ誰かを守れる存在ってのに、憧れただけなんだ──」

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