第二章 最初の恋愛イベント②
古びた温室の周りにはやはり人はいない。
「そういえばさ、神子候補って姉さん
それでも辺りに気を
講堂でのチュートリアル
そこでリーンは攻略対象たちに
本来ならそこでセシリアが手を上げるはずだったのだが、もちろん今の彼女が手を上げるはずもなく、女生徒の身体検査に場は移った。花の模様の
しかし、誰一人として花の模様の痣を持つ者は見つからず、選定の
その日休んでいる生徒もいる上に、女性としてきわどい所に痣があればそこまでは見られない。使者たちは『神子候補は重大な責務に
セシリアは彼の疑問に難しい顔で首を
「うーん。それがね、私にもわからないんだよね」
「どういうこと?」
「この時点で、もう一人の神子候補は死んでるはずなの」
「は?」
ギルバートは
ゲームの中でアザレアの花の痣を持つ神子候補は確かに存在した。しかし、彼女はプロローグ
ヴルーヘル学院に転入する一週間ほど前、リーンはある殺人事件の記事を目にする。その女性の肩にはアザレアを模したような花の痣があったというのだ。最初はその痣が何を示すものかわからなかったが、学院に来て自分が神子候補だとわかった
後にゲームの中で、アザレアの神子を殺した者の犯行だと思われる事件がいくつか起こる。そして、彼だか彼女だかわからないその犯人のことを
ちなみに、『キラー』は殺人者という意味の『Killer』から来ている。
「だけど、そんな話少しも聞かないじゃない? 私も注意して新聞とか見てたけど、そんな記事どこにもなかったし……」
「ちょ、ちょっと待って。後出しジャンケン過ぎない……」
明らかに
「このまま行くと姉さんが死ぬかもしれないって話、俺はさっき聞いたばかりなんだけど」
「そうだね。私もさっき言ったから」
「なのに、この
「え、しない方がよかった?」
「話をするのが、
今までに見たことがない
ゲームの中でのセシリアの死因は、大きく分けて二種類だ。
一つはリーンを
もう一つは、キラー
断罪系の死因とは
リーンが
それを裏付けるように、リーンも何度かキラーと見られる正体不明の者に殺されかける。しかし、こちらは大体生き残るのが大きな違いだ。リーンが殺されるバッドルートもあることにはあるのだが、その場合はキラーではなくセシリアが犯人だとされ、
「なんで今まで
「いやだって、聞かれなかったし……」
「聞かれなくても
耳を
別に、隠していたわけではない。言うきっかけがなかっただけなのだ。
「まぁ、いいや。悪気があったわけじゃないんだろうし……。で、結局その『ゲーム』の中で、キラーの正体はわかるの?」
「トゥルールートではわかるらしいんだけど……」
「だけど?」
「私、じつはそこまでクリアしてなくて……」
ギルバートはあからさまに
「し、仕方ないでしょ! クリアする前に死んじゃったみたいなんだから!」
「でも、正体がわからないと対策の立てようもないじゃん。もしかしたら、相手は姉さんを狙ってるかもしれないんだよね?」
「そうだけど。でも、私はもう
「『そこまで
「それは、ゲームの中で
また、ギルバートは長いため息を
「これは本当の本当に仕方ないことじゃない!」
「そうだけど、
「えっと……」
それでも必死に記憶をたどりながら歩を進めていると、人が多い通りに出た。
瞬間、「セシル様!」という黄色い声が至る所から上がる。
「あっ、やば……」
声におののくようにセシリアは
そう『学院の王子様』は
「どこにおられたのですか?
「セシル様のためにお弁当を作ってきたのです! 今日は残念でしたが、また今度にでも!」
「
「あの、食後の
「貴女まで!」
口々にそう言われ、セシリアは困ったように笑った。
彼女たちはまるで、
彼女たちの話題は昼食の話から、講堂でのセシリアがどれだけ
セシリアは、一方的に話しかけてくる彼女たちを手で制すると、
「そんなにさえずらないで小鳥ちゃん。かわいい歌声は一人一人ちゃんと聞きたいな」
(訳:一人一人話して、聞き取れない)
セシリアの甘い声に、人垣はいっせいに黄色い声を上げた。
その人垣の外で、やっぱりギルバートは冷めた目をしている。
「そういうことをするから、よけい
「え、なに? ごめん、ギル聞き取れなかった」
「……なんでもない」
女生徒に囲まれるセシリアを置いて、彼は一人、教室に