第4話 海で遊んじゃう……?(前)
四時前ごろ、ようやく客足が減り、掃除や片づけのほかにすることがなくなった。
「いや〜、ほんと助かった! 夕方からも忙しくなるから、一時間くらい休憩してきて」
真鳥がそう言うと、咲人と双子姉妹はほっとした表情をした。特にこれといったトラブルもなく、来客者に十分なサービスを提供できたようだった。
「あ、柚月ちゃんも三人と一緒に行ってきなよ?」
「え? 私は……」
「知り合いなんだろ? ほら、遠慮せずに行った行った」
柚月はしぶしぶといった感じだった。
この三人と遊ぶと言っても、柚月にとって気まずいだろうと思っていたら、
「じゃ、柚月ちゃんも一緒に行こーよ?」
と、光莉が柚月の腕に触れた。
これには咲人も驚きだった。特に社交辞令的な感じも、柚月に対して気づかった感じも見受けられない。ただ単に、友人や仲間を遊びに誘った風にも見える。
柚月のことはまだ許せない——そう言っていたのは光莉だったのに、光莉のほうから歩み寄ったのは、なにか意図でもあるのだろうか——
(——あ、なるほど……)
一瞬だけ、柚月を見る光莉の目つきが鋭くなったのを見て察した。
人間の内面を覗き込むような、観察する目。
草薙柚月が本当はどんな人物なのか——光莉は見極めようとしているのだろう。
「え? でも……」
遠慮がちに、断ろうとする柚月だったが、
「みんなで遊んだほうが楽しいですし、柚月さんも行きましょう?」
と、千影も微笑みつつ、柚月の反対側の腕をとった。
双子に両腕をとられ、逃げ場を失ってしまった柚月は、少し困ったような、照れ臭いような顔で左右を見たあと、咲人に伺いを立てる。
「えっと、私もいいのかな……?」
「うん。せっかくだし、柚月も行こうよ?」
咲人が言うと、柚月は頬を赤くしながら「うん」と俯いた。
そうして、店から出ようとしたとき、
「あ、猫耳はそのまま着けていってね? お店の宣伝にもなるし、それ、いちおう防水加工だからさー」
真鳥にそう言われて気づき、いつの間にかすっかり猫耳が馴染んでいたことにビクッとなる四人だった。
* * *
海の家『Karen』を出たあと、四人は設置していた拠点にやってきた。
クーラーボックスに氷と飲み物を入れ、いざ水着に着替える。
とはいえ、柚月はすでに水着だった。猫耳とエプロンをとっていたので、ただのキャミキニ姿になっている。
改めて柚月を見ると、胸元はフリフリでよくわからないが、可愛いおへその下、腰からお尻にかけてのラインは完璧に見える。どちらかといえばスレンダーなモデル体形で、けして宇佐見姉妹に引けはとっていないプロポーションだ。
咲人の視線に気づいた柚月が、頬を赤らめながら睨んでくる。
「な、なに?」
「その水着、自分で選んだの?」
「そうだけど……なに?」
「いや、似合ってるから」
「そ……そういうの、サラッと言わないで!」
柚月は怒ったように言う。いちおうは照れているのだろう。
こういうとき、光莉と千影だったら喜んでくれそうなものなのに——女の子だからか、柚月だからなのかはわからないが、人を褒めるのは難しいなと咲人は思った。
「んしょ、んしょ——」
「ふぅー……よし!」
光莉と千影が脱ぎ出した。
光莉は穿いていたショートパンツのジーンズを脱ぎ、Tシャツを裾から持ち上げるようにして脱ぐ。千影は周囲を気にしながら、おもむろにワンピースの胸ボタンを外し、右肩、左肩と、肩紐をそっと下ろした。
この二人のお着替えシーンは、なんだか咲人の胸をざわつかせた。
赤くなっている咲人を見て、柚月がムッとした顔をする。
「なに?」
「鼻の下……」
「伸びてないって……」
咲人は気まずさを感じつつ、やれやれと首の後ろを掻いた。
「お待たせー! じゃっじゃーん♪」
急に視界に光莉が割り込んできたのだが、咲人は思わず「おおっ」となった。
「にしししー♪ 咲人、うちの水着、どうかな?」
光莉の水着は首の後ろで紐を結ぶ派手な三角ビキニ。
セクシーさと可愛さが渾然一体となっている。
彼氏からすれば、当社比二・五倍の可愛さ。それにも増して、この素晴らしいプロポーション——咲人はただただ感心するしかない。
「すごく可愛いと思う……似合ってるよ」
「ありがと♪ 咲人から『可愛い』いただきました〜♪」
笑顔でクルッと一回転する光莉は、太陽の光を浴びていっそうはつらつとして魅力的に見えた。
すると、隣りからボソッと声がする。
「ほら、鼻の下」
「だから伸びてないって……」
柚月に指摘され、咲人が真っ赤になっていると「あの」と千影から声をかけられた。
そちらを向くと——
「咲人くん、どうですか……?」
ラスボス登場——いや、この砂浜に女神が降臨したのだろうか。
千影が着ているのは光莉とは若干異なる黒い三角ビキニ。
トップスにはフリルもついているが、あざとくも、きちんと谷間を強調する構造になっており、包み隠せないほどの色気が溢れ出してしまっている。
ショートパンツで下半身を隠しているものの、ヒップラインと白い脚が、なんだかひどく扇情的だ。
光莉と柚月からも「おおっ」という声が出た。
「変じゃ、ないですか……?」
そう言いながら、千影は右手で自分の左肘のあたりを持った。本人が意図しているかわからないが、そのせいで千影の大きな胸がグイッと強調される。
「あの……えっと……変じゃないと言うか——」
——ものすごくイイ。
それを口に出すのは憚られ、どこから褒めようか迷うほどだった。
「攻めたねぇ〜? 咲人、真っ赤じゃん?」
「いや、これは暑いからで……!」
「あれれ? 暑さのせいだけかなー?」
光莉がニヤニヤして訊ねるものだから、咲人は余計にしどろもどろになった。
そんな咲人の顔を、柚月は冷ややかな目で見つめていた。
「……なに?」
「べつに……咲人って、そういうリアクションするんだなーって思って」
どんなリアクションだよ、と咲人は柚月を睨んだが、ツーンとした顔でそっぽを向かれた。
咲人は改めて千影の顔を見た。
照れ臭いが、伝えるべきことは伝えねば——
「ほんと、よく似合ってるよ。可愛い」
「ほ、ほんとですかっ⁉ 良かった〜……!」
安心して喜ぶ千影を見て、なんだか咲人もほっとした。
そこで、ひときわテンションの高い光莉がグッと拳を天に上げた。
「じゃ、みんなで海で遊ぶぞぉーーーっ!」
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