第3巻【2024年6月20日発売!】

ツイントーーク!① 私ってツイてない……?

「はぁ〜〜〜……」


 山ガールの服を脱いだ千影は、下着姿になって、大きなため息をついた。


(私って、ほんとツイてないなぁ……)


 猫は嫌いではないが苦手——それは自分の心の問題なのだが、こうも猫ばかりいる町だと、心が落ち着かない。猫町だから仕方がないのだが、咲人に旅行先を提案されるより先に、そのことを伝えておけば良かったとも思う。


(しかも熊まで出ちゃうし……)


 楽しみにしていた山登りも中止になり、まさに踏んだり蹴ったり。

 それが自分一人の問題で済む話ならいい。

 けれど咲人や光莉も巻き込んでしまっている。双子子町ここに来てからというもの、二人にずっと気を使わせてばかりいるのが千影にとって心苦しかった。


(……ううん、こういうときこそ笑顔でいなくちゃっ!)


 気を取り直そうと、パンパンと顔を叩くと——



 パァーーーン! ……ギャアアアアアァーーー……——



 急に耳の奥で発砲音が鳴り響き、はっとした。


(あれ……聞き間違いじゃなかったよね……)


 妹子山の発砲音のあとの……あれは、人間の悲鳴だった。

 それとも、人間の悲鳴に似た鳴き声を出せる動物がいるのだろうか——


(それに、あのお婆ちゃん……)


 最後の意味深な言葉がどうしても鼓膜に残っている——



『覚えておくといいよ。——この山はあんたにとって、とても危険な山さ……』



 あの言葉の意味はなんだったのか。


(あの山に、なにがあるの……?)


 そのあと老婆は忽然と姿を消した。

 いったい、どこに消えてしまったのだろう——



「隙ありぃーーーっ!」

「きゃあっ!」


 突然千影は後ろから胸を揉まれた。


「って、ひーちゃん……⁉ 驚かせないでよっ! ていうか、揉むのやめてっ!」

「だって、うちが近づいても気づく気配がなかったから。というか、なにをそんなに悩んでいるの?」

「べつに、悩んでないよ。ちょっと考え事をしていただけ……」


 千影がそう言うと、光莉はいつになく心配そうな顔で見つめてくる。


「……もしかして、マシロのことかな?」

「え?」


 数年前に宇佐見家で飼っていていたマシロという白い猫——たしかに、この町に来てから、ずっとそのことが頭の片隅にあった。電車の中で見た夢のせいかもしれない。


 ただ、今はそのことを考えていたわけではない。


「……ううん、そうじゃなくて、あのお婆ちゃんのこと」

「ああ、うん……どこに消えちゃったんだろうね……?」


 と、光莉は思い出して青ざめた顔をした。


 光莉は昔からおばけが苦手だ。様々な学問に精通していても、苦手なものは苦手らしく、非科学的なものは信じないと言いつつも、小刻みに震えている。


 そんな姉を見て、千影はなんだか悩んでいるのが馬鹿らしくなった。


「ひーちゃん、早く着替えて海に行こ? 私のことは気にしなくていいから」

「え? でも……」

「咲人くんと三人で素敵な思い出をつくらなきゃ——でしょ?」


 千影がにっこりと微笑むと、光莉も明るい表情になって「うん」と頷いた。


「そうだね! いっぱい楽しい思い出をつくろうね!」


 光莉はいそいそと水着に着替え始めたが、千影はその様子を横目で見ながら、そっと小さくため息を吐いた。


(私のせいで旅行を台無しにしたくない……三人にとって、素敵な旅行にしなくちゃ!)


 それは使命感なのか、義務感なのか。


 どちらにせよ、千影は頭の中を切り替えることにしたのだが、頭の片隅では、あの老婆の言葉と、マシロのことがぼんやりと浮かんでいた。

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