武神伝 生贄に捧げられた俺は、神に拾われ武を極める 2

第二章(1)

 ――――グランボルトの冒険者ギルド。

 ここには数多くの冒険者が集まっていた。

 というのも、このグランボルトには、四つのダンジョンが存在するからだ。

 D級ダンジョンと、C級ダンジョン。

 そしてB級ダンジョンに、A級ダンジョンと、初心者から上級者にまで広く恩恵のあるダンジョンが集まっており、そのダンジョンを目当てに多くの冒険者が集まる。

 そんな中、獣の耳や尾が特徴のビースターの女性が、様々な冒険者に声をかけていた。

「ねぇ、ウチとパーティを――――」

「悪いが、他を当たってくれ」

 しかし、誰もそのビースターに見向きもしない。

 それどころか――――。

「またやってるよ……」

「アイツと組むと、命が幾つあっても足りねぇよ」

「いい加減、諦めろよな」

 そのビースターに対し、どこか軽蔑的な視線を向けていたのだ。

 すると、事情を知らない一人の男の冒険者が口を開く。

「なあ、アイツがどうかしたのか?」

「あん? お前、このギルドは初めてか?」

「ああ」

「そうか。悪いことは言わねぇから、アイツと組むのだけは辞めとけ」

「どうしてだ? っと、姉ちゃん、こっちに酒二つ頼む!」

 男は酒を二つ頼むと、一つは話を聞いている相手に渡した。

「お、悪いね。つっても、俺もそんなに詳しいわけじゃないんだが……アイツと組んだパーティが、ことごとく事故に遭って、大怪我してるんだよ」

「ん? それだけか?」

「それだけって言うが、一度や二度じゃねえ、何度もだ」

「それは……本当に事故なのか?」

 つい疑いたくなる男の言葉に、話し相手は酒を飲みながら続ける。

「ま、そう思うよな。一応、死者は出てねぇし、組んでたパーティの面々が言うには、アイツに非はないって話だ。だが、アイツと組んでダンジョンに潜ると、何故かいつも以上に罠が多く出現したり、そのダンジョンのランクからは考えられねぇ強さの魔物が出現したりするんだとよ」

「へぇ……」

「だから、アイツと組むのを皆避けるのさ。ダンジョンで強くなれるとはいえ、この仕事は命あってのものだからな」

「違いねぇ」

 ――――結局、ビースターの女性の声掛けに反応した者は、一人も現れることはなかった。


       ***


「ここが王都か……」


 昼前に王都に到着した俺たちは、手続きを終え、街の中へと足を踏み入れた。

 そこで俺は、レストラルの何倍もの人の数に、圧倒される。

 レストラルも十分大きいと思っていたが、この地を見ると、その考えは吹き飛んだ。

 ただ、レストラルは完全な港町といった雰囲気が漂っていたが、この王都は商業都市といった印象を受けた。

 というのも、先ほどから多くの商品を積んだ荷馬車が何度も往来していたり、街のあちこちで商売が活発に行われているのだ。

 それに合わせてか、住宅の印象もレストラルとは変わっている。

 向こうでは、宿屋以外はあまり二階建ての建物を見なかったものの、こちらは二階建てどころか、三階建て以上の建物があちこちに見えた。

 そんな風に周囲を見渡していると、リーズが感慨深そうに街を眺める。

「この感じ……久しぶりね」

「ん? リーズはここに住んでいたことが?」

 そう訊くと、リーズは首を振る。

「少しだけね。家臣の追手から必死に逃げていた時、一時的に身を隠していたってだけよ」

「そうか……」

「でもギルドの場所とか、宿の位置は分かるわ」

「なるほど、どこか目星をつけてるようだな」

「ええ。昔に利用していた宿が、身を隠すのにちょうどいいのよ。まあまだ残ってるかは分からないけどね」

 こうしてリーズに案内されつつ、俺たちが泊まる宿へと向かう。

 すると、かつてリーズが利用していたという宿は残っていた。

「ここよ」

「ふむ……」

 案内された宿は二階建てで、【木ノ葉亭】というらしい。

 レストラルで泊まったヒーリスに比べ、かなり小さかった。

 しかも木ノ葉亭は、街の片隅というか、主要な通りから離れた位置にあるのだ。

 とはいえ、特に汚いと言った印象は受けない。店主の管理が行き届いているんだろう。

 何にせよ、この宿は確かに身を隠すのにちょうどよさそうだ。

 それに、万が一魔族が襲ってきても、ここなら人を巻き込みにくい。

 宿の中に入ると、そこはどこか落ち着いた雰囲気の食堂になっていた。

 宿を観察していると、リーズが手続きをしてくれた。

「無事、二部屋とれたわ。とりあえず、一週間ね」

「ありがとう」

 結局、ヒーリスの宿代はリーズに払ってもらっていたため、正確な値段は知らないが、この木ノ葉亭はかなり安く、朝食も付いている。

 ただ、ヒーリスのように裏庭もなければ、水汲み場もないため、体の汚れを拭いたりするには、街の共同水汲み場まで行く必要があるようだ。

 簡単に宿の説明を受けた俺たちは、一度部屋に向かい、荷物を置くと、リーズの部屋に集合した。

 集まったのは、今後の予定を確認するためだ。

「それで、これからどうする?」

 俺がそう訊くと、リーズは口を開く。

「そうね……当初の予定通り、私は図書館で魔族について調べてみるわ」

「ふむ……それなら俺も手伝おう」

「それは有難いけど、貴方、まだ文字読めないでしょ?」

「……そうだったな」

 リーズから貰った指輪のおかげで話すことはできるが、まだこの大陸の共通語を読み書きすることができなかった。

 そう言えば、テンリン師匠とは指輪なしで意思疎通ができていたな。

 というのも、テンリン師匠は普段から言葉に魔力を乗せており、その魔力には話し手の意思が籠っているため、たとえ言語が違えども、今のリーズと俺のように言葉を交わすことができていた。

 ただ、あくまでこれは言葉に魔力を乗せることでの意思疎通であり、読み書きには通じない。もちろん、文字に魔力が込められていれば話は別だがな。

 それに、テンリン師匠は魔力で脳を活性化させ、一瞬で陽ノ国の文字を覚えていたし……。

 俺もその技術が使えれば、指輪がなくとも意思疎通ができ、文字の読み書きもこなせるのだが……生憎、俺はそこまでの技術を習得できていない。

 それでもある程度は活性化できるため、リーズによる指導のおかげで、完璧ではないにしろ、簡単な読み書きはできるようになっていた。

「まあ刀真は物覚えもいいし、すぐに覚えられるわよ」

「……精進しよう。ならば、俺はどうするか……図書館とやらで文字を学ぼうにも、そうするとリーズの手を煩わせることになるし……」

「うーん……刀真は王都を見て回ったら?」

「街を?」

「ええ。ほら、言ったでしょ? 王都には闘技場や、いろんな道場があるって……」

「おお、そう言えばそうだった」

 前にリーズの話を聞いた時から、かなり楽しみにしていたのだ。

「だが、大丈夫か? リーズを一人にすることになるが……」

「図書館には兵士も常駐してるし、大丈夫よ」

「……そうか」

 あまり過保護というのもよくないだろう。リーズ自身も強いしな。

「まあ、魔族もすぐには動き出すことはないだろう」

「そうなの?」

 俺の言葉に、リーズが首を傾げる。

「あくまで憶測だがな。魔族が倒されたと言う情報は、恐らく黒幕に伝わっているだろう。倒されたと言うことは、魔族という存在が明るみになったと向こうは考えるはずだ。であるならば、相手はこれ以上証拠を残さないよう、身を隠す可能性が高い。逆に、開き直って大々的に動く可能性もあるが、こればかりは魔族の計画次第だな」

「なるほど……」

「それに、これだけ人が多い街なら、万が一襲われたとしても、周囲に助けを求めるのも簡単だろう」

「そうね。【剣聖】率いる騎士団や、冒険者も数多く滞在してるし、魔族も派手に動けないでしょうね……」

 とはいえ、警戒は続けるつもりだ。

 それに、よくよく考えれば街を見て回るというのも、都合がいい。

 魔族が襲ってきた際の逃走経路や、襲撃されやすそうな箇所をあらかじめ調べておけるからな。

「他にすることと言えば……ダンジョンの攻略かしら?」

「よく分からないが、ダンジョンで魔物を倒せば強くなれるんだったな?」

「ええ。私も学者じゃないから詳しい説明はできないけど、ダンジョンで魔物を倒すと、肉体が強化されたり、魔力が増えるそうよ。ただ、ダンジョンにも冒険者と同じでランクがあって、そのランクごとに強化される上限があるみたいなの」

 つまり、ランクの低いダンジョンで魔物を倒し続けていても、いずれ限界が訪れると言うわけか。

 より強くなるためには、上のランクのダンジョンに挑む必要があると……。

 そこは普通の修行と変わらんな。

「ちなみにリーズは、ダンジョンの経験は?」

「ないわ。前までは一人だったし……ダンジョンってそれだけ危険な場所だから、普通はパーティを組まないと入れないの。だから楽しみでもあるのよ。ただ、二人でも行けるかもしれないけど、もう一人仲間がいると心強いわね」

「なるほど」

「滞在期間は決めてないけど、出来るだけダンジョンで鍛えたいわね。運がよければ、使えるアイテムも手に入るみたいだし」

「俺もアイテムバックが欲しいな」

「そうね、これがあると便利よ。まあ私の物は、おばあ様から貰ったんだけどね。何にせよ、これからの私たちに役立つアイテムが手に入ることに間違いないわ」

 陽ノ国にあったのかは分からないが、聞けば聞くほど、ダンジョンは魅力的な場所のようだな。

 こうしてこれからのことをある程度話し合うと、早速リーズは図書館へ向かい、俺は道場巡りも兼ねて、街を見て回るのだった。

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