第二章(2)
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「なるほど……面白い」
街を歩きつつ、独り言ちる。
この街に来て、早三日が経過した。
俺は予定通り、道場を巡り、リーズは図書館に通っている。
リーズの方は今のところ進展はないようで、こうして道場巡りを楽しんでいることに罪悪感を覚えた。
ここはより強くなることで、しっかりリーズの役に立てるようにしよう。
そんな道場巡りだが、このアールスト王国が【剣聖】誕生の地というだけあって、アールスト王国剣術を始めとした、様々な剣術の道場が集まっていた。
剣と刀では武器の使い方が異なるため、そのまま刀術に組み込めるわけではないが、それでも参考になる部分は多い。
というわけで、目につく道場一つ一つに顔を出したわけだ。
最初こそ、陽ノ国人である俺に驚いていたが、見学したい旨を伝えると、皆快く見学を許してくれる。
そして道場ごとの稽古風景を見学させてもらった。
様々な剣術道場を見学した俺だったが、見て回ったことで、ある結論に至る。
「色々見てきたが、やはりアールスト王国剣術が一番だったな」
【剣聖】が創始した剣術だからか、剣術としての完成度が違うのだ。
学ぶのであれば、アールスト王国剣術がいいだろう。
「それに、他に心惹かれる剣術もなかったしな……」
稽古風景から、それぞれの武術の【神髄】は垣間見えたものの、その【神髄】に到達している人物は見当たらなかった。とはいえ、師範級にもなると、皆手練れ揃いなのに間違いはないがな。
ただ、俺が心惹かれなかった理由の一つでもある。
こうして道場を巡っていた俺だが、他には、リーズから聞いていた闘技場にも顔を出してみた。
そこには多くの観客が詰めかけ、すごい熱気が満ちていたのだ。
闘技場には、【剣聖】という名に惹かれた武者たちが集まり、武を競い合っている。
一応、規則では人を殺してはいけないことになっているが、互いに殺すつもりの本気の戦いが繰り広げられていた。
俺が見た試合では、人が死ぬようなことはなかったが、戦いである以上、絶対はない。
そして、闘技場では、様々な腕前の者たちが武を競い合っており、今回俺が観た試合は、まだ己の武を磨き始めたばかりと思われる者同士のものだった。この中から、後の強者が現れるのかもしれないな。
そんな試合を観ていたわけだが、街では見かけなかった流派も登場し、何より魔法も飛び交っていたため、見ているだけで非常に楽しめた。これは観客が集まるのも納得だ。
とはいえ、やはりその試合でも、気になる武術を扱う者はいなかったのだ。
「ふむ……あらかた見て回ったが、入門するなら、やはりアールスト王国剣術か……」
この街にどれほど滞在できるかは分からないが、気になるからな。
そんなことを考えつつ歩いていると、宿とは別方向の街はずれにやって来てしまった。
「……そう言えば、こちら側はまだ見てなかったな」
道場自体が街の中心地や、『剣聖通り』と呼ばれる地区に集まっていることもあって、今俺のいる場所には来たことがなかったのだ。
何より逃走経路や襲撃されそうな場所の目ぼしはすでにつけていることと、用がなければ訪れることはないため、後回しにしていた。
とはいえ、せっかく来たからには見て回ろう――――そう思った瞬間だった。
「!」
突如、全身を貫かれるような、凄まじい闘気を感じ取った。
その闘気は、今まで見てきた道場の、どの師範よりも凄まじい。
ただ、この闘気は俺に向けられているものではなかった。
「この気は一体……」
闘気の主に興味が湧いた俺は、鋭い気の発生源へと向かう。
すると、小さな道場にたどり着いた。
掲げられている看板を読もうとしたが、残念ながら読むことは叶わない。
諦めて道場に足を踏み入れると、修練場と思しき場所に、一人の壮年の男性が佇んでいた。
「……」
簡素な衣服に身を包み、かき上げられた緑髪のその男性は、静かに目を閉じている。
そしてその右手には、身長を超える長柄の武器が。
――――槍か。
俺はその男性の握る槍を見て、驚いた。
というのも、この街に来て、初めて剣術以外の道場を見つけたからだ。
何より、あの鋭い気の主は、目の前の男性で間違いない。
張り詰めた空気が漂う中、男性は開眼した。
「シッ――!」
鋭い呼気とともに放たれる突き。
その突きには風が螺旋状に纏わりついている。
これは……!?
俺はそのひと動作だけで、目を奪われた。
たったひと動作。
しかし、その動作の中に、俺はこの武術の【神髄】を感じ取ったのだ。
驚く俺をよそに、男性は突きを繰り出すと、そこから流れるように槍を振るう。
その流れはまるで螺旋を描くようで、回転しながら次々と技を繰り出していった。
何より俺の眼に映る男性の魔力の流れも凄まじく、複雑な魔力の運用を完璧にこなしているのだ。
美しい槍の動きに見惚れていると、やがて男性は動きを止めた。
「――――ふぅ」
「お見事でした!」
「!」
思わず拍手をしていると、俺に気づいた男性がこちらに視線を向けた。
どうしてこれほどの実力者が、こんな街の片隅で道場をやっているんだ!?
何にせよ、この出会いを大事にせねば……!
「君は……」
「すみません、近くを歩いていましたら、凄まじい気配を感じまして……それでここにたどり着きました。ここは、道場なんですよね?」
興奮が冷めぬ俺は、つい立て続けにそう訊いてしまう。
そんな俺に気圧されつつも、男性は頷いた。
「あ、ああ。そうだが……」
「――――弟子にしてください!」
「!?」
俺は自然とそう頭を下げていた。
あの槍捌きを見て、俺は完全にこの槍術に心惹かれてしまったのだ。
俺の言葉に呆けた表情を浮かべる男性だったが、正気に返ると慌てて声を上げる。
「ま、待ってくれ! ここは見ての通り、小さい上に弟子もいない、形だけの道場だ。何より、アールスト王国と言えば、【剣聖】の地。素晴らしい剣術の道場がたくさん集まっている。それに、槍が使えたところで、何もならないよ……」
男性はそう言うと、一瞬その表情に影を落とした。
あれ程素晴らしい槍術を身に付けているのに、何もならないとはどういう意味だろうか?
だが何にせよ、俺の意思は変わらない。
「いいえ。私は貴方の槍術を学びたいのです」
アールスト王国剣術にも心惹かれたが、それ以上に俺はこの槍術に惹かれたのだ。
もちろん、俺はまだ、【覇天拳】や【降神一刀流】を完璧に使いこなせてはいない。
だが、テンリン師匠たちと過ごす中で、強くなる以上に、俺は武術そのものが好きになっていたのだ。
真剣な想いを男性に伝えると、男性は困惑した様子で頬をかく。
「むぅ……まあ弟子になるのは構わないが……」
そこで言葉を区切ると、俺を上から下まで観察するように眺め、さらに困惑を深めた。
「……どう見ても、ウチの槍術は君には必要ないと思うがね。なんせ君は――――【神髄】の到達者だろう?」
……さすがだ。一目で俺が【神髄】の到達者だと見抜かれた。
「確かに拳と刀には自信がありますが、槍は素人ですから」
「そうかもしれないが……」
まだ悩んでいる様子の男性だったが、やがて大きなため息を吐く。
「はぁ……どうやら本気みたいだな。いいだろう、君を受け入れよう」
「ありがとうございます!」
俺は嬉しくなって、勢いよく頭を下げた。
そんな俺を見て、男性は苦笑いを浮かべる。
「はは、まさかこんなに若い【神髄】の到達者と出会い、しかも弟子として迎え入れることになるとは……まあいい。私はドゥエル・ロンドだ」
「刀真です。改めまして、よろしくお願いいたします、ドゥエル師匠!」
再度、深く頭を下げる俺。
こうして俺は、ドゥエル師匠から、【大廻槍法】を学ぶことになった。
――――そんなドゥエル師匠が、かつて【血槍(けつそう)の死神】と呼ばれ、恐れられた伝説的存在だと言うことを、この時の俺は知る由もなかった。
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試し読みは以上です。
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『武神伝 生贄に捧げられた俺は、神に拾われ武を極める 2』
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