第一話 幸せの黄色いパンツ(7)
後日談。
結論から言うと、心愛ちゃんは盗撮こそされてはいたものの、その動画がネット上や犯人の知人などに拡散されることはなかったそうだ。
押収されたスマホにあった盗撮動画は、違法なサイトやSNSなどで売買しているわけではなく、完全な趣味だったとか。
それでも被害者はかなりの人数に及ぶそうで、これから警察はあの盗撮犯に多くの時間を費やすことになるみたい。
「最悪の事態は免れたみたいで、良かったよ」
昼休み。食堂の外に併設されているカフェスペースで、あたしたちはお茶をしていた。
冬子はそう言って、微糖の甘い缶コーヒーを一口啜る。黙っていれば何でも似合うわね、あんた。言わないけど。
「幸せの黄色いパンツ自体は、生徒の間で未だにレアアイテム扱いみたいだけどねぇ。でもまあ、この変なブームもしばらくすれば収まるっしょ!」
はるるの言う通り。女子高生は流行に敏感なのだ。
誰も下着を配らなくなれば、この出来事は風化する。
きっといつか、同窓会とかで語られることはあるかもしれない。
あのパンツは何だったのか。少し老けた同級生たちが、笑いながらそんな会話をしている姿が目に浮かぶ。
「心愛ちゃんは何度もお礼を言っていたし、頑張った甲斐があったよね。あ……もう飲み終わっちゃった。ゴミ捨ててくるね」
あたしが席を立った、その瞬間──。
今日は快晴。時折、柔らかな風が吹いて、とても気持ちのいい一日だ。
だけどその風は、《探偵代行》を完遂したあたしを祝福することはなく。
それどころか、子供の悪戯じみたことをしてきたのだ。
捲れたのだ。スカートが。冬子とはるるに、その中を曝け出すように。
「……ち、違うの。心愛ちゃんからのお礼でね? これ、高い下着だし? それに二人は気に入らなかったみたいだけど、可愛いデザインだと思うし? 可愛いよね? ねぇ!?」
必死に弁明するあたしに、親友二人は優しく笑い返してくれる。
「いや、何度見てもそのパンツはクソださいよ、渚。すぐに脱ごう。そして僕が持って帰ろう。代わりに僕のスパッツを穿かせてあげるから」
「ナギのセンスって独特だよねー。ウチだったら五万円貰っても穿けないレベル。まあでも、幸せを運んできてくれるかもしれないよ、それ。あはは!」
「うう⌇⌇⌇っ! か、可愛いもん! 二人が何て言おうと、このパンツは可愛いデザインだからぁ! ずっと穿くもん!」
こうして、幸せの黄色いパンツ事件は幕を閉じた。
宣言通り、あたしは心愛ちゃんから貰った下着をしばらく穿き続けていたけど、冬子とはるるに、強引に何着かの下着をプレゼントされ、お蔵入りならぬ、タンス入りしたのだが、それはまた別の話。