Prologue ‐すべてをうしなった男‐(3)
3
ライブ終了後、業はノア友とオフ会をして過ごした。
これほど最高の夏はない。学校でクラスメイトが気にするような成績や部活、
「じゃあ、みんなもお疲れ! また会おう!」
業は
そう思うと、終わりゆく夜でも、期待で胸が膨らんだ。
帰宅の途につこうと池袋駅東口へ向かう業。サンシャイン通りを抜け、歩行者信号が青に変わるのを待つ間、スマホを見て今日の戦果について振り返った。
ライブに参加できなかった仲間には今日の様子をどう伝えようか。そう考え、Twitterのアイコンを見やる。アプリの通知を振り切れて「20+」と表示されていた。
新参のノア友からの連絡だろうか。
業が浮き浮きとアプリをタップした、ちょうどそのとき。
「か、カルゴさん……っ! ちょっと待って!」
後ろから声をかけられて振り向く。ミーナが駆け寄ってきた。ライブ前に初
「ミーナさん? どうしたんだ?」小首を
「はぁっ……はぁっ……。乃亜ちゃんが……」
ミーナは顔面
「……炎上……しました……っ!」
ミーナが苦しそうにそう言う。その意味を理解するのに業は時間がかかった。
「──え?」
ふと、スマホが映し出すTwitterの通知画面に目を落とす。
そこには山ほどリプライが表示されていた。大量に貼られたURL。その無機質な文字列は何かのエラーメッセージかと思った。リンク先を踏む勇気は、いまの業にはない。
そのURLは天国か地獄か、どちらか一方の招待状だとしたらまず後者に違いない。
──ドクン、ドクン、ドクン。
心臓の鼓動が強まり、その拍動が頭まで揺らすようだ。
炎上したのが他人だとしても、それは業がすべてを捧げ、これからも捧げ続ける覚悟を決めた唯一の推しである。推しの炎上は『乃亜推しカルゴ』にも飛び火する。
業はもう、乃亜のファンとして後戻りできないところまで来ている。
──歩行者信号が青に変わった。
その雑踏は業を置き去りにして進んでいく。震える指先。崩れ出す膝。足元に目をやると一匹の
「
VTuber業界における炎上の悲惨さを、業は知っている。
それが大火事となるのか、
「どうも……前世のリアルの姿が……」青ざめた顔でミーナが語る。
「……嘘……だ」
「その裏
「嘘……だ」拒絶するように耳を塞ぐ業。
雑踏に押され、たたらを踏んで迷い込んだ先は駅前の中央分離帯。
そこは方舟のような形をしていた。乃亜の初シングル【Ark!】。その崩壊寸前の舟に乗せられ、空高く舞い上がった業の魂は、舟が空中分解したことで行き場を失った。
──男はこの日、すべてを失った。
その無念は浮遊霊のように、ネットの海のただ中で
月日は流れ、VTuber界の力関係も荒々しく変化する。VTuber