Episode1 卒業できた!(1)
王立錬金術師養成学校。
それはこの国で
この学校を卒業し、錬金術師の資格さえ取得できれば、その人の人生はもう
左うちわの生活が約束される。
だが、それだけに競争率も高く、入学はもちろん、無事に卒業を
そんな
そもそも錬金術師とはエリートの代名詞である。
生活に欠かせない各種
国家による価格統制もあり、
簡単に言えば、
そのため、錬金術師になれれば一生食いっぱぐれがない──どころか、必死で働かなくても十分に稼ぐことができる。
また、王立錬金術師養成学校の
入試で必要な知識は教本で学ぶことができ、それは
その上、受験に費用は必要ない。
さすがに文字すら読めない場合はどうしようもないのだが、孤児院であっても望めば文字の勉強程度は可能なので、そこも個人の努力でカバーできる。
また、成績
だがしかし、そんな
平民や孤児にとっては、ほぼ唯一の成り上がりが可能な職業だけに入学希望者は多く、当然試験も難しい。
そして、何とか入学試験をくぐり抜けても安心はできない。
四ヶ月ごとに行われる試験。
その成績が一定水準に達しなければ、
当然、再試験なんてものはなく、これは貴族であっても同様。
結果的に五年後の卒業式に出席できるのは、入学時の一〇分の一以下と言われている。
そんな学校を私、サラサ・フィードは今日、卒業する。
いやー、大変だったね!
卒業の
そんなの感じる
なんと言っても、昨日まで卒業試験があったんだから。
そして、その試験結果の発表は、今朝。
万が一、それで不合格なら、今日学校に来ても、卒業式には出られないという悪夢。
誰が考えたのか知らないけど、いくら何でもこの日程は無いと思う。
まあ、これまでの歴史で卒業試験に落ちた人は、さすがにいないらしいけど。
この試験に落ちるような成績の人は、それ以前に退学になってるからね。
よほど気を抜けば別だけど、卒業式の日に一人だけ教室に取り残されるという
危険なのは病気ぐらい? もちろんみんな
もちろん私も、必死で
その
ええ、ありがたいことに。
思えば八歳の時に事故で両親を
そのため孤児院のみんなには
その代わり
現に孤児院出身の錬金術師が定期的に寄付金を送ってきてくれているので、私たちも
そんなガリ勉の甲斐もあり、平民としてはかなり優秀な成績で入学に成功し、学費無料、奨学金の受給資格と
それからはひたすらバイトと勉強に明け暮れた。
幸いな事に、
おかげでバイト自体が勉強にもなり、報奨金を
残念ながら、トップを取れた回数はごく
なぜ〝幸い〟かって? それは報奨金に関する慣例? 伝統? そんなものがあったから。
通常、試験報奨金は上位三名までに支給される。
これが厳密に適用されていれば、たぶん私が貰えた報奨金は今の半分ぐらいかな?
でも、貴族が上位に入った場合には、これを辞退するのが〝貴族の義務〟みたいな伝統があり、もし受け取ろうものなら『貴族なのに?』と後ろ指をさされかねない。
そして、そんな風に辞退された報奨金は、下位の順位に
私が大半の試験で報奨金を貰えたのは、この伝統のおかげ。
もちろん強制ではないけど、そこは貴族の
下級貴族の場合、
私にはすっごくありがたい伝統だけどね。
そのおかげで、卒業した現時点で私の貯金は五〇〇万レアを
普通の平民は一年に五〇万レアも
うん、がんばった! 私っ!
半分以上は奨学金と報奨金だけど、あとはバイトで稼いだお金だもの!
寮のおかげで
ありがたい事に、
短時間しか働かない見習いのバイトでこれだけ稼げるんだから、本職の錬金術師が
そして今日から私も、そんな錬金術師!
先ほど卒業式で貰った〝
そこに錬金術師のマークと私の名前、王立錬金術師養成学校の卒業証明が刻印されている。
更には私自身の
むふふ、とついつい顔がにやけてしまいそうになるのを、
一人、門の前でにやけていたら
……一人。
そう、一人なんです。
卒業式も無事に終わり、新たなる
でも私は、学校の門の前でポツリと一人。
いやぁ、この五年間、ホント、バイトと勉強以外しなかったからね!
おかげで、こうして学校から出ようとしているのに、
そして挨拶に行く相手もいない。
周りでは
誰も近寄ってこないんだから。
べ、別に、さ、
──いえ、本当は少し寂しいです。
私、友達がほぼいなかったからなぁ。
自分が原因だから、仕方ないんだけど。
やっぱり、勉強ばかりしていて、ほとんど会話もしないんじゃ、友達はできないよね。
いや、まぁ、実際のところ、ほぼゼロなだけで、本当にゼロではなかったよ?
去年までは、こんな私を気に掛けてくれて、仲良くなってくれた
そして、その先輩の
でも、去年無事に卒業したお二人は、今は別の町で働いているので、王都にはいない。
そして後輩の方はと言えば、運悪く数日前から体調を
『絶対、行きます!』とは言ってくれたけど、後輩の定期試験は卒業式のすぐ後。
万が一にでも不合格にさせるわけにはいかないので、『絶対に来ちゃダメ!
シャレにならないくらい人生に
「うん、……早く行こう」
この空気の中、一人立っているのは少々
時々私に送られる
私は一度
いろんな事があった。
ほとんどは勉強の
少なくとも勉強さえしていれば生活に困らないんだから、総じて悪くない学生生活だったんだと思う。
でも、これからは一人で歩いて行かないといけない。
私は決意を胸に、校門に背を向けて歩き出した。