第1章 ピックケースはどこにある(4)
「え、いや、そうだけどそうじゃないっていうか、ロズィちゃんとか
「ロズィ、けっこうロックとか好きだよ! 聞きに行くね!」
「いやーいいよいいよ、ホントにさ、思い出作りっていうか、そういうやつだから」
「いいですね。私も聞いてみたいです」
弾む
僕は人の関係に鈍いほうだという自覚はある。しかしそれでも、
それはティラノサウルスが闊歩する足元で穴に隠れる、小型哺乳類を思わせる。別に今は白亜紀というわけではないのだし、
「それはそれとして、私たちも退散しますよ」
「ちぇ。はーい。ミウ、楽しみにしてるね!」
そして
「はは……期待しないでおいてねー……」
「それでは
「うん。またあとで」
優雅に去っていく恐竜とそれに連れ立つ狼を見送ったあとで、僕は
彼女はなんともいえない微妙な表情で、ふたりの背中を見つめていた。
「よっす。
なんと声をかけようか迷っているところで、ひとりの男子生徒に先を越される。
片方の目にかかるくらい重い前髪と、同じくらい重そうに垂れた目の端が印象的だ。見た目の雰囲気はちょっと暗い感じなのに、その声は軽快で飄々としている。背は高いが線が細くて、飛び出た犬歯が目立つ。
黒いケースに入ったギターを背負っていたが、よく見ると
なんとなく、サメみたいな人だな、と思った。
「あっ、ウミくん。ごめんごめん、机にピックケース忘れちゃってて」
「だーれがウミくんだ。俺が卒業するまでに、お前は俺を先輩とは呼ばないんだろうなぁ」
そう言って大げさに肩をすくめると、冗談めかした溜息をつく。どうも様子からすると、軽音楽部の先輩らしい。
「ロックに年功序列ないでしょ。それにカイ先輩だと、なんか海鮮丼みたいだし」
「そっちのほうがうまそうでいいけど。俺イクラ好き」
「誰も聞いてないよそんなこと」
「しっかし、そもそも
「雨よりいいじゃん。湿っぽくなくて」
「そう? あ、そういやさっきそこで
「え、ウミくん気持ち悪」
「うるさいな。いいだろ別にファンなんだから」
僕はぽんぽんと繰り出される軽快な言葉を、まるでジャグリングでも眺めるかのように見つめていた。それを見ているうちに、なんだか納得する。バンドのメンバーらしい息の合い方だったから。
「いいから練習行くぞ、もう文化祭まで時間ねぇんだから。じゃ、お邪魔しましたー」
「
「うん。練習がんばって」
ひとり静けさとともに自分の席に残されると、ふう、と小さく息が漏れた。
机の上に置いたスマートフォンをなにげなく見ると、
今までになかった情報量に少し疲れて、僕は椅子を後ろに傾け、天井を見上げる。
「さて。放課後、か……」
そして僕は、この後に待っている、さらなる非日常に、思いを馳せた。