2. 2番目ぐらいが?(6)
店を出た俺たちは、そのまま駅ビルの中に入っているアミューズメント施設へ。フロア丸々使っていることもあり、ゲームコーナーだけでなく、バッティングコーナーやフットサルコートなどもあり、多くの人で賑わっている。薄暗いフロア内を明滅する光が照らし、ゲームを楽しむ人たちの歓声が耳に入ってくる。
「お待たせ。メダル借りてきた」
「ありがと」
ここでの遊技はすべて
それぞれ出したのは千円ほどなので、一時間ぐらいは遊べるだろうか。
「じゃ、まずはこのメダルを増やしにいこっか」
「いきなりパチ屋のオッサンみたいなこと言い出したけど大丈夫?」
なにして遊ぼうか、の前にそのセリフが出る時点である意味将来有望な気がするのは俺だけだろうか。
「大丈夫、大丈夫。ここは大船に乗った気持ちでメダルゲーガチ勢の私に任せておけば問題なしだから」
「すがすがしいほどのフラグ」
とはいえ俺も楽しみ方がわからないので、朝凪の後をくっついて、とあるゲームの前に。
液晶画面に表示されているのは……なるほど、競馬のゲームか。これで着順を当てて、倍率に応じてメダルが増えていくと。
「前原はどれがいいと思う? 私は9番を軸にしていくのがいいと思うんだけどさ~」
言っていることがよくわからないが、朝凪はすでにウキウキ顔で画面を見つめている。
単勝? 3連単? ワイド? その他、とにかく色々と買い方があるようだ。朝凪に教えてもらいつつ、それぞれ予想したものに賭けることに。
俺はわかりやすく単勝にした。リターンは低いようだが、遊ぶのならこの程度で十分だろう。朝凪は……結構つぎ込んでいるが大丈夫なのだろうか。
【さあ、各馬一斉にスタートしました。まず先行したのは8番のアドマイヤリンド。続いて3番──】
「ようし、いいぞ、いい位置だ……!」
見ているのはCGのゲーム画面なのだが、メダルを賭けているので、俺も朝凪ほどではないにしろそわそわしてしまう。
【おっと、ここで大外から、大外から9番ブラックシェイド。伸びる、伸びる。先頭まではおよそ五馬身、四馬身、どんどん差を詰めていくっ】
「あれ? 前原、これ来てんじゃない? 差せるよこれ」
「あ、マジだ」
朝凪も俺も一着の予想は同じなので、そのままくれば大当たりだ。
賭け馬が最終コーナーを回り、大外からぐんぐんと後続の集団を置き去りにし、先行していた馬に並び、そして──。
「お」
「やったきた~!」
俺が予想していた馬が一着。朝凪のほうも一着の馬を軸にいくつか買っており、それが当たってかなりの払い出しがあった。
二人の勝ち分を合わせると、元々の三倍と少しに。
「最初はどうかなって思ったけど、前原のビギナーズラックに乗ってよかったよ。サンキューね、前原!」
「どういたしまして」
負けた時のことを考えてちょっとドキドキしたが、結果は勝ち。これだけあれば、あとは俺たちがここにいられるぎりぎりの時間までめいっぱい遊べるだろう。
「じゃあメダルが増えたところで後はゆっくり──って、」
カップ山盛りになったメダルを手に次の場所へ移ろうとしたが、さっきまで隣にいた朝凪は、いつの間にか元の液晶の場所にいる。
「……朝凪、なにしてんの?」
「は? いやいや、前原こそ何言ってんの。ここからが本番じゃん」
嫌な予感がしたが、やっぱり。
朝凪のヤツ、よせばいいのに次レースも当然だとばかりにいこうとしている。
しかも、先程払い出されたメダルのほとんどを賭けて。
「ふっ、これが当たればしばらくは遊び放題……これまでの負けを帳消しにする絶好のチャンス……」
「朝凪さん、あの……」
「よっしゃいったれ~!」
「ダメだ話きいてないこの人」
で、俺の制止を聞かず、勝負した結果。
「……あの、前原さん」
「なに?」
「……すいませんした」
大負けし、持ちメダルを大きく減らす羽目になった。
今後朝凪と遊ぶ時はこういうことにならないよう注意しておかないと。
朝凪もしっかりと反省したようなので、それ以降はメダルのことを考えつつ、賭け以外のゲームを楽しむことに。
「朝凪、そっち任せた」
「はっ!? いや、いきなり言われても……あ、ザコゾンビのくせして生意気。こいつマジ殺すわ」
俺でもとっつきやすいゲームをということで、今は朝凪と協力プレイでガンシューティングゲームをやっている最中である。
いつものコントローラーとは勝手が違うので戸惑ったものの、慣れてからはライフを減らすことなく的確に敵を処理していく。
「う~ん、惜しくも二位か……やっぱり初めのミスが響いたかな」
「いやいや、初めてのプレイでランキング乗るほうがやばいんですけど……こういうのならたまにクラスのみんなとやるけど、だいたいクリア前にやられちゃうし」
「……朝凪、もう一回やろ」
「ふふ、いいけど」
一回だけの予定だったが、体がようやくあったまってきた気がするのでもうワンプレイやることに。
ゲームは所詮お遊びだが、しかしやるなら真剣にやりたい。
「ねえ、前原」
「? なに」
「楽しい?」
気づくと、笑みを浮かべた朝凪が俺の顔を
油断して表情が緩んだところを見られた気がして、なんだか小恥ずかしい。
「……まあ、そこそこ。朝凪は?」
「まあ、そこそこ」
朝凪が俺の口調を
「真似すんなよ」
「真似じゃないって、これは私の本心。ほら、敵来てるよ」
それだけ言って、朝凪は銃形のコントローラーを画面に向け直す。
「むう……」
最初は朝凪に適当に付き合うだけだったのが、今は俺が朝凪を振り回しているような。
そうさせてくれるのは、多分。
「うおおりゃっ!」
──カキィン!
シューティングを一通り楽しんだ後は、こちらもメダルで遊技可能な併設のバッティングコーナーへ。
先に朝凪が手本を見せるということで、時速120キロのコーナーへ。120キロだと女子は結構厳しいはずだが、朝凪はぽんぽんと鋭い当たりを連発していた。
「……さすがだね」
「まあ、小さいころからパワフルな親友と付き合ってれば自然とね。それに、たまにはこうして体を動かして汗かかないと」
額にじんわりと汗をかいた朝凪が満足そうな顔で出てきた。
サイズオーバー気味の服からでもわかる朝凪のスタイルの良さ。
俺といる時はだらだらしていても、それ以外はきっちりと引き締めている。
だからこそ、天海さんと一緒にクラスの中心的役割を担えているのだ。
「一発ホームラン出たから、タダでもうワンプレイできるよ。ってことで、はい、前原も」
「え? 俺も?」
「当たり前じゃん。前原もたまには運動!」
とはいえ、バットなんて、おもちゃの軽いやつすら振ったことがない。
運動もそんなに得意なわけじゃないし、野球なんて初めてなので、下手したら一球すら当たらないかも。
「大丈夫だって。当たんなくても私しか見てないし」
「朝凪が見てるから恥ずかしいんだけど……」
朝凪のことは信用しているが、それでも極力ダサいところは見せたくない。
「ほら頑張って。一球でも前に飛ばしたらジュース
「……しょうがないな」
体を動かすのが目的だし、今なら周りに人もいないので、さっさと済ませてしまおう。
朝凪からバットとヘルメットを受け取って打席へ。
球速は朝凪と同じ120キロ。
遅くしてもいいのに、と朝凪に言われたが、朝凪にだってできるのだから、一球ぐらいなら俺だって──。
一球目。
──ビュン!
「おっ……!?」
外からだとそうでもなかったが、いざ打席に入ってみると、その速さに驚く。
120キロってこんなに速いのか。無理だ。
「へいへい前原ビビってる~」
「び、ビビってないから」
気を取り直して二球目。……今度は振ったが空振り。
ぶん、とバットがむなしく空を切る。
「前原、まずちゃんとボールをしっかり見て。それからバットをぶつけていくイメージだよ。大きく飛ばそうとか、そういうのは今は考えずに」
「っ……うん」
三球目、四球目と、朝凪のアドバイスを受けながらバットを振るが空振り。
周りがカンカンと快音を響かせる中、俺は一人空振りの山を築いている。
「大丈夫、いい感じだよ。ちょっとずつボールとバットが近づいてきてる」
「アドバイスはありがたいけど、敵に塩を送る真似なんかしてもいいの?」
「そうなんだけどさ。でも、空振りした後の前原の背中がやたらと哀愁漂ってるから、ついつい構いたくなって」
「このヤロ」
「ほら頑張って。あと三球で終わりだよ」
朝凪の応援を受けながら、しっかりと当てることを考える。
ここまでされているのだから、一球ぐらいはなんとかしたい。
「ボールをよく見て……そこにバットを……」
──コキンッ。
「あ、当たった」
「おおっ。前にいかなかったけど、いい感じ」
バットの上をこすって、ボールは後方へ。
よし、今度こそ。
──カツンッ。
「あ~、惜しい」
今度は下。これも後ろにいったが、さっきよりも手応えがある。
あともうちょっとだけバットを下に。
「あと一球だよ。頑張れ、前原っ」
最後の一球。先ほどと同じコース。
「しっかり見て……振るっ」
朝凪のアドバイスと応援を背に受けて、俺はバットを思い切り振って──。