2. 2番目ぐらいが?(4)
俺が月一、二回ほどのペースで利用するアニメショップは、大通りから道一本外れた雑居ビルの二階にある。狭い店内面積の割には
「……なんかこう、カラフルな髪の
「うっ」
朝凪さんの率直な感想が俺や周囲のお客さんたちに容赦なく突き刺さる。まあ、俺も最初にここを知った時は多少は驚いたが。
「あ、別に引いてるわけじゃないよ。逆にこういうところもあるんだって新鮮な気分。夕たちと遊ぶ時はこういう場所絶対に行けないし」
「まあ、そうだろうね」
こういった趣味に偏見や嫌悪感を抱く人はまだまだ一定数いるから、オタク側とそれ以外の側の両方に軸足を置いている朝凪さんにとっては複雑な思いだろう。
「あ、そうだ前原」
「……なんでしょう」
「私たちもうそれなりの友達なんだからさ、そろそろ『さん』づけやめない?」
「……ああ、そのこと」
朝凪さんはすでに俺のことを呼び捨てにしているが、俺のほうはなんとなく最初の呼び方で定着してしまっている。
対等な関係なのに、一方は呼び捨て、一方は『さん』づけは確かに違和感がある。
「じゃ、じゃあ、朝凪……?」
「…………」
「な、なんで黙るんだよ」
「だって、海、って呼んでくれなかったから」
俺が言うはずないのをわかって、そんなことを言う。
朝凪さんはたまにこんな感じで意地悪だ。
別に嫌ではないけれど、なんだかちょっと悔しい気持ちもある。
「じゃあ、朝凪が
「いや、私たちまだそんな仲良くないし」
「そのセリフそっくりそのまま返すわ……このバカ」
「お? そんなこと言っていいのか? このままあっちの『18×』って書いてあるとこに一緒に行ってもいいんだぞ?」
「それはダメだから、絶対」
というか、そんなところに行ってはいけない。あそこは大人の紳士の社交場なのだ(多分)。
「いや~、ああいう
「お前はおっさんか」
「ただ興味があるだけだって。逆に前原は興味ないの?」
「それは、あ……」
「あ、なに?」
まずい、つい勢いに任せて口を滑らせるところだった。
「……な、ないし」
「ん~? またまた強がっちゃって。我慢は体によくないよ?」
「べ、別にないわけじゃないけど……とにかく、今はダメなのっ」
「ぶ~、つまんないの~」
朝凪の抵抗にぐっと耐えつつ、俺は彼女を全年齢向けのコミックが陳列されている棚へと引っ張っていく。
周りに人がおらず、小声でのやり取りだったが、店員さんにはとりあえず謝っておいた。
朝凪が楽しそうなのは何よりだが、俺のほうの体力は半分ぐらいもっていかれた気がする。
「あ、これ私めっちゃ読んでるよ。今日新刊発売だったんだ」
「『怪人ノコギリ8号』か。人気だよな。朝凪、こういうのも好きなんだ」
「うん。激しいバトルとか、血がぶっしゃー飛び散る描写とかわりと好き。周りの女子にはあんまり理解されないけど。前原は?」
「俺も似たようなもんだけど……あとはまあ、その、こういうやつとか」
俺が手に取ったのは、少年誌で連載されているラブコメ作品である。わりときわどい描写の作品が多くある昨今、ハーレムなしの一対一のラブコメで、どちらかというと真面目に恋愛をしている作品だった。
「へえ、前原もこういうの読むんだ。もっとエッチなやつかと思ったけど」
「そういうのはちょっと……まあ、マイナー気味だけどそこそこ売れてるし……話自体もいいからさ」
「ねえ、ちょっとそれ貸して。読んでみたい」
「ん」
「ありがと」
試し読み用の冊子を渡すと、朝凪はぺらぺらとページをめくり始めた。
「……出てくる人たち、みんないい人だね。こんだけ美少女だったら、もっともっと色んな人が群がるもんだけど」
「最近はストレス展開が敬遠されてるから……まあ、現実はなかなかそうもいかないけど」
「そうなんだよね。こういうのみたいに、みんなが優しい世界だったら快適なんだけど」
朝凪自身も、その親友である天海さんも色々な人から言い寄られているからだろうか、言葉に重みがある。
「それはともかく、前原もこういう可愛い女の子との恋愛に憧れてるんだ? やっぱりキミも男の子なんだね~」
「いや……創作は創作で現実は現実だから。ちゃんと
現実で例えるなら、天海さんのような人が俺に好意を抱いて言い寄ってくるようなもので、どう考えてもあり得ない話だ。
「そ。じゃ、今日のところはそういうことにしといてあげる。私が聖人で良かったね?」
「え? 誰が悪女だって?」
「ちょうしのんなおまえ」
「……すいません」
その後は