第5話
そんな話をしていると、そういった事を思い出すので更に話が続いてしまうもの。
結局、長いやり取りになってしまって、長時間のスマホのブルーライトの影響で目が冴えて眠れなくなる。
「眠た……」
そして寝不足のまま、次の日を迎える。
昨日と全く同じで、登校して朝から欠伸ばかりしてしまう。
俺が寝不足でウトウトしていて授業で怒られるならまだしも、凛ちゃんも同じようなことになっていなければいいが。
「眠そうだねぇ、斗真!」
「ぐふっ!」
元気のいい声とともに、割と強めの力で背中を叩かれた。
痛いというほどではなかったが、全く想定してない衝撃に驚いた。
「委員長、おはよう」
「あい、おはよう!」
手荒い挨拶をしてきたのは、うちの学級委員長になったばかりの三上結花というクラスメイトだ。
明るい性格で、誰とでもすぐに打ち解けるのがとても上手い。
そして、何よりもうちの学年でとても男子から人気がある。
整った顔立ちに、スタイルもいい。
「寝不足?」
「現代機器を夜に使用する恐ろしさを忘れた結果」
「あー、夜遅くまでスマホ? まぁそれは分かるかな」
俺は分かりにくい言い回しをする癖があるが、普通に理解してくれる数少ない人物の一人である。
「委員長もこういうことある?」
「あるよ。友達と話してたらついつい……ってことはね! ってか誰とそんなに夜遅くまで連絡してんの? 例の昨日来た可愛い子??」
興味津々といった表情でグイグイ聞いてくる。
確かに凛ちゃんと話していたが、委員長が知りたいところはそこが本質な訳では無い。
「昨日の子と俺は付き合うとかそういう関係じゃないよ?」
「うっそだぁ」
「いや、嘘ついてもいつかバレることだから意味無いことしない」
「えー、つまんなーい」
やっぱり知りたい本質は恋愛について。
みんな、恋愛についての話は本当に好きだよなぁ。
「そういう委員長はどうなんですかね」
「えっ?」
「何か色々聞いてますよ。人気男子との噂を」
「うーん。何かね」
委員長はやはり人気者であることもあって、当たり前のことだが男子の人気者との噂が絶えない。
でもそんな数多くの噂が上がりつつも、彼女が誰かとお付き合いしているという話は聞かない。
彼女に彼氏がいたという話を聞いたのは、一年生の夏休み明けくらい前の一回だけで、それもすぐに別れたと本人があっさり言っていたし。
「委員長のお眼鏡に叶う人がいませんかね?」
「そうかも」
「今の噂になってる人で駄目なら、この学校じゃ無理やね」
「うーん、そういうわけでもないんだけどなぁ。確かにイケメンとか優しいとか基本的な魅力も欲しいけど……。何よりも普通に話しして板につく人と一緒がいい」
「ほう??」
性格も明るくて話もうまい委員長が、普通に話して板につかない人いるのだろうか。
「それに大体、噂になるとしんどくなるのよね、実際のところ。普通に友達として楽しく話してても、急に相手の反応変わったり」
「まぁそりゃ仕方ない。委員長相手に、意識しない方が難しいな」
こんな人相手にそんな浮いた話が広がったら、たじろぐのは普通のことだと思う。
「だからどんな時も落ち着いて、楽しく話せる人がいい! 後、出来ればイケメンで優しくて一途!」
「しばらくの間は無理……。いや、校外とかまで範囲を広げた上で、委員長ならいけるかも」
「お? 割とむちゃくちゃなこと自分でも言ってる自覚があるんだけど、随分と高く評価してくれるじゃない!」
「だって、委員長ですぜ?」
「ほほう。そこまで褒めてくれるのなら、私のいいところを言ってみてくれたまえよ」
俺が思う委員長の絶対的に良いところ。
圧倒的に良いと思うところが一つある。
「校則ギリギリグレーなラインまで、制服着崩してオシャレしてて教師が文句を言いたそうにしてるのに、成績優秀でクラスもまとめられる模範的な生徒過ぎて文句すら言わせないところ!」
「ふ、ふふ……。あはは! そこ!?」
俺が言ったことがツボに入ったのか、大爆笑し始めた。
「だって、かっこよすぎない!? ちょっとでも駄目なところあったら、『あなたのその身なりが、こういうだらしない所を現している』とかネチネチ言われるところを、言わせず完璧!」
「そんなこと褒められたの初めてなんだけど!」
まだ楽しそうに笑っている。
うちの委員長は、真面目な雰囲気を持った感じでは全くない。
スカートは校則ギリギリの短さを攻めてくるし、制服でいかにオシャレに見せるか常に変化を遂げている。
そんなオシャレな委員長に影響される女子は少なくなく、真似する子もいるのであまり教師はいい顔をしない。
しかしクラスのまとめ役もする上で、成績優秀で部活にも真面目に精力的。
素行も良いので、きつく注意しづらい環境が出来上がっている。
女の子としての魅力は最大限に磨きつつ、やるべき事はきっちり。
まさにしっかり者で、俺が常にすごいと感じさせられる部分である。
「いや、本当にかっけぇよ」
「はいはい、ありがと!」
「二人とも朝から盛り上がってんな〜」
そこに遥輝と幸人が部活の朝練を終えて、教室に入ってきた。
「二人ともおはよ! いやぁやっぱり斗真は面白いね!」
「いい感じに会話の軸ずれたこと言うからな」
「そうそう!」
委員長と遥輝が俺をネタに会話をしだした。
実を言うと、一年生の頃に遥輝は委員長に一目惚れしていた。
何とか接点を持った結果、友人になった俺や幸人とともよく話すようになった。
結局、遥輝が告白しようとする前に委員長が付き合い出したので、何も切り出さないままになったが。
結果的に今の彼女と遥輝は落ち着いて、委員長への恋愛感情は落ち着いた。
告白していたら、今みたいに気軽に話せるような関係はなくなっていたかもしれないので、それはそれで良かったのかもしれない。
「じゃあ、私はそろそろ席に戻るね」
そう言うと、委員長は自分の席に戻って行った。
「随分と結花と話が弾んでたな」
「話上手だからな、委員長」
「それにしたって、あんなに笑ってる結花久々に見たけど」
「確かにツボに入って、大爆笑してた」
「お前ら、相性いいんじゃね?」
「すぐにそういう話に持っていく。さっき言ってたぞ、そういう話で意識されるときついってな」
「結花やっぱり言ってることのハードルたけぇよなー……。ま、狙うならサポートはするから遠慮なく言えよ」
「そんなプラン選ばんから心配無し」
ちょっと話が合うと、すぐ恋愛。
確かに、その流れになるとやれやれといった感じなるので、さっきの委員長の言葉は分かるような気もする。
まぁ、付き合ったことも告白されたことも無いんですけど。
何はともあれ、委員長が楽しく話し相手になってくれたおかげで、目が覚めた。
普通に授業を受けることが出来そうだ。