【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はスニーカー文庫から10月1日に刊行される『死神公女フリージアは、さよならを知らない』(著者:綾里けいし/イラスト:藤実なんな)です。みなさんの感想も聞かせてください!
生きとし生ける者すべてに必ず、等しく訪れる、最期の瞬間。「死」。死ぬとは、どういう事なのか。誰に、何をもたらすのか。これは、その意味を知らない死神が、様々な人の死から、「死」を、少しずつ学んでいく物語。
死神と言えば、手にした大鎌で、無慈悲に命を刈り取っていく、誰もが怖れる死の象徴。そんなイメージですが、普段のフリージアは、ハンバーガーやらパスタやらをドカ食いしたり、付き人の黒朗と、小粋なジョークの応酬をしたり。およそ死神らしからぬイメージで、いざ人の死の瞬間にあっても、ただ看取るだけで、何もしません。死と生を操り、死なない存在だからこそ、死の意味を知らない。よくよく考えてみれば、もっともな話かもしれません。
ある者は、交わした約束のために足掻き。またある者は、復讐の炎に身を焦がし。予期せぬ原因であっけなく死ぬ者もいれば、愛の果てに死に往く者もいる。フリージアと黒朗が看取った彼らはみな、異世界と現世が接続されたが故に、数奇な運命を辿りますが、その本質は変わりません。それは、死が、生命の生きた証だからです。看取れば、否応なく、その証を受け取ってしまう。だからこそ「死」は、重くて、悲しい。そして、より深い重み、悲しみを知った時、彼女はどんな反応を見せるのでしょうか。
考えさせられるテーマを扱った作品ながら、不思議な世界観と、軽妙なトークが、心地よい読後感を与えてくれます。秋の夜長に、じっくりと味わってほしい作品です。
文:瀧田伸也
ざっくり言うとこんな作品
1)永い時を生き続ける異世界の死神と、限られた命で何かを為そうと生きる、現世の人間。その死生観の違いに、考えさせられる
2)現代社会を舞台としながら、異世界の影響を受けた、一風変わった登場人物たち。そんな彼らの、奇妙で独特な人間ドラマが魅力的
3)知りたがっていた「死」について、答えを得たフリージアに訪れる衝撃の「死」と、乗り越えた先にある、感動のラストシーン
主要キャラ紹介
▼フリージア【イラスト右】
異世界より現れた、『歓待特権』を持つ死神。現世で『死』を学ぼうとしている。食事の量と食べる様子は、フードファイターなみ
▼黒朗夏目(こくろうなつめ)【イラスト左】
フリージアに付き従う、ジャージにパーカー姿の、背の高い少年。現世の人間だが、「人の死期がわかる」という異能を持っている
▼土浦秋吉(つちうらあきよし)
異世界と現代の接続による影響を取り締まる、『異世界侵食対抗自警団』の一員。事あるごとに、フリージアたちの行動を見張っている
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死神公女フリージアは、さよならを知らない
著者: 綾里けいし イラスト: 藤実なんな
死神は人と繋がり恋することで――最期にすべてを理解した
「私は人が生き抜いた末の『死』が観たい。その果てに、なにが遺るのかを」
『死』を学ぶためだけに現世を旅をする死神がいる。死神公女フリージア・トルストイ・ドルシュヴィーア。
異世界の中でも高位な存在であり、現世の『死』を知りたいと願った彼女は、付き人である少年、《人の死期がわかる》異能を持つ黒朗夏目と、様々な人間の『死』を看取る旅をする。
寿命という概念と無縁だから、人間と親しくなったことがないから気付かなかった、抗いようのない一つの事実。
彼女がそのことに気付く、その刻まで――旅は続く。