第一章 その8
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街に着いた頃にはミィナもだいぶ回復していたので、猫耳族の少女は俺の背中から下りて、自分で歩きはじめた。
ちなみに、引き裂かれてずたずただった彼女の衣服は、彼女自身が荷物として持っていた替えの衣服へと着替えている。
衣服はひとまずそれでいいとして、体のほうも綺麗にしたいところだ。
時刻は昼下がり。宿ではまだ風呂を沸かしていないだろう。
俺はミィナとともに公衆浴場に行って、ともにさっぱりすると、湯上がりのほくほく状態で再会した。
それから少し早めだが、二人で酒場に繰り出す。
酒場に着くと、カウンターの隣り合わせの席を確保して、酒とつまみを注文した。
そして乾杯をしてから、二人でだべり始める。
「ふにゃああ……それにしても、今日は疲れたにゃあ……なんかもう色々ありすぎて、何がなんだか」
ミィナはぐってりと、カウンターにもたれかかる。
俺は少し迷いつつも、その少女の頭に手を伸ばし、髪を優しくなでた。
ミィナは「にゅふ〜」と言って、幸せそうに目を細め、猫耳をぴくぴくさせた。
俺はそれを見て微笑みつつ、彼女の言葉に相槌を打つ。
「俺もだよ。人生の転機が、いくつもまとめて来た感じだ」
「……それって、ミィナのことにゃ?」
「それも、だな」
「ほかのはどんなにゃ? ていうかダグラス、よく生きてたにゃね。あの魔獣——キマイラっていったっけにゃ。あいつからうまく逃げられたにゃ?」
「ま、いろいろとあったんだよ」
俺はミィナと引き離されたあとの出来事を、猫耳族の少女に向けて語っていった。
キマイラから逃げ惑っていたら落とし穴に落ちたこと、その先で聖斧ロンバルディアと出会ったこと、自分でも信じられないほどの力を手に入れたこと、キマイラを一人で倒したこと。
ミィナはそれを聞いて、目をまん丸にしていた。
「それ……全部本当の話にゃ? あの魔獣を、一人で倒した?」
「信じられないか? ま、無理もないな。俺も同じ話を人から聞いたら、信じないだろうし」
「……うん、ごめんにゃさい。でもダグラスは多分、そういうウソをつかない人にゃ。だからきっと、本当なんにゃ。——そこにあるのが、見つけたっていう魔法の斧にゃ?」
ミィナがぴょこっと、俺のすぐ横に立てかけてある聖斧ロンバルディアを覗き込んだ。
俺はそれを手に取って、ミィナに渡してやる。
「ああ。こう見えて、全裸の女子に化ける——っていうと、もっと信じられなくなるか?」
「えっ……? この斧が、裸の女の子になるにゃ? さ、さすがに言っている意味が分からないにゃ……」
「あー、やっぱそうだよな」
まずい、このままでは俺が妄想癖のあるヤバい人間だと思われてしまう。
今度ミィナには、ほかに人のいないところで、化身になったロンバルディアを見てもらったほうがいいな。
と、思っていたのだが——
『なんじゃこの娘。我が化身の姿になれるのを、信じられんというか。それなら実際に見せるのが早かろう』
「えっ……? ちょっ、待てお前、何を——⁉」
——ピカァアアアアッ!
俺が止める間もなく、ロンバルディアがその姿を変え、化身の姿となってしまった。
すなわち、褐色肌の小柄な全裸少女の姿である。
「「「えっ……?」」」
酒場中の視線が、俺たちのほうに注目した。
厳密には、俺のすぐ横にいるロンバルディアにだが。
「裸の、女の子……⁉ あの隣のおっさんの連れ子か? めちゃくちゃかわいいぞ」
「いやでも、なんで服を着てないんだ? あのおっさんの奴隷か?」
「ていうか、いつからいたよあの子。なんか今、光ったよな……?」
酒場の人々が、にわかにざわつき始める。
一方でミィナはというと、目をぱちくりとしばたたかせ、声も出ないという様子だった。
「お、おいロンバルディア、ちょっと来い!」
「おおっ……⁉ なんじゃわが主よ、そんな強引に。この姿の我と交わりたいなら、いつでも構わんもががっ……!」
「うるせぇ! 黙ってついて来い!」
俺は少女姿になったロンバルディアの手を引き、口を塞いで慌てて酒場の外に出た。
そして路地裏に入り込み、ロンバルディアを壁際に押し付けると、ほかに人目がないことを確認する。
一方のロンバルディアはくねくねと身をよじらせ、恥ずかしそうにしていた。
「もう、なんじゃわが主よ。この姿の我とまぐわいたいなら、早よそうと言わんか。我は一向に構わんぞ♪」
「ち、が、う! 人前で化けるんじゃねぇよ、俺がヤバいやつに見られるだろうが! それに無駄に目立てば、お前を手に入れようと襲ってくるやつだって現れる!」
「なんじゃ、人目を気にしておるのか? 小っちゃいのぅ。我を手にしたおぬしは、これから天下無双の英雄となるのじゃぞ? もっと堂々としておればよいものを」
「堂々と全裸の美少女を連れ歩けるか!」
「もう〜、美少女とか、本当のことを言うて♡ わが主は意外と口がうまいのぅ」
「あのなぁ……。もういいからお前、斧の姿に戻れ。俺が化けろと言ったとき以外は、その姿になるな」
「なんじゃ、いよいよ一丁前のご主人様ぶりじゃな。くくくっ、まあよかろう。おぬしがわが主——ご主人様であることには相違ない。では、我にメイド服を着てご奉仕してほしければいつでも言うのじゃぞ、ご主人様♡」
そう言ってロンバルディアは、斧の姿へと戻った。
はあ……まったく、冷や汗をかいた。
俺は斧の姿になったロンバルディアを手に、路地裏を出る。
すると酒場の前に、きょろきょろとあたりを見回すミィナの姿があった。
ミィナは俺を発見すると、パタパタと駆け寄ってくる。
「だ、ダグラス……さっきの子が、その斧にゃ……?」
「ああ、そういうことだ。見てたか?」
「見てたにゃ……。ダグラスの話、全部信じる気になったにゃ……」
「そりゃあ良かった」
「あと、その……すっごいかわいい子だったけど……あの子とも、エッチなことしたにゃ……?」
頬を赤らめて、もじもじしながら聞いてくる猫耳族の少女である。
その仕草がめちゃくちゃかわいくて、俺はムラッときてしまった——ロンバルディアが無駄に挑発してきていたせいでもあるが。
俺はミィナの両肩を、がっちりとつかむ。
怯えた表情を見せる獣人の少女。
「な、何にゃ、ダグラス……?」
「ミィナ……俺、もう一回ミィナとやりてぇ。今度は宿を取って。……ダメか?」
「ふにゃっ⁉ さっきやったばっかりにゃよ⁉」
「ミィナがかわいすぎて、我慢できねぇんだ。嫌ならあきらめるが」
「にゃううぅぅっ……。……しょ、しょうがないにゃあ……いいよ?」
「いやっほぉーう!」
俺は拳を振り上げ、歓声をあげた、
一方でミィナは、
「そんなに喜んでもらえると、冥利に尽きるにゃね……」
と言って、言葉とは裏腹にため息をついていた。
——というわけで、このあと俺はいかがわしい宿を取り、ミィナとめちゃくちゃセックスした。
そして宿に入って、およそ一時間後。
数ラウンドにわたって俺の相手をしたミィナは、ベッド上で全身白濁まみれになってぐったりとしていた。
「ぜ、絶倫すぎるにゃ……ダグラスの相手は、ミィナ一人じゃ無理にゃ……」
そんなことをうわ言のようにつぶやきながら、愛らしい猫耳族の少女はびくんびくんと痙攣していたのだった。
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試し読みは以上です。
続きは2021年5月28日(金)発売
『斧使いのおっさん冒険者イチャエロハーレム英雄譚』
でお楽しみください!
※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。
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