第一章 その8

   ***


 街に着いた頃にはミィナもだいぶ回復していたので、猫耳族の少女は俺の背中から下りて、自分で歩きはじめた。

 ちなみに、引き裂かれてずたずただった彼女の衣服は、彼女自身が荷物として持っていた替えの衣服へと着替えている。

 衣服はひとまずそれでいいとして、体のほうも綺麗にしたいところだ。

 時刻は昼下がり。宿ではまだ風呂を沸かしていないだろう。

 俺はミィナとともに公衆浴場に行って、ともにさっぱりすると、湯上がりのほくほく状態で再会した。

 それから少し早めだが、二人で酒場に繰り出す。

 酒場に着くと、カウンターの隣り合わせの席を確保して、酒とつまみを注文した。

 そして乾杯をしてから、二人でだべり始める。

「ふにゃああ……それにしても、今日は疲れたにゃあ……なんかもう色々ありすぎて、何がなんだか」

 ミィナはぐってりと、カウンターにもたれかかる。

 俺は少し迷いつつも、その少女の頭に手を伸ばし、髪を優しくなでた。

 ミィナは「にゅふ〜」と言って、幸せそうに目を細め、猫耳をぴくぴくさせた。

 俺はそれを見て微笑みつつ、彼女の言葉に相槌を打つ。

「俺もだよ。人生の転機が、いくつもまとめて来た感じだ」

「……それって、ミィナのことにゃ?」

「それも、だな」

「ほかのはどんなにゃ? ていうかダグラス、よく生きてたにゃね。あの魔獣——キマイラっていったっけにゃ。あいつからうまく逃げられたにゃ?」

「ま、いろいろとあったんだよ」

 俺はミィナと引き離されたあとの出来事を、猫耳族の少女に向けて語っていった。

 キマイラから逃げ惑っていたら落とし穴に落ちたこと、その先で聖斧ロンバルディアと出会ったこと、自分でも信じられないほどの力を手に入れたこと、キマイラを一人で倒したこと。

 ミィナはそれを聞いて、目をまん丸にしていた。

「それ……全部本当の話にゃ? あの魔獣を、一人で倒した?」

「信じられないか? ま、無理もないな。俺も同じ話を人から聞いたら、信じないだろうし」

「……うん、ごめんにゃさい。でもダグラスは多分、そういうウソをつかない人にゃ。だからきっと、本当なんにゃ。——そこにあるのが、見つけたっていう魔法の斧にゃ?」

 ミィナがぴょこっと、俺のすぐ横に立てかけてある聖斧ロンバルディアを覗き込んだ。

 俺はそれを手に取って、ミィナに渡してやる。

「ああ。こう見えて、全裸の女子に化ける——っていうと、もっと信じられなくなるか?」

「えっ……? この斧が、裸の女の子になるにゃ? さ、さすがに言っている意味が分からないにゃ……」

「あー、やっぱそうだよな」

 まずい、このままでは俺が妄想癖のあるヤバい人間だと思われてしまう。

 今度ミィナには、ほかに人のいないところで、化身になったロンバルディアを見てもらったほうがいいな。

 と、思っていたのだが——

『なんじゃこの娘。我が化身の姿になれるのを、信じられんというか。それなら実際に見せるのが早かろう』

「えっ……? ちょっ、待てお前、何を——⁉」

 ——ピカァアアアアッ!

 俺が止める間もなく、ロンバルディアがその姿を変え、化身の姿となってしまった。

 すなわち、褐色肌の小柄な全裸少女の姿である。

「「「えっ……?」」」

 酒場中の視線が、俺たちのほうに注目した。

 厳密には、俺のすぐ横にいるロンバルディアにだが。

「裸の、女の子……⁉ あの隣のおっさんの連れ子か? めちゃくちゃかわいいぞ」

「いやでも、なんで服を着てないんだ? あのおっさんの奴隷か?」

「ていうか、いつからいたよあの子。なんか今、光ったよな……?」

 酒場の人々が、にわかにざわつき始める。

 一方でミィナはというと、目をぱちくりとしばたたかせ、声も出ないという様子だった。

「お、おいロンバルディア、ちょっと来い!」

「おおっ……⁉ なんじゃわが主よ、そんな強引に。この姿の我と交わりたいなら、いつでも構わんもががっ……!」

「うるせぇ! 黙ってついて来い!」

 俺は少女姿になったロンバルディアの手を引き、口を塞いで慌てて酒場の外に出た。

 そして路地裏に入り込み、ロンバルディアを壁際に押し付けると、ほかに人目がないことを確認する。

 一方のロンバルディアはくねくねと身をよじらせ、恥ずかしそうにしていた。

「もう、なんじゃわが主よ。この姿の我とまぐわいたいなら、早よそうと言わんか。我は一向に構わんぞ♪」

「ち、が、う! 人前で化けるんじゃねぇよ、俺がヤバいやつに見られるだろうが! それに無駄に目立てば、お前を手に入れようと襲ってくるやつだって現れる!」

「なんじゃ、人目を気にしておるのか? 小っちゃいのぅ。我を手にしたおぬしは、これから天下無双の英雄となるのじゃぞ? もっと堂々としておればよいものを」

「堂々と全裸の美少女を連れ歩けるか!」

「もう〜、美少女とか、本当のことを言うて♡ わが主は意外と口がうまいのぅ」

「あのなぁ……。もういいからお前、斧の姿に戻れ。俺が化けろと言ったとき以外は、その姿になるな」

「なんじゃ、いよいよ一丁前のご主人様ぶりじゃな。くくくっ、まあよかろう。おぬしがわが主——ご主人様であることには相違ない。では、我にメイド服を着てご奉仕してほしければいつでも言うのじゃぞ、ご主人様♡」

 そう言ってロンバルディアは、斧の姿へと戻った。

 はあ……まったく、冷や汗をかいた。

 俺は斧の姿になったロンバルディアを手に、路地裏を出る。

 すると酒場の前に、きょろきょろとあたりを見回すミィナの姿があった。

 ミィナは俺を発見すると、パタパタと駆け寄ってくる。

「だ、ダグラス……さっきの子が、その斧にゃ……?」

「ああ、そういうことだ。見てたか?」

「見てたにゃ……。ダグラスの話、全部信じる気になったにゃ……」

「そりゃあ良かった」

「あと、その……すっごいかわいい子だったけど……あの子とも、エッチなことしたにゃ……?」

 頬を赤らめて、もじもじしながら聞いてくる猫耳族の少女である。

 その仕草がめちゃくちゃかわいくて、俺はムラッときてしまった——ロンバルディアが無駄に挑発してきていたせいでもあるが。

 俺はミィナの両肩を、がっちりとつかむ。

 怯えた表情を見せる獣人の少女。

「な、何にゃ、ダグラス……?」

「ミィナ……俺、もう一回ミィナとやりてぇ。今度は宿を取って。……ダメか?」

「ふにゃっ⁉ さっきやったばっかりにゃよ⁉」

「ミィナがかわいすぎて、我慢できねぇんだ。嫌ならあきらめるが」

「にゃううぅぅっ……。……しょ、しょうがないにゃあ……いいよ?」

「いやっほぉーう!」

 俺は拳を振り上げ、歓声をあげた、

 一方でミィナは、

「そんなに喜んでもらえると、冥利に尽きるにゃね……」

 と言って、言葉とは裏腹にため息をついていた。


 ——というわけで、このあと俺はいかがわしい宿を取り、ミィナとめちゃくちゃセックスした。

 そして宿に入って、およそ一時間後。

 数ラウンドにわたって俺の相手をしたミィナは、ベッド上で全身白濁まみれになってぐったりとしていた。

「ぜ、絶倫すぎるにゃ……ダグラスの相手は、ミィナ一人じゃ無理にゃ……」

 そんなことをうわ言のようにつぶやきながら、愛らしい猫耳族の少女はびくんびくんと痙攣していたのだった。


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試し読みは以上です。


続きは2021年5月28日(金)発売

『斧使いのおっさん冒険者イチャエロハーレム英雄譚』

でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。

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