第一章 その6
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俺に真っ先に気付いた素振りを見せたのは、被害者の少女だった。
獣人の少女ミィナは俺の姿を見て、目を丸くする。
男たちはミィナのほうを向いていて、俺には背を向けていたので、気付いたのはミィナの視線を追って後ろへと振り向いたときだった。
「ん……なんです? ——うごぉっ!」
「は……? だ、ダグラス! お前生きて——ぐほっ!」
俺は素早く駆け寄っていって、二人の男をぶん殴った。
顔面を殴りつけられた神官は、吹き飛んで地面に倒れる。歯が数本折れて飛び、鼻血が派手に出た。
腹を殴りつけられた魔法使いは、腹を抱えてうずくまり、芋虫のように地面に転がった。ゲホゲホとせき込むと、こちらは盛大に吐血する。
この一撃で、どちらもほぼ再起不能なダメージだろう。
俺は神官の髪を引っつかんで、吊るし上げる。
「よう、さっきぶりだな。相変わらずハッピーそうで何よりだ」
「な……なんで……あなだは、
「残念だったな。こう見えて俺は、意外としぶとくできているみたいでね」
「ず、ずびばぜんでじだ……ゆ、ゆるじでぐだざい……」
「俺への仕打ちだけだったら、今の一撃だけで許してやったんだけどな。……テメェら、ミィナに何をやろうとしてた」
「へ、へへ……だ、ダグラスざんも、一緒に楽じみまぜんか……もう少じで媚薬も効いでぎまずじ、ごんなメス猫でも、結構いい体じて——うげほっ! おげぇっ……!」
「……本当、どこまでもゲスにできてんなぁお前ら。どこの神に仕えたらそうなるんだよ。邪神か?」
鎖かたびらの上から拳を二発叩き込んでやると、神官は白目をむいて意識を失った。
闘気を乗せた拳の威力は、鎖かたびらぐらいじゃ防ぎきれない。
ついでに魔法使いにも、追加で二発ほど蹴りをぶち込んでやると、そちらもぐったりと力尽きたように動かなくなった。
それから俺は、魔法使いが持っていた短剣を拾い、それで獣人の少女を拘束しているロープと猿轡を解いてやる。
するとミィナは、泣きながら俺に抱きついてきた。
「——ダグラスぅっ! ごめんにゃさい! 生きててよかったぁあああ! あとありがとおっ! もうこいつら嫌にゃ! 何なんにゃこいつら! ダグラスがいなかったら、人間みんな嫌いになるところだったにゃああああっ!」
「おう、つらかったな。人間を代表して謝るつもりもねぇが……でもまあ、すまない。怖い想いをしたよな」
俺は獣人の少女を軽く抱き寄せて、優しく頭をなでてやる。
「ぐすっ……ダ、ダグラスは悪くないにゃ。謝らないでほしいにゃ。謝るのはミィナのほうにゃ。ダグラスを見捨てて……本当にごめんにゃさい……ぐすっ」
「それこそミィナが謝る必要もねぇだろ。全部こいつらが悪い。ミィナはできる限りのことをした。そうだろ?」
「ぐすっ……う、うん。……ミィナには、ダグラスを見捨てるつもりはなかったにゃ……ぐすっ」
「分かってる。分かってるよ」
俺はこの猫耳族の少女が落ち着くまで、腕の中に抱いて頭をなでてやった。
嫌がるようなら放そうと思っていたが、ミィナがそんな素振りを見せなかったので、しばらくの間そうしていた。
やがてミィナが「もう大丈夫」と言うので解放すると、猫耳族の少女はぴょこ、ぴょこと二歩だけ俺から離れて、にっこりと笑顔を向けてくる。
「もう一度。ありがとうにゃ、ダグラス。……でも、こいつらどうするにゃ?」
倒れている二人の男を見て、そう聞いてくる。
「こんなやつらは息の根を止めてやった方が世のため人のためって気もするが、それでも殺すのは少し寝覚めが悪いな。それも戦いの弾みならともかく、無力化したやつをどうこうするってのはな」
「じゃあ適当にふん縛って、そのままここに転がしておくにゃ? そのうち野生動物にでも食われるにゃ」
「そんなところか。ま、運が良ければ、俺みたいに生き延びられるかもな」
というわけで、男たちはロープで縛って地面に転がしておいた。
それから俺は、ミィナとともに街へと帰還の途についた。
だが——
***
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……にゃあああっ……」
森の中の帰りの道を二人で歩いていると、途中からミィナの吐息が荒くなり始めた。
見れば顔が真っ赤で、ひどくつらそうな様子だった。
「おいミィナ、どうした。大丈夫か」
「んっ……だ、大丈夫じゃ……ないかもにゃ……はぁっ……はぁっ……だ、ダグラスぅ……」
俺がミィナに近寄って肩を揺さぶると、ミィナはとろんとした目をして、俺に抱きついてきた。
「お、おいミィナ、何を……⁉」
「だ、ダグラス……お願いにゃ……ミィナを、助けてほしいにゃ……」
そう言ってミィナは、背伸びをして、俺にキスをしてきた。
「——っ!」
「んむっ……あむっ……んっ……んぅぅっ……はむぅっ……」
ミィナの柔らかい唇が、温かい舌が、むさぼるように俺の唇や口内を責め立ててくる。
少女の猫耳がぴくぴくと、せつなそうに動いていた。
「ぷはっ……! お、おいミィナ、どうしたんだお前……!」
「んはっ……はぁっ……はぁっ……ご、ごめんにゃさい、ダグラス……あいつらに、変なものを飲まされたにゃ……多分、それが……にゃああああっ……切ないにゃ……苦しいにゃ……ダグラス……助けてほしいにゃ……」
蕩けきった目で、そう訴えかけてくる獣人族の少女。
俺はようやく思い出す。
そういえばあの神官の野郎、媚薬がどうとか言ってやがったな。
それが今になって効いてきたってことか。
ミィナは太ももをもじもじとさせながら、何かをねだるように俺を見上げてくる。
「にゃああっ……お願いにゃ、ダグラスぅっ……! ミィナ、もう我慢できないにゃ……このままじゃ、おかしくなるにゃあっ……!」
「それはいいが、俺でいいのか?」
「ダグラスがいいにゃ……! ミィナを、たくさん慰めてほしいにゃ……! お願いにゃ……!」
「……分かった」
ミィナは容姿こそやや幼く見えるものの、成人はしていると言っていた。
そして俺はもう、ミィナの色香で限界だった。
もはや欲望を止められるだけの理性は、残っていない。
ロンバルディアは気を利かせているのか、何も言ってこない。
「ミィナ——悪いが俺ももう、ミィナがかわいすぎて、我慢できない」
「ふぇっ……? だ、ダグラス——んむぅっ⁉」
俺は路上でミィナを押し倒し、その上に覆いかぶさった。
今度は俺が、ミィナの唇を強引に奪っていく。
「んぶっ……れろっ……じゅるっ……ぷはっ……! はぁっ、はぁっ……だ、ダグラスぅっ……もっとぉっ……!」
求められて、さらにむさぼる。
舌を入れ、唾液を流し込み、ミィナの唇をたっぷりと味わっていく。
「ぷはぁっ……! はぁっ……はぁっ……もう、大丈夫だから……ミィナのこっちも、めちゃくちゃにしてほしいにゃあっ……!」
そう言ってミィナは、下半身をフリフリする。
身を起こして見れば、獣人の少女が穿いているホットパンツの股間部が、ぐちょぐちょに濡れそぼっていた。
俺は少しからかってやりたくなって、ミィナにこんな言葉をかける。
「なんだ、キスだけでこんなになるのか。ミィナは淫乱だな」
「ち、違うにゃあっ……これは、あの変な薬を、飲まされたせいで……んにゃあっ!」
俺が恥じらうミィナの股間部をズボンの上からまさぐってやると、獣人の少女は健康的な肢体をびくんっと震わせてエビ反りになった。
「ズボンの上から触っただけで、すごい感じようだな。ていうか、もうべとべとじゃねぇか」
「にゃあああっ……だ、ダグラスぅっ……意地悪しないでほしいにゃあ……」
「はははっ、悪い悪い。ミィナがあんまりかわいいもんでな。ついいじめたくなっちまった」
「うぅぅっ……ダグラスのバカぁっ……!」
「悪かったって。じゃ、そろそろご開帳といくぜ」
俺がそう言ってミィナのズボンのベルトに手をかけると、獣人の少女はこくんとうなずいた。