◆一首目 五年ぶりの再会!

 そして、一夜明けた入学式当日。

 俺は昨夜の心配が杞憂だったことを思い知ることになる。

「奏治っっっ!!」

(水兵リーベ僕の船! 水兵リーベ僕の船! 水兵リーベ僕の……は?)

 俺は勉強特待生として新入生代表の挨拶をするためりゆうこく学園ステージ壇上に登壇していたのだが、聞き覚えのある声がして振り返っていた。

 この時、人前が苦手で緊張しまくっていた俺は気づかなかったが、後から聞いた話によると、桃亜は部活動特待生の代表として挨拶するために名前が呼ばれていたらしい。

 そう、どういう巡り合わせか俺と一緒に壇上に登ることになっていたのだ。

「……桃亜っ?」

 俺は面食らうと同時に黒縁眼鏡がずれてしまう。

 ざわめく生徒たちをかきわけて姿を現したのは、紛れもなく俺の大親友だった。

 遠目からでも一瞬であいつと分かるほどに、桃亜は何も変わっていないように映った。

「わっ! 本当に奏治だ! 奏治! 奏治! 奏治っっ♪」

 桃亜がバカみたいに明るい笑顔を浮かべてこちらへ駆けてくる。

 俺はこのハプニングを受けて余計緊張と混乱をきたしていたが、やはり五年ぶりに大親友と再会できた喜びは大きいようで、あいつから一瞬たりとも目を逸らせない。

 ──……桃亜…………………………桃亜…………桃亜……っっ!!

「はは」

 何だよあいつ、やっぱり何も変わってないじゃないか!

 俺の外見が昔と変わって逞しくなっているのは一目瞭然のはず。なのに、あんなにはしゃいで、よそよそしくなるどころかむしろ逆で昔のままだ。

 それに外見だって、以前は穿かなかったスカート姿が違和感あるくらいで、身長も相変わらず低くて一五〇前後に見えるし、少年のように短い髪型も、色素が薄くて輝いてるように見える前髪の一房もそのままで、ホント何から何まで昔の──

「…………昔の……まま……………………で?」

 迫って来る桃亜に違和感を覚え、思わず語尾が疑問形になっていた。

 一瞬見間違えかとも思ったが違う。

 桃亜が俺に迫るに従い、その存在はどんどん大きくなっていく。

 ──ばるんっ、ばるんっ!

「なっ!?」

 規則性なく制服の中で元気に暴れ回り、整列する男子の視線を一瞬で集めるだけの質量。

 それは男が女を異性と最も強く認識するシンボル的な部位だ。

 街中を歩いてもそうそう巡り合えないレベルのサイズで、かなり立派だった。

「ウソだろ……。と、桃亜、お前っ……いつの間にそんな……!」

「そ・う・じ────っ☆」

 だが動揺する俺をよそに、階段を一気に駆け上がった桃亜はそのまま顔に覆い被さるように飛びついてきた。衝撃と共に、顔面がずんむりと柔らかい膨らみに覆われる。

「ちょおまっ……く、くるしっ!」

「すげえすげえ! 昔より背も伸びて逞しくなってるけど、本当に奏治だ! ずっと会いたかったぜ友よ! あははははははっ♪」

(ぎゃあああああああ! 顔に胸をすりすりすな──っ!!)

 ばるばるばるんと暴れる乳が俺の頬に幸せな往復ビンタを繰り返していた。

 おかげで顔が瞬時に沸騰する俺は桃亜の両肩を押して圧迫から逃れる。

「ぷはっ! お、お前な、今がどういう状況で自分が何してるか分かって……っ」

「んぁ? おいおいどうしたよ奏治。ボクの顔、何かついてる?」

「あ、いや……別に、そういうわけじゃ」

 本当なら俺は、こんな大勢の人間に注目されるような場で雑談ができるほど精神が図太くはない。でも、自分たちを見て騒ぎ立てる生徒の声や、何やら叫んでいる教師の声がどうでもよくなる程に、俺は桃亜を見て驚いていた。

 ……こいつ……俺への接し方や性格は何一つ変わってないっていうのに。

 ……胸以外の部分も、とてつもなく女らしくなってるじゃないか……。

 胸やスカート効果のせいで全体的にそう感じるのかもしれないが、しっかりとくびれだってあるし、昔より睫毛も長くてふさふさしている。そのせいで元から色白だった肌や整っていた容姿がどうしようもなく引き立てられており魅力的に映ってしまう。

 これって間違いなく……一般的にいう可愛い女子の部類だよな?

 俺はそんな桃亜と、今まで毎晩電話して……──

 …………あれ? なんだよこれ? 急に胸がドキドキとうるさくなってきやがった。

 それに……桃亜と目を合わすのも何だか気恥ずかしい気が……。

 ────ハッ!?

 なんてことだろうと思った。

 桃亜によそよそしくされることを心配していた俺の方が、強烈な視覚的要因を受けるせいでよそよそしくなりかけていた。

 俺は全身が急激に冷えるような嫌な感覚を覚えて頭を振る。

(待て待て違う! こいつは女っていうより俺の男友達だ!)

 唯一無二の友人にして大親友!

 最低限女扱いはするけど、必要以上にはしない! じゃないと──

「くっ……!」

 強い意志の下、桃亜へと視線を戻す。

 だが待ち受けていたのは、俺の首元へと両腕を回し、

「えへへ~♪」

 と、わんぱくながらも恋人に向けるような無防備極まりない笑顔を浮かべる桃亜で。

 しかも俺の腰に締まりのいい太ももを絡ませてしっかりホールドしてきており、そんな温もりを感じる密着状態で女として意識するなという方が無理だった。

 余計に顔が熱くなっていく俺だが、桃亜は構わずに言う。

「あ、そうだ奏治っ。せっかく壇上にいるんだし、自己紹介しとこうぜ!」

 俺と予期せぬタイミングで再会できてテンションが上がっているのか、桃亜はそのままの状態で全校生徒に向けてチャームポイントである八重歯を見せながら手を振る。

「ボクの名前は巴桃亜! 競技かるたの選手としてスカウトされた、部活動特待生だ。三年間よろしくなっ。あと、こいつはボクの友人で大親友の臣守奏治! 人見知りなやつだから、みんなも仲良くしてやってくれ! わははははは!」

 ばしばしと肩を叩かれる。

「……っ」

 会場全員の視線が桃亜から自分に集まる気配を感じ、急激に息がつまる感覚を覚えた。

 俺は苦手な人前に立つ状況で色々あるせいでもう訳が分からず、緊張や焦燥やらで何だか息苦しくなってきており、急に視界がぐらりと揺れた。

「わわっ……!? おい、どうした奏治!?」

 天井を仰いで世界が反転した後、背中に衝撃がはしって目の前が真っ暗になる。

(はぁ……桃亜のやつ、バカかよ)

 これだけベタベタしてきておいて、誰が友人だなんて信じられるんだ? その証拠にここにいるやつら、ありえねえって顔してたじゃねえか。まったく……この学校には俺の憧れの先輩もいるっていうのに、これじゃ絶対誤解されて……。

(──ん、誤解?)

 ……待てよ、この状況ってちょっとまずくないか?

 無音の世界でようやく冷静さを取り戻す俺は、ふと危機感を覚える。

 きっと桃亜はさっきの調子で、あの容姿と体で小学生時代と同じようにベタベタしてくるに違いない。あいつ、基本的に物事を深く考えてないバカだからな……。

 でもそうなると、周囲からの誤解は免れない。

 今の桃亜はいかにも可愛い女子という風貌に抜群のプロポーションだ。恐らく異性にモテるだろうし、あまりに仲がいい俺は面倒なことに巻き込まれそうな気がする。いや、異性だけじゃなくて同性にもモテるかもな……今なお中性的な雰囲気はあるし。

 あと問題はそれだけじゃなくて──何よりそもそも俺は、桃亜を一人の親友として見ることができるんだろうか?

 もし、あの調子でベタベタされ続けたとしたら……。

(──……。いや、そんなことありえない。そもそも俺と桃亜は今まで固い絆と友情を育んできたんだっ。こんなことで絶対に関係は揺らがない!)

 そう……友情は──

 おっぱいに負けたりしないっっ!!

 …………。

 ……………………。

 ………………………………き、きっと、そのはずだ。

 結局言い淀んでしまうのは、小学生時代の記憶のせいだった。

 あの時にやられたことを今そのままされると思うと、否応なしに桃亜を異性と認識してしまうに違いないのだから……。


 異性の大親友を持つせいで、波乱含みの高校生活が幕を開けようとしていた。

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