◆序歌

 瀬を早み

  岩にせかるる

    滝川の


  われても末に

    逢わむとぞ思う





                             崇徳院




 世の中で語られる迷信にこんなものがある。


 ──男女の間で友情は成立しない。

 

 恐らく誰もが一度は耳にしたことがある言葉だろう。

 真偽の程は不明だが、脳科学的には異性間で友情が成り立たないのは実証済みらしい。

 何でも、本人たちは相手を友人だと思っていても、脳は異性として捉えているんだと。

 だからこそ、この命題に関してはこんな意見が目立つ。

 ……自分はずっと友達だと思っていたのに、急に向こうから告白されて関係が崩れた!

 ……友人と思っていた異性には何度も裏切られたし、結局人間は雄と雌ってこと。

 ……長年一緒にいたら嫌でも異性と意識しちゃって、友達とは違うかなって。

 …………エトセトラ、エトセトラ──。

 まあ、無理もない。

 そもそも、男女では見た目が違う。

 例えば幼少の頃は異性と見ていなかったとしても、思春期の成長に伴って体は変化し、頭では友人と分かっていてもどうしても強く異性と認識してしまう。

 小学校まで仲良くしていた異性と、中学に上がって急に疎遠になったなんて話が多いのはこの外見的要素が原因だろう。人は視覚から八〇%強の情報を得るとされているので、こうなるのは仕方がないのかもしれない。

 ……でも正直、何だよそれって思うよな。

 昔からどれだけ仲のいい友人だったとしても、その相手が異性なら、人間の規格的に距離を置く宿命にあるなんて……。

 積み上げた心地よい関係が無に帰すだなんて、本当にバカげてる。

 くだらない迷信と思いたいが、どうやらそれが事実のようだ。

 しかし、俺『とみもりそう』は世に流布するイデオロギーに背き、こう断言する。

 ──男女の間で友情は成立する!

 ……と。

 唯一無二の友人にして大親友、『ともえ』と俺においては例外だと。

 なぜなら、俺たちはこの春高校生になるっていうのに、未だに小学生時代と変わらぬ関係を続けているんだ。

 思春期真っ只中でありながら、毎晩電話するほどに仲がいい。にもかかわらず、特に男女の関係や雰囲気になることもなく、今まで平穏にきている。

 もうここまできたら、一生大親友でいる自信があるってもんだ。

 まあただ……桃亜は小学校五年に上がる際に遠くへ引っ越して、俺ともう五年も会っていないからこそ、関係を続けられている可能性は否めないけど……。

 俺と桃亜は、この春から同じ高校に通うことが決まっていて明日再会を果たす。

 あいつは受話口からの声や性格が一切変わっていないように、きっと見た目もそんなに変化がないはずだ。だから俺は視覚的な影響を受けずに関係を続けられると思う。

 でも対して俺は背が高くなったりでけっこう変わったし……もしかしたらあいつ、実際に会ったらよそよそしくなったりして……──。

 ……い、いや、長年友情を温めてきた俺たちなら大丈夫なはずだ!

 ………………。

 ……っ…………でも待て。昔は俺にべったりだった妹も変わらないと思っていたけど、今年中三になる今はまともに口を利いてくれなくなったし……。

 ……親友のあいつを疑うなんてありえない。なのにっ。

 あああくそっ、いざ再会と思うと不安になってきた!


 ……お前に限って大丈夫だよな、桃亜?

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