あまのじゃくな氷室さん 後日談EX(ifストーリー)

後日談EX1 砂城雅との運命ルート・砂城さんは好きが欲しい

「相談に乗ってくれてありがとう砂城さじようさん。なんか、いけそうな気がしてきたよ」

「あはは。いいって、いいって。友達の恋路を応援するのは乙女の正義みたいなもんじゃん、なんて。んじゃ、土曜は頑張ってね。アタシも出来る限りサポートしてあげるから」

「うん! 本当にありがとー。今度、絶対にお礼するから」

 大学の食堂にて。にこやかに手を振って去って行く友人を、アタシは笑顔で見送った。不安げな顔で席に着いた時とは真逆で元気そうな彼女の姿に、何だかアタシまで嬉しくなる。

「おーおー流石はみやびさん、相変わらずえらい頼られようですねぇ」

 と、チルドカップのコーヒー片手に入れ替わりでやって来た友人、マキが茶化すような笑みを浮かべてアタシの前に座った。さっきの子とこのマキは、この大学で出会った同級生の友人だ。この大学に入ってからというもの、誘われたお茶やカラオケなど行く先々で色んな子の悩みを親身に聞いたりアドバイスしていたら、気がつけばすっかりこの相談役キャラが定着しつつあった。今では友達の友達みたいな子も、話を聞いたとアタシの下にやってくる始末。ま、頼られるのは全然悪い気はしないしオッケーなんだけど。

 ちなみにマキは、この大学で一番仲のいい友人だ。サバサバした性格に波長の合う部分があったのか、すっかり互いの愚痴をさらけ出せるような気の置けない仲になっていた。

「ま、雅は私から見ても人生経験豊富に見えるってか、色々と進んでそうだしね。そりゃあ同年代からも尊敬の目で見られますわ。あの子みたく受験や親元から解放されて大人っぽいことがしたいと浮き足立ってる連中からすれば、あんたはその目指すべき理想ってか、言うなれば殿上人みたいな存在でしょうし」

「もーなにそれ。買いかぶりすぎだって。アタシだってマキと同じで普通の一八歳の女の子ですー」

 勝手に上下関係を作られるのは不服だと訴えるように頬を膨らませる。すると、コーヒーを飲みながら静かに聞いていたマキは何か言いたげに半眼になった。

「……普通ねぇ。医学部のカレシと同棲してて、おまけに進学どころか進級すら危うかったあんたを救ってくれたのが、偶然隣の席で出会ったそのカレシくんだって話なんでしょ。そんな恋愛漫画みたいな体験してきた人が普通だとおっしゃるなら、私らの高校時代なんかミジンコレベルよ」

「うっ。何もそこまで言わなくても……」

 わざとらしく肩をすくめるマキを目に、アタシは苦い顔になる。

 この春大学へと進学したアタシは、カレシの愛斗あいととアパートを借りて同棲していた。流石に大学こそ別々だけど、家に帰ったら大好きな人が待っているという生活は、もうそれだけでお腹いっぱいで幸せすぎてハンパない。

 ……でもね。そんなアタシにも、実は一つ壮絶な問題を抱えていたりする。

「みんなアタシのことさー恋愛マスターだとか人生の勝ち組みたく羨ましがるけど、アタシにだって悩みがあるんだよ。……恋愛絡みで」

「へぇー。どんな?」

「…………カレシに好きって言われたい」

「はぁ…………」

 頬に熱を感じ羞恥を堪えて紡いだ言葉に、返ってきたのは「何言ってんだコイツ」と言わんばかりの呆れ声と大きな瞬きだった。

「な、なにさ。その白けた視線。言っとくけどね、これでもアタシとしてはすっげーガチに悩んでるんだからね」

 アタシが愛斗と付き合いはじめたのは、アタシの合格発表の帰りだった。

 告白はもちろんアタシから。元々この大学に受かったらご褒美で好きなお願いを何でも一つ聞いてもらう約束をしていたアタシは、満を持して言ったのだ。「アタシと結婚して欲しい!」って。

 え、何で恋人を通り越していきなり結婚なのか? そりゃだって、好きなお願いを一つ何でも聞いてもらえる状況だよ。そりゃ、一番いいやつ選ぶに決まってるでしょ。恋人とか、ぶっちゃけお嫁さんになるまでの単なる通過点じゃん。

 愛斗には元々他に好きな子がいて、しかもその子から三年間全く相手にされていないのも知っていた。

 ――けど、愛斗はアタシを選んでくれた! しかもアタシの希望通り、結婚を前提としたお付き合いで!

 そうして愛斗への告白が成功してから早四ヶ月。恋人になった愛斗と何か劇的な変化があったかと言われたら、別にそうでもなかったりする。キ、キスとか、その先だって全然まだだし。

 それでも彼の言葉や行動の節々からは今まで以上に大事にしてくれてるのがひしひしと伝わってくるようで、「あぁアタシ、この人の特別になれたんだ」ってのがそりゃあもうじんじんと胸に響いて喜びと幸せで心臓が爆発しそうなくらいだった。うん、この気持ちを一度体験しちゃったら、もう愛斗抜きの世界なんて考えられないくらいに。

 けど、その反面、アタシの心の中には一つ、付き合う前には予想もしていなかった愛斗への不満が生まれつつあった。

 最近アタシの恋する乙女の部分が、愛斗に「好き」とか「愛してる」って直接言葉にして欲しいって訴えかけてきて鳴り止まない……。

 別に贅沢な悩みじゃないよね。それにアタシ、付き合ってからまだ一度も愛斗の口から「好き」って言われたことないわけだし……。

 そう色んな想いをごちゃ混ぜにして葛藤していると、マキが嘆息して口を開いた。

「純粋にそれ、雅の方から『アタシのこと好き?』って聞けばすぐ解決する話なんじゃないの?」

「そ、そんなこと自分から聞いて、もし『嫌い』って返ってきたらどうするの? アタシ死ぬよ」

「逆に聞くけど雅はそのカレシくんから『嫌い』って言われるとマジで思ってんの?」

「思ってない。けど……やっぱ怖いじゃんか」

「ま、雅の場合日頃の行動的に、後ろめたい部分はどうしてもあるもんねぇ。いくら面倒見のいいあんたの善意って言っても、万人に認められる行為でもないわけだし」

「へ、どういうこと?」

 予想だにしていなかったマキの言葉に、アタシは目を丸めて飛びついた。

「どういうこと――って、さっきのあの子との会話から聞こえてきた感じだと、今週の土曜また行くんでしょ。合コン」

「へ……? そりゃ行くけど。だってアタシ、いちおー幹事だし」

 マキの表情が何で強張ってるのかが理解出来ず、小首を傾げる。

 そう、アタシはさっきの子の恋を叶えるために、今週の土曜にちょっとした飲み会を企画していた。といってもアタシ含めて殆どの参加者がまだお酒が飲める年齢じゃないから、カラオケのある居酒屋で雰囲気だけそれっぽくしたつーか、カラオケがメインになるんだけどね。

 こんな感じに、アタシがみんなの要望を汲んで飲み会をセッティングするのは、わりとよくあることだった。

「ちなみに念のため聞いとくけど、雅がよく合コンの世話してること、カレシくんにはもちろん言ってあるんだよね」

「あったりまえじゃん。疚しいこと一つもないんだし。それにアタシ、自分の役目だけ果たしたら一次会だけでさっさと帰るようにしてるから」

 胸を張ってアタシは答えた。

「……そん時のカレシくんの反応ってどんな感じ?」

「へ……別に普通だよ。――あ、それどころか『夜道は危ないから』っていつも迎えに来てくれてさー。もーアタシは別にそこまでしなくていいって言ってるのに、愛斗ってば譲らないったら――」

 アタシを心配する愛斗の顔を思い出してつい頬が蕩けてしまう。が、対するマキはアタシとは真逆に、何故か可哀想なものを見てるかのような辛辣な顔になっていた。

「はぁ……これはカレシくんに同情するかも」

「え……ど、どうして?」

「だってさぁ。私だったら好きな人がそんな出会いを求めてる人が集まる場所に出かけるのって、どんな理由があろうとやっぱいい気持ちにならないってか、ぶっちゃけ嫌でしょ。不安になって、迎えに行く体で本当に飲み会だけで終わってるのか、いい雰囲気になってる相手がいないかとかチェックに行くと思う。あんたのカレシくんみたいに」

「…………えっ、えぇ!? あれって、そういう理由だったの?」

「やっぱ気付いてなかったんだ。逆にさ、もしカレシ君が合コンの頭数としてどうしてもって頼まれて断りきれずに行くことになったら、あんたは平気な顔で見送れるわけなの?」

「ム、ムリムリムリムリ。愛斗にその気がなくても、向こうにその気があるかもしんないじゃん。ただでさえうちのカレシは格好よすぎるんだし、絶対狙われる!」

「でしょ。それがカレシくんの心境ってこと。つーかアンタの場合、自ら率先して不安を煽るような状況作り上げてる分、尚のことタチ悪いと思う」

 マキの言葉に頭が鈍器でガツンと殴られたような感覚が走った。もしかしなくてもアタシ、すっげぇやらかしてるぅうううううう!!

「ど、どうしよう……。あの子に任せろなんて大見得切っちゃった分、今更中止するわけにもいかない、よね……」

 頭が真っ白になる。とにかく愛斗に安心してもらえるよう、何か考えないと。

「……前々から薄々思ってたけどさ、雅って結構バカだよね?」


      ◆


「ふーん。カノジョが合コンに行くのを止めたい。ねぇ……」

「そうなんだよ。でも、あいつが友達のために善意でセッティングしてるのもわかってるから、なかなか言い出しづらくて……」

 土曜の夜。飲み会に行った雅を見送った俺は、大学の友達を誘って焼き肉を食べに来ていた。

「友達思いで面倒見がいいのは、あいつのいい所だし。それを俺の単なる我が儘で抑圧するってのはあんまよくないことだろ。おまけに心配しすぎるのも、それはそれで自分のカノジョを信用できてないのと同じような気がしてさ」

 焼き上がったカルビをぱくつきながら愚痴を吐く。

 ん、雅からのラインだ。いつもは飲み会が終わる頃にしか連絡してこないのに珍しいな。何かあったのか?

『雅です。今、唐揚げを食べてます。いい感じに場は盛り上がってアタシの役目は果たした感じなので、後は時間が来るまで部屋の片隅で細々とご飯を食べて過ごそうと思う次第です。隣に男を一回も座らせていないので、安心してください』

 ……何だコレ?

「……なぁ、今まで飲み会中は全く連絡してこなかったカノジョが、急に近況報告的なものを送ってくるようになったら、どう受け取るべきだと思う。それも、今までにないくらい丁寧な文章で」

「んー参考になるかわかんないが。俺の友達でカノジョから突然ラインで『別れたい』って切り出されたらしく。その友達は戸惑いながらも悩んだ結果、カノジョの方が冷めてるなら仕方ないって受け入れることにしたんだと。けど、実のところカノジョの方も本気で別れるつもりはなかったらしく、本心では強く引き止めて欲しかったそうな。ま、ようするに何が言いたいかって言うと、女心って基本あまのじゃくで理解しろって方が無理があるから、そこに無駄な労力割くくらいなら、自分の気持ちや直感に素直に従った方が吉かもってことだ」

「な、なるほど。自分の気持ちや直感に素直に、か……」

 友人の言葉に刺さる部分を覚えながら悩んでいると、再びラインが届いた。

『雅です。ここのだし巻き卵が結構イケてたので、今度一緒に行きませんか? それと、さっき男に今のカレシに不満がないかとかしつこく絡まれましたが、安心してください。ちゃんとはします』

「はぁ!?」

 思わず上がった声の大きさに目の前の友人がギョッと目を見開いているが、それどころじゃなかった。何だこの文? ちっとも安心出来る部分がないんだけど。

 さ、流石に何かしらの誤爆だよな。ギャルの常識的にカレシに一言断りをいれておけば、それは浮気にならないとか、そんなんじゃないよな。

 慌てて『おい誤爆してとんでもない文になってるぞ笑』と送ったものの、何故か雅は既読スルー。

 それはもう気が気じゃなかった。さっきから肉の味が全く感じられない。ここで悠長に焼き肉食ってる場合じゃないよなぁ。雅には悪いけど、ガン無視されたままでじっとしていろって方が無理がある。あぁここは彼の言うとおり、自分の気持ちに従おう!

 そう決意して友人に断りを入れようとしたその時、雅からの返信はやって来た。

『雅です。さようならさようならさようなら』

「!?!?!?」


      ♥


 あー頭痛い。まだちょっとクラクラする。正直、立ってるのがやっとって感じかも。

 居酒屋を出たアタシは、店の前で頭を押さえながら愛斗が来るのを待っていた。自分でも大丈夫じゃないのがわかる分、みんなからの気を使うような視線がちょっと痛い。

 まさか、ウーロン茶とウーロンハイを間違って受け取って飲んでいたなんて……。

 それに未成年だから今まで知らなかったけど、アタシはどうもあんまお酒に強い体質ではなかったらしく、ジョッキ一杯ですっかりグロッキーになっていたっぽい。お陰で愛斗に『「カレシいるのに合コン来るなんて、もしかして今のカレシに不満ある感じ?」とかしつこく聞かれたけどきっぱりしたよ』ってラインを送っていたところから記憶があやふだった。追い打ちをかけるように、いつの間にかスマホの電源も切れてるしほんと最悪。

 まぁ気持ち悪くて頭が宙ぶらりんな中、『そろそろ終わるから迎えお願いします』的なラインを送ったのは何となく覚えているから、このまま待ってれば来てくれると思うけど……。

 ひょっとするとこれは、今まで愛斗に変に不審を抱かせるような行動に出てしまっていた愚かな自分への罰なのかもしれない。愛斗、あのラインを見て、ちょっとでも気を和らげてくれてると嬉しいけど。

 あれから悩みに悩んで思いついたのが、このようにせめて定期的に状況を説明することで、少しでも安心してもらおう作戦だった。それも、普段の口調ではきっと誠意を込めらきれないと思ったから、なるべく丁寧な言葉にするように心がけて。

 うん、もうこんなのは今日で絶対に終わりにするから。

 そう強く胸に秘めて頷いたその瞬間、

「あ――」

 不意に足がふらついて、体が直ぐ傍にいた男の方へと傾いた。それもあろうことか、さっき連絡先を聞こうとしてきた男の下。それは傍目から見ればじゃれついてると誤解されてもおかしくない光景。それに気付いたアタシは流石にヤバイと踏ん張ろうとするんだけどアルコールに毒された体は全然応えてくれなくて――ご、ごめん愛斗!

 と、胸の中を罪悪感でいっぱいにしていたその時――

 突然強い力で体全体をぎゅっと引き寄せられた。

「あ、愛斗……?」

 反射的にアタシは、自分を抱きしめていた人の名前を呼ぶ。

 だけど真剣な顔をした愛斗の視線はアタシではなく、アタシがぶつかりかけた男の方に向いていて、

「雅は俺の女だ。あんたなんかには絶対に渡さない!」

 アタシを抱く力を一層強くし、そう言い切ったのだった。

 ……どぅえぇえええええええええええええええ!? 

 ちょ、ちょっと待って。今何が起きてんのぉおおおお!?

 突然の乱入者に戸惑っていたアタシの友達が「きゃー」と一斉に黄色い声を上げる。

 そ、そりゃあさ、アタシは愛斗の女だし。それ自体は何も間違ってないんだけど……。

 と、今はそんな惚気てる場合じゃない気がする。

 愛斗に敵意の視線をぶつけられた男が、困惑して周囲へと助けを求めるように視線をさまよわせる。当然だよね。だって状況的に完全な巻き込まれ事故だし。うん、流石にこれは弁明してあげないと可哀想。

「あのさ、愛斗。今のはその、アタシも悪かったわけで――」

「何だよ。こいつのことを庇うのかよ」

 それは今まで一緒にいた中でも聞いたことないくらいの、心底不機嫌そうな声だった。

「だいたい雅も雅だぞ。いきなり別れを一方的に切り出してきたと思ったら、こっちから何度連絡しても全部スルーするんだし。なぁ、そんなにこいつの方がよかったのか……」

 ん、んんん?

「あの、愛斗さぁ……非常に申し訳ないんだけど……その別れるって何?」

「へ?」



「――あっはははは。今思い出しても笑えてくるつーか、もーどんな誤解してるんだって感じだし」

「あのなぁ、全然笑いごとじゃないだろ。ったく、こっちはどれだけハラハラしたことか。あーくっそ。掻かなくてもいい大恥掻いてすっげー最悪つーか。俺、あそこにいた面子にもう顔を合わしたくないんだけど」

 苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向けた愛斗に、アタシは自然と笑みを綻ばせる。

 飲み会の帰り道。歩くのもままならなかったアタシは、愛斗におんぶされながら月明かりに晒された夜道を進んでいた。

 普段ガリ勉のモヤシだと散々自分の体格を卑下にしてる愛斗だけど、広く角張った背中に触れているとやっぱ男子だなぁと意識させられちゃうつーか、どことない安堵感に包まれる。

「……ごめんね。変な心配かけちゃって」

 ちょっぴり照れくささを覚えたアタシは、愛斗の肩に顔をうずめながら小さくそう呟く。

 あの後、すぐに愛斗からラインのやり取りを見せてもらったアタシは、身に覚えのない発言を目にそりゃもう魂が抜けちゃいそうなくらいに絶句した。「避妊」についてはまだ誤字だから理解出来るけど、あの脈絡もへったくれもない「さようなら」ってのは――あ、そういえば頭がガンガンして考える力が薄れていく中、誰かが熱唱していた「さよなら」の連呼に苛ついた記憶がある。なるほど、それに引っ張られてたってわけ……。

「いいよ。俺が心配していたようなことは何もなかったんならもうそれで」

「つーか俺の女とか、愛斗ってばらしくなくめっちゃ必死だったよね。なにー、そんなにアタシがいなくなるのが怖かった?」

 背中に感じたむず痒さから逃げるように、気がつくとアタシはからかうようにそんなことを口にしていた。本当はもっと言いたい言葉がたくさんあるのに、何で素直になれないんだろ。

 と、若干の自己嫌悪に浸っていると、

「……そりゃ必死になるだろ」

 頬を少し赤らめた愛斗が気恥ずかしげに切り出した。

「自分の好きな人が知らない間に誰かに取られるかもしれないって展開だぞ。普通に考えて必死になって当然だよな」

「へ?」

 アタシはいまいち愛斗の言葉が飲み込めずに目をパチクリさせる。そ、それって――

「愛斗って、アタシのことが好きってこと?」

「は?」

 今度は愛斗の方が呆気に取られた顔になっていた。

「だってほら、アタシが告白して今の関係になったわけでしょ。それにあの告白は大学合格祝いを理由に無茶振りしたつーか、ぶっちゃけ愛斗の優しさにつけこんだ部分もなきにしもあらずだったわけで――」

「雅!」

 強く名を呼ばれ、反射的に愛斗に顔を向けたアタシ。

 ――次の瞬間、気がついた時にはアタシの唇は愛斗の唇によってふさがれていた。

「……ったく、好きに決まっているだろ。バカかよ」

 口を離し、顔を真っ赤にした愛斗が視線を逸らして吐き捨てる。

「…………うん、バカだった」

 顔全体にありったけの熱を感じながら、アタシはぼそり心境を吐露する。ほんと、ありもしないもしもを想像して勝手にナーバスになってたってんだから、大バカ者もいいところだ。

「ア、アタシももちろん大好きだから!」

 想いをありったけ乗せてはにかんだアタシは、肩に回した腕の力をぎゅっと強めて甘えるようにより体を密着させた。待ち望んでいた言葉を貰えたアタシの胸は、大満足とばかりきゅんきゅんと高鳴っていて――やばい今、超幸せ。好き好き愛斗、愛してる♥

「アタシ、もう金輪際頼まれても飲み会のセッティングとかしないことにする。愛斗がどんな気持ちになるかまで配慮が行き届いてなかったつーか、アタシだって愛斗が知らない女と楽しくご飯食べてる姿なんて想像したくもないもん。だから、自分がされて不快なことは絶対にしない」

「……そっか。でもいいのかな。俺の我が儘で雅を独占する感じになっちゃって」

「うん、いいんだよ。だってアタシは愛斗の女なんでしょ。所有物が所有者の意志に従うのは当然じゃん」

 ちろり舌をだして茶化すように笑うと、愛斗は「もーそれ弄るのは勘弁してくれよ」と恥ずかしそうに顔を背けた。

 別に冗談で言ってるわけでもないんだけどね。

 それに、アタシにとってあんた以上に大切なものは存在しないんだからさ。にひひ。

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